プロローグに至るpart1
以前、僕はハーレムに興味がないといった。
なぜなら、僕には交際相手がいる。つまるところのリアルが充実している人である。・・・対外的には。
ちょうど今、その彼女と一緒に投稿しているので無言のこの時間を使って彼女のことを紹介しておこう。
彼女の名前は天音歌奈。
身長は165センチの僕より約10センチ低く綺麗な亜麻色の髪を背中の中ほどまで伸ばしている。全体的に細身な体型で、猫目の様な眼を所有している。
希に告白されるほどの可愛い系の女子ではあるが、女子のレベルが高い学校に通っているためか埋もれた存在になっている。個人的には都合がいいのでよしとしよう。
まあ、他人が歌奈と付き合ったとしてもこの空気に耐えらえれるかどうかは微妙なところだが・・・。
さっきから僕と歌奈が無言で歩いているのは、歌奈の性格ゆえであり、僕から話しかけたところで顔を上下か左右に振るだけで会話は成立しないことは確定している。
それもそのはず、歌奈は無口であり滅多に言葉を発さないのだ。外では。
それは人間不信を患っており、他人と接する機会を極力減らすための自衛であり、決して感情の起伏が薄いわけではない。その証拠に、彼女に告白する男子のほとんどは希に見せる笑顔に惹かれた者たちである。
因みに、僕が歌奈と付き合っている要因は、僕と歌奈が幼馴染であるが故だ。
歌奈が心を許せる存在であることは自負しているし、心を許せる存在の唯一の異性であることは自覚している。
結局、恋愛感情の芽生えた歌奈の心は僕に向く。
所謂、依存というものだ。僕も長年の付き合いで彼女のことは少なからず理解しているところはあるし、好意も抱いている。
これ以上の理屈を並べたら熱が冷めてしまうかもしれないが、ここは僕らしくあえて言わせてもらおう。
卑怯で狡猾な僕はそれを利用させてもらった。付き合い始めはどちらがはっきりと告白したわけではないけど、そういうことなのだ。
以前、このことで歌奈と議論をしたこともあるけど、そこは幼馴染、歌奈も僕のことはある程度の理解をしていたようだ。
話がそれた気がするので、元に戻そう。
僕たちは明鈴高校の2年生で、共にCクラスである。
「・・・言い忘れてた」
「・・・ん?」
投稿中に歌奈が発言することは滅多なことなので、危うく聞き流すところだった。
「今日、女の子の編入生が来る」
「へぇ・・・。それは面白くなりそうだ」
もう一度話を戻そう。
歌奈はあらゆる情報を集めることに長けている。情報が武器となり得るこの時代で自衛の手段として用いるために。
僕は娯楽のために、こうして最新情報の一部を頂いているわけだ。
***
さて、幼馴染で心に闇を抱えた少女が幼馴染で彼女だなんて主人公にありそうな設定であるが、全体を見渡すとそんなことはない。
なぜなら、人間不信というのは過大表現であるからだ。言い方を変えれば極度を超越した人見知りなわけである。
ただし、人見知り以上人間不信未満とは言えど、はるかに人間不信よりに立っているために人間不信という表現をしているだけなのだ。
更に僕と歌奈の両親は共に健在しており、親が単身赴任しているわけではない。親同士の仲も顔見知り程度である。
ましてや、朝にどちらかがどちらかの家に行って起こすなどという素敵イベントは存在しないし、もちろん隣ですらない。
携帯電話などという文明の利器を使えば、家の中間地点で待ち合わせすることだってできるのだ。
僕が頼めば歌奈の家に迎えに行かせてくれる程度のことはできるが、歌奈は僕よりも起床が早く、起こすことはできないし、夜に仕事がある歌奈の父親にとって迷惑極まりない。逆に歌奈が僕の家に来ても、歌奈は僕の親か兄と遭遇することを見越し、1人では入ってこようとはしないのだ。
***
校門をすぎると歌奈は早歩きを始める。彼氏と登校しているところを冷やかされたくないからだ。
逆に僕はゆっくりと歩き、歌奈との距離を遠ざける。
僕が教室に着く頃には、歌奈は隣の席の女子と話をしていた。正確には一方的な会話に頷いているだけだが。
その女子の名前は風村由依。
ストロベリーブロンドの髪をポニーテールに纏め、凛とした顔立ちの活発な少女だ。このクラスで唯一、歌奈が僕以外に心を許している人物であり、歌奈の親友と言っても過言ではない。
風村とは中1のときからの付き合いで、わずか半月で歌奈の心を開かせることに成功した凄腕でもある。編入生が曲者の場合は彼女にも協力を仰ごう。まあ言わずとも仲良くしようという気持ちはあるだろうけど。
明るい性格は、歌奈以外の女子からも好感を抱かれており、友人も多く、男女共に支持率はクラスで1位でもあり、歌奈を気遣ってくれる良い人である。
このクラスの座席は自由なので、僕は仲のいい友人と陣取った歌奈の3つ後ろの席に腰を下ろし息をついた。
僕の仲の良い友人の2人のうち2人とも来ておらず手持ち無沙汰になる。
どうしたものかと息をついていると、廊下のほうから女子の黄色い歓声が聞こえてきた。
どうやら僕の暇な時間も終わったらしい。
ガラガラと教室の扉が開くと共に歓声が流れ込んでくる。
そしてそこに立っていたのは金髪のさらりとした髪を肩ほどまで伸ばした背の高い男子生徒だった。
彼の名前は國枝俊貴。
見た目は細いがしなやかな筋肉をもち、細身の眼鏡をかけていて知的な雰囲気を身に纏っている。
先ほどの黄色い歓声は俊貴に向けられたものであり、それだけ格好良いことを認めないわけにもいかない。
俊貴は内面ももれなくクールな性格をしており、僕の中では主人公第二候補である。
まあ、言わずともクラスの大半の男子から反感を買っているわけで、嫌がらせなどの幼稚なことはされないものの、警戒はされているのだ。
そんな中で気が休まるはずもなく、俊貴の目立った男友達は僕ともう1人くらいが、学校内での限界だろう。
「おはよ。今日も騒がしいね」
僕がありきたりの言葉をかけると、俊貴はため息をついて言い放った。
「本当に、いい迷惑だ」
それを聞いた周囲の男子生徒は顔をこわばらせ、女子はさらに歓声を上げた。
僕は肩をすくめて苦笑いを返すと、俊貴は鞄から読みかけの小説を取り出して読み始めてしまった。
これは俊貴が機嫌の悪い証拠なので、それ以上は声をかけずにそっとしておくことにした。
しかし、僕が暇じゃなくなる本当の理由はこれからだ。
「國枝! 今日は俺が相手だ!!」
僕の予想通り、1人の男子生徒が名乗りを上げる。今日は同じクラスの大木くんだ。
俊貴はうんざりしたような顔で大木くんを一瞥すると、小説に栞を挟んで机の脇に置く。それから引き出しの中から白と茶色のチェック柄の板と白と茶色で対になる駒を取り出す。
まあ世間一般で言うチェスなわけだけど、駒を並べ終えた瞬間に大木くんがポーンを動かした。
僕は試合の行く末を生暖かく見守ることにした。
これは、毎朝繰り広げられる漢(笑)をかけた勝負なのだ。
俊貴にチェスで勝てば女子への告白が成功する。そんなジンクスを信じた男子生徒が毎朝の様に勝負をしに来るのだ。
そもそもの発端は、俊貴のファンの1人が男子に告白され、付き合う条件として俊貴に『何か』の勝負で勝つことだった。
その『何か』は公平を期すために周囲の人間が現代の勝負事にふさわしいお題を発案し、その中からランダムに抽選が行われた。
結果、それはチェスに決まり、たまたまにでも告白した男子がチェスの腕が良かったために俊貴は敗北。条件を満たしたがために1組のカップルが誕生したことに由来する。
それから毎日の様に大人数が俊貴にチェスを挑んでくるようになったが、俊貴の疲労が蓄積されていくため、1日に1人だけが挑めるという暗黙のルールが誕生した。
ちなみに勝負を挑める人の抽選は、俊貴のファンクラブが執り行っているとか。実際に見たことはないけど。
最初は大木くんが優勢だった。着実に俊貴のポーンを倒し、堅実に攻める作戦のようだ。
しかし、俊貴は毎日の様にチェスをしていたため、初戦のころとは段違いにレベルが上がっている。多少の不利にも負けない程度に。
大木くんのポーンが3体ほど盤の真ん中を超えたとき、俊貴は動き出した。
チェスにおいて要の存在となるクイーンをポーンの隙間を縫う様に動かし、それを尾ける様にビショップを動かす。
「チェックメイト」
そして、大木くんのキングの隣に俊貴のクイーンが並んだ。大木くんのキングは自軍の他の駒に囲まれており身動きが取れず、クイーンを取ろうにもビショップが護衛している。
この勝負は呆気なく俊貴に軍配が上がった。同時に女子の歓声も飛び交う。
「ちっくしょー!!」
勝負に負けた大木くんは走ってどこかに行ってしまった。もうすぐホームルームが始まるというのに。
対する俊貴は何事もなかったようにチェスを片付け、読みかけの小説に没頭していた。
そういえば、俊貴が勝負を断らない理由を僕はまだ聞いてなかったな。
只今「黒き魔術は死の証」も執筆しているのでそちらも読んでいただけるとありがたいです。
ご閲覧ありがとうございます。
歌奈の身長の表記を変更。