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18話 休日デート(後編)

「楽しかったね」

「そこは美味しかったね、じゃないのか?」

「それも、あるかな」

「そうか……」


 つまり、菜月は俺をからかって楽しかったてことか……。

 俺達は日向と宮塚さんがいなくなっていることを確認して店を出た後、ぶらぶらしていた。

 ただ、散歩をしているだけだが仕方がない。

 俺達は若者が好きなゲーセンやカラオケなどはあまり好きじゃないのだ。

 それに、突然のデートだったので、行くところがないのは仕方がないことだ。


「菜月行きたいところはあるか?」

「あるよ、服」

「服以外でな」


 俺は菜月が言い切る前に言ってやった。

 こうでもしないと着せ替え人形にされるからな。


「うーん、服以外でかー」


 菜月は少し、顎に指を置いて考えた後、


「じゃあ、図書館に行こうよ」

「図書館?」

「うん。しばらくいってなかったし、時間潰すなら丁度いいでしょ」

「……そうだな」


 菜月さん、あんたデートで時間潰すていう発言はよくないと思うよ!

 まあ、俺も特になにもないし、図書館に行くには賛成だが。




 俺達は町で一番でかい図書館にきた。

 俺の記憶が確かなら、俺が最後に来たのは三年前。

 本が好きな菜月はちょくちょくきているが、最近は生徒会の仕事であまりこれなかったらしい。

 そのせいか菜月は図書館につくと、俺を放置して本棚を漁っている。

 まあ、楽しそうだからいいが……、少し寂しい。

 俺は回りを見渡した。

 しかし、やたら広いなここは……。

 その分いろんな本があるってことか。

 よし、俺も久し振りに本でも読んでみっかな。

 本と言えば会長から貰った本結局途中まで読んだままだったな……。

 俺はそんなことを考えながら、おもしろそうな本を探す。

 しかし、おもしろそうな本の替わりに、おもしろそうな二人組を発見した。


「これなんかどうかしら」

「いいと思うよ。その本には詳しく書いてあるし」

「あら、その口調だと読んだことがあるて、聞こえますわ」

「実際読んだからな」


 などなど、と本を探しながら話す二人組の会長とレン。

 会長とレンが知り合いだとは知っていたが、実際に目の前にすると、年の離れた姉妹のようだな。

 と、思っていると、


「そう言えば、姉さん」


 えっ!? レンのやつ今会長のこと姉さん……て。


「姉さん……て?」

「……っ!?」


 しまった!

 声に出してしまった。

 レンはおそるおそる振り返り俺と目があった。


「……あ、あああ」


 一気にレンは顔を赤くさせ、言い訳をはじめる。


「ち、違うだ! 凪沙! これにはその理由があってだな! その……」


 ここまでレンが狼狽するのは珍しい。

 会長はそんなレンを見て、笑いを押さえるのが必至みたいだ。

 俺は状況を整理することにした。

 休日に会長とレンの二人きり。

 仲は良好。

 レンが会長を姉さんと呼ぶ。

 ……なるほどな。


「凪沙。落ち着いて欲しいんだが、実は」

「わかってる」

「えっ!?」


 俺はわかってしまった。

 それはまさしく名探偵の如く。

 俺はレンの肩を掴んで言った。


「そういう姉妹プレイなんだろ」

「ちがもがっ!?」

「そうですわ。姉妹プレイですわ」


 レンの口を抑え込み、会長はそう言った。


「実はわたしとレンは前からずっと姉妹プレイをしてまして、今では本物の姉妹のように仲が良いのですわ」

「そうですか、まあ、確かにレンの様子を見ればわかります」


 レンは今、会長に口を抑えられ、もがもがしている。

 きっと、照れ隠しだろうな。


「それで、会長はなぜ図書館に来たんですか?」

「少し……調べものですわ。そういう、泉さんはなぜ図書館に?」

「俺は菜月とデ、……暇潰しに来たんです」


 危うくデートと言うとこだった……。


「そう言えば、泉さん。この前さしあげた本は読みましたか?」

「すいません。まだ、途中までしか……」

「謝らなくてもいいですわ。本を読もうが読まないかは本人の自由ですし、それに泉さんはあまり本を読むイメージがないので」

「……そうですか」


 だったらくれなきゃいいのに。


「もがもが」

「ああ、ごめんなさい」

「……ふぅ、危なかった……」


 レンは会長に手を離してもらうと、顔を赤くして荒い呼吸をしている。

 会長もなぜか頬を赤らめ、レンを見ている。

 そろそろ頃合いかな。


「それではまた」

「あら、もういってしまうの?」

「はい、菜月が待っているんで」

「そう」

「それでは失礼して、後レンもじゃあな」

「ああ……はあ、また学校で……はあ……会おう」


 レンは未だに荒い呼吸が直らないみたいだ。

 大丈夫だろうか。

 俺は会長とレンの元を去り、菜月を探す。

 少し話し込んでしまったけど、菜月のやつ心配してるだろうか。

 例え、そうだとしても俺を半ば無視して本を優先した菜月に謝るつもりはないが。

 っと、いたいた。


「菜月」

「……」


 返事がない。

 それほど、本に集中してるんだろう。

 俺は菜月の隣に座った。

 菜月はどうやら、気づいたようだ。


「凪沙くんはどこにいってたの?」


 その声からはイラつきの影がみえる。

 客観的に見れば、俺は彼女を放置した彼氏(?)である。

 だが、ここで忘れてはいけないのが、その彼氏(?)を放置したのが彼女であることだ。

 つまり、菜月がイラつくのは筋違いというものだ。

 当然そう思っているのだが……


「ごめん」


 謝った。

 やましい気持ちなんてない。

 だけど、まずは謝る。


「ふーん、もしかして凪沙くん。わたしに言えないようなことしてきたんじゃないよね?」

「そんなことしてない。ただ、会長とレンに会ってさ」


 菜月の頭にはてなマークが浮かんだ。


「会長と海道くん? 随分と珍しい組合せだね」

「だろ」

「でも、なんで一緒にいたんだろうね」

「わかんない。ただ、調べものて言ってた」

「そうなんだ」


 菜月はそれ以上追求せず、読書に戻った。

 例え、追求されてもこれ以上のことはなにも知らないが。

 さて、どうしようか。

 周りを見ると、みんな本を読んでいる。

 当たり前かここ図書館だし。

 そう言えば、菜月はどんな本読んでんだろう。

 気になって隣に目をやる。


「……っ!?」


 思わず息を飲んだ。

 なぜなら、そこには美女がいたからだ。

 それも、呼吸を止めてしまうほどの。

 本を読んでいる菜月は、いつもの人懐っこい表情ではない。

 それはなんの感情も感じ取れない無表情。

 生命力のない人形のようにも見えるが、菜月の瞳の輝きが生命力の存在を肯定している。

 そして、表情がないために、本来の菜月の顔立が浮かび上がる。

 いままで、菜月をかわいいと思ったことはあったが、美しいとは考えたことがなかった。

 だからだろう。

 美しいと思うものに、俺は無意識に手を伸ばした。

 そして、手が頬に触れた。


「凪沙くん?」

「……あっ」


 俺は自分のやったことにようやく気づいた。

 だけど、もう遅い。

 菜月はいつもの人懐っこい表情を浮かべている。

 俺は手を離し、目を逸らした。


「いや、その……」


 菜月が綺麗で思わず触ってしまったんだよ、とは言えない。

 だが、このままとはいかないだろう。

 俺は必至に言い訳を考えて、


「虫がついてたんだよ」

「虫?」

「ああ、そうだよ」


 普通なら、簡単にバレるウソだがそこまで気を使う余裕はなかった。

 だけど、菜月はなにか思い当たる節があったらしく、納得したような表情を浮かべる。


「そうなんだ。ありがとう凪沙くん」

「どういたしまして」


 菜月は再び読書に戻った。

 俺は菜月を盗み見る。

 今度は手が動かないように握り締める。

 そう言えば、菜月前に言ってたっけな。

 確か、本を読んでいる時は周りのことに気がつかないて。

 どうりで、あの言い訳を信じてくれたわけだ。

 そのことを思い出した俺は、盗み見るのをやめて堂々と菜月を眺めた。




 帰り道。

 すでに、太陽はオレンジ色になっている。

 結局俺達は、あの図書館にずっといた。

 デートとしてはおかしいが、新たな菜月の一面を見れたのでよしとしよう。


「凪沙くんごめんね」

「なにがだ?」

「凪沙くんあんまり本好きじゃないのに、ずっと図書館にいて」


 なんだ、そんなことか。


「気にしなくていいぞ。別に暇だったわけじゃないしな」

「そう……なの?」

「ああ、そうだ」


 もちろん、俺は本なんて一冊も読んでない。

 菜月には言えないが、ずっと菜月を見ていた。

 そして、今の菜月からするに、気づかれてない様子だ。

 よかった、よかった。

 俺達は他愛ない会話をしながら、ゆっくりと歩いていると、


「凪沙くん」

「うっぬっ!?」


 菜月に引っ張られ、声を上げようとしたところを手で口を塞がれた。

 そのまま、草むらへと連れていかれる。


「う……ぷはっ、いきなりなにすんだよ」

「シー、静かに」


 菜月は可愛らしい仕草で唇に指を立てる。


「凪沙くんあれ見て」


 菜月が示した場所を見ると、目を見開いた。

 そこには、夕日を背にキスする二人組がいた。

 ここら辺にはあまり人影がないので、絶好のキススポットだったのだろう。

 だけど、一番俺を驚かせたのが、


「……あれって……まさか!?」

「うん、未来と紅葉ちゃんだよ」


 それが俺達の知り合いだったということだ。


「移動しよう」


 俺は菜月の手を取った。

 このままここにいて、あの二人のキスを盗み見ることに罪悪感を覚えたのだ。

 菜月は黙って頷くと、草むらを後にした。

 草むらを抜け、遠回りをして、帰路につく。

 会話はない。

 理由はわかっている。

 ただ、それをどうこうする根性と勇気は俺にはない。

 だらしない。

 元男としてそれはどうなんだろうか。

 そうこう考えていると、菜月に手軽く掴まれた。

 一瞬ドキンとしたが、冷静をどうにか保とうとした瞬間。


「……我慢できない」


 菜月は小さく呟くと、俺の手を強引に引っ張る。

 背中にはかすかな衝撃と、なにか硬い感触、おそらく壁だろう。

 菜月の両手は俺を逃がさないと体現するように、両手首を掴み、背中にあるに壁に押さえつける。


「……な……つき」


 弱々しく、目の前の少女の名前を呼ぶ。

 特にその行為には意味はない。

 ただ、無意識に呼んだだけである。

 菜月はゆっくりと顔を近づけてくる。

 抵抗はしない。

 俺もキスをしたいと思っているからだ。

 俺は恥ずかしさのあまり、目を逸らす。

 菜月はあと少しで唇が触れるくらいに近づくと動きを止めた。

 そして、勢い好く自分の唇を押しつける。


「……んっ……んん」

「……ん、んんっ……」


 菜月のあまりの強引なキスに、唇と唇の間から声が漏れた。

 そのまま、菜月は俺の唇を蹂躙する。

 俺はただ、それを受け入れた。

 キスするのはいつぶりだろうか。

 やわらかい唇、熱い吐息。

 懐かしい感触だ……。

 ああ、なんていい気分なんだろう……。

 俺達はキスを続けた。

 もはや、俺達は互いのことしか見えていないし、認識もしていない。

 それほど、キスという行為は魅力的なのだ。

 平常心を失わせるほどに。

 だから、周りに対する警戒が疎かになるのも仕方がないと言えるだろう。

 あの二人、日向と宮塚さんのように。

 俺と菜月はこの時、自分たちのキスが誰かに見られているなんて知らなかった。


 

 

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