もりびと
秋の寒さがいつもより感じられるこの日。
楓は人気のない建物の中で烏を呼び出す。そして、翼や体を隅々まで確認している。
「よし、傷はついてないな。」
そういって、彼は肩に乗せた烏を頭から優しく撫でた。
烏はそれに甘んじるように撫でられる。その表情はどことなく笑っているように見えた。
楓はその様子を確認すると、烏を解除した。
「おい、楓。こっちだ。」
後ろから突然の声に驚いて振り返ると、いつも通りタバコを吹かしながら雪宮さんが立っていた。
「おはようございます。今日は早いですね。」
「今日はって…まあいいや。ついてこい。」
バツが悪そうな顔をしながら踵を返していく。
突然来て突然向かうと言われて急ぎながらついていく。
雪宮さんはいつもと違って、少し引き締まったような顔をしている。その顔に緊張感を持ちつつ、昨日のことを思い出していた。
あの男はなんでオレを狙ったかついに聞けなかったが、狙ってくるってことは返り討ちにすればいい…
それだけだと。
自然に囲まれた神社に着いた。
そこは、心安らぐ心地よさがなく、何故か体が痺れる感覚にあった。
「あ、いた。」
雪宮さんは辺りを見回していたが、すぐそこにいた女性に声をかけた。
女性は腰に刀をかけて、木に寄りかかっている。
それの人は楓自身も面識があった。
あの日に雪宮さんと一緒にいた…
「あんた、遅刻よ。」
「いや、ほんの4、5分だ。これは俺の中じゃ遅刻じゃない。」
雪宮さんは自慢げに自分の意見を押し通す。
女の人はその言い分を聞いてため息をつきながら俺に目を向けてきた。
「や、楓くんだよね。私のこと覚えてる?」
「はい。お久しぶりです。時雨さん。」
と、オレは挨拶をすると、彼女は満足げな顔を浮かべている。
オレは雪宮さんに耳打ちで、
「なんでオレを連れてきたんですか。」
と、きくと、雪宮さんは小声で
「今回はお前について話すことがある。」
いつもとは違う真面目な顔つきで相当やばいことってのは理解できる。
「楓くんに一つ頼みがあるの。」
そういって彼女は刀に手をかけながら話し始める。
「君を私たち雅楽寮が保護することになった。」
「…え?」
突然の提案…?に動揺が隠しきれない。
雅楽寮って、まずなんだ…
雪宮さんに目を向けると、あちゃだって顔と一緒に近づいてくる。
「雅楽寮ってのは、こいつや俺が所属している組織だ。基本国の方針で動いてるような妖術使いの溜まり場だな。」
なるほど…
「それがなんでオレを保護することに?」
「それが…」
雪宮さんが気まずそうに話すと、時雨さんが
「君を狙ってる組織が私たちの狙ってる組織と一緒だから、君を囮にしようって魂胆さ。」
なんとも軽くいうから、一瞬、なるほど。じゃあお願いしますと、すぐに答えてしまいそうだった。
でも、折角のチャンスを無くせ?オレは何もやらせてもらえない可能性は?そんな考えがよぎってきた。
「…なんでオレをあいつらは狙ってるか教えてもらってもいいですか。そもそも、あいつらはなんですか。」




