魔軍の群れ
霧の中を、数え切れないほどの異質なものたちが進軍していた。
誰にとっても正確な数がわからないぐらいに、一見しただけでも千人に近いのではないかと推測される集団だった。
大規模なデモ行進を思わせるほど信じられないほどに莫大な人数だった。
それだけではない。
グループの中には、ところどころに身長が普通人の二倍を超える大きさのものたちまでが混じっている。それらは巨人と呼ばれるに相応しい、残虐で凶暴そうな面構えをしていた。
だが、共に歩む集団の中で、幻想から抜け出たような巨人に眼を向けるものは皆無だ。
まるで存在が当然のことであるかのごとく。
他にも豪奢な姿かたちと毛をもち、贅を尽くした鞍を装鞍した馬に乗った者達もいる。
街中だというのに、これに対しても誰も奇異を感じていないようで、行軍の群れに溶け込んでいる。
彼らの格好はまちまちだが、どれもこれも共通したある特徴を備えていた。
それは、凶悪なまでに煌く光を放つ武器を手に携えているという点だった。
剣、槍、弓、斧、破壊鎚、どれもこれもが必殺の殺傷力を持った危険な代物揃いにしか見えない。
戯れで前を横切れば、それを罪として即座に斬殺されても文句も言えそうにない物騒なものたちだった。
彼らはロンドンの大通りを征く。
当然、そこには多くの市民がいる。
市民たちの中には、その集団の中に割って入ってしまうものたちもいた。
だが、何もいないかのごとく、空気か霞みのように突き抜けてしまう。
彼らには実体というものがないのだ。幽霊にも等しい存在だからだ。
だから、人々は自分達の身体をすり抜けていくものたちに、気づかない。
しかし、彼らは実在するのだ。
ごく数名、人外のものたちを見ることが出来る『妖精眼』を持つものだけが、その異常に気がついたが、それを他人に伝えることは憚られた。
見えるものにはわかるのだ。
道を征くものたちの真の名が。
英雄の名を冠されたものたちの正体が。
殺戮の武器を持ったものたちはロンドンの霧の中を静かに行進していく。
往くべき場所は決まっている。
彼らの王が封じられている場所だ。
目的さえも決まっている。
彼らを封じ続ける憎き王を誅することだ。
彼らは英雄・魔人として今生に甦る時を渇望していた。
そして、それは間近に迫っていた。




