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モブ市民Aは、イキり役人の自滅を高みの見物したい

作者: いけちゃん
掲載日:2026/09/17

いつもお読みいただきありがとうございます!


今回は「もしも、異世界の窓口で横柄な対応をする役人がいたら……?」という、日常のちょっとしたモヤモヤから生まれた短編をお届けします。


目立ちたくない転生モブ市民Aの冷めた視点と、調子に乗った役人の素晴らしい自滅っぷりをお楽しみください!

年に一度の魔法ライセンスの更新日。

受付ホールは、相変わらずどんより重い空気がただよっていた。硬い作りの椅子に座ってお尻の痛みを感じながら順番を待つ人たちの顔も疲れている。


(……はぁ、マジで待ち時間長いな)


手に持った番号札を指でいじりながら、俺は心の中で小さくため息をついた。

前世の記憶を持つ俺だが、スキルもなく、世界を救う使命もない。

自分は「モブ市民A」だと、目立たず静かに暮らすことだけを目標に生きてきた。


今日も自分の順番が来たらサッと書類を出して、サッと帰る。それだけのはずだった。

隣の窓口から、あのトゲトゲしい声が響くまでは。


「――はぁ!? だからここにサインしろって言ってるでしょ! 耳、聞こえてないんですか!?」


ホール中に響き渡る高圧的な声。

きれいな制服を着た若い女役人が、困っているおばあさんをあからさまに見下して睨みつけていた。


「う、うむ……この紙のどこに書けばええんじゃろ……字が小さくて見えづらくてのう……」

「はあー……だから! この赤枠の中! 年寄りは手際が悪くてほんと困る。後ろにどれだけ人が並んでると思ってんの? 時間の無駄なんですけど」


イライラ全開で机を叩き、書類を雑に突きつける女役人。

周りの人たちも苦々しい顔をしているくせに、役人に目をつけられたくないからって全員知らん顔で下を向いている。


(うわぁ……出たよ。典型的な『権力を盾にしてイキる小悪党』か)


関わりたくはない。関わりたくはないんだが……おばあさんがオロオロと震える手で紙を握りしめているのを見て、胸の奥がチクッと痛んだ。この手の胸糞悪い光景は、見ていて気分の良いものじゃない。


俺はため息を殺し、目立たないように足音を消しておばあさんの脇へ歩み寄った。


「おばあさん、ちょっといいですか?」

「あ、はい……?」

「ここです。一番下の大きな枠の中に、名前を書けば大丈夫ですよ。ペンはここを持って……そう、ゆっくりで大丈夫です」

「あ……ああ、ありがとうねぇ……助かったよ……」


おばあさんはホッとした顔で名前を書き終えた。

女役人は「余計な真似すんじゃねえよ」と隠しもせず舌打ちし、ひったくるように書類を奪い取る。俺は深入りせず、スッと自分の席へ戻った。


(よし、これで俺の仕事は終了。あとは高みの見物だな)


次にその窓口へ進んだのは、つぎはぎだらけの古いローブを着たヨボヨボのおじいさんだった。

案の定、女役人は露骨にゴミを見るような目を向ける。


「何? ライセンスの更新? っていうかその服なに? 汚いんだけど。……書類出すの遅い! 聞こえてないの!?」

「……ふむ」

「ふむ、じゃないわよ! いちいち説明させるな! 引っ込んで出直してきて!」


パシッ、と役人が手を払い、おじいさんの申請書が冷たい床にハラハラと舞い落ちた。

ホール全体が静まり返る。


(あーあ……やったよあいつ。完全にとどめ刺したわ)


だって、見えてしまったのだ。

あのおじいさんが着ているボロいローブの袖口からチラッと覗く、金色の特別な刺繍。そして、腰が曲がっているくせに、体幹が全くぶれない歩き方。


どう見ても『お忍びで視察に来た現場の超偉い人』である。


おじいさんは静かに床の書類を拾い上げると、ゆっくりとフードを外した。


「……今の対応。それから、市民が提出した書類の扱い方。……しっかりと見せてもらったぞ」


低く重い声と共に、おじいさんが胸元から出してみせたのは、鈍い黄金の輝きを放つ「魔導監査長官」のバッジ。


「ひっ……!? か、監査……長官……!?」


女役人の顔から一瞬で血の気が引いた。膝がガクガク震え、さっきまでの威勢はどこへやら。


「我が庁の恥晒しめ。本日をもってクビとし、明日からは最北端の極寒開拓地へ異動だ。一からやり直してこい」

「そんな……助けてください、お願いします――!!」


警備兵に両脇を抱えられ、泣き叫びながら引きずられていく元・女役人。

ホールからは「ざまあみろ」と言わんばかりの拍手と歓声が湧き起こった。


(うんうん、素晴らしい自滅の様式美。実にスカッとするねぇ)


さて、ここで長官がこっちを振り返り、「君、見事な配慮だったな」とか声をかけてくる第二のイベントが発生しそうになった瞬間――俺はスッと気配を消し、長椅子の影へ身を滑らせた。


名誉もスカウトもいらない。俺はただのモブだ。


「四十一番でお待ちのお客様ー」


「あ、はいはい」


新しく案内された、めちゃくちゃ愛想のいい別の窓口へ向かいながら、俺は心の中で満ち足りたため息をついた。今日も無事に、平和なモブの日常が守られたのだった。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


「イキり役人の自滅にスカッとした!」「モブ市民Aの逃げ足の速さにクスッとした」と思っていただけましたら、ページ下部の【評価(★★★★★)】や【ブクマ登録】をしていただけると、執筆の大きな励みになります!


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