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武器屋の店主視点

 店主が偏屈だと一瞬で分かる武器屋の店名は、焦げた台所。である。

 なぜ武器屋の名前に台所が付いているのか。それになぜ焦げているのか。この少々理解できない感性は、慣れた人間なら、ああ、ドワーフが関わっているなと分かるだろう。

 実際、人間の倍は軽く生きるドワーフでもそこそこの年齢に達した店主、ゲイリーは偏屈なことで有名だが、割と近所からの評判はよく、一定の付き合いが存在していた。


(とびっきり面倒なのが来やがったな)


 そんな常時しかめっ面のゲイリーが顔を歪めたものの、一見すると普段との差異がない。しかし、付き合いのあるドワーフがいれば、これ以上ない最上級のしかめっ面だと表現する筈だ。

 ゲイリーはぎしり、みしりと店が軋んだ音を聞きながら、その原因になっている男に視線を向けた。


「なんでえ、冷やかしかよ」

(意味が分からねえ。ちぐはぐにもほどがある)


 少年を背負った三十半ばから四十代の男は、ゲイリーが見たところ矛盾の塊だった。

 自分が強者だと欠片も疑っていない雰囲気。誰がやって来ようと負けるはずがないという自負。

 ゲイリーは世で最強を謳われる存在が持つ、このような独特の雰囲気を知っているが、そう言った者達は皆が何かしらの技術を感じさせるし、武器を扱っているならもっとはっきり分かる。

 だが今やって来た客にはなんの技術も感じられず、言ってしまえば喧嘩自慢のガキがそのまま大人になったような存在だ。

 大抵の場合、そのような者は成長するにしたがって自分が世の中心ではなく、脇役未満だと自覚するものだが、四十近くになって維持しているとなれば、予測される推測は二つ。


(真の馬鹿か、生き方を変えられないくらいの力を持った大馬鹿のどちらか。大馬鹿の方だろうな……)


 ゲイリーの脳裏に浮かんだのは、幸運にも自分が強いと錯覚したまま成長した馬鹿と、喧嘩自慢どころではない力を持ち突き抜けてしまった大馬鹿の二択だが、培われた観察眼は後者だと判断した。


(ドアを開ける時はやけに丁寧。床の軋み……ガキ一人を背負っていようが見た目よりずっと重い。俺の武器に対する恐れ……ない。だが動きは素人。技術を必要としないレベルの肉体かよ)


 何かしらの高度な教育を受けているのではなく、物を壊さないような慎重な動き。木の床の軋みから察せられる、外見と釣り合わない高密度。そしてこの店に訪れる客が必ず武器に抱く、敵を切れるという確信と、もしうっかり自分を傷つけたらタダでは済まないという恐れがない。

 つまりゲイリーは、常人を遥かに逸した肉体で、人生をどうにかしてしまった男が子を連れてやって来たという結論に至った。


(ガキの方がよっぽど正しいな)


 ゲイリーが見たところ背負われた少年は、これはどう使うのだろうかとしっかり考え、もししくじれば自分が傷つくという恐れも持っている。

 ついでにゲイリーもしっかり認識しており、周囲への観察も怠っていないとなれば、少年の方が武器を扱う才能があるというものである。


(大馬鹿で親馬鹿か。それだけちいせえならまだ早いぞ)


 これらが結びついたゲイリーは、秘めた暴力でどうにかしてしまえる親父は武器に用がないものの、才能あるガキを連れてやって来たと考えた。


(生き方を変えられない不器用な奴が、可愛がる相手が出来て構い倒してるってところか?)


 先程までは職人としての確かな観察眼で判断した予測だったが、これは百数十年を生きているゲイリーの単なる勘だ。

 しかし、決して的外れではないだろう。

 突然世界全てが敵となり関係が途絶したものの、養父や周囲の人間とは良好な関係を築いていた男が、かろうじて残っていた親切心や父性というもので動いているのだ。


「聖なる武器とかは、死霊術師のせいで無いのか?」

「飛ぶように売れたよ」

「そりゃ残念」

(面倒なこった。騒動を起こせる存在が顔を突き合せたら、大抵は碌でもないことが起こる)


 男の問いに答えたゲイリーは嘆息したかった。

 長い人生経験から導き出した答えの一つに、騒動の中心になり得る存在が複数以上存在すると、縄張り争いのようにぶつかり合うというものがある。

 そしてゲイリーが見たところ、今日やって来た客はその資格を十分備えており、汚らわしい死霊術師と激突する可能性が高かった。


(まあ死霊術師共よりはこっちの方がよっぽどマシか)


 ゲイリーにとって幸いだったのは、店をうろうろしている男が今現在の彼だったことだろう。これがもし十年以上前の状態なら、どちらがマシとは言えない状況で、この点に関しては本当に幸いだったとしか表現できない。

 尤もそれだけ当時の暴君は圧倒的かつ手の付けられない存在だったが、ゲイリーは知る術がなかった。


「邪魔したな」

「お、お邪魔しました」

「おう」

「次は宿を決めようか」

「はいおじさん」

(分かりやすい騒動が起きるなら、2,3日後ってところか。何も騒ぎがねえのに死霊術師の話が聞かなくなったら、思った以上に大馬鹿だってことだろう)


 店を出る名も知らない子連れを見送ったゲイリーは、騒ぎが起きないのに死霊術師がいなくなった場合、あの男は自分が思った以上に圧倒的な力で、一方的に叩き潰せることが可能なんだろうなとぼんやり思った。


(うん? 待てよ……まあいい。俺が気にすることじゃない)


 一つの疑問がゲイリーに残ったが、自分に関わりがあることではないと考え直した。

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