03『再会』
「あれ? ブランテ君?」
トリパエーゼに帰るため、ブランテが駅に向かうと聞き覚えのある声に呼び止められた。
振り替えると、そこには目に優しい色をした中性的な顔立ちの人物、スメールチ・ザガートカ・アジヴィーニエがいた。三年前に出会って以来、腐れ縁だった。
「久しぶりだね。一年ぶりくらいになるのかな? 最後に会ったのは確かトイフェルでだったよね。ヒヒ、あのときはブランテ君も必死だったっけ。あのときのことを思い出すと今でも笑っちゃいそうだよ。全部勘違いだったなんて丁寧にオチまでつけちゃってさ。
それにしても、こんなところで会うなんて思ってなかったよ。どうして都にいるんだい? 君の家はトリパエーゼなんだろう?」
相変わらずよく喋る。スメールチに対してブランテが最初に抱いた感想はそれだった。次に、相変わらず表情が動かないな、と思う。しかし、表情が動かずともスメールチのテンションが少しだけ高いことはブランテに十分すぎるほど伝わっていた。
「ちょっと騎士団にナンパしに行っててさ」
ブランテは茶化すように言った。あながち間違いでもない。
「騎士団? 何をやらかしたのさ。しかも呼び出されて簡単についていっちゃうなんて。この一年でブランテ君はおバカさんになっちゃったのかい?」
真顔で言われるとかなり刺さるものがある。確かにこの一年で随分甘くなってしまったと思い返しつつ、ブランテは「依頼が入ったんだ」と、この数日間の出来事を説明することにした。
「厄介なのに知られちゃったみたいだね。ヒヒヒ、ブランテ君も有名人だ」
ブランテの話を聞き終えると、スメールチは無表情のまま口だけで笑う。「笑い事じゃねえよ」とブランテが突っ込むと、「そんなことわかってるよ」と声のトーンを落として返された。ブランテは少しだけ不安になる。
「ご丁寧に毒入り紅茶と毒入りミルクまで出されちゃったんでしょ? どれだけ歓迎されてるのって話だよまったく」
そう言ってスメールチは目を閉じる。そして数秒してから深く息を吐いて、真剣な顔で言った。
「死ぬなよ」
フィーニスの様子では、これからブランテを何か重要なことに使おうとしているのは明白だった。そこに加えて、今フィネティアはシャンテシャルムとの戦争真っ只中だ。そこに投入される可能性だってある。
最悪の最悪まで想定したスメールチの言葉にブランテは「実は俺不死身なんだよ」と茶化すように答える。まるで、現実からなんとかして目をそらすように。
「……そういえば」思い沈黙が流れ始めてしまったので、その原因であるスメールチがこの空気を何とかしようと口を開く。「近いうちにトリパエーゼに行ってみようと思うんだけど、いい取引相手みたいなのいない?」
「取引相手?」
「そ。観光だけでその辺をブラブラ出来るほどお金持ちじゃないからね」
スメールチの扱う商品は食料品が多い。そこから考える取引相手となると、ブランテにはロドルフォとネロしか出てこなかった。しかしあの二人が簡単に取引先を変えるだろうか。
「ブランテ君の親友とかダメなのかな? お店やってるんでしょ?」
「やってるけど何て言うかねぇ……余裕があるなら飯食いに行くだけでも損はないと思うけど」
言いながら、ネロのカクテルとパニーノが恋しいとブランテは空を見上げる。都の食べ物は気取っているばっかりで味はとてもいいわけではなく、値段はそれなりに高い。普段、ネロの作るパニーノを食べているブランテにとってこれほどの地獄はなかった。
「本当に胃袋掴まれてるんだね。実はブランテ君ってそっちの気があるんじゃない? 安心しなよ、僕はバイだよ」
「いや、まじ勘弁」
茶目っ気たっぷりに無表情で頬をつついてくるスメールチからブランテは逃げようとする。割と本気で嫌そうだ。恐らく、そっちの気は無いのだろう。
「あー、でも、あいつ節約とか考えてたから、今の仕入れよりも安い値段なら飛び付くんじゃねえかな。女の子と同棲してるんだよ」
「え? モテないし彼女もいないんじゃなかったのかい?」
「本人はその子に絶賛片想い中だけどな。ま、色々あったんだよ」
「へぇ……」楽しそうに話をするブランテの表情を見て、スメールチは興味がわいたようだ。そして「からかい甲斐がありそうだね」なんて言う。
その顔は少し笑っているように見えた。




