歯車
「このワンコロが!じっとしとけ!」
土の男は分厚く固め土の壁で【狼】と自分を分断する。
しかし、その壁すらも地面として捉えるような狼の身のこなしに、男はだんだんと翻弄される。
「離れい!」
瓦を投げつけるもう1人。その危険性を感じ取ったのか、狼は素早く離れる。
瞬間、男が投げた瓦が弾けて手榴弾のように飛び散った。
「くっそ!あの犬クソが!俺のこと噛もうとしやがった!!ぜってぇ許さねえ!!」
「あの童の妖術か。こんなの聞いておらんかったが。」
男たちがオレが呼んだ狼に警戒をしている。
「どうする?このまま話すか、こいつの餌になるか?」
安い挑発をかけてみると、
「あぁ?舐めてんじゃねえよガキが。てめえをやりゃそれも消えるんだろ?」
土は完全にキレてるな。
「まて、一旦弾き態勢を立て直せねば」
瓦が宥める。
「しるかよ……こっちはあのクソが殺しゃいいんだ。」
「しかし!」
「うるせえな!」
瓦と土で言い争いを始める。
…
狼がふわっと消えた。
「こいよ。」
土の男が顔を引き攣らせて無理やり笑うような表情を作ろうとする。
「舐めやがって。ぶち転がし殺してやる!」
などと意味のわからない言葉を発しながら突撃してきた。
「待て!まだ」
「【土壁 足形】」
突然、土の壁が込み上げて向かってくる男の体を大きく打ち上げる。
「くらえ!」
男の手には大きく固められた棍棒のようなものを握りしめられていた。
そして、落ちていく勢いに合わせて振りかざす。
それを後ろに飛ぶことで避ける。
そのまま土で作られたであろう棍棒は弾け飛んだ。
「避けてばっかしてんじゃねえよ!」
「ほんとそうだよね〜」
突如、さっきまで聞こえてなかった声が聞こえる。
「あ?誰だ よ 」
男が振り返ると、そこにいたのは少しラフな格好をした20代くらいの男が笑顔で突っ立っていた。
「おい、お前誰だ、」
楓が突如現れた男に問う。
「んー?君の探してる人って言ったらどう?」
「は?」
予想外の返答に戸惑っていると。
「お前らほんと使えないね。あんな子供くらい早く捕まえてくれないとさ。」
「いや、その、」
土の男の顔が引き攣っている。
「ま、もう用済みだからいいらしいけどね。」
男はそう言って、土の男の顔に手を近づけていき、鷲掴みにする。
「ま、まってくだ」
土の男は助けを乞うように声を出そうとするが、
ドゴンッ!
と、顔面が爆ぜた。
「さて、やろうか」
男は笑顔でこっちを向いてきた。
こいつ、やべえ!!
本能が、細胞が理解した。
こいつもあの顔面の傷の仲間なんだ!
「【狼 顎】!!」
さっきまでの速度と違い、最高速度で男に狼で攻撃する。
「これが」
男の声を掻き消すくらいの音で地面が爆ぜた。
「楽しませてね」