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【第一部終了】制御不可能な暴力への最適解

 戦って戦って勝ち続けた。

 滅ぼした。粉砕した。消し飛ばした。

 結局何が残った? 何もだ。何も残らなかった。それが瓦礫の玉座に君臨した男だった。


 ◆


「セシルという男の案件を即急に片付けよ。あまり長居してほしくない」


 これが代々周辺を治めてきた領主の判断である。

 外敵にあまり脅かされない、山々に囲まれている小国は、どうしても排他的・保守的な方向性が定まってしまう。

 そのため彼ら統治者が求めているのは、程々の力を持って扱いやすい人材であり、飛び抜けた暴力装置を必要としていない。

 結果、セシルを調査をした彼らは、国を出て行こうとしているのなら邪魔せずとっとと去ってもらおうという発想に至った。

 何を考えているのか、どこから来たかがはっきりしないのに、ただ強いということだけ分かっている男が、自宅前でうろうろしている姿を想像してほしい。しかも外見はかなりだらしなく、礼儀作法に無縁そうときたものだ。

 もし忌避感を覚えず声をかけるなら、聖人の資格があるだろう。役に立ちそうだから仲良くしようと思うなら、人生設計を考え直した方がいい。

 そして幸いにも、冒涜の獣の腹には死霊術師達の亡骸が詰まっていたため、なんらかの実験に失敗して大損害、もしくは壊滅したことが考えられる。

 ならばこの国を出ようとしている者を、リスクを冒してまで引き留める必要がない。よく分からない男は早くいなくなってほしい。そういった保守的な思惑が絡み、セシルが関わる話はとんとん拍子で進んでいく。


 一方……。


「やったぜ」


 実にスムーズな速度で、金銭のやり取りが進んでいきセシルは喜んだ。

 彼にしてみてもややこしい政治的面倒は求めておらず、理想的な展開だと言っていい。


(次はいい感じの宿に泊まったり、美味いもん出してる店に行けるな。いや、客層と合ってねえ場所は色々面倒だ。庶民がほんのちょっと背伸びする場所……そうするとしよう)


 金が入って気が楽になった途端、使い道を考え始めたセシルだが、自分の外見を自覚している。そのためトラブルを招けば本末転倒だと思い、少しだけ上等な旅の費用にしようと考えた。

 勿論、路地裏で寝っ転がれる男は宿泊場所など気にしないが、十にも満たない少年に虫だらけの宿屋に泊れとは言えないのである。


「山を抜けたら暗国(あんこく)だが、なんか知ってることはあるか?」

「様々な種族が集まっている他種族国家で、三大大国の一角……としか知らないです」

「ま、とりあえずそれを知ってたら問題ないな」


 セシルが次に訪れる国についてロイへ尋ねると、極々基本的な回答があった。

 人種だけではなくドワーフ、エルフを筆頭に、様々な種の者達が集まった他種族国家、暗国。聖典国に匹敵する三大大国の一角であり、睨み合いによって世界の秩序が保たれている要因だ。


「だがまあ、俺がガキの頃はいろんな奴がいるせいで取り締まりが妙に緩かった。はいロイ君、取り締まりが緩いと何が起こるでしょうか?」

「犯罪が多いんですか?」

「正解。非合法組織がバチバチしてた。今は……どうなってんだ? 流石に取り締まったかな? いや暗国だからなあ……」


 セシルは自分が尋ねた癖に、途中から首を傾げて顎を擦った。

 他種族国家暗国は、三大大国最大の人口を誇っているのだが、そのせいで内部の統制がかなり甘い。この人口の多さと統制の甘さが結びついた場合、非合法な商品の需要とそれを扱う組織が成立しやすくなるため、暗国は内に大きな問題を抱えていた。


「そんなに酷いんですか?」

「衛兵が犯罪組織の一員とか普通にあった」

「ええ……」


 恐る恐る尋ねたロイに、セシルは苦笑するしかない。

 セシルが元々いた世界において、殺した暗国の衛兵をよく見れば、犯罪組織の刺青が彫られていた……なんてことは日常茶飯事。そのうち彼は暗国と戦っているのか犯罪結社と戦っているのか分からなくなり、まあ、潰せば大差ないかと結論したことがあった。


「権力・金・暴力が大好きな組織と国が結びついて成立したら、もう二度と引き離せねえんだわ。一蓮托生になるから、自分を脅かす存在を徹底的に排除するしな。はい問題。そんな犯罪組織の壊滅はどうすればいいでしょうか?」

「国と結びついたら無理だと思うんですけど……」

「正解。無理無理」


 皮肉気に歪んだセシルの問いに、ロイはどうしようもないのではと呟き肯定されてしまう。

 しかしセシルはたった一つだけ、確実な解決方法を知っているし、なんなら実行することになった。

 即ち、皆殺しである。

 犯罪組織の足腰が立たなくなろうが殺し、涙を流そうが殺し、命乞いをしようが殺し、殺して殺し続けばいつかは静かになる。

 暴君がそんな机上の空論を達成した結果、人身売買、殺人、薬物の取引で黄金時代を築いてた者達は、無様な屍を晒すことになった。


「悪い奴と遊んじゃだめだぞ? どうしてもって言うなら俺も連れて行け」

「そんなことしません」

「そりゃよかった。さて、明日からまた移動で忙しくなるぞ」


 冗談めかしたセシルだったが、真面目なロイがそんなことをするはずもない。

 もしなにか巻き込まれたら、その時はその時で、また皆殺しにすればいいと考えていた暴君だったが……。

 予想外も予想外。


「が、頑張ったなあ……」


 それから数十日後。特に問題なく暗国に辿り着いたセシルは、珍しくポカンとする。

 暴君に滅茶苦茶にされず、戦乱もないことで予算がきちんとしているif世界の暗国が、血反吐をまき散らしながら成し遂げた結果がそこにあった。

作者のゴールデンウィークを生贄に捧げ第一部を召喚・完了!

一話に書いていた通り、面白い話を作るために四苦八苦しておりますが、もしここまで面白いと思ってくださったら、ブックマーク、下の☆で評価していただけると作詞が泣いて喜びます!

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― 新着の感想 ―
領主有能 死霊術師も消えたしハッピーエンド!
慶して遠ざけるのが唯一の正解ですなw
ベストアンサー 胃が痛くなる前に出ていって貰う。
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