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13話 囮作戦

 放課後の生徒会室。

 目の前のソファーには二人の女子生徒が座っている。

 目安箱に投書した『南理恵』と、南さんの恋人である元男の『野田光太』だ。

 対するこっちは、会長、俺、菜月の順で座っている。

 そして、生徒会と南さん達とで話し合いを始めようとしたのだが、


「なんで投書なんかしたんだっ!? そんなに俺のことが信用できないのかっ!」

「信用はしてるよっ! でも、これ以上光太に傷ついてほしくないっ!」

「だからーー」


 と、痴話喧嘩をしている。

 話を聞いてみると、南さんは彼氏(?)に秘密に投書していたようだ。

 まあ、秘密にするのはわかるさ。

 だって、彼氏(?)プライド高そうだもん。

 男としてのな。

 そして、脚に青痣がある。

 おそらく、いじめで暴力を受けた後だろう。

 だけど、彼女の方には傷痕がないことを見ると、必死に守ったんだろう。

 名探偵のように、華麗(?)な推理をしていると、


「もう、いいっ! 俺は帰るっ!」

「待ってっ!」


 彼氏は立ち上がり帰ろうとした。

 彼女が必死に止めるが、知らんとばかりに帰ろうとしている。

 こりゃあ、いかんな。

 ここで、彼氏を帰してしまえば今日の目的のいじめの対策は立てられない。

 そう危惧していると、会長が怒鳴った。


「待ちなさいっ!!」


 普段の会長からは想像もつかない威圧的な声だ。

 思わず体に緊張が走った。

 彼氏は足を止めた。


「あなたは彼女がどんな思いで投書をしたかわかっているんですかっ!? 彼女はあなたを守りたいと思って投書したのよっ! あなたはそんな彼女の想いを踏みにじるんですかっ!?」


 会長は昨日南さんと一対一で話をした。

 その時に、南さんの想いを聞いたみたいだ。

 南さんが彼氏にこれ以上傷ついてほしくないこと。

 彼氏が南さんを守ったように、南さんも彼氏を守りたいこと。

 南さんの想いを知っているから、会長はあんなに怒っているんだ。

 彼氏はしばし考えた後、ソファーに戻った。

 わかってくれたみたいだ。

 俺はホッと安堵した。

 彼氏は南さんに体を向け、


「ごめん」


 と、謝った。

 南さんは「光太……」と感激し、彼氏も「理恵……」と言って、なんか雰囲気を作っている。

 まあ、わかってくれてよかったな。

 と、呑気なことを考えていると、二人は顔を近づけた。


「……?」


 おい、まさか……。

 見守っていると案の上、


「……んっ……」

「……ん、んっ……」


 キスしやがったっ!

 人前で堂々とキスをっ!

 俺はその光景に唖然とし、菜月はあらまっ、て感じで頬を赤らめ、会長はうんうん、となぜか納得している。


「……あっ、すいませんっ!」


 彼氏は唇を離した後、顔を赤くして謝ってきた。

 南さんはそんな慌てている彼氏を微笑みながら、見守っている。

 恥ずかしいのは見てるこっちだ、色ボケ。


「気にしなくていいわ」


 さっきの怒声はどこえやら、会長は優しい声で言った。

 俺だったら、自重しろというね。


「わかりました」


 いや、わかりましたじゃねえだろ。

 少しは気にしろよ。

 なんだよ、まあいっかみたいな顔はっ!


「では、そろそろ本題に入らせていただきますわ」


 そうして、ようやく話し合いが始まりました。




 南さん達は付き合っていることを秘密にしていた。

 いじめや差別などを受けないようにするためである。

 学校では友達として接し、外では恋人としてイチャついていた。

 もちろん、外では注意をしていた。

 だが、それでも失敗はある。

 ある日、外でキスに夢中になってしまい、近くに知り合いクラスメイトがいたことに気づかなかったらしい。

 翌日、クラスに噂が広まり軽蔑されるように。

 しかも、軽蔑だけでは収まらず、クラスのある五人組のグループが直接的ないじめを始めた。

 内容は主に暴力で、彼氏を見ればどれだけ悲惨なものか想像がつく。

 彼女に暴力の後がないのは彼氏が体を張って守ったからだ。

 そして、いつも守ってくる彼氏に対してこれ以上傷ついてほしくないと想って生徒会に助けを求めた、と。

 俺と菜月はその話を黙って聞いた。

 南さんは話をするにつれて、辛さを想い出したのか、泣いていた。

 だけど、最後まで話してくれた。

 そして、今は彼氏に優しく抱き締められている。


「どうやったら……、こ、光太を助けられますか?」


 涙声になりながらも南さんは言った。

 会長ははっきりと答えた。


「いじめを止める方法はありますわ」

「本当ですかっ!?」

「ええ」


 それを聞いて南さんは嬉しそうだ。


「ですが、軽蔑されるのを改善するのは今はまだ無理ですわ」

「そうですか……」


 南さんは表情を暗くした。

 しかし、微かに笑っているのは彼氏を助けるという最大の目的が達成できそうだからだろう。

 そして、俺は会長の言葉に首をかしげた。

 今はまだ?

 会長に疑問の視線を向けると、会長はウインクして唇に人差し指をあてた。

 秘密みたいだな。

 まあ、後で訊けばいいだろう。


「で、いじめを止める方法ですが……」


 会長はそう言って、説明を始めた。


「囮作戦というのはどうかしら?」

「囮ですか?」

「ええ、南さんと野田……さんがわざといじめを受けてその現場を取り押さえる、という作戦ですわ」


 野田の後に少し間があったのは、さんか、くんのどちらで言うか悩んだからだろう。

 会長の提案に南さんが渋った。


「でも、それだと光太がまた傷つくことに……」

「いや、やる。会長さんやらせてくれ」

「ちょっと、光太」

「いいんだ、理恵。男というのはな時に女を守るために傷つくことも辞さない」


 男としてのプライドが高いと思ったがまさかここまでとは。

 見習いたいものだ。


「それにだ。なにもしなかったらまたやつらにいじめを受ける。だから、やるべきだ」


 その言葉を聞き、南さんは少し考えた後、


「……わかった」


 ボソリと呟いた。


「理恵……」


 野田はよかったと安堵の笑みを浮かべている。


「会長、よろしくお願いします」

「わかりました」


 南さんは頭を下げた。

 そして、説明は詳細に進められていった。




 翌日、囮作戦が実行された。

 俺と菜月は体育館裏の草むらに隠れて待っていた。

 昨日話た結果、二人は人目がつかない場所につれてかれ、いじめを受けることが判明した。 

 そこで、人目がない場所に風紀委員と生徒会役員を忍ばせて、きたら連絡をし、いじめの現場を確保。

 いじめたやつらは停学処分という筋書きだ。

 停学明けたらいじめがまた始まるんじゃないかと会長に訊くと、


「それはありえないわ、だって……おっと、これは秘密だったわ」


 と、会長が怖いことを言っていた。

 そして会長に聞いた話だが、会長は凉ノ宮財閥の跡取りで、権力もそれなりに持っているらしい。

 きっと、権力でどうにかするんだろう。

 そう、権力で。


「きたか……」


 こちらに向かって歩いてくる集団が目に入った。

 そのなかに、南さんと野田がいる。

 人数を数えてみると、南さんと野田を引いて、五人。

 あれが例の五人組で間違えないだろう。

 俺は菜月とアイコンタクトして、ケータイできたことをメールで知らせる。

 そうして、五人と二人は体育館の裏についた。

 野田は南さんを守るように前に立ち、五人は野田を取り囲むように、半円形に立つ。

 そして、リーダー格らしき横にデカイ女が前に出て、野田に蹴りを入れた。


「おらっ!」


 蹴りを食らった野田は数歩後ろに下がりながらも倒れない。

 それどころか、鋭い眼光で相手を睨み付ける。

 しかし、相手は怯まない。

 野田が仕返しをしないからだ。

 なぜなら、「仕返しをして、その間に理恵に暴力を加えられたら嫌だから」と、昨日野田が言っていた。


「キモいんだよ。てめぇ」

「超キモいんですけどー」

「死ねよっ!」

「……」


 残りのうち、三人が罵倒をしながら暴力を振るい、一人が無言で暴力を振るう。

 冷静な心情で見れば、無言の生徒は感情を押し込めて無理に殴っているのを理解出来ただろうが、俺は冷静ではなかった。

 俺の心は怒りに侵食され始めていた。

 グズ野郎がっ!

 怒声を浴びせたい想いを奥歯を噛んで抑える。

 ここで、怒りに任せて怒鳴れば一時的に俺はすっきりすることができるだろう。

 だが、そんなことをすれば作戦は失敗する。

 このいじめの件に生徒会が関わってきたとなれば、五人組は今日は退くだろう。

 しかし、次の日からはいじめの場所を変え、生徒会にチクった、と難癖をつけられいじめが悪化するおそれがある。

 だから、耐えて待つしかない。

 菜月と同じように。

 隣で菜月は怒りを堪えるかのように俺の手をギッと握っている。

 かなりの力で痛いが、俺は気にならなかった。


「なあ、南のやつも殴ろうぜ」


 野田の制服がはだけて、暴力を振るわれたせいで汚れが目立ち始めた頃、五人組の一人が南さんを見て、言った。


「いいな」

「やろうぜ」

「賛成ー!」

「……」

「やめろっ!」


 四人の(一人は無言)の発言に、野田は怒気をぶつけた。

 だが、野田の願いは叶わなかった。

 野田の反応が面白かったのか、横にデカイやつが、不適な笑みを浮かべた。


「おい、野田を押さえつけろ」


 横にデカイやつが、他のやつに命令し、野田を押さえつける。

 野田は必死に抵抗するが、さすがに四人がかりでは脱け出せない。

 そいつは南さんに近づいていく。

 南さんは恐怖に震えながらもそいつを睨み付ける。

 野田は必死に「やめろ」と叫んでいるが、そいつに油を注ぐだけだ。

 そして、俺は気がつけば立っていた。

 拳を握りしめ、やつを睨む。

 菜月が小声で注意してきたが、頭には入らなかった。

 俺の頭の中は怒りに満ちていた。

 もし、暴力が振るわれるのが、野田だけだったら耐えることができた。

 だが、南さんに手を出すのは許さない。

 俺は知っている。

 野田がなにがなんでも南さんを守りたいことを。

 野田が南さんに傷ついてほしくないことを。

 そして、その想いに俺は共感した。

 俺と野田はほぼ同じ状況だからだ。

 一人の女の子を守りたいという想い。

 違うところはいじめを受けているかどうかだけ。

 だから、俺は許せないのだ。

 その願いを想いを踏みにじろうとしているあのクソ野郎をっ!

 俺は草むらから出て、そいつに向かって走り出した。

 幸いそいつは南さんに夢中で気づいてない。

 他のやつは、野田を押さえつけるのに精一杯で気づいてない。

 俺は一気にそいつとの距離を縮めると、


「このクソ野郎がぁぁぁーーー!!」


 叫び声を挙げ、渾身の力を込めてそいつの顔面を殴り付けた。


「ぐふっ!?」


 突如、横からきた衝撃に対応できずそいつは地面を転がった。

 俺は走った勢いが残っていて、転びそうになるがどうにか踏みとどまる。

 そして、第三者の登場と、リーダー格が突如殴られるという予想外の出来事に場は静まり返った。

 しまった。

 俺は自分のやったことに気づいた。

 これで作戦は失敗だ。

 だけど、これでよかった。

 なぜなら、野田の大切な人を守れたからだ。

 これでよかっただろと、野田にアイコンタクトを送ると、野田は頷いてくれた。


「てめぇ!」


 いつの間にかそいつは起き上がっていた。

 そして、忌まわしい声を発し、俺を睨み付ける。

 俺は恐怖に震えた。

 さっきは怒りに任せて殴ったからいい。

 だが、今は熱も下がり、冷静さを取り戻している。

 だから、わかるのだ。

 俺の頭が逃げろと叫んでいることを、こいつは危険だと訴えていることを。

 そいつは俺の頭に手を伸ばす。

 俺は逃げようとするが、足が恐怖で言うことをきかない。

 そして、そいつの手が俺の頭に接触しようとした瞬間。


「そこでなにをしているっ!?」


 『風紀委員』という腕章をつけた数人の生徒がやってきた。

 作戦では安全重視のため、最低でも10人で現場を取り押さえると聞いていたが、俺が乱入したため、助けてくれたんだろう。

 風紀委員は先に四人と野田を確保し、こっちにきた。


「話を聞くついてこい!」


 風紀委員はそういい放つと俺と横デカに手錠をかける。


「チッ、覚えてろよ」


 そう言うと横デカは俺を睨み付けて、風紀委員二名に連行去れていった。

 俺はそれを黙って見送っていると、風紀委員が手錠に繋がれた鎖を引っ張ってきた。


「さあ、いきましょうか」


 その誘いに俺は首をかしげた。


「えーと、俺は生徒会役員なんですが?」

「問題でも?」


 今度は風紀委員が首をかしげた。

 今回の作戦は風紀委員も聞いているはずだ。

 なのに、この反応はおかしい。

 俺が疑問に思っていると、風紀委員の人が耳元に顔を寄せて小声で呟いた。


「話は聞いています。ですが、あなたが殴ったのは別問題です」

「わかりました」


 俺はその言葉に納得し、風紀委員に連行された。



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