手加減
ドゴンッ!
男が1人、屋根の上へと落ちた音とは思えないほどの喧騒音。
「…意外とやるな。」
楓が後退しながら3人の男たちの攻撃を掻い潜る。
「【琳双】」
坊主頭が合掌と共に唱えると、体から尖端が鋭い木の槍が放たれた。
しかし、木の槍は思ったより柔らかいのか、蹴るだけですぐに折れる。
不意打ちが厄介そうだけど、まだなんとかなるか。
後の2人は?
目を向けると、片方は手に拳銃のような形を作っている。片方は…
「【土塔】!やれ!お前ら!」
楓の足もとの地面が迫り上がっていく。
少しバランスを崩され、体勢を立て直そうとすると、瓦が共に打ち上げられている…
「!!【瓦割り】!」
拳銃を作っていた男が突然発狂したと思えば、打ち上げられていた瓦が、弾け飛ぶ。
「くっそ、」
なんとか防ぐことはできたけど…
流石に3人の連携はきついか…
こいつら、ここの能力もまあ高いけど、それ以上に連携がウザすぎる…
「どうにかして1人だけでも…」
「どうしたぁ!お暇でございましょうかぁ!?」
土の男が煽りながら飛んでくる。
「ッチ。うるせぇな。」
どうする…どいつを先に…
「そんな余裕をこかないでいただきたい。【樹鞠】」
玉が二つ、坊主頭に飛び交う。
「【琳双】」
またあの技!
と思いきや、次は先ほどの木の玉から鋭い木の枝が放たれる。
流石に木の枝を掴んでなんとか止める。
「これでも受けてくれやしませんか。」
「チッ。めんどくせえなぁ!あいつ殺して持ってけばいいだろ!」
「否、あいつを持ってくこそが任務。殺しは許可されておらん。」
瓦と…土が喧嘩している。
またこいつらも、"連れてくる“が仕事のように言っている。
「めんどくさい。雪宮さんに渡すか…」
3人の男が三方に囲んでいる。
土のやつは油断しているのが目に見えてわかるように、こちらを舐めているような目で見ている。
攻めるならあいつか。
しかし、瓦と木は構えを解いておらず、下手な行動を起こしづらい。
…しょうがない。
使いたくなかったけど、やるしかないな。
「【狼】」
昨夜と同じように、黒く、歪な白の線がなぞられたオオカミ…と言って酔うのかわからない大きさの生き物が出現した。
男たちもそれが普遍でないことを理解したのか空気が変わる。
「あれが小僧の妖術か」
「気をつけろよ。どんなのかって情報は来てねえから。」
瓦と木は変わらず構えを解かず、いっそう一挙一動に警戒を置く。
土のやつも流石にこいつには警戒するよな。
狼はこちらに何か命令を急かすように見てくる。
「わかった。【顎】」
狼の足の筋肉が膨れ上がる。
その瞬間、風を切るほどの力で狼が1人に飛びかかる。
木の鞠を浮かせていた男が自身の頭を丸々一つ噛み砕くほどの顎に囚われる。
ゴギッ!と、鈍い音と共に、男の体が膝から崩れ落ちた。
「おい!大丈夫か!」
土が声を荒げて聞いているが、その思いは虚しく木の男の耳には届かない。
「こっからは手加減なしだ。」