殺人鬼の猫は産まれなかった
2人は互いの幸せを願う
不器用なりに
『だからね、咲さん。人間は生きてるんだよ』
『そうね、朔。人間は生きている』
「この世界はハッピーエンドのはずだ」
朔、という名前の僕は階段を上がる。
卒業式をサボり、屋上へとつながる階段を上りながら。
「だって、僕はこの1年、咲に幸せを教えてあげたから」
ゲームの世界に転生し…。
そして、朔は扉の前に立つ。
誰もいないことを願いながら、それを開ける。
しかし。
そこに『産まれたばかりの殺人鬼』がいた。
服を真っ赤に染め、1人、そこに少女は立っていた。
「…何がいけなかったのかなぁ」
ため息を朔は吐く。
「これじゃ、ゲームと一緒じゃないか!」
『殺人鬼の猫』という、ゲーム。
主人公は街の人たちと仲良くする『朔』という少年。
ヒロインは自称心のない『咲』という少女。
高校の卒業式、朔はふと(このように)屋上へ行く。
すると咲が立っていて(このように)、真っ赤に染まっていて(このように)。
卒業式に殺人鬼が産まれる、というバッドエンド。それしかルートがないという最悪のゲーム。
「なぜ来たの?」
冷たく咲が聞く。
「なんで殺したんだ、咲さん。この1年、楽しい日々だったじゃないか。一緒に花火大会に行ったり、文化祭で屋台をまわったり」
「朔が幸せになれないから」
「…僕?」
コク、と咲はうなずく。
「はじめは、皆の幸せを願っていた。
だけど、朔と遊んでいたら朔に幸せになってほしくなった」
「じゃあ、なんで殺したんだ?」
「朔の悪口を言う人は殺さないといけない。朔が耳にする前に。だって、悪口は傷つくでしょう?
今日、お母さんに言われた。優しい人と一緒にいて疲れたでしょって。それって悪口だよね? だから殺した。傷つかないように」
倫理観…倫理観どうなってんだ、咲さんは。
幸せを願ってくれるだけでいいのに…。
なんてこった。
咲と仲良くするだけじゃダメだったんだ。問題は倫理観だったんだ。
不味いな。
このままじゃゲームと同じだ、殺人鬼が産まれる。
何か、いい手。バッドエンド回避。
「じゃあ、僕を殺して」
咲さんに笑顔で言う。
恐怖を隠し、心から望むように。
「なんで? 私は朔に幸せになってほしい」
「馬鹿だなあ、咲さんは。
傷つかないで生きるなんて無理なんだ。人は傷ついて生きるものなんだよ。
だからさ、僕が傷つかないで幸せになる方法は1つしかないんだ。
ここで、僕の好きな咲さんに殺される」
朔はそう言うと手をひろげる。
殺されるという恐怖を隠し、あくまでも笑顔で。
「本当に幸せになれるの?」
「うん、幸せになれる。
だからさ、捕まっちゃうだろうけど、幸せに生きてよ。僕はそれを願っているんだ」
「…わかった」
ああ。
これは、主人公的にはバッドエンドだな。
だけど、世界や、咲さんにとっては、バッドエンドじゃない、バッドエンドだけじゃない。
殺人鬼は産まれなかった。
ゲームを僕は壊した。
そして、僕は、微笑む咲さんに…。
最後までお付き合いありがとうございました!
俺ツエーでもなく、
ざまあ系でもない、
すぐに埋もれて誰にも読まれなくなるでしょう、
なので今これを見ている貴方に感謝!




