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3話 生徒会長は策士?

 沈黙が支配する生徒会室で俺は会長が言ったことを考えていた。

 どうして、俺が生徒会に?

 普通、生徒会ていうのは、模範になるような生徒が入るんじゃないのか。

 菜月は学年成績1位だったから、生徒会に入ってほしいのもわかる、だけど、俺が生徒会になぜ?

「今決めなくてもいいわ」

 俺がそんな事を考えていると、会長がそう言った。

「ちょっと、いいですか?」

「ええ」

「なぜ俺が生徒会に勧誘されているんですか?」

「不思議かしら?」

「はい、普通は生徒会いうものは生徒の模範になるような人達が入ると思うので」

「確かに、泉さんの言っていることは正しいです。ですが例外は常にあるものです」

「その例外が俺だと?」

「ええ」

「ですが、俺が生徒会に入ってもなんの役にも立たないと思うんですが」

「役に立つかどうかですか、それはわかりません。ですが今、泉さんは自分の立場が危ういことは知っていますか?」

「知りません」

「今、泉さんの前には2つの選択肢があります。1つは生徒会に入り、生徒の模範になるように頑張るか」

 これは到底無理な話だ。

 となると、2つ目の選択肢を選ぶことになるのだが。

「2つ目がこの学校をやめる、つまり退学ということです」

「えっ!?」

 俺がそれはどういうことですかと訊ねようとした時だった。

「それはどういうことですかっ!?」

 菜月が声を荒げてテーブルをバンッと勢いよく叩くと、テーブル越しの会長に詰め寄った。

 どうやら、なにかが吹っ切れたようだ。

「落ち着いてください」

 会長は菜月を落ち着かせようとするが、菜月はどんどんとヒートアップしてゆく。

「落ち着いていられますかっ!! なんで凪沙くんが退学なんですかっ!? 説明してくださいっ!!」

「おい、落ち着けって菜月」

「なんで凪沙くんはそんなに冷静なのっ!? 退学になるかも知れないんですよっ!!」

 冷静ね、まあ、目の前に自分より気が動転してるやつがいれば、いやでも冷静になるだろうな。

 それに思い当たる節があった。

「いやさ、俺出席日数足らないんだよね」

「えっ……」

 俺の告白に固まる菜月。

 高1のある日の放課後。

 俺は担任の優子先生に出席日数が足らないことを伝えられた。

 その時、優子先生が「大丈夫、先生にまかせて」と俺に言い、俺はああ、良い先生だと思った、だが、「生徒を助ける先生てかっこ良くないですか?」と訊ねられた時、俺には不安しか残らなかったのは、おぼえている。

「だからさ退学のことはそのことに関係があると思う」

「泉さんの言う通りです」

「でも、それと生徒会がどう繋がるんですか?」

「それはですね……」

 会長の説明によると、偶然、退学処分になる生徒の話を職員室で聞いた会長が、可哀想だと思い先生達を説得してくれたらしい。だが、なんの処分もなしにするのはおかしいということで生徒会にその生徒が入るという条件を提示したそうだ。

 先生達はそれを認めて退学処分を取り消した。

 さらに、生徒会役員が少ないので、増えるのは会長にとって都合が良かったらしい。例えそれが問題児だったとしてもだ。

「ありがとうございます」

 一通り経緯を聞いた俺は会長に頭を下げた。

「生徒会長として、見過ごせなかっただけです」

 なんていい人なんだ。

「あの会長……」

「なんですか黒川さん」

「さきほどはすみませんでした」

 菜月は深々と頭を下げた。

「気にしなくていいですよ」

「でも、わたしっ」

「黒川さん」

 菜月が言おうとしたが、会長がそれを止める。

「友達が退学することになるとなっては冷静を失うことは当然です。それが大切な人なら尚更です」

 会長はそう言って、軽くウインクをした。

「た、確かに凪沙くんは大切な人です。幼馴染みで友達ですし……」

 菜月は顔を赤くしながら、俺の方をチラチラと見る。

 おい、そんなに動揺すると付き合ってるてことがバレるだろうが。

 俺と菜月が付き合っていることは秘密なのだ。

 会長はしばしそんな様子の俺と菜月を眺めると、口を開いた。

「で、泉さんはどうしますか?」

「どうしますかと言われても、俺には拒否権はなさそうですし」

「あら、退学してでも生徒会に入りたくないという選択肢はないのかしら? サボりの常連さん」

「さすがにないですね」

 そこまでして俺はサボりたくない。

「それは残念です」

 会長は肩を落とす。

「では、泉さんは生徒会に入るということでよろしいですね?」

「はい」

「では、よろしくお願いしますね」

 会長は俺の方に手を差し出した。

 俺はその手を掴み握手する。

「こちらこそ」

 俺がそう言うと会長は微笑んで、手を離した。

「黒川さんはどうしますか?」

 会長は今度は菜月に訊ねる。

「わたしは、その……」

 菜月は口ごもりながら俺の方をチラチラ見る。

「なぜ、こっちを見る?」

「いや、別に見てないよ」

 と、言いながらもまた菜月は俺をチラチラと見た。

 もう、なんなんだよ。

 会長は菜月をしばし見たあと、目を細めた。

「黒川さん」

「は、はい」

「あなたに言っておきたいことがあるの」

「なんですか?」

「実はわたし……」

 会長はそう言いつつ、右手を自分の胸に置いた。

 その姿はまるで、なにかを宣言するお嬢様のようだ。

「女の子が好きなの」

 …………はぁ?

「そ、それはどういう意味ですか?」

 と、菜月が訊ねた。

 会長は涼しい顔で答えた。

「ラブ的な意味よ。つまり、接吻したいとかよ」

 接吻とかくどい言い回しするなよな、普通にキスとか言えよな……て、

「「えええええっっっっっ!?」」

 俺と菜月の声がハモった。

「ついでに言うと」

 会長はテーブルに片手を置いて身を乗り出し、俺の頬に手を添える。

 さらに、会長は俺に顔を近づけ、色の違う左右の瞳で俺を真っ直ぐに見て、

「泉さんがタイプなの」

 そう言って、顔をさらに近づける。

 このまま、近づいたらキスされるんじゃないか、と思った時、会長がチラッとさっきの衝撃告白で硬まっている菜月を見て、笑みを浮かべた。

 この人、菜月の反応を見て楽しんでやがる。なんてやつだ。

「会長、俺は元男です」

「だから?」

「そういう、冗談はやめてください」

 男として意識してしまうんで、とは言わない。

「冗談? あら今から、キッスをするのに冗談なんて酷いわ」

 会長はわざとらしくキスという単語を強調する。

 すると、菜月がその言葉に反応して、ギギギと音が聞こえてきそうな動きで、顔だけ俺に向ける。

「凪沙くん。キスするつもりなんですか?」

 菜月の声にはもはや抑揚はない。

「するわけねぇだろうが」

「するわ」

「するんですね?」

「いや、しねえよ。てか、会長いい加減手をどけてください」

「早く、キスしろと?」

「違いますっ!!」

「わたしというものがありながら」

「本当にしないから」

「泉さんの唇はどんな味がするのかしら」

「凪沙くんが……」

「もう、いい加減にしてくれー!!」

 俺の叫びが生徒会室に響きわたった。






「ごめんなさい。ちょっと悪ふざけがすぎたわ」

 さっきの騒動が静まり、菜月が少し落ち着ついた頃、会長が笑いながらそう言った。

 おかげで、菜月は俺を守ろうと俺を抱きしめていた。

 菜月から甘い匂いがするが、気にしないでおこう。

 うん、顔が赤いのも気のせいだろう。

「いえ、気にしないでください」

 と、俺が言い、菜月は、

「自重してください」

 と、会長に言う。

 会長は笑ってその言葉をやり過ごす。

「そう言えば、今、生徒会のメンバーて泉さんを入れて2人しかいない」

 2人しかいないってどんだけ人材不足なんだよ。て、待てよ。ということは……。

 菜月も案の定、その意味を察したらしく。

「えっ、それってつまり……」

 会長は当たりと言うばかりに自分の唇に指を当てて、ウインクをする。

「で、黒川さんは生徒会に入りますか?」

 会長が問いかけると、菜月は、

「はい」

 と答えた。






「詐欺師に騙された気分」

 隣を歩いている菜月がそう言った。

 生徒会に菜月と共に入ることが決まり、会長から生徒会について説明を受け、ようやく解放された俺と菜月は帰路についていた。

「まあ、確かにな」

 詐欺師ではなく、会長にだが。

「凪沙くんあのときキスしようとしてたよね?」

「してない」

 菜月がジーと俺の方を見る。

 どうやら、まだ疑っているみたいだ。

 まあ、会長のあの容姿だったら、大抵の男は一目惚れするだろうな。今は元男だけど。

 でも、このままだとめんどうだ。

 どうするかな。

「あ、そう言えば凪沙くん」

「うん? な……に?」

 菜月が足を止め、微笑みながら俺を見る。

 だが、菜月の表情とは裏腹に瞳は笑っていなかった。

 菜月がこんな表情をするときは、かなり怒っているという表れだ。

 俺、なにかしたかな……。

 不安に思いながら、菜月の言葉に耳を傾ける。

「出席日数が足りてないってどういうこと?」

 ………………。

「なにか、言ったらどう?」

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 なにがヤバイて、それは出席日数が足りない理由だよ。

「これには深ーーい事情があってだな」

「出席日数が足りなくなるほどの深ーーい事情ですか、それはぜひとも聞きたいものですね」

 とにかく、ここは素直に話そう。下手に騙してばれたらたまったもんじゃない。

 それにきっとわかってくれるだろう菜月なら。

「実はさサボり癖が直らなくてさ。出席日数足んなくなったんだよ。あ、でも感じがいしないでくれよ。別に俺は好きでサボっているわけではないんだ」

 実際、俺はサボり癖がつくまで真面目な生徒だった。

 ただ、1つ難点をあげれば、女の子のように扱われたことだ。

 男だった頃、俺はそのことにコンプレックスを感じ、ヤンキーは男らしく見えるという、俺の極端な考えから、ヤンキーがやるであろう授業をサボるという行為をやり始めたのだ。

 結局、男らしく見られることはなく、ただイタズラに先生の評価を下げただけだった。

 さらに、サボり癖がついてしまいやめようにもやめられないのだ。

 そのことを知っている菜月は、「それは大変ですね」と苦笑いをする。

 俺はホッと胸を撫でおろした。

 よかった。わかって貰えた。

 持つべき物は理解ある幼馴染みである。

「でも凪沙くん安心して……」

 菜月は少し間をあけ、続けた。

「わたしが凪沙くんを調教してあげるから」

 と、屈託のない笑みで言った。

 聞き間違えではないだろうかと耳を疑う。

 だが、そう思っていても脳内に様々な妄想が浮かび上がった。

 ムチで俺を叩く菜月、ヒールで俺を踏む菜月、縄で縛り上げられる俺。

 ……悪くない、いやむしろ……て、なに考えてんだ俺はっ!

 まるで、俺が変態みたいじゃないかっ!

「凪沙くんどうしたの?」

「いやっ、な、なんでもないっ」

 菜月は訝しげに俺を見ていた。

 もしかしたら、考えていたことが顔に出てたのかもしれない。

「なんでもないならいいけど……、それでさっきの話の続きなんだけどさ」

「菜月っ!」

「な、なにっ!?」

 俺が突然大声を出し、菜月が驚く。

「俺たちは付き合っている。だがな、調教とかいうそういうことはダメだ」

 そうだ、俺たちは健全な学生。まだ、そういう趣味に走っちゃいけないっ!!

「ダメ。絶対する」

 と、言って菜月は譲らない。

 もしや、菜月には譲れないなにかが、あるのだろうか。

「凪沙くんが退学になるのは嫌だから」

 …………あれ? なんかおかしくねえか?

 退学と調教てどう繋がるんだ?

 俺は思考を巡らせる。

 そして、あることを思い出した。

「調教てどういうことするんだ?」

 俺はあることを思い出し、冷静になった頭で、菜月に訊ねる。

「凪沙くんが授業をサボらないように監視したり、テストの時は勉強を……」

 やっぱりか。

 どうやら、勘違いしていたようだ。

 菜月は単に、俺を退学させないために、勉強や授業を真面目に受けるようにどうにかしたい、と言うことなんだろう。

 そして、それを調教と言ったんだろうな。危なく勘違いするとこだった。

「菜月」

「あとは……うん? なに?」

「調教て意味をネットで調べてみろ」

「意味ぐらい知ってるよ」

「いいから」

「……はぁ、わかった」

 菜月は不機嫌になりながらも、ケータイを取りだし、操作する。

 俺はそれを黙って見届ける。

 直接俺の口から説明してもいいんだが、それはかなり恥ずかしい。

 それに、自分で調べた方が頭に入ると思うしな。

 しばし、そうしていると、菜月がケータイの画面を凝視しながら、顔が急激に赤くなった。

 ケータイを持つ手がプルプルと震え、声にならない声をあげていた。

 考えていることが顔に出るとはこのことだな。

「菜月どうしたんだ? そんな顔をして?」

 俺は不思議そうに訊ねた。

 もちろん、意味を知ったうえである。

「その、ね。な、なな凪沙くんっ!! さっきのは違うのっ!!」

 顔を赤くして、言い訳をする菜月。

 俺は慌てている菜月を可愛いと思う半面、面白そうだと思い言及する。

「違うってなんのこと?」

「そ、それは……」

「それは?」

「う、うぅ……」

 菜月は顔を赤くしたまま、俺から目を逸らした。

 ちょっと、やりすぎたかな。でも、良いものが見れた。

「菜月の性知識のなさは、今も健在だな」

「凪沙くん、意味知ってたんだね」

 菜月が顔を赤くしたまま、俺を睨み付ける。

「もちろん、知ってた」

「凪沙くんのいじわる」

 菜月は拗ねたように唇を尖らせた。

「もう、知らない」

「ごめんごめん」

 謝る俺を無視して菜月は歩くペースをあげる。俺は菜月に追いつくため歩くペースをあげる。

 どうやら、そうとう怒らせてしまったみたいだ。

 まあ、ちょっとやり過ぎたとは思うが、原因は菜月の調教発言にある。俺にはない。と、言えば間違えなくご機嫌斜めだ。今もご機嫌斜めだが。

「なあ、菜月」

「……」

「おーい」

「……」

 無視された。しかも、こっちを見てくれない。

 しょうがない、ここは機嫌を取りにいくか。

「菜月」

「……なに?」

 俺は菜月の前に立ち塞がる。菜月は足を止めそんな俺を睨んだ。

 俺は内心怖いと思いながらも、ケータイを取りだし、ある画像を映し出す。そして、その画像を菜月に見せた。

「これってっ……」

 不機嫌な表情とは一変し、菜月は目をキラキラと光らせケータイを見た。まるで、好きなおもちゃを見る子供の様だ。

 予想通りだ。

 俺が今菜月に見せているものはネコの画像である。毛皮は白く滑らかで、目は透き通るように青い。可愛いよりも美人というほうがしっくりとくるだろう。まあ、人じゃなくてネコだけど。

「ナナちゃんだー、かわいいー」

「だろ」

 ネコの名前はナナという、みんなはナナちゃんと呼んでいる。ナナちゃんはのらネコで、この地域を塒にしているのだ。だが、会えるのは稀であり、写真を持っている人は少ない。

 さらに、菜月はかわいいものが好きだ。

 その後、俺は菜月に画像を送り、菜月はケータイを見ながら、頬を緩ましている。

 今は上機嫌である。

 そうしているといつの間にか家の前に着いていた。

「じぁね、凪沙くん」

「ああ、また明日な」

 菜月はそう言い残すと隣の家に入っていった。俺は菜月を見送り自分の家に入っていく。

「ただいま」

 小さく言ってみるが、返事がない。まあ、この時間ではだれも帰ってきてないだろうな。

 俺は階段を上り、自分の部屋にいくと、鞄を投げてベットにダイブした。

 今日は色々とあった。

 まさか、生徒会に入ることになるとはな。でも、しょうがない、出席日数が足りない自分が悪い。むしろ、その程度ですんだことに感謝だな。

 菜月も生徒会に入ったんだよな。菜月ならしっかりと出来んだろう。サボりの常連の俺と違って。

 そういえば、帰り道、菜月が勉強教えるとか言ってたっけ。これからはぐーたらできないな。まあ、いいかどうにかなるだろう……。

 俺はいつの間にかそのまま寝ていた。

3話目です。

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