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10.謎の声


 

ローガニス国は今日も天気が良くてとても平和だ。

 


皇城での生活にも随分と慣れ快適に過ごしている。

渡り廊下の一件以来、あの3人組は登城していない。

実は事件があった翌日、ローズマリーの父親である師団長が直々に謝罪に訪れたのだ。



 

アストゥロの執務室で顔を合わせるや否や、地面に額をつけてしまいそうな勢いで謝罪をする誠実さに面食らう。白騎士団長のような人格者の子供が何故あんなにも我儘に育つのか、疑問に思えてならない。


 


今回の件はお咎め無しには出来ないと判断され、半年間の登城禁止と慈善活動が言い渡された。


 


夜会は貴族同士の交流の場。

登城が禁止となれば定期的に行われる夜会にも参加は出来ず、婚約者のいない令嬢は良い縁談を逃しかねない。


 


「登城禁止で暴れてる??」

 

「師団長が頭悩ませてたよ……部屋の物を壊して叫んでるってさ。父親が頭を下げたからこの程度の処分で済んだのに、それすら気付かないとは」



 

裏庭で昼休憩を取るロディオンと翠。

外でランチをしようと出向いた先で遭遇した。



(年下と思ってたのに……1つ年上なの発覚して焦った〜)



 

発覚というが顔合わせの際には年齢も伝えられており翠がただ聞いていないだけ。バカ正直に伝えるとロディオンは大笑いし、それからは徐々にお互い砕けた口調で話すようになり接する機会も増えた。



 

「ローズマリー様と同級生?」

 

「ああ。

同級生のよしみで何度も忠告したけど無駄だったね。婚約者面して兄さんに近付く異性は全て排除してた」



 

『何様なんだろーね』と失笑しながら話すが排除?とは。学園では無事に過ごせない伏線に思えていた。



 

「万が一、嫌がらせされたら直ぐに言って」



(やっぱり……嫌がらせされるって前振りにしか思えん)

 



地球でも嫌がらせは経験済みで対応能力はある。

過去の経験が此処で生きるとは嬉しくない誤算だった。

 


入学まで残り2ヶ月を切っている。

波乱の予感を感じ取り緩んでいた気持ちを引き締め直す。


 


「ソウちゃんに手合わせ頼むかぁ」


「手合わせ??」


「昔からソウちゃんに護身術を習っているんです」


「ふ〜ん?」



 

そう言うと考え込むように黙る。ふとした仕草は兄であるアストゥロとそっくりだ。



「手合わせって何時するの」

 

「ソウちゃんの都合が良い時かな?」

 

「――ふ〜ん……」

 



再度黙り込んだかと思えば直ぐにいつもの笑顔に戻った。この兄弟が妙な笑顔をする時は注意が必要だと後で思い知る。




――

 


 

ロディオンと別れ図書室に向かっている途中、探していた人物を発見し名前を呼ぶ。ルクスと共に前方から此方へと歩いて来たソウジュに手合わせをお願いする為だ。



 

「練習嫌いが珍しい――槍でも降るんじゃないか?」

 

「ゔっ……当時は反抗期でして……で、どぉ?」


 


子供は幾つになっても利口なもの。主人である父親に承諾を貰ってしまえば早いとソウジュの隣に目線を送る。

娘のおねだりが可愛くクスクスと笑いながら許可を出す。

 



「午後から2時間程度なら大丈夫だよ」

 

「やった!ありがとう」

 

「…………これ幸いと仕事サボらないで下さいね」

 

「失礼な。いつも真面目にやってるだろ?」


 


ソウジュとの約束も取り付け準備万端。

やる気に満ち溢れ充実した気持ちでいたが、現在一番側にいる人物は悶々としていた。




夕食後の自室にて――。


 


「よし、服はこれで良さそ。

昔着てたトレーニングウェアに似て伸縮性もあるし」



久しぶりのトレーニングが楽しみで遠足前日の子供のように心躍りながら準備をする。最近は座学やマナー講習ばかりで練習嫌いの翠でさえ動きたくてウズウズしていた。


 


その時――


 


開かずの扉と化していた部屋同士を繋げる扉がノックされアストゥロが入室してくる。



「その扉使うの初めてですね。どうされました?」

 

「ん……ちょっとね」



 

今まで何処となく使用を遠慮している節はあったが、急にどうしたのか。


 


「最近変わったことは?」

 

「ありません」



キッパリと言い切った。

 

 

「・・・・あ、そう」


 


ローガニス国の第一王子は初めて拗ねる。

その証拠に翠が返事をした後、眉間の皺はグッと深く刻まれるが何が原因なのか検討もつかない。


 


「……()()は何?」


 


アストゥロが指差した先にはウキウキで準備していた翌日着るトレーニングウェア。貴族令嬢には縁のない衣類なので、誰かの私物と誤解し不貞を疑っていると勘違いした。


 


「ぁあ〜、これ私の服ですよ?」

 

「……ふーん――」



(うん?…………この返事、デジャブか?)


 

シーンと静まり返る室内。

浮気を疑われた夫のようだと気まずい雰囲気に戸惑う。



「急にごめんね。おやすみ」

 

「あ、はい。おやすみなさい……」



バタン――と閉まる扉を茫然と見送った。



「兄弟揃って、、、なんなの?」



☆ ☆ ☆


 


翌日の午後。

 


アストゥロの拗ねていた原因が判明する。

手合わせ約束の場所には王子が揃って待機していた。



「翠――何故お二人が?」

 

「……ワカリマセン」



笑顔で手を振るロディオンとは対照的に、お得意の笑顔を機能停止させた無表情のアストゥロ。



「邪魔はしない」

 

「僕達に気にせず始めて〜」



視界に入り気が散るが、限られた時間しか無く1秒も無駄にはしたくない。両殿下の存在に無視を決め込み何年振りかの手合わせに全集中する。

 



「……凄いな。動きに無駄が無い」



 

翠が学んだ護身術は、ソウジュの両親が複数の柔術を掛け合わせて教えたもの。武器を使用せず体格が違う相手でも素手で仕留められるようにと考えられていた。



アトリス星の者は、力の差あれど魔力を用いれる。

魔力に頼る=距離を保つ、が基本で裏を返せば至近距離からの攻撃にめっぽう弱い。

 


魔術による攻撃は互いに近付くのは危険行為で体術を使用する機会が無いのだ。手合わせは見事なもので、繰り出される技の多様さに観ているだけで夢中にさせられる。



弟から2人が手合わせをすると聞き、生まれて初めて悋気という感情を抱いたアストゥロ。

 


例の側近か……と。

 


ザワつく気持ちの勢いをそのままに翠の元を訪れた。

これ以上の醜態を晒してはいけないと思っていても、2人きりにだけはしたくない身勝手な気持ちでこの場に立った自分に恥ずかしくなる。



「兄さんの婚約者は、計り知れない人だね」

 

「……ああ」



悔しいが相手をしている側近もかなりの手練れだ。



「うかうかしていられないな……」


 

 

――後日。


 


体術を習得する為、アストゥロはルクスに頼み密かに特訓を受け始めた。



翠とソウジュは、家族とは別の信頼関係で強く結ばれているのは理解できた。2人の関係性は変えようがない。

ならば……翠を護る力だけは劣る訳にいかないと。




「流石ですね、筋がいい。

基礎はしっかりしてるし習得スピードは驚異的だ」

 

「貴方の従者には及びません」

 

「おまけに負けず嫌いだったとは、嬉しい発見だなぁ」




第一王子として将来ローガニスの将来を担う立場に置かれ常に完璧を求められるアストゥロに対し、自分の従兄弟のように限界がきて爆発しやしないかと心配をしていた。

 



「彼女に関することで負けたくないので」

 

「ぉお、惚気まで言うようになって」

 

「揶揄わないで下さい!さあ、続きを」



昼間から夜に掛けて公務と学校をこなし早朝にはルクスと特訓をする。訓練前には愛しい婚約者の部屋へ行き寝顔を見て向かうのが日課となっていた。



訓練を終えると、そのまま身支度をし登校。

顔を合わせて声を聴きたいが、気持ち良さそうに熟睡している婚約者の邪魔をしたくはない。


 


この日も、互いに顔を合わせることなく1日が始まる。


 


「翠様。制服が出来上がりました」

「わぁ!可愛い〜」




入学まで1ヶ月と迫った頃、魔術学校の制服が届いた。

紺色のブレザーにネクタイ。胸元に校章の刺繍が存在感を放ちショートケープが付き。


 

新入生は濃緋色、2年生は深緑色で3年生は藍色で分かれ

学年でネクタイの色が異なる仕様になっている。

 


 

「そういえば、殿下の制服姿って見たことないかも」

「「「ぇえ!?」」」



 

侍女達が一斉に振り向き、驚きの表情をしている。



「、、、ぇえ〜?」

(そんな驚かれても……)



 

起きた時は既に登校しており部屋はもぬけの殻だ。帰宅後は執務室に篭り出てこないのだから会わないのは当然。



 

「では、下校時間を狙いましょう!」

 

「いやぁ〜?……別に、そこまでしなくても」

 

「翠様?」

 

「・・・ぁ、はい。分かりました」



侍女達の圧は凄かった。


 

あれよと言う間にアストゥロ迎えの馬車に押し込められ、気付けば翠は中で待機させられた状態。


 


( ……っは!言われるがまま私は何を)


 


流れに身を任せてしまい、気付いた時には後の祭り。

馬車の扉が開き翠は言い訳を考える暇も無く目を見開いたアストゥロと顔を合わせる羽目になっていた。


 


「あ、はは〜……学校お疲れ様ですぅ」

 

「驚いた――何故此処に?」


(なんででしょうね〜……私も聞きたい……)


 


そんな驚いた表情から一変、アストゥロは蜜が滴りそうな笑顔で馬車に乗り込んでくる。翠の前を横切る時少し甘めの良い香りが鼻を掠め意識せざるを得ない。


 

城の装いとは違って髪はセットせず自然体のまま、学生服に身を包む姿は新たな魅力満載だ。

侍女が意地でも見せたかった理由を痛感していた。


 


「……全女生徒を誘惑する気か?コイツ」

 

「ん?何か言ったかい?」

 

「空耳です」


 


心無しか体つきも逞しくなっており服の上からでも筋肉が分かる程。

 


 

「さっきからどうしたの?面白い顔してる」

 

「…………そのフェロモンを閉まって下さい」



馬鹿正直に本音を言えばアストゥロは色気をたっぷり含んだ笑顔で隣へと移動してきた。


 


「ぬぁッッ!ストップ。こっち来んな」

 

「ちょっと酷くない?」


 


暴言を吐かれたのにも関わらず何処か意地悪な笑顔をキープしたまま近付く。これほど至近距離で顔を見るのは初めてで視線の置き場に困ってしまう。



心臓の鼓動が殿下にも聞こえてしまいそうだった。



 

「………………て」

 

「ん?」

 

「お願い…………離れて」


 


アストゥロは一瞬ビシッと固まると、ゆっくりと元の場所に戻り無言で窓側に顔を向けてしまった。怒らせてしまったのかと心配し様子を伺うと、首元まで真っ赤になっていて翠は青褪めた。


 


「ちょっ、首まで真っ赤ですよ!発熱!?」

 

「…………いや、体調は頗る良いよ」

 

「本当に?」


 


そっぽを向いたまま頷かれる。

怒ってる感じでもないけれど、急にどうしたのか。

 


皇城に到着し、降りる際のエスコートも通常通り――

と思っていたが握った手は離さず廊下を突き進んで行く。


 


「で、でで、殿下?!皆が見てますが」

 

「構わない」

 



されるがままに引っ張られ、渡り廊下を過ぎるとアストゥロの私室目前でピタッと立ち止まる。

不思議に思い顔を覗き込もうとした瞬間体が宙に浮いた。気付けば翠は縦抱きにされ軽々と抱え上げられている。


 


「へ?!」


 


小さい子供なら兎も角ほぼ片手で持ち上げられた状態。ダイエットしておけば良かった!と泣きそうになる。そんな翠の焦りは伝わる筈もなくアストゥロは私室に入ると後ろ手に鍵をした。


 


( 、、、あ。非常にマズい事態な気が?)


 


鈍い翠だが頭の中に警報音が鳴り響く事態に陥る。

体を捻り逃れようとするも力が強くビクともしない。

焦る翠を無視したまま、寝室へと直行するとベッドの上へ優しく降ろした。


 


「アストゥロ殿下?!あ、あの」

 

「――ん?」


 


 

(はい、アウトーーーーー!!)


 



とても情欲的な目だった。




耳の奥で警報音が鳴り響き無意識に体が後ずさる。

ギシッと音を立てながら、アストゥロもベッドに上がり翠との距離をゆっくりと詰めて来た。


 


「あんな顔をした――君が悪い」


 


獲物を追い詰めるかのような姿に体が硬直して動かない。アストゥロは翠にわざと見せつけるかのようにネクタイをゆったりとした動きで解いていく。

 


一つ一つの動作に色気が漏れていて目が離せないでいた。


 


「翠」

 

「すッッ!?」

 

「逃げなくていいの?」


 

(こんな状況で呼び捨てなんて――狡い!)



 

甘さを含んだ声音に名を呼ばれ体が痺れて動かず、逃げないといけないのに思考は停止してるようだ。アストゥロの鼻先がくっ付いたまま目を捉えられた時、目の前にある瞳は金色ではなく深い青紫に見えた。



(……錯覚?)

 


ッズキ――

急に味わったことのない痛みが目の奥に走り手で抑える。


 


《――――――・・・》

「――ぇ……」


 


痛みを感じる合間に響く聞き覚えのある懐かしい声。

呆然とするままアストゥロに目をやると、通常の金色の瞳に異常はない。


 


「大丈夫!?頭が痛いのか?」


 


急に苦痛の顔を浮かべ頭を抱えた翠に焦っていた時。

突如、部屋の扉が破壊された。


 

 

ドガァァァァアアーン!!――



 

「おい……………………ナニをしている?」

 

「お前ね、、、無茶苦茶過ぎるぞ」


 


翠を介抱するため背中に手を置いていた光景で何を勘違いしたのか、クオンは額に青筋を立て自らがぶち壊した扉を踏み付けながら部屋へと侵入してくる。

 


 

「――離れろ」

 

「襲撃だと勘違いされる行動だぞ?流石に慎めよ」

 

「愛する妹の危機なんだから仕方ない」



 

ズカズカと無遠慮に近付くと放心状態の妹を抱え上げた。普段抱えると暴れるのに抵抗する気配は無く、クオンは益々眉間に皺が寄る。

 


 

「入学まで屋敷に連れ帰る」

 

「明日迎えに行くよ」

 

「面会拒否だ。城には住まわせない」


 


翠を肩に担いだままクオンはさっさと転移魔法を使い跡形もなく消えていった。扉を壊された部屋は途端に静まり返り、溜息を吐きながらベッドに倒れる。


 


「…………僕を見て驚いた顔をしてた……一体」




目が合った瞬間苦痛に顔を歪める様子は拒絶とは異なる。翠の視点がアストゥロを通り越えて誰かを見ていると気付いて反応が遅れてしまった。確認をしようと手を伸ばした直後にクオンが派手に登場し掻っ攫って行ってしまう。




連れ去ったのは家族で実家に戻っただけなのだが、アストゥロは言いようのない焦燥感に駆られていた。


 


その頃、クオンに担がれ帰路に向かう間も翠は聞こえてきた言葉を反芻していた。思い出すたび目の奥はズキズキと痛み、それがまるで罰だと責めているようで怖い。


 



(2人の様子がおかしい。……まさか一足遅かったか?!)




 

あっさり連れ戻しを見逃した親友と、不気味な位に大人しく担がれている妹にクオンは全く見当違いな心配をして胃をキリキリさせていた。



 

※※※

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