転生したら欲しがり妹だった件~欲しがり妹の商会長
「メアリー!貴様は、我に、横恋慕するだけではなく、姉のものを欲しがり伯爵家の財政を破綻させた。よって、伯爵家を追放する!!」
お前誰だ?王子様っぽい格好をしてやがる。
あっ、お姉様の婚約者、第三王子か。
OK、追放されるか。どこよ。修道院か?それとも、孤児院か?
何か。珍しく、パーティーに出席しなさいとお父様とお母様に言われて連れて来られたら、妙なことになっている。
私は、メアリー10歳だ。転生者だが、ありきたりのOL、別に料理がプロでもなければ、日本刀を作れるわけもない。転生者と言っても、重たい責任がのしかかるから黙っていた。
ただのお子様だ。
何だ。あの派手派手で、インチキそうな男は?と、王子様を見ていたら、そう宣言された。
ヒソヒソヒソ~~~~
「あれが、ローゼン伯爵家のわがまま妹」
「派手なドレス、ヒラヒラね」
「いつも、姉のオリビア様のドレスを欲しがっているそうよ」
「殿下に挨拶もしないとは、教育もなっていない」
あ、あれか。私には令嬢教育の予算はない。だから、挨拶の仕方も教えてもらっていない。
見よう見まねだ。
ドレス、宝石も与えられない。
持っているのは、5歳のころに、買ってもらったクマのぬいぐるみのミディちゃんだ。
そうだ。その時、11歳のお姉様は、王子様の婚約者に指定された。
それから、我家は姉一極体制。
私への教育は、延期につぎ延期、予算がないのだろう。
なら、平民学校に行かせてくれと言っても、面子の問題から無理のようだった。
ドレスないから、お姉様から、おねだりをした。
このドレスも、お姉様のご友人から、パーティージョークとして贈られたドレス。とても、きられないくらいのヒラヒラのドレス。
この一着だけもらったのだ。
「分かったの~~~、出て行くの~~~」
「殿下、お考え直しを、妹は、お金を稼ぐ苦労を知りません。なら、我家の商会に、修行に出しては如何でしょうか?
お飾りの商会長になると思いますが、それでも、働く平民達をみたら変わると思います」
「さすが、オリビア、聡明だ」
「まあ、さすが、オリビア様、ご自身がはじめた商会を、妹に譲るなんて」
「これで、メアリー様も変わるだろうな」
「殿下もさすがだ」
・・・はは~~ん。これか。お姉様は才媛と有名だ。だから、王子の婚約者に抜擢された。
駅馬車商会を起業した。平民を相手に商売をはじめたが、上手くいっていない。
だから、経営破綻した商会を私に押しつけて、損切りするのだ。
まさか。そんなこと。
と思っていたら、その通りだった。
☆☆☆オリビア商会改め、メアリー商会。
「以上が、我が商会の状況です・・・」
「ありがとうなの~~~~」
借金が資産の二倍以上ありやがる。
しかし、表向きは上手くいっているようにしている。
まあ、粉飾決済だ。
これは、来期までもたないな。破産したときの商会長は、私になるな。
「貴方は?」
「日系王国人二世のケン・コバヤシです。父が転移者です。財務・調達を担当しています」
「分かったの~~~、正直に帳簿をつけるの~~~~」
「ええ、いいのですか?」
会計係に粉飾決済を命じれば、ほとんどの者が嫌がる。
正確な帳簿をつけたいのは、会計係の欲望、本能だ。
そして、私は、欲しがりの妹を演じることにした。
どうせ。立て直しなんて出来ない。欲しがりで追放されたが公式だ。
「馬車汚いの~~~~~!綺麗に塗り直すの~~~~~!来月までなの~~~~!」
「メアリー様、無理です。現場に出ないで下さい。迷惑です」
「そー、そー、そのヒラヒラのドレスでは汚れますよ。クマのぬいぐるみと、執務室で遊んで下さいな」
「そうです。さあ、執務室に戻りましょう。キャンディーをあげますわ」
ドンドンドン!
地団駄踏んで、癇癪を起こした!
「紫、嫌なの!それも、塗装がはげている馬車があるの~~~~!淡い茶色に統一するの~~~!
綺麗な馬車が欲し~の!じゃないと、貴族令嬢に対する不敬罪で、ぬっ殺すの!!
今、やめたら、紹介状に、チン出して、ヘラヘラ笑っていたと書くの~~~~!」
「ヒィ、オリビア様以上に滅茶苦茶だ」
「やめてくれ」
「紫は、オリビア様の好きな色ですよ」
「知らないの!~~~~~」
プイィと命令して、執務室に戻った。
ケン・コバヤシに命じた。
「茶色のペンキと、道具一式、馬車保有分調達するの~~~~」
「畏まりました・・」
「運行表を見るの~~~~~」
運行表を見直し。塗りやすいように、調整する。
そして、ペンキが届けば、やらなければ、使用人の責任だ。
さあ、ドンドン解雇するぞ!
とやっていたら、
命令された通りやりやがった。
「おい、確かに、塗装がはげているのは、御者としてはどうかと思っていたぜ」
「道具が届いた」
「しかも、便が調整されている・・これは、何か違うかも」
「「「偶然だろ。アハハハハハハ」」」
そして、経営方針を見直した。
激安駅馬車が乱立し。正直、キツい。
なので、中距離に限定。野営無しで、王都近郊の都市や村に集中することにした。
さあ、マニュアルを見るぞ。
「ケン持って来くるの~~~」
「はい」
ドン!
と山のようなマニュアルが机の上に置かれた。
「何よ。これ」
読む気にならない。アメリカの某ファーストフードか?何かあったら、マニュアルを読んでいない従業員が悪いと、責任を押しつける戦略か?
それもいいが、読んでみよう。
貴族の事務だ。何々、書類の折り目は・・・
「いらん!」
だから、従業員の前で燃やした。
ボオオオオオオーーーーーーー
「お芋を焼くの~~~~~!勿体ないの!」
「「「「ヒィ」」」
「オリビア様が作ったマニュアルを」
「それでは、俺たちは、何を元に業務をすれば・・・」
「これなの~~~~」
ペラペラのマニュアルを渡した。
「安全と、緊急事態と、基本的なマニュアルだけ・・・」
「これでは、不十分です」
「何かあったら、どすればいいのですか?」
「良識で判断するの~~~~~それでも迷ったら、リーダーに相談するの!リーダーは判断つかなかったら、ケンに相談するの!ケンは、迷ったら、メアリーに相談するの!」
「分かりました・・・」
☆☆☆駅馬車
「おい、駅馬車の中に、獣人族がいるぞ!お前達は歩け!」
「ドウドウ~~」
「ヒヒ~~~ン」
馬車は止った。
「お客様が降りて下さい。ここは、公共の場ですよ」
「何!」
「貴方が、獣人族を嫌うのは自由、ホームパーティーに獣人族を招かないのはいいが、公共の場ではダメってことですよ。
謝罪するか、貴方が降りるまでは、馬車は動きません」
「おい、親父、さっさとどっちかにしろよ」
「俺もそう思う」
「クゥ、悪かった」
「・・・いいえ。分かったニャ」
☆また、こんな事もあった。
「キャア、あの殿方、包帯だらけで死霊みたい」
「片腕がないわね。きっと、弱い兵隊さんなのよ」
「ご令嬢方、この方は傷痍軍人です。謝罪をしなさい。御者として命令します。でなければ、屋根の上に放り投げます」
「「何よ!」」
「すまねえだ。オラが屋根に登るだ」
「いいや、娘っ子たちが悪い!」
「そうだ、そうだ。謝れ!」
「「ヒィ」」
☆☆☆
従業員達が神対応し始めた。今までのマニュアルは、身分の高い客の言うとおり行動することだった。
「皆、喜んで、良識通り対応しています」
何だこりゃ。良識で判断しろって言っただけなのに、
評判はうなぎ登りだと、複雑だな。
だが、とんでもないやらかしが起きた。
新米のトムが、行き先を間違えたのだ。
「それで、どうなったの?」
「はい、そのまま間違えた都市に行き。駐在員が、宿の手配と、翌日に別の便を手配し、規約の慰謝料を払いました。引き返したら野宿になりそうだったので、緊急のマニュアルを適用したそうです」
チィ、非常事態の時のマニュアル通りじゃない。
クビに出来ないじゃない。
「トムは、研修するの。非常事態のマニュアルを守っているの~~~、大丈夫そうだったら、戻すの~~~」
「畏まりました・・・」
行き先を間違えるのは、駅馬車業界では、すごく恥ずかしいことで、解雇が慣例だった。街の芸人達が、ネタにしたので分かった。
普通は解雇なのに、しまったか?
「メアリー商会の駅馬車で~~~す。おろ?目的地につかない!」
「「「アハハハハハハ!」」」
・・・・
「グスン、グスン、俺、行き先を間違えたのに、減給無しで、クビにしないなんて、俺、頑張る!恩返しする!」
「ほどほどにするの~~~力を抜くことも大事なの~~~」
「はい!」
だが、やっと、解雇事案が発生した。
「快挙です!サムソンの駅馬車が、ゴブリンを討伐しました。返り討ちです。お客様の中に冒険者がいました。協力して討伐です」
「解雇なの~~~、安全規約守っていないの~~~、こういった場合、逃走なの~~~」
「え、宣伝すれば、トムの失敗を帳消しに出来ます」
「トムは失敗の中の成功なの!トムを引き合いに出さないの~~~」
「失礼しました!」
☆☆☆
「ヘン!俺をクビだなんて、おかしいぜ!覚えておけよ!」
「さよならなの~~~」
覚えておけと言って、何かあった試しはない。
大丈夫だろうと思っていたが、何かあった。
サムソンは引っ張りだこで、すぐに、他の駅馬車商会に就職できた。
しかし、初日に、また、ゴブリンの襲撃にあい。行方不明。
「え、ゴブリンが駅馬車で暴れ回っているの~~~」
「はい、王国軍によって討伐されました。サムソンの駅馬車です。メアリー様の正しさが証明されました。街では手のひら返したように、メアリー様をたたえる噂がチラホラ、良かったです!」
「喜ばないの~~~人が死んでいるの~~~~」
「失礼しました!」
何だかな。せっかく、この商会をやめられたのに、
どうせ、この会社も今期限りだ。
債権者たちに、破産申請をされるだろう。
運転資金しかない。余剰の資金がないのだ。やっと、お給金を払っている状態だ。
☆☆☆債権者集会
あのヒラヒラのドレスを着て、クマのヌイグルミのミディちゃんを抱えて集会に参加した。
出て行けと言われたら、すぐに建物を明け渡して出て行く算段だ。
ドレスも買っていない。
「え、支払い待ってくれるの~~~何故?」
「だって、お金ないんでしょう?」
「融資もしますよ」
「キャンディー差し上げます」
何故?
とりあえずキャンディーをもらう。
ペロペロペロ~~~~
解せんな。
・・・この世界に神の目があるとしたら、市場だ。
市場は嘘をつかないと言われている。
何故なら、市場で負けたら、投資家は次の日から着の身着のままで路頭に迷うことになる。
真剣勝負だ。
たとえ、商会長が、幼女でも、金になれば投資をする。
「ところで、我々が融資を追加したら、何に使いますか?」
「うん・・・専門の整備部を作って、護衛も専属で雇うの~~~~」
・・・いちいち、外注したら金かかるし、サムソンの件があるしな。城外はたまに魔物の襲撃がある。
ザワザワザワ~~~~
ヒソヒソヒソ
(逸材だ)
(表に情報はでてないけど、分かっているのか?)
(乱立した駅馬車業界、整備不良で事故多発)
(時々、魔物の被害がでる。損失も馬鹿にならない。いや、人命を大事に思っているのだろう)
「融資します!」
「ワシも!」
「いや、いっそのこと、我が商会と提携しよう!」
「その御足で踏んで!」
・・・
「全く訳分からないの~~~~」
癪だ。お姉様が作った商会がドンドン大きくなる。
「え、傷痍軍人の褒賞旅行の請負?王国からの依頼?」
「獣人族から、貸し切り運行の依頼・・・」
「はい、どうやら、評判になっているようです」
そして、お姉様の商会はドンドン大きくなり。
やがて、実家から、融資しろとか、いい商売はないかと話が来るようになった。
「断るの~~~~~」
だが、ついに明け渡す日がやってきた。
☆☆☆
営業所に第三王子とお姉様とお父様、お母様がやってきた。
お父様とお母様はやつれている。
「メアリー、商会を返してちょうだい」
「そうだ。メアリー嬢、懲りただろう」
よし、少し心残りがあるけど、これで、重たい責任から逃れられる。
使用人162人とその家族の心配をしなくてすむ。
「だけど、メアリーはこのまま雇われ社長として、我とオリビアの監督の下、仕事をすることを許す。
とりあえず。王家の馬車と同じものを用意しろ。それと、屋敷だ。第三王子に相応しい屋敷を用意しろ」
はん?!
つまり、権限はないが、責任はあるってことか?勤め人の苦労じゃない。
こいつ、口だけを出して責任を取らないタイプだ。
プツン!何かが切れた音がした。
「やなの~~~~~!」
「メアリー様!」
「おい、何をする!」
馬車に備え付けのムチを取り。
ペチン!ペチン!と王子を叩いた。
ペチン!ペチン!ペチン!
「ヒィ、やめなさい。メアリー!」
「やめないの!この商会は、メアリーのものでも、お姉様のものでもないの~~~~、奉公人と、債権者と、お客様のものでもあるの~~~~~~!」
ペチン!ペチン!ペチン!
「それを、横から怪鳥が、ローストビーフを取るように、美味しいところだけ取るのはあり得ないの~~~~
王国に輝く王族が、令嬢の商会を取り上げないの~~~~お前は偽王子なの~~~~」
ペチン!ペチン!
「商会長!そこまでの決意で・・・」
「グスン、グスン、俺、この商会で働きたい」
ああ、転生者だった。次も転生するのか?周りの者は泣いている。
そうだな。破滅の始まり。
皆、巻き添えを食いたくないのだろう。
そこは、素直に謝罪する。ごめんと。
「ご令嬢、そこまでです」
やんわりと、右腕を捕まれた。
「マークガレ王子!」
「第2王子殿下だと!」
「兄上、不敬罪です。取り押さえて下さい!」
「ええ、殿下、お願いします」
「ほお、王族ではなく、平民の貴方方が、貴族令嬢に無理難題を押しつけたように見えましたが・・・」
「「ヒィ」」
何?第三王子は、失脚?
お姉様が、花の球根の販売権を、高く売れるからと、社交界で販売した?
しかし、実体は、日本で言えばマルチ?
王子が広告塔で、すぐに破綻した?
実家の伯爵家も全面協力したので、破産した。
それで、王子は廃嫡になり。実家は爵位返上。
自力でマルチを開発したか。さすが、お姉様だ。頭はいいが馬鹿の類いだろう。
「爵位は、王家に返されたが、財産管理人はおいてある。新当主は君の予定だ」
うわ。何で!
「私の事は、マークと呼んでくれたまえ。ご令嬢、ファーストネームで呼ぶ許可をもらいたい」
「好きにすればいいの~~」
「では、メアリー嬢、王宮へ、父上と母上にこの顛末を報告します。一緒に来てくれますよね。あ、そうそう、私は貴女の8歳上ですよ。エスコートします。婚約者はいませんから、お気になさらず」
18歳、この年齢だと大人に見える。8歳差?スパダリか?
スーパーダーリンに助けられたのか?
「やーなの」
「ハハハ、王命を出しますよ」
「グスン、グスン、お姉様はズルいの~~~ドラゴンのような重い責任から、逃げられたの~~~お姉様は自由になったの~~~~」
「それが、分かっているのは逸材だからですよ。将軍閣下と、獣人族の代表も会いたがっています。貴商会の神対応は、メアリー嬢のおかげだと皆が言います」
さあ、とエスコートするように手を出しやがる。
私は、
「グスン、グスン、お姉様ズルいの~~~~~」
と泣き叫ぶ事しかできなかった。
「「「「ワワワーーーーーー」」」
「メアリー様、おめでとうございます!」
「未来の王子妃の誕生だ!」
奉公人達や客はワザとか?煽っているのか?
こうして、私は凡百の欲しがり妹のように、お姉様ズルイ~~~と言うことしか出来なかった。
飛翔するドラゴンの背中にのったような感覚。巨大な流れに乗ってしまったのだ。
最後までお読み頂き有難うございました。