叩ッ斬る
時は遡って、回想である。
一年前。『あいつ』にまさかの小手面を喰らって負け、その直後の『あいつ』からの謎の告白の後……。
「な……！？ お前……女子だったのか……！？」
「女性に対して『お前』って失礼だよね。……ボクたち大会で会ったことないだろ？」
「違う！ 俺は……女子に完敗したのか……」
あいつは、ふんと笑った。
「もっと失礼だね。でもいいよ。今の失礼発言は将来的な分割払いで相殺してあげる。
閑古鳥が大会で優勝したら、ボクと恋人になって。付き合ってる間、その防具はボクのだから、いつでも閑古鳥に貸してあげるね」
「そ、そんな無茶な……！」
「女の子に負けたのが悪いよ？ だから絶対優勝してよね。もし負けたら……
絶対許さないから防具をもらった上で、叩ッ斬るから」
「ウッ……！！」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
県立札幌琵琶湖ハルカス高校、校門。
赤黒い気を纏う『ケンシン』と、門前が睨み合っている。
……が、
「チ……今日は見逃してやるよ。だりい……」
門前は殺気を解いて、ふいっと『ケンシン』に背中を向けてしまった。
「……なんて言うと思ったかよバーーーカ！！！」
門前は振り向きざまに金属バットを、『ケンシン』の横面に打ち付けた！
格闘技で言うところのバックハンドブローだ。確かに不意打ち的に『仕留めた』と思われた……が、
いつの間にか門前の背中と５センチくらいまで距離を詰めていたケンシンが、門前のバットによる横面打ちを竹刀で受けていた。
「ああ！？」
ケンシンは門前を突き放し、距離をとると……
「「チェエストオオ！！」」
男女二人分の声で叫び、再び構えを青眼にして、右袈裟斬り、左胴抜きとニの剣、三の剣を鮮やかに繰り出す！！
しかし門前も負けておらず、ケンシンの猛攻を金属バットで受ける。
ケンシンの一撃は重く、バット越しに門前の骨にまで響く！
（チ……うぜえ！！）
門前は一度距離をとり、校舎の砂利を掴んでケンシンの面にぶつけた。
そしてケンシンがひるんだ隙に渾身の胴抜きを打った！
手応えは会った。 今度こそ悪霊退散だ。
…… ……と思っていたが、なんとケンシンは砂を顔面に浴びながらもしっかりと青眼の構えを崩さずに、
金属バットの不意打ちを肘の先端で受けていた。
「！？」
「「隙あり！！」」
そのまま竹刀の切っ先は、門前の喉をつく。
「がは！！」
たまらず門前は後に下がるが、
ケンシンは距離を詰め、得意な上段に構えた。
「……バケモノがあ！」
「「めーーーん！！！」」
鮮やかな面だった。
バシン！！ …… ……と、竹刀は門前の頭を捉えた。
門前は膝をつく。
しかしまだ、闘志を失わずケンシンを睨む。
そこにケンシン追撃のニの剣が繰り出されんとした時である。
「どうしてそれを県大会でやらなかったんだよ！！！！！」
…… …… …… ……思わずケンシンの動きが止まる。
「閑古鳥のバカ！！ 一回戦で負けやがって……しかもそうやって、知らない女（？）とイチャイチャしやがって！！」
「「え？ え？」」
ケンシンの赤黒い気が解かれ、防具が勝手にポロポロと閑古鳥から剥がれていった。
明らかに動揺した閑古鳥が、恐ろしいものを見るような目で門前を見つめる。
「なぜ……それを……お前はまさか……」
「そうだよ…… ……」
門前は涙を流し、唇を噛んで閑古鳥に訴えた。
「一年前、お前に捨てられたボクだよ！！」
