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4話 守護神の没収

 朝起きたら、菜月の顔が目の前にあった。

 菜月は俺が起きたのを確認すると、上体を起こしてベッドの脇に立つ。

「おはよう。凪沙くん」

「……おはよう」

 指で目をこすりながら、挨拶を返す。

 うん。挨拶は大事だ。

 確か優子先生がそんなことを言っていた気がする。

 ……でもな。

「なんでいるんだ?」

「凪沙くんの幼馴染みだから」

 理由になってない。

「不法侵入だ」

「違うよ、カギ持ってるもん」

 菜月は首にかかっているものをみせた。

 それは間違いなく家のカギだった。

 さらに、そのカギにピンク色のヒモを通し、ネックレスのようになっていた。

 そういえば菜月は家のカギ持ってたな。

 俺も菜月の家の持ってるし。

 いつも仕事で家にいない俺と菜月の両親は互いに仲が良く、もしなにかあったらということで俺と菜月に互いの家のカギを持たせているのだ。

 まったく信用されたものだ。

「そうだったな」

 カギを持っていても不法侵入になるかならないかは今は置いてこう。

 それよりも……。

「んで、菜月はなにしに来たんだ?」

 俺は菜月に訊ねた。

 いつもならば、一緒に登校する時間にインターホンを鳴らすのに、今日は早く来た。

 しかも、家の中にだ。

 なにもないということはないだろう。

「昨日言ったよ」

「昨日……?」

 ……あれか。

 菜月が調教とかいってたことか。

 でも、確かあれは勉強を教えるてことじゃなかったのか?

 もしや、朝早くから勉強しようとことか……。

 冗談じゃない。

 俺のモラルに反する行為だ。

 勉強は一夜漬けと相場が決まっている。

「さすがに朝早くからは困る」

「別に気にしなくていいよ」

「いや、俺が気にするんだが」

 朝は貴重な時間だ。

 二度寝をしたり、三度寝をしたり、……あれ、寝てばかりだな。

「遠慮しなくていいよ。わたしがしたいだけだから」

 そうか。

 だったら、遠慮せずに言わせてもらおう。

「朝から勉強はしたくない」

 言ってやった。

 もしかしたら、凪沙くんバカなのて思われてるかも知れない。

 だが、それでも、二度寝がしたいんだっ!!

「なにいってるの?」

 菜月はキョトンとした表情で俺を見ていた。

 なにを言っているのかわからないという表情だ。

 予想外の反応に俺は確認することにした。

「勉強するんじゃないのか?」

「え? しないよ」

 あれ?

「んじゃなんでここにいるんだ?」

「起こしにきたの。朝ごはんできたから」

「朝ごはん?」

「そう」

 菜月はニコニコと笑い頷いた。

「いったいどういうことだ?」

「どういうことって?」

「だから」

 ぐぅーと、俺のお腹が鳴った。

 菜月はクスクスと笑う。

 俺は恥ずかしくなって、菜月から目を逸らした。

「……」

「……凪沙くん朝ごはん食べようか」

 俺は黙ってコクリと頷いた。

 たとえ恥ずかしくても飯は食べたい。




 リビングに行く前に、洗面所で歯みがきと顔を洗い、寝癖を水で直す。

 それが終わりリビングに行くと、テーブルに食事が用意されていた。

 トースト、目玉焼き、サラダ、コーヒー。

 いかにも洋風なメニューだ。

 コンビニオンリーの俺にとっては久しぶりの手作り料理だ。

 菜月は食事に手をつけず俺を待っていてくれたらしい。

 俺は菜月と向かい合うように座る。

 さっそく俺がトーストを食べようとした時、

「いただきます」

 菜月が手を合わせて言った。

 礼儀正しいやつだな、と思っていると、菜月がジーと俺を見てくる。

 やれやれ。

 俺はトーストを皿に戻し「いただきます」と手を合わせた。

 菜月はそんな俺を微笑ましい光景を見るように見てきた。

 なんか子供扱いされてる、と思いながらトーストにかじりつく。

 焼いたパンの味がした。

 当たり前か。

 ただ物足りない。

 ジャムを塗りたい。

 できれば、チョコを。

「ジャムはどこだ?」

 同じくなにも塗っていないトーストにかじりついている菜月に訊ねた。

 菜月はコーヒーで口の中のものを呑み込むと口を開いた。

「ないよ」

「え?」

「というか、砂糖以外なにも調味料がなかったよ」

 さらりと菜月が言った。

 ということは。

 トーストも、目玉焼きも、サラダもなにもつけずに食べろということか。

 素材の味をそのまま楽しめと。

 無理だ。

 せめて、チョコジャムがほしい。

「なんでだよ」

「それはわたしのセリフだよ」

 確かに。

 この家には俺が住んでいる。

 ゆえに、その理由を俺が知っていないといけない。

「で、なんでないの?」

 今度は菜月が訊ねてきた。

 俺は素直に答えた。

「知らない」

「ここに住んでるのに?」

「うっ……」

 正論を言われてしまった。

 なにも言い返せない。

「はぁ、しかたないね、今日帰りに買っていこう」

 菜月のため息交じりの提案に俺はコクリと頷いた。

 心のメモ張にチョコジャムとメモをしておく。




 素材の味を重視した朝食を食べた後、菜月は食器を洗うということで台所に、俺は制服に着替えるために自室に戻ってきた。

 制服に着替えるにはまだ早いが、菜月のたまには早く行こうという提案に乗ったわけだ。

 今日は天気も良いし暖かい。

 さらに、春ということで桜が咲いてる。

 学校にあるベンチで昼寝しながら桜を眺める。

 最高だ。

 クローゼットに入っている女子制服をとりだし着替え始める。

 一年前は着替えるのに抵抗があったが、今は大分慣れた。

 だが、鏡で自分の着替え姿を見ているとなんだか、恥ずかしくなってくる。

 さらに、そんな恥ずかしがっている自分の姿を見ていやらしい気持ちになってしまう。

 複雑な心境だ。

 なので、素早く着替えるようにしている。

 一通り着替え終わると俺は最後にあるものを取り出した。

 守護神の短パンである。

 これがあれば安心だ。

 短パンを穿くと、鏡の前でおかしいところがないか確かめる。

 よし、ないな。

 筆記用具しか入っていない鞄を持って、ドアノブに手をかけると、ふとあることを思い出した。

 なんで朝食を作ったのか菜月に訊いていない。

 昨日言ったと言っていたがどういうことだろうか。

 まあ、菜月に直接訊けばわかるか。

 俺は自室を出て階段を降りて、リビングに向かう。

 リビングのドアを開けると、ちょうど菜月が食器を洗い終わった後だった。

 ちょうどいい。

 今だったら訊ける。

「昨日のことなんだけどさ、詳しく訊いていいか?」

「うん、いいけど……、もしかして凪沙くん聞いてなかったの?」

「えーと」

 そういえば、菜月の話を途中まで聞いて勝手に解釈したんだっけな。

 人の話は最後まで聞けというがその通りだ。

「ごめん」

「はぁ、じぁもう一度説明するからよく聞いてね」

「わかった」

 俺は頷いた。

 こうして、菜月の説明は始まった。




 菜月の説明を整理する。

 菜月は俺を模範的な生徒にするために、学校生活と私生活でサポートしてくれるらしい。

 学校生活では主に授業中寝ないように、監視したり、制服の身だしなみをチェックするなど。

 私生活では、朝起こしにきたり、朝食を作ったり、勉強を見てくれるらしい。

 つまり、就寝するまでの間ずっとそばにいるわけだ。

 良くいえば面倒見の良い幼馴染み。

 悪くいえば超接近型ストーカー。

 菜月が説明し終わると、俺は口を開いた。

「却下だ」

 当然の結果だ。

 もし、これを承諾したら間違えなく菜月に迷惑がかかる。

 それにだ。

 菜月と常に一緒ではプライバシーがなくなる。

「えっ? なんで?」

 菜月がなんでダメなの見たいな表情で聞いてきた。

 むしろ、なぜオーケーで当然みたいな態度をとっているのか訊きたい。

「菜月に迷惑がかかるからだ」

「迷惑じゃないよ」

 なんて優しい子だ。

「プライバシーとか必要だろ」

「えっ? 凪沙くんなら構わないよ」

 どういうことだ、と無粋なことは訊かない。

 きっと、幼馴染みとしてだろう。

 うん、そういうことにしておこう。

 それから、様々な理由で断ろうとしたが失敗した。

 挙げ句のはてには「学年一位の人にサポートしてもらえるんだよ。断る理由ある?」と、とどめを刺された。

 俺は渋々菜月のサポートを受けることにした。

「じぁ早速だけど……」

 菜月はそう言うとスカートの中に手を突っ込んできた。

 俺は菜月の予想外の行動に固まった。

 菜月はそんな俺をお構い無しにあるものを脱がせた。

 俺が足下を確認すると、守護神の短パンがあった。

 俺はキャッとかわいらしい悲鳴を上げた。

 慌てて短パンに手を伸ばすが、短パンのせいで体勢を崩し尻餅をついた。

「いてて……」

 痛かった。

 文句を言ってやろうと菜月を見上げるが、菜月の視線は俺の目ではなくその下を見ていた。

 まさかな……。

 俺は視線を下に落とすと、緑色の布が見えていた。

 そう、緑色の下着が。

 速攻スカートを手で押さえ下着を隠した。

 見られた……。

 絶対に見られた。

 恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じた。

 きっと、顔は真っ赤だ。

 菜月を見上げると菜月はサッと目を逸らした。

「見てない」

 すぐにウソだとわかった。

「ウソ」

「ほ、本当だよっ」

「そう、だったらよかった……」

 ここは、見られていないことにしよう。

 誰が好き好んで不幸になる真実を明かすというのか。

 そういうのは刑事ドラマで十分だ。

 それよりもだ。

「なんで短パン脱がせた?」

 こっちの方が重要だ。

 守護神をとったあげくパンツを……、おっと見てないんだったな。うん。

「イメージが悪いからだよ」

 菜月はそう答えた。

 イメージねぇ、先生達の俺のイメージが底辺なのだから、気にする必要がないと思うんだが。

 それにだ。

「短パンてイメージ悪いのか?」

 疑問に思ったことを訊ねる。

 菜月はしばし思案すると、自信なさげに答えた。

「…………悪い」

「それは菜月個人のイメージだろう」

 自分の価値観で人のイメージを決めちゃいけません。

「学年一位のわたしが言うんだから間違えないっ」

 今度は偉く自信がある。

 だけど、学年一位て関係あるんだろうか。

 だが、このままだと平行線を辿る気がする。

「まあ、この話は置いておこう」

 俺はそう言いつつ、短パンへと手を伸ばす。

 だが、途中で菜月に手を掴まれた。

「聞いてなかったの?」

 菜月がいつの間にかしゃがみ込んでいた。

 そして、真っ直ぐに俺の目を見ている。

「なにを?」

「だから、短パンはイメージが悪いの」

「それは菜月個人の意見で」

「学年一位」

「だ」

「学年一位」

「……」

「学年一位」

 そこまで、学年一位がすごいんだろうか。

 いや、すごいか。

 だって、俺には到底無理だからな。

 むしろ、底辺とる方が簡単だ。

 名前書いて後白紙。

 残りの時間は昼寝で有効活用。

 実に効率の良い試験の受け方だ。

 夜更かししている人にオススメだな。

「わかった、だが、いきなり短パンなしとは酷いんじゃないか」

 このままでは、短パンなしの生活を送ることになりそうなので、俺は妥協することにした。

 まずは、相手に自分の言っていることはわかってもらえていると、思わせるんだ。

 そして、チャンスを伺い、自分の思惑短パンライフを守りきる。

 いけるっ!!

「荒療治だよ」

 しょせん俺の知恵は学年一位の菜月にはかなわなかった。

 結局、菜月に言いくるめられ、短パンは没収された。

 こうして俺の短パンなしライフが決定した。



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