表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

魔法使いになりたいな

作者: しょん
掲載日:2026/07/21



いつか魔法使いになりたいな。


ほうき一本で満点の星空の下を飛んでって、三日月の上に座ってみたり、

手のひらから金平糖みたいに星をばら撒いたら、みんながそれを流れ星だって思ってお祈りするの。


ベランダから見上げる空は星がちらほら瞬いて見える。流星群の日だってテレビが言うから見てみたら、一瞬で消える星の光をいくつか見ることができたのよ。


誰だって幼い頃は魔法少女のアニメをみたりしたでしょう。


魔法みたいな技を使って戦ったり、光に包まれてあっという間に変身したり。


シンデレラにも出てくる魔法使い。


カボチャを馬車にして、ねずみを御者にして、ビビビバビデブーって唱えたら、木の枝みたいなステッキから光から溢れ出して、シンデレラはとっても綺麗な衣装に包まれるの。


ガラスの靴の履き心地はよそにして、シンデレラの憧れる王子様よりずっとずっと、読んでる子ども達はその魔法使いの魔法に憧れたはずなんだわ。


わたしだってそう。


ずっと魔法使いになってみたかったの。空をかける、この世界の何者にも縛られない、自由で、とんでもない魔法を使える魔法使いに。




ベランダの寒さに気付いて慌てて毛布に包まり、また空を見上げた。


団地の9階にある部屋のベランダは、団地の裏手に田んぼが続いてるので、高い建物が無く、夜になると人の気配ひとつもしない。


隣の部屋でいつも飲んだくれて壁越しに罵声を聞かせてくる親父は今日はいない。多分どっかの飲み屋さんに飲みに行ったんだと思う。


それでもいつ玄関の音を立てて帰ってくるか気が気じゃなくて、ベランダにいればバレることもないし、静かにしていれば寝ていると思われるから急に怒鳴りつけてくることもないと思う。


わたしはこの部屋でこのベランダがいつもお気に入り。冬場は毛布を包まっても寒いけど、部屋に閉じこもって耳を痛いほど殴りつけても聞こえる罵声から少しは解放されるし、なにより、なにより、


この高さから飛び降りたらわたしは全部から逃げられるんだから。


もしかしたらわたしが持ってる魔法は、案外すぐ目の前にあるのかもしれない。


でも、なんど試しても、柵を越えることが怖くて、もしかしたら明日にはお父さんが笑ってくれるんじゃないかなとか、学校に行けばいつも通りの毎日が待ってる、だとか、今しばらくの辛抱を耐えたら、人生まだまだ長いんだから、だとか。


そんな弱い自分が大嫌いだけど、やっぱりわたしには最初で最後の魔法は使えないみたいなの。


でも今日は流星群。


ちらちら見たまたたく星を見ていると、その大きな空にとってはやっぱりわたしとその周りの環境なんて、ほんとちっぽけだなあなんて思えたから、


あの空に手を伸ばすことは叶わなかったけど、代わりにどん底の地の底にまで落ちてやれば、また違う星が見つかるかもしれない。


ベランダの柵を握る手は寒いのに、手汗をかいていた。


足を大きく上げて、柵を乗り越えようと踵が柵の上に触れる。


いつもはそこでゾッとして足を下ろすんだけど、もうわたしは下を見なかった。ただただまた流れるかもしれない流星群に向かって、もう二度と見られないお星さまに向かって、上だけを見上げていたら、つい手が上に伸びて、少しでも上を目指して身体も柵の上にあげたら、



ほら、



一気に空が遠くなっていった。



わたしの使えた最初で最後の魔法。


わたしは人間じゃなくて、魔法使いになれたんだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ