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2話 生徒会の勧誘

 また、やっちまった……。

 俺は目を閉じる。

 何度、あってもこれだけは慣れないものだな……。

 いままで同じ様なやり取りは何度もあった。

 菜月が俺に迫り、俺が拒絶する。

 俺がそうすると菜月は決まって「凪沙くんのバカ」と言い残して去って行くのだ。

「凪沙くんのバカか……」

 確かに俺は菜月に比べたらバカだろうな。

 菜月のやつ確か、学年成績1位だっけ。

 まあ、そういう意味じゃないてことはわかってるが。

 俺はハァとため息を吐いくと、周りが少し騒がしくなっていることに気づいた。

 終わったのか……。

 体育館の方を見ると、学生達が廊下に出ていた。

 この学校は、体育館と校舎の間に、吹き抜けの壁がない廊下で繋がれている。

 しかも、体育館への廊下はこれしかないため、雨が降った日などは、希に濡れてしまうのだ。

 そろそろ行くかな。

 俺はベンチに置いていた鞄をとって掲示板へ向かった。






 この学校では学年が上がるごとにクラス替えがある。

 新しいクラスは掲示板で張り出され、そこで生徒は自分のクラスを確認して、新しい教室に向かう。

 当然、学年が1つ上がり、2年生になる俺も掲示板を見て新たな教室に行くのだが……。

 そこには本来あるはずの、クラス替えの張り出しがなかった。

 だが、それは当然だろう。

 なにせ、それが張り出されるのは入学式と始業式が始まるまで。

 つまり、それをすっかり忘れてサボっていた俺は、自分のクラスがわからないのだ。

「どうしようか……」

 俺は掲示板を見て、ボソリと呟いた。

 こういう場合、職員室で訊くのが一番なのだが、サボりの常連である俺がいったら、きっと教師どもに色々言われるに違いない。

 それに、菜月は今日遅れたから、もしかしたら職員室にいるかもしれない。

 さすがにさっきケンカしたばかりで、すぐ会うのは気が進まない。

 ということで、職員室は却下だ。

 しょうがない、ここはレンにでも訊くか……。

 俺はそう判断するとケータイを鞄から取り出し、慣れた手つきで電話をかける。

 すると、すぐに電話から声が聞こえた。

『なんかよう?』

 その声は幼く、子供の様な声だった。

 実際、あいつは小学生にしか見えないけどな。

 もちろんそんなことは言わないが。

「ああ、訊きたいことがあるんだけどさ」

『ボクが答えられる範囲ならいい』

「わかった。んじゃ訊くけどさ、俺のクラスて知らない?」

 そう尋ねると、電話からハァとため息が聞こえた。

 もしかしたら、呆れているのかもしれないな。

『バカだろ、おまえ』

 本日二度目のバカ宣告である。

「さっきも、そう言われた」

 菜月にな。

『黒川にか、また、ケンカでもしたのか?』

 どうやらレンはお見通しらしい。

 さすが学年成績2位である。

「ああ」

『またか、おまえらは何回ケンカすれば気が済むんだ?』

「わからん、それにあれはケンカというかなんというか……」

『ハァ……、わかったもういい』

 口ごもる俺に、レンは呆れたようだ。

『で、おまえのクラスだが……』

 レンは少しそこで間を空けると、

『教えなくても大丈夫そうだな』

「……はっ?」

 どういうことだろう……。

『後ろを見てみろ』

「後ろ……」

 後ろを見てみるとそこには、

「おはようございます。泉さん」

 ニッコリ微笑む、先生がいた。

「優子先生……」

 俺は小さく呟いた。

 本名、葉山優子。

 生徒や先生からの信頼が厚く、下の名前で優子先生と呼ばれている。

 綿菓子の様にふんわりとしたセミロングの髪。

 少し大きめな丸メガネを掛けており、メガネの奥にある瞳は、俺に会えた喜びかキラキラと輝いていた。

 ちなみに俺の1年の時の担任である。

「お、おはようございます」

 俺は平常心を装いながらあいさつを返す。

 新学期そうそうに会うことになるとは……。

 俺は優子先生のことが少し苦手である。

 数少ない俺の話が通じる教師なのだが1つだけ、苦手なところがある。

「よくできましたー」

 優子先生はそう言って、まるで子供を褒めるかの様に、俺の頭を撫でる。

 またか……。

 優子先生はよく生徒を子供扱いする。

 一部の生徒は母性を感じるとか言っているが、俺にとっては恥ずかしいだけだ。

 そして、そのことが俺が優子先生を苦手とする原因である。

 俺は無言で優子先生を睨み付けた。

 だが、優子先生はそんな俺を気にする様子はなく、頭を撫で続ける。

「いい加減やめてください」

 俺は恥ずかしくなってきたので、優子先生にそう言った。

「えーと……、なにをですか?」

 優子先生は小首をかしげる。

 だが、手は退けなかった。

 優子先生……わざとやってるんじゃないんだろたうか……。

 俺はハァとため息をついた。

「撫でるのをです」

「あっ……、ごめんなさい。つい、泉さんがかわいいもので……」

「かわいい……だと……」

 俺は顔が熱くなり、にやけるのを感じた。

 なに嬉しくなってんだよ俺は……。

 バシバシと両手で頬を叩く。

 バカじゃないのか、俺は元男だぞ。

 それにかわいいて言われることは俺にとっての、嫌がらせみたいなことだっただろが。

 俺が男だった頃。

 中性的な顔立ちのせいか、よく女の子に間違われることがあった。

 しかも、その時にかわいいと言われて男としてのプライドに傷がついたものだ。

 さらに、俺が男だと知っても、女の子みたいとか、かわいいなど言われ、そのせいで男からはかわいいとからかわれた。

 俺はかわいいと言われるのが嫌で、必至に男らしくなろうとしたが、女の子になった今はそのことは無意味だろう。

「どうかしましたか?」

 優子先生が訝しげに俺の顔を覗き込む。

「なんでもないですっ!」

「そう、だったらいいんですが……」

 優子先生は気圧された様に、1歩下がった、とその時だった。

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムの音が鳴り響いた。

 どうやら、ホームルームが始まるみたいだ。

 今日は入学式と始業式の後、ホームルームあり、それが終われば帰れる。

「チャイム鳴りましたね、ちゃんとホームルームには出てくださいね」

「はい、わかりました」

「では」

 優子先生はそう言って、校舎の中に入って行った。

 俺は優子先生か見えなくなるとハァとため息をついた。

 かわいいか……。

 前はあんなにそう言われることが嫌だったのに今では嬉しく感じる。

 もしかしたら、心までもが女の子になってきているのかもしれない。

「バカか俺は」

 そんなことあるはずがない。

 気のせいだ。

 俺は自分にそう言い聞かせると、ホームルームを受けるために校舎に入って行った。






 俺のクラスは2年3組だった。

 校舎に入り、自分のクラスがわかんないことに気づいた俺は、渋々職員室に行き、色々教師から説教を受けて、さらにそこに優子先生が俺を庇い、説教をしていた教師と口論になった。

 それでも自分のクラスを知ることができ、優子先生が今回も担任だということを聞いた。

 俺はそれを聞いた後、まだまだ長引きそうなこの状況から逃げるように職員室を後にした。

 俺は階段を上り、2階にある2年生の教室に向かう、するとチャイムが鳴っているのにも関わらず、2人の女子生徒が廊下で話をしていた。

「やっときたか」

 その内の1人が俺に気づき話しかけてきた。

 栗色のショートヘアに、ぱっちりとした瞳。

 身長は小学生と間違われるくらい小さく、胸もない。

 俺の親友で、同じ元男の海道レンである。

「やっときたかてことは、俺を待ってたのか?」

「そうだ」

 いったいなんのようだろうか?

「だが、ボクが用があるんじゃない。用があるのはこの人だ」

 レンがそう言うと、もう1人の女子生徒が一歩前に出た。

 腰まである白銀の髪に、雪のように白い肌。

 体型はレンの幼女体型とは対照の、色気のあるグラマーなスタイル。

 制服はその色気を隠すかのように、スカートの丈は膝まであり、上も第1ボタンまでしっかりと締めている。

 だが、俺が一番印象を受けたのが彼女の瞳だった。

 彼女の瞳は俺から見て、左が赤、右が緑と色が違っていた。

 いわゆるオッドアイというやつだろうか。

 俺が彼女を見ていると、彼女はどこかのお嬢様かの様に、自分の胸に手をあて自己紹介をする。

「はじめまして、わたしは凉ノ宮アリスといいます。この学校の生徒会長をやっています」

「あ、どうも、俺は泉凪沙といいます……て、えっ」

 生徒会長だと!? この人がっ!?

 だとしたら俺になんの用が。

 まさか!? サボり過ぎたから会長直々に説教をしにきたのかっ!?

「どうかしましたか?」

 会長が訝しげに俺に訊ねる。

「なんでもないです、ただ驚いてしまって、生徒会長が俺のところに来るなんて、なんの用かなーて」

「確かにそうですね、突然生徒会長が来たとなっては驚くのも当然です」

 今は驚きよりも不安感の方が大きいが。

「ですが、今の反応を見ると、わたしを見たのははじめてですか?」

「はい、はじめてですが」

 見たことがあるんだったら、こんな印象に残る人は忘れないだろう。

 それとも、どこかで見ただろうか。

 俺が素直に答えると、会長は目を細め、レンはため息を吐いた。

「それはおかしいですね、今日、壇上であいさつをしたのですが」

 口調は変わらないのに、会長の言葉に恐怖を感じた。

「ああ、そうでしたね」

「こいつはサボりましたよ」

 俺はどうにか誤魔化そうとしたが、レンがそれを阻止した。

 レンのやつ……。

 俺はレンを睨むと、レンも気づいたのか、ニヤリと笑みを作る。

「そうだと思いました。さすが、サボりの常連ですね」

「すみません」

 どうやら、会長は俺がサボりの常連だと知っているみたいだ。

 となると、会長直々の説教で決まりだな。

「まあ、いいでしょう。今回だけは許します。ですが、次はないですからね」

「あ、ありがとうございます」

 次はないか、気おつけよう、うん、マジで。

「では、そろそろ本題に入りたいのですがよろしいですか?」

「は、はい」

 とうとう、説教タイムか。

「んじゃ、ボクはこれで」

「ええ」

 レンが教室に入っていく。

 会長はレンが教室に入って行ったことを確認すると、俺に言った。

「場所を変えましょう」

 一緒にランチしましょう、みたいに誘っている様に聞こえるが、ただ、1つ違うところがあれば、断れないほどの恐怖を感じることだ。

 嫌だ、と言いたいがもちろんそんな勇気はなく、せめてもの抵抗とばかりに、

「えっ、ホームルームがあるのですが」

「優子先生には話しておいたので、心配はいりませんよ」

 仕事が早い人だ。

 俺は渋々諦める。

「はぁ、わかりました」

「では、行きましょうか」

 会長はそう言って歩き出し、俺は会長の後をついていく。

 そういえば、レンのやつ会長と一緒にいたけどもしかして知り合いだったのだろうか。

 俺は気になって、前を歩いている会長に話かける。

「会長てレンと知り合いなんですか?」

「ええ、ちょっとした知り合いですよ」

「どういう?」

 俺は気になり、さらに訊ねるが、会長は話を逸らすように、

「そんなこと気にしていていいのかしら、わたしが知る限りでは生徒会長に呼び出されるって、そうとうのことだと思うのだけど」

「うぅ……」

 俺はそれ以降黙って会長の後をついていった。







 俺が連れてこられたのは生徒会室だった。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 会長はドアを開け、俺を生徒会室に通す。

 生徒会室は奥に、社長が座っていそうな黒いイスがあり、その前にパソコンが置かれた机。

 さらに、前にはテーブルと、それを挟むように、2つのソファが置かれていた、そして、そのソファに。

「菜月っ!?」

「凪沙くんっ!?」

 さきほど、ケンカもといケンカもどきをした、菜月が驚いた様子で俺を見ていた。

 だが、すぐに菜月は俺から目を逸らした。

 まだ、朝のことを気にしているみたいだ。

「あら、知り合いだったの?」

 会長がいつの間にか、俺の横に立ち訊ねる。

「ええ、でもなんで菜月がここにいるんですか?」

「あなたと同じよ」

 俺と同じ、どういうことだろうか。

 だが、同じとなると説教ではないか。

 さっき、会長は朝サボった件を許すと言ってたしな。

 だが、そうなるとなぜ会長が俺と菜月を呼び出したのかわからん。

「まあ、まずは座って」

 会長はそう言って、空いている方のソファに座る。

「わかりました」

 俺は菜月の隣に座り、鞄をソファの脇に置く。

 菜月は目を逸らしたまま、端にずれ俺との距離を開ける。

 会長は俺と菜月を訝しげに見たあと、なにごともなかったかの様に、ソファから立ち、マグカップを3つ、食器棚から取り出す。

「紅茶でいいかしら?」

「はい」

 俺はそう答え、菜月は頷く。

 会長は手際よく紅茶を淹れると俺と菜月の前にそっと置き、ソファに座る。

「ありがとうございます」

 俺は礼をいい、菜月も軽く頭を下げた。

 てか、菜月。礼ぐらい言えよな。

 まあ、原因は俺にあるからそうは言えないが。

 俺は紅茶を飲みながら、菜月を見ると、菜月は一向に俺を見ようとはしなかった。

 早く終わんねえかな。

 今度は会長を見るが、会長は紅茶を味わうように目を閉じて飲んでいた。

 そんな雰囲気の中、紅茶を飲み終わった会長が話を切り出した。

「そろそろ話をはじめてもいいかしら?」

「構いません」

 菜月もコクリと頷く。

 会長は姿勢を正し、真剣な面持ちで俺と菜月を見つめた。

 俺は緊張からか手に力が入り、会長を見る。

 そして、会長が言った。

「単刀直入にいいます。あなたたちは生徒会に入る気はありませんか?」

 

 

2話目です。

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