12『握手』
「あの、本当にすみませんでした! わたくしったら、早とちりを……」
「いいんだよ。こんなところにフィネティア人がいたら、そりゃあ勘違いもするさ」
フラヴィとリオネルからブランテのことについて大体の話を訊くと、女性は何度も何度もブランテに頭を下げた。そんな様子を見てフラヴィはケラケラと笑っている。
「わ、笑わないでください、フラヴィ! 貴方が変なことを言うから――!」
「変なことってなんだろーねー? 私はただ、『最近この辺りにフィネティア人っぽい人がいるんだけどー』って教えてあげただけだよ?」
「その言い方が悪いんです!」
きゃんきゃんと喚く女性からは先程の凛とした雰囲気を全く感じない。どうやらこっちが素で、さっきのは半ば取り繕っていたらしい。
「さっきはフラヴィのこと『エルフの娘』なんて呼んでたけど、二人は仲いいのな」
二人のやり取りをリオネルと微笑ましく見守りながら、ブランテは疑問に思ったことを口に出す。不自然だと思ったのだ。
「そーだよー。一応、人前じゃ取り繕っとかなきゃいけないから『エルフの娘』なんて呼び方しただけ。ね、アムール?」
「ええ。公と私はわきまえなければなりませんから……」
アムールはそう言って苦笑してみせた。本当は嫌なようだ。
アムールの言葉に引っ掛かりを覚えたブランテは、数秒ほど頭を捻らせる。どうして公と私を分けるために友人の呼び方を変えなければならないのか。そんな疑問はすぐに解消された。
「おにーちゃん、この人はじょおーさまだよ」
「じょおーさま……?」
無邪気に、そしてどこか誇らしげに言うリオネルの言葉をブランテはすぐには理解できない。口のなかで何度か『じょおーさま、じょおーさま』と繰り返してみると段々溶けるように脳にその言葉の意味が入ってきた。
「女王様!? シャンテシャルムの!?」
「あっははは、変な顔ー」
驚くブランテの顔を見てフラヴィは楽しそうに笑い、アムールはそんなフラヴィを見てあきれた表情を見せた。
「フラヴィ、貴方、この方に何を教えていたのですか……」
「んー? 詳しいことはなーんにも? ここに来れば女王様とお話しできるかもーって言っただけだね」
「面白半分でそんなことをしないでください……確かに、こんな方法でもなければわたくしがフィネティア人と話すことはありませんけれども……」
彼だって潰され損じゃないですか、とアムールはフラヴィをたしなめるように言った。そして大きなため息を一つつくと、少し背筋を伸ばしてブランテと向き合った。
「シャンテシャルム王国女王、アムール・ボーヴァルレ=シャルパンティエです。お話をお伺いしましょう」
そう言って差し出された手をブランテは握らなかった。そして、いつものナンパのノリで「手を握るなら王女様じゃなくて女の子の方がいいな」なんて言うのだった。
ブランテの言葉の意味を理解したアムールは、通常であれば失礼極まりないその態度にクスリと笑ってしまった。
差し出した手を一度引くと、アムールはもう一度自己紹介をすることにする。今度は王女としてではなく、一人の女の子として。
「アムール・ボーヴァルレ=シャルパンティエです。貴方のお名前は?」
「ブランテ・エントゥージアだ。よろしくな」
そして二人は笑顔で手を握りあった。




