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8話 こうして俺は日向と友達になった

 翌日。

 朝のホームルームが始まる前、俺と菜月は生徒会室にきていた。

 目の前では会長が真剣な表情で昨日書いた原稿を読んでいる。

 昨日、書き終わったことを会長にメールで伝えると、朝きてくれとなって今の状況に至る。

 しばらく、紅茶を飲みながら待っていると、読み終わったのか、会長が原稿をテーブルにおいて口を開いた。

「ボツね」

「どうしてですか?」

「わからないの?」

 会長はわかって当然みたいな表情をしていた。

 もしかして、内容に間違えがあったのだろうか。

 いや、それはない。

 ホームページで書いてあったことしか、原稿には書いてないし、内容も一応ホームページの内容と照らし合わせて確かめた。

「はい」

 俺は素直に答えた。

 会長ははぁとため息をつくと言った。

「おもしろさがないわ」

「……えっ?」

 予想外の答えだった。

「聞いてなかったの?」

「いや、聞いてましたよ、でも……」

「でも、なに?」

「おもしろさて必要なんですか?」

 俺はそう訊ねた。

 書いてる内容が間違ってるなら、納得がいく。

 でも、おもしろさがないというのはない。

 部活紹介は部活を紹介することが目的であり、笑いを取ることが目的ではない。

「必要よ」

「なぜですか?」

「考えてみなさい、ただつまらない話を聞くのと、おもしろい話を聞く、泉さんだったらどっちがいいですか?」

 それはもちろん、おもしろい話だろうな。

 だが、

「俺は話を聞く以前に寝ますね」

「真面目に答えてください」

 真面目だったんだが……。

 まあ、いいか。

「……おもしろい話です」

 しぶしぶそう答えた。

「そうですよね。つまらない話を聞いてては寝てしまいますもの」

 嫌味だろうか……。

「しかし、おもしろさがあれば聞いてくれます。のでおもしろい原稿を書き直してください」

「いや、おもしろい原稿と言われても何を書けばいいのか……」

「では、一つアドバイスをあげます」

 会長はそう言うと、人差し指を俺にピシリと差し言い放った。

「自分で考えなさい」


 無理だと思った瞬間であった。

 あと、それアドバイスなのか?

 その後、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

 寝ている菜月を起こし教室に向かった。


 朝のホームルームが終わり、一時間目がまもなく始まろうとした頃、レンが話しかけてきた。

「どうした、疲れたような顔をして」

「いやさーー」

 俺は今朝生徒会であったことをレンに話した。

 レンは相変わらず本を読んでいるが、俺は愚痴りたい。

 そういえば、昨日も愚直ったな。

 もしかして、毎日レンに愚直ることになるんじゃないだろうか……。

 そんなことを考えてると、レンが口を開いた。

「大変だな」

「一言で片付けるな」

「いやさ、他人事だし」

「ひどいな」

「結構だ」

 薄情なやつだ。

 人がこんなに悩んでいるというのに。

「ボクからもアドバイスをしてやろうか」

「自分で考えろはなしだぞ」

 会長が言った横暴的なアドバイスである。

「そんなバカなことはいわない……て、それ会長の意見か?」

「おっ、よくわかったな」

「まあね、で、ボクからのアドバイスなんだが、聞く側の視点で考えろだ」

 聞く側の視点か、それはいいかもしれない。

 それに、会長も言ってたじゃないか、つまらない話とおもしろい話はどっちがいいと思うって。

 きっと、聞く側に視点を置いて話していたんだろう。

 そうなると、自分で考えろもなんとなくわかる。

「ああ、ありがとう」

 俺がお礼を言うと、レンは「ジュース一本な」と言って本を開いた。

 現金なやつめ。


 午前の授業が終わり、昼休みになった。

 俺は学食に行こうとしたが、菜月が弁当を作ってくれたということで教室で食べることにした。

 レンも弁当なので一緒に食べることに。

 三つの机をくっつけた時だ、

「アタシもいいか?」

 日向さんが弁当を片手にやってきた。

 昨日の好戦的な態度ではないが、怖い。

「いいよ」

「サンキュー」

 菜月はそう言い、日向さんも机をくっつけて四つになった。

 不吉な数字だ。

 こうして、四人で昼食を食べることになった。


 会話は主に菜月と日向さんで行われていた。

 たまにレンが興味がある話題だったら参加するぐらいだ。

 ちなみに、俺は話を振られない限り、無言である。

 無言を貫いている中、菜月が話を振ってきた。

「凪沙くん、弁当どうかな?」

「うまいぞ」

 不安気に訊いてきた菜月であったが、俺がそう言うと、ホッと安堵した。

「そう、良かった」

 また、無言で卵焼きを食べようとした時、

「泉の弁当て菜月が作ったのか?」

 危うく卵焼きを落としそうになった。

 なぜ、わかった、と考えたが弁当の中身が一緒だ。

 そして、頭の中では昨日の日向様のセリフが動画で流れている。

 好戦的な態度で『菜月になにかしたら八つ裂きにする』と言っている。

 多少脚色はあるが、気にしない。

 それよりも、弁当を作ってもらったことが、日向さんが言っていた“なにか“であったらやばい。

 なにか言わねばと思い口を開くが、言葉が出てこない。

「うん」

 菜月は俺がそんなことを考えているとは知らず、笑顔でそう言った。

 それを聞いて、俺の脳内警報が鳴り響く。

「ふーん」

 と、言いながら俺の弁当を見てくる日向さん。

 その表情からは機嫌が伺えない。

「おいしそうだな」

 日向さんは視線を弁当に向けたままボソリと言った。

 社交辞令のようなセリフだが、俺の脳内はかなり間違った方向に解釈してしまう。

 おいしそうだな、訳すと、アタシによこせ!

 …………恐喝反対……。

 俺は弁当を日向さんの前に置いた。

「お一ついかがですか?」

「おっ、いいのか?」

「はい、もちろんです」

「サンキュー」

 日向さんはお礼をいい、ミートボールを一つ食べる。

 そんな様子を俺は頬を引き吊りながら、見ていた。

「うまい」

「そう、それは良かった」

 菜月は自分の料理が褒められてうれしそうだ。

 その内に、俺は弁当を回収し、掻き込むように食べる。

 また、おかずが持っていかれると思ったからだ。

 それに、また、おかずを強奪されれば、菜月に不味いからあげてるんではないかと思われてしまうかもしれない。

 だが、そんな食い方が長続きするわけなく、

「ゲホッ」

 むせた。

「そんな食べ方するからだよ」

 と、菜月はそう言って水筒を渡してきた。

 実に気が利く幼馴染みだ。

 水筒を受け取り、飲むと中身はお茶だった。

「ありがとう」

 礼を言って菜月に水筒を渡そうとするが、菜月がなぜかうっとりとした表情で俺を見ていた。

 なにかしたか、と考えたが思いあたる節がない。

「ありがとう」

 と、なぜか礼を言われ水筒を受け取った菜月。

 その表情は一言で表せば上機嫌だ。

 まあ、いいか。

 俺はまた無言で食べようとしたが、

「なあ、泉」

「なんでしょうか?」

 日向さんから声がかかった。

「敬語やめない? なんかさ、こう距離を感じるていうかなんていうか」

「いや、それはその……」

 日向さんの提案に返答を渋る。

 距離を感じるというのは当たり前だろう。

 実際、俺は距離を置いている。

 昨日、あんなことがあったのに距離を置くなというほうが無理だろう。

 だが、日向さんは敬語をやめろとおっしゃっておる。

 敬語をやめろ、変換、表上は仲良くしようや、もちろん裏では……。

「あっ、そうだ。昨日のことだけど……」

「っ!?」

 思い出したように日向さんが言った。

 その発言に俺は恐怖を感じた。

 なにか言わないと思ったが、口からでるのは空気だけだ。

 そして、日向さんは言葉を続けた。

「昨日はごめんっ!!」

「えっ!?」

 日向さんが手を合わせて謝る。

 俺は予想外の行動に間抜けな声を出した。

 えっ? なにこれ? どういうこと?

 俺が混乱していると、菜月が怪訝に日向さんに訊ねた。

「昨日のことて、どういうこと?」

「いやさ、実は昨日、泉を菜月の敵だと思って軽く脅しちゃたんだよなぁ」

 と、言って笑う日向さん。

 だが、次の瞬間、日向さんの笑みは凍りついた。

「未来ちょっと場所変えようか」

 菜月はそう言うと、ガシリと日向さんの肩を掴んだ。

 日向さんはヒッと声をあげ、顔を青くする。

 そのまま、菜月は日向さんを連れて教室を出ていった。

 日向さんは助けてという視線を送っていたがあえて無視した。

 なぜかて? 菜月が怖いからだよ。

 それに、いくら間違えだとしても脅されたのは真実なので、このくらいのバツは必要だろう。

 戻ってきたら、良い友達になれるといいな。

 そして、学校に日向さんの悲鳴が響いた。


 レンのジュース一本という約束を果すため、自販機で飲み物を選んでいると、ニコニコと笑みを浮かべる菜月と、疲れはてた日向さんを見つけた。

 あっちも見つけたのか、こっちにくる。

「凪沙くん、なにしてんの?」

「見てわかるだろ、飲み物選んでるんだ、それと……日向さ……日向大丈夫か?」

 敬語をやめてフレンドリーに日向に話しかけた。

 日向は「大丈夫」と言っているが、明らかに疲れはてている。

 なにかおごってやることにしよう。

「菜月と日向はなにがいい?」

 菜月だけに奢らないと後から小言を言われそうなので菜月にも奢ることにした。

「わたしはお茶で」

「アタシはスポーツドリンクを」

 俺はお茶とスポーツドリンクを買うと、菜月と日向に渡す。

「俺の奢りだ」

「ありがとう」

「サンキュー」

 菜月と日向はお礼をいい、お茶とスポーツドリンクを受け取った。

 その後、レンにあげるおしるこを買う。

 レンからはジュース一本としか言われてないので、おしるこをチョイスしたところで怒る権利は奴にはない。

 自分用にもコーヒーを買い、三人で教室に戻るとレンが本を読んでいた。

 こいつは相変わらず本が好きだなと思いながら、おしるこを置いた。

「約束のジュース一本だ」

「どうも」

 レンはお礼をいって、おしるこを嫌な顔をせず飲んだ。

 チッ、嫌いじゃなかったか。

 今度は野菜ジュースにしてやる。

 小さな決意をして、俺は席に座った。

「泉」

「なに日向?」

「昨日は本当にごめんなさいっ!!」

 日向はそう言うと、頭を下げた。

 その光景にクラスの奴らの注目を集める。

「いや、気にしなくていいから」

「いや、気にしてくれじゃないと……」

 日向は菜月に目を向けた。

 菜月と目が合うと日向はヒッと小さく悲鳴をあげる。

 どうやら菜月に相当な精神的ダメージを受けたみたいだ。

 おそらく、日向は俺になにか詫びをしないと菜月になにかされるのであろう。

 なにかは知らないがな。

「わかった」

 俺は日向の詫びを受けとることにした。

 ただし、金とか物は要求しない。

 少し、子供騙しのような詫びだ。

「んじゃ、俺のと、友達になってくれ」

 実際言ってみると、少し恥ずかしがった。

「えっ? 友達じゃなかったの?」

 と、目を丸くする日向。

 友達だと思ってたのは嬉しいが今は合わせろよ。

 と、思いが伝わったのか「あっ」と間抜けな声をあげ、

「わかった。これからアタシと泉はフレンドリーだ」

 と、大袈裟に腕を広げる日向。

 リーはいらないよ、リーは。

 そして、俺と日向は抱擁をかわした。

 離れ際に小さく「ありがとう」と言われた。

 こうして、俺と日向は友達になった。

 これで解決と思いきや、

「凪沙くん少しいいかな?」

 菜月さんがかなり御怒りのようだ。

 なぜと思って状況を整理する。

 俺と日向の抱擁、変換、抱き合う。

 …………。

「はい」

 俺は黙って菜月に連行された。

 まあ、日向と友達になれたからよしとするか。

 そして、そんな甘い考えを後悔するにはあまり時間がかからなかった。

 俺の悲鳴が学校に鳴り響いた。


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