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17話 休日デート(前編)

 高校生にとって、貴重な日曜日。

 俺はソファーでごろごろしていると、


「凪沙くん、デートしよう」


 菜月がデートに誘ってきた。


「突然どうしたんだ?」

「突然デートがしたくなったの」

「なんだ、そりゃ……まあ、いいけど」


 別にデートは嫌ではない。

 むしろ、好きだファション店以外はな。

 それに、暇だしちょうどいいだろう。


「じゃあ、一時間後にまた来るから準備しといてね」

「わかった」


 菜月はリビングから去っていった。

 最近、菜月が俺の家にいるのは当たり前になってきた。

 このまま、引っ越してくるんじゃないだろうな。

 そしたら、同棲……。


「……」


 いかん、いかん。

 俺はいったい何を考えているんだ。

 それよりも、早く着替えないと……。

 俺は着替えるために二階にある自分の部屋に向かう。

 自分の部屋につき、クローゼットを開ける。

 中には、色々な服がある。

 俺が選んで買ったのは、なにもない。

 ほとんどが菜月が選んで買ったのと、残りが母親が選んだものだ。

 そのせいで、ズボンがジャージしかない。

 スカートを履けばいいと思うが、制服は仕方ないとして、私服ではあまり履きたくはない。

 だからといってジャージはない。

 俺は渋々一番丈が長いスカートとブラウスを取った。

 服を慣れた手つきで着替える。

 鏡でおかしな所はないか確かめたら、バックにサイフとケータイを入れて準備終了。

 菜月は一時間後て言ってたけど、十分で終わった。

 残り五十分なにしようか……。

 テレビでも見て待つか……。

 俺は階段を降りてリビングに向かう。

 リビングにつくと、ソファーに座りこみテレビをつけた。




「お待たせ凪沙くん」


 菜月がリビングに入ってきた。

 菜月の服装は長めのスカートに、白いブラウス。

 手にはバックが握られている。


「よし、いくか」

「うん」


 俺と菜月は戸締まりをして、家を出た。

 さあ、デートの始まりだ。

 とは、いっても、急なデートなのでノープランである。

 菜月も同じなので、適当にぶらつくことにした。


「見て、凪沙くん」

「うん? なんだ?」


 菜月が指差す方を見てみると……。


「ソフトクリームか」


 ソフトクリームの移動販売だ。

 でも、この時期に普通やるか?

 まだ、六月にもなってないのに……。

 と、眺めていると、


「ソフトクリーム食べたいね」

「えっ?」

「その反応失礼だと思うよ」

「だって、まだ五月だぞ、五月。ソフトクリーム食べるに寒いだろうが」

「それがいいんだよ」


 理解できん。

 暑いからソフトクリームを食べたいのはわかるが、寒い中……いや、そこまで寒くはないか。


「凪沙くんはソフトクリーム食べる?」

「うーん……食べる」


 俺は結局食べることにした。


「いらっしゃいませ、ご注文はなんですか?」

「えーと……」


 菜月はメニューを見て考え込んだ。

 俺もメニューを見る。

 バニラ、ストロベリー、チョコ、などなど、中々豊富だ。


「ストロベリーでお願いします」


 と、菜月。

 俺は定番に、


「バニラで」

「わかりました。ストロベリーとバニラですね」

「はい」

「では、少々お待ちください」




「美味しいね」


 隣では菜月がソフトクリームを食べていた。

 俺と菜月は近くにあったベンチで休憩中。

 外は暖かくなり始めた時期なので丁度良い。

 でも、ソフトクリーム食ったからか、少し寒くなってきたぞ……。


「凪沙くん、バニラ美味しい?」

「ああ」


 はっきり言ってバニラは美味しい。

 まあ、バニラに当たりもハズレもないと思うがな。

 俺はソフトクリームを食おうとした瞬間、


「一口交換しない?」

「っ!?」


 菜月の提案に、危なくソフトクリームに顔面ダイブするとこだった。

 こ、交換て……まさか、間接キスっ!?


「どうしたの凪沙くん。顔が赤いよ」


 と、顔を近づけてくる菜月。

 完全にからかいモードである。


「もしかして、間接キスとか想像した? もう、凪沙くんは初なんだから、すでにキスした中なのに」

「うっ……」

「それに、女の子同士は交換して食べるて当たり前なんだよ」

「お、俺は元男だから」

「今は女の子でしょ」


 菜月はそう言うと、拒否権はないとばかりに自分のソフトクリームを俺の口に近づける。

 先に食えてことか……。

 周りにたくさん人のいる中で食えと……、やってやろうじゃないか。

 俺は一口食べた。

 ストロベリーの味? 恥ずかしくてそれどこじゃない。


「美味しい?」

「……ああ」

「じゃあ、凪沙くんのも一口貰うね」

「……どうぞ」


 俺がソフトクリームを差し出すと、パクリと菜月は食べた。


「バニラだろ?」

「バニラだね」


 そんな会話を交わしつつ、俺は自分のソフトクリームを食べようとして止まった。

 これって間接キスだよな……さっきもそうだったけど。

 もしかして、菜月も気にしてるんだろうか。

 そう思って菜月を見ると、菜月は気にしてる素振りなど見せず自分のソフトクリームを食べていた。

 意識していた俺がバカだった……。

 俺はソフトクリームにかぶりついた。




「次はどこいく?」

「うーん、そうだな……、菜月は行きたいところはないのか?」

「うーん……、服」

「あっ、俺行きたいところあったんだわ。よし、行こう!」

「ちょっと、凪沙くんっ!?」


 俺は菜月の手を引いて歩き出した。

 危なく、着せ替え人形にされるとこだった。

 でも、どうすっかな……行きたいとこなんてないし……。

 そんなことを考えていると、ふとある二人組が目に止まった。


「あれって……」

「どうしたの凪沙くん?」


 と、俺の視線の先を見る菜月。


「紅葉ちゃんと未来……。もしかして、付き合ってるのかな?」

「なぜそうなる?」

「だって、普通の女の子同士は腕を組んでなんか歩かないよ」

「そうか?」


 てっきり、女の子同士はスキンシップが多いから腕組む程度普通だと思ったんだけど……。

 そうこうしていると、二人がこっちにきた。


「隠れるよ凪沙くん!」

「隠れるって……そんな必要が」

「あるよ! 凪沙くんだってわたしとデートしているとこ見られたら恥ずかしいでしょ?」


 俺は想像してみた。

 俺と菜月はキスをしている。

 それを偶然友達……レンに見られる。

 ……実に恥ずかしい。

 てか、なんでキスなんか……。


「凪沙くんっ!」

「ぬわっ!?」


 菜月が思いっきり俺を引っ張った。

 そのまま、どこかの喫茶店に連れて行く。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいでしょうか?」

「はい」

「では、こちらにどうぞ」


 店員さんが案内してくれたのは、奥の席だった。

 店員さんは案内を終えると去っていった。


「で、なぜここに?」


 もちろん、隠れた場所が喫茶店のことである。


「近くに丁度良いところがなかったからだよ」

「そうか、だったら仕方ないな。せっかくだからなにか頼むか?」

「うん」


 菜月はそう言うと、メニューを取った。

 残念ながらメニューはテーブルには一つしかないので、待っていると、


「いらっしゃいませ」


 と、店員の声が聞こえた。

 ドアに目をやるとそこには、日向と宮塚さんがいた。


「マジかよ」

「どうしたの?」

「あれ」


 俺が日向と宮塚さんの方を目で示すと、菜月もそっちをみた。


「……どうしよ」

「こっちに来ないことを祈るのみだ。来たとしても恥ずかしいのはあっちだしな」


 俺は冗談混じりに言った。

 幸いなことに、宮塚さんと日向が案内されたのは俺たちが座る反対側、つまり窓側の席だ。

 だけど、この位置だと先に帰れないなこれ……。


「ふぅ、よかった」

「そうだな」

「そう言えば、凪沙くんはなに頼むか決まったの?」

「まだだ。てか、メニュー一つしかないから菜月が選んでると決められないだろ」

「あっ、そうだね……ごめん」


 菜月は謝りながらメニューを渡してきた。

 少々悪いことをしてしまった、と思いつつ俺はメニューを開くとそこには……おすすめで『恋人との甘い一時を』と、でかいパフェが目に入った。

 この店は付き合っている人への差別はないみたいだな。

 だけど、こんなの食べるやついねえだろうな……。


「そうだ凪沙くん。ついでに昼ごはんここで食べていこうよ」

「昼ごはん……?」


 時計を確認すると、十一時半。

 昼には少し早いと思うが……いいか。


「そうするか。んじゃ先選んで良いぞ」


 俺はレディファーストで、菜月にメニューを渡した。

 まあ、今女の子だからレディファーストが正しいか怪しいところだが……。


「ありがとう。じゃあ、先に選ばして貰うね」


 菜月はお礼を言うと、メニューを開き考え込んだ。

 俺はそんな菜月を眺める。

 ……菜月のやつ全然変わってないな。

 特に、メニューを楽しそうに撰んでる表情なんかはあどけない。

 俺は菜月の恋人なんだよな……。

 恋人といえば、日向と宮塚さんは付き合ってるんだろうか。

 そう思い、ちらりと日向と宮塚さんを盗み見ると……、あれはっ!?

 メニューでみた恥ずかしいパフェじゃねえかっ!?

 もしかして、あの二人本当に付き合っているのかっ!?


「どうしたの凪沙くん?」

「い、いや、なんでもない!」

「ふーん、そう。なんか怪しいなー」


 と、ジーと俺を疑心の目で見る菜月。


「本当だって……」

「……ふーん、まあいいや」


 どうやら、菜月は納得してくれたらしい。

 でも、なんで俺言い訳なんかしたんだ?

 別にする必要なんてないのに……。


「その替わり、このパフェ食べようね」

「どれどれ……て」


 俺は固まった。

 だって、それは、


「やだよ。なんでこんな恥ずかしいパフェたべなくちゃ」

「えー、いいじゃん。凪沙くん。たまにはこういうの食べて恋人らしくしようよ」

「だけど……、恋人らしくするって、いったのは家の中だけで」

「言い訳しないの。それに凪沙くん家の中でも自分からは恋人がするようなことしてくれないでしょ」

「うっ……」


 確かにその通りだ。

 俺は家で恋人らしく接すると約束していながら、実際はしていない。

 別にそういうことをしたくない訳じゃない、ただ恥ずかしいのだ。

 だけど、そのことを菜月の前では言えるわけがない。


「すみません」


 そうこうしているうちに菜月が店員を呼んだ。


「はい、なんでしょう」

「このパフェと後飲み物に……」


 と、具合に菜月が注文を済ませてしまう。

 唯一、選ばして貰ったのは飲み物のコーヒーだけだった。




 俺はさっきなんで言い訳したかようやくわかった。

 宮塚さんと日向のあのパフェを食べている光景を目にする菜月。

 そして、自分たちも食べようよという展開になるのを防ぐためだ。

 まあ、実際は無駄だったけどな。

 俺は目の前にあるパフェを見てため息をついた。


「じゃあ、食べようか」


 菜月はそう言うと、二つあるうちのスプーンを手に取った。

 パフェの一番上にあるアイスを掬うと、それを俺の方に向けてきた。

 まさかな……。


「凪沙くん、あーんして」

「……」


 やっぱりそうか……。


「あーん」

「……」

「あーん」

「……」

「あ」

「わかったから、言うな」


 俺は食うことにした。

 よく、考えればいやなことじゃない。

 むしろ、恋人としては良い展開じゃないか。

 ただ、恥ずかしいだけで。

 そう! 恥ずかしいだけで!


「……」


 俺は覚悟を決めると、パクリと食べた。

 味は恥ずかしくてわからない。

 なんか、損している気分だな。

 ストロベリーといい、パフェといい……。

 俺は恥ずかしさのあまり菜月から、目を逸らした。

 すると、一つの物が目に入った。

 これは……。

 パフェ用の長いスプーンだ。

 どうやら、二つ付いてくるみたいだな。

 となれば……。

 俺は置いてあるスプーンを取ると、パフェを掬う。

 菜月にもあの恥ずかしさを味あわせてやろう。


「あ、あーん」


 俺はそう言いながら、菜月の口にスプーンを近づける。

 てか、やる方も恥ずかしいなこれ!

 菜月は少し驚いた後、ニコリと笑ってパクリと食べた。

 うぅ、失敗した。

 残ったのは恥ずかしいという思いだけ。


「美味しいね」

「そ、そうだな……」


 やばい、恥ずかしさのあまり菜月の顔が見れない!


「じゃあ、凪沙くん。あーん」


 と、スプーンを近づけてくる菜月。


「いや、もうやめようよ。は、恥ずかしいしな」

「えー、やろうよ」

「断る」


 俺はそう言いながら、パフェをスプーンで掬った。

 そして、口に運ぼうとして……止まった。

 これ菜月にあーんしたやつじゃねえか!

 これでは、か、間接キスになってしまう!


「どうしたのかな、凪沙くん。手が止まってるよ」

「そ、それはその……」

「ふふ、まあ、言わなくてもわかるよ。凪沙くんがそのまま食べたら間接キスだもんね。本当、凪沙くんは恥ずかしがりやなんだから」


 なんかバカにされている気分だ。

 だけど、それは本当のことで、俺が恥ずかしがりやなところも認めたくはないが、真実だ。

 そして、菜月は俺を更に辱しめるように、


「じゃあ、凪沙くん選んで。あーんしてわたしに食べさせてもらうか、間接キスをしながら自分で食べるか」


 そんな二択を迫るのであった。

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