06『最後の』
時間というものはあっという間に過ぎていく。それが楽しいと感じれば感じるほど、そのあとが嫌だと感じれば感じるほどに、だ。
クリムの話を聞き終わりネロと飲んでいたブランテはそれを痛いほど実感していた。明日なんか来なければいいのに、と本気で思ってしまう。とても憂鬱だった。それ故に、何時もより少し早いペースで飲んでしまったのかもしれない。
ネロの呂律が怪しくなってきた頃からまずいなとは思っていた。病み上がりの人間を二日酔いにさせるなんてどうなのだろうかと自問自答もした。しかし、ネロはブランテのグラスが空いたのを見るとすぐに二人分のカクテルを作ってブランテと一緒に飲んでしまう。お陰でブランテが止める暇は無かった。
「おーい、ネロ?」
やがて、何と呼び掛けてもネロは「うーん」としか反応しなくなる。潰れてしまったらしい。ブランテは「ダメだな、こりゃ」と言いながら頭をかいた。話す予定だったことは色々言った気はするが、肝心なことが伝えられていない。
「……案外、面と向かって言えないもんだな」
ネロの寝顔を眺めつつブランテは寂しそうに言った。
直接伝えることが出来なかったため、置き手紙を書くしかない。グラスや皿を片付けると、ブランテは勝手に紙とペンを探した。そしてそれと向き合いつつどう書いたものかと悩む。言いたいことは沢山あるのに、何をどう書いたらいいのか全くわからなかった。
「……とりあえず、ネロへ――
『ネロへ
悪い、シャンテシャルムに行くことになった。戦争の裏で動けって王様の命令だ。都に行く仕事はどうやら俺を試していたみたいだ。そんで、俺は合格したらしい。
命令の内容は、向こうの女王に此方の要望を突きつけて必ず頷かせることだそうだ。気は進まないが俺には拒否権が無かったらしい。笑えるな。
そんなわけで暫く帰れない。目標を達成するか戦争が終わるまで、俺は帰れないらしい。出来たらちょくちょく手紙でも送ってやるから心配すんな。お前は俺が大好きだもんな。
本当は直接言いたかったんだが、なかなか言えないもんだな、これって。ナンパマスターにあるまじきヘタレ具合だ。
マントはお前に預けとく。向こうに持ってってボロボロになるのも嫌だしな。だから汚すなよ?
ブランテ』
「――こんなもんで、いいか」
書き上がった手紙を読み返しながらブランテはそっと呟く。これを読んだとき、ネロはなんと言うだろうか。自分のことを心配してくれるだろうか。そうだったら、少し嬉しい。同時に申し訳なくなるが。
そんなことを思いながら、ブランテは自分のマントをネロに掛け、たった今書いたばかりの手紙をネロの横において店をあとにした。
「じゃあな」
言ってみたものの、ネロには聞こえてないんだろうな、と少し寂しく思いながら。




