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旅へ

「あの、さっきの人達は……」

「お前さんが自分より、自分を殺そうとした人間が大事なんて言う殊勝な人間じゃないなら、あんまり気にすんな。ところでお前さんの孤児院にいる神父は事情は知ってそうだったか?」


 セシルは目を瞑ったままのロイを肩に担ぎ、人気のない路地裏を熱き続けていた。

 その様子は完全に人攫いで、衛兵が見れば即座にすっ飛んできただろう。


「さっきの男の人たちと、きょうこう争いが荒れるとか……」

「きょうこう……聖典国の教皇争いが荒れるとは、お前さん中々厄の塊らしいな。しかし、そんなことをガキに聞かれて取り逃すとは、あいつら第十部署でも下っ端か? それとも俺がいないせいで怠け切ってる?」

「きょうこうって、あの教皇ですか⁉ 聖典国の頂点⁉」

「さて、確定じゃねえけどな」


 孤児院で聞いた話を思い出したロイの言葉に、セシルは思わず笑いだしそうになった。

 聖典国の頂点である教皇は、世界のバランスを保っている大国の主に相応しい絶大な権力を所持しており、世界で最も有名な役職の一つだ。

 そんな頂点の争いが荒れるとなれば、ロイの生まれは明らかに厄介なもので、常人が巻き込まれたと知れば恐怖に震えただろう。


「それに……第十部署ってなんですか?」

「聖典国の暗殺部隊さ。だがまあ、それほど大したもんじゃねえ。マジで後先考えずに殺しにかかるなら、もっと上の神鞭(しんべん)、天秤、燭台っつう超極秘の連中が来る」

「そ、それもなんですか?」

「神鞭は神の遺物を埋め込んでるイカレ部隊。天秤は半人半神の末裔で馬鹿集団。燭台は全員が自爆術式刻んでるアホ共。そいつらが来てないってことは、お前さんの扱いは最優先最重要じゃない。もしくは聖典国でも意見が割れてるってことだ」


 なんらかの事情を知っている口調のセシルにロイは疑問を覚えて尋ねたのだが、返って来たものは八歳が理解するには不可能な内容だった。


「……どうしてそんなことを知ってるんです?」

「いいぞ若人。なんでもかんでも知りたいと思うのは若さの特権だ。答えは簡単。殺し合ったから」

「え、ええ?」


 あまりに色々と話すセシルの謎が多すぎてロイは混乱していたが、続けられた捕捉もまた意味不明である。

 その言葉が正しいのなら、今自分を担いでいる男は、聖典国の最も暗い位置に存在する連中と殺し合い、しかも生きているのだ。


「そんで、神父に聞いてみるか?」

「神父様に……」


 セシルの提案にロイは考え込んだ。

 育ての親である孤児院の神父がなんらかの事情を知っているのは間違いないが、会った際に襲われた場合は心が悲鳴を上げる。

 確かに育ててもらい、慕っていた相手が自分を殺そうとするのは、誰だって想像したくないものだろう。


「若者の特権を持っているお前に大人の技術を教えてやろう。問題を棚上げする。先送りにするってのは手段の一つだ。ま、使い過ぎたら首が回らなくなるんだが」

「つまり……」

「会わずに街を出るのは普通にアリってことだ。お前のお友達は今まで通り神父がいてよし。神父は怪我しなくてよし。お前は問題がぐちゃぐちゃにならなくてよし。詳しい話は聖典国に行けばどうせ分かるしな」

「聖典国に行くんですか⁉」

「そりゃお前、原因を取り除かねえといつまで経っても命を狙われるぞ。一生殺されることに怯えるか、俺が手伝ってる間に問題を解決するの、どっちがいいよ?」


 人生の途中で足を止めた男が、未来あるロイに自分流の教えを授けたが、予定を知って驚愕する少年にニヤリと笑って肩を揺らす。


「それは……でも、そんなに付き合っていただけるんですか?」

「暇だからな。多少話したガキがどこぞで殺されるのも目覚めが悪いし。あ、言っておくけど小指の先を動かす程度の労力しか感じてねえぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「おう。ところでもう目を開けていいぞ」


 セシルに迷惑をかけっぱなしの自覚があるロイだが、現実問題として頼らなければ生きていけないため、提案に感謝してそのまま運ばれ続ける。


(しかし……金をどうしようか……乗合馬車に乗る程度は持ってるけど、長旅は絶対に無理だぞ)


 一方のセシルは、非常に頼りがいのある男として振舞っているが、旅費がかなり心許ないという不安を抱えていた。


(俺、まともに働いたことねえんだよな……)


 実はこの男、ここ十数年は襲ってきた相手を殺して金品を奪うという、山賊顔負けの生活を送っていたため、普通の人間として暮らした経験がほぼない。

 そのため常識も所々怪しく、普通の旅がかなりの難易度になり果てていた。


(俺が若いときみたいに色々切り詰めて? 馬鹿か。ガキに飯食わせねえなんて沽券に関わるっつーの)


 そして大人としての見栄や面子があるセシルは、一瞬思い浮かんだ節約生活をすぐさま打ち消し、金銭収入について真剣に考え始めた。

 この辺りが、騒動に巻き込まれて人を殺し続ける羽目になった常人の感性と言うべきか。

 面倒見の良さを今更発揮し始めたセシルは、あれこれ考えて一つの結論を導き出した。


(冒険者になろう。そうじゃないとモンスターの素材は買取がややこしかったはず)


 世に蔓延る怪物を打ち倒し、未知を暴いて金銭を得る職業、冒険者に成ることを決意したのである。


「そういや自己紹介がまだだったな。俺はセシル、よろしくな」

「あ、ロイです。よろしくお願いします」


 今更名前を確認した男達は、惨殺死体が騒ぎになる前に街を抜け出すことになる。


 ◆


 それから暫く。

 世界を太陽が照らしている中、ロイは街を出た乗合馬車の中にいた。


「ぼく、お父さんと旅かい?」

「え? いや、親戚のおじさんです」

「そうかいそうかい。旅は初めて?」

「はい。馬車に乗ったのも初めてです」


 素朴な老婦人がロイに声をかけ、座った状態で腕を組み寝ているセシルと見比べる。そして特に深く考えず、父親と旅をしているのかと思った。

 もしこれでセシルが注意深くロイを見ていたら、人攫いが商品を監視しているのではと思われたかもしれないが、中年男は呑気にぐうすか寝ているため、だらしない親戚としっかり者の子供としか映らない。


 なお老婦人の発想はロイも持っていた。


(……ひょっとしてお父さんだから?)


 無償でセシルが自分を助けている理由が思いつかない少年は、父だからこそ手助けしてくれるのではないかと僅かに思った。


(でもそうだとしたら、隠す理由なんてあるの?)


 しかしその場合は名乗らない理由が思い浮かばず、結局ロイは混乱しながら結論を導き出せなかった。

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