プロローグ
彼女に会えた事は、僕にとって何より幸福だった。
本当なら思いだしたくもないような記憶も、そこにその時に彼女が居たというだけで、青春時代がキラキラ輝く思い出に変わる。
そう、僕は学生時代いじめられっ子だった。
弱い子供だったのだ。
運動も、勉強も、見た目もぱっとしない…ぱっとしないだけで何処にでもいそうな少年だった僕がいじめられた理由。
それは僕が弱い子供だったからに違いない。
強くなる方法なんて思い付かなかった。
ただ虐げられ、傷つき、磨耗していくだけの日々。
それが当たり前の日常、そんな弱い子供だった。
そして彼女は、…多分僕よりも弱く脆かった。
…なんとなく想像が付いた人、大正解。
そう、僕と彼女は徒党を組んだ。
弱いもの同士寄り添いあって、強くなろうとした。
別に恋人になったわけじゃなく、強くなれるように協力をしただけだけれど。
結果として彼女は、強くなった。
僕を置いて強くなった。
そこに僕は必要無かった。
徒党など組まなくとも、彼女は、一人の力で成長出来る人間だったのだ。
格好よくて、眩しくて、羨ましくて、僕が今まで見た事のない種類の強さを持った彼女を見て、
嫉みでなく、純粋に心から、僕も彼女のように強くなりたいと思った。
僕は結局強くはなれなかった。
けれども一つだけ、決心をした。
そう、なれたら僕は強くなったと言える姿を思い浮かべ、それ、に向かって頑張ろうと決めた。
…あれから10年たった。
物凄く昔の事に感じるけど、思い返してみるとあっという間にも感じる。
実は今日、10年の努力の結果が出る。
僕が強くなれるか強くなれないかは今日決まる。
緊張してないといえば嘘になる。
だけど同じくらい興奮してる。
結果は、全て彼女が握ってる。
もうすぐ彼女は僕のところにやってくる。
待ち合わせの時間はもうすぐだ。
それまで、自分の気持ちを落ち着けるために、自分の覚悟を確固たるものにするために、あの日の彼女を思い返してみようと思う。
僕にとって彼女は、勇気や希望や、そういった暖かなものの象徴だから。
それは世界で一番“強い弱虫”の話。