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第7話 どこのクラスを取るか

魔法戦士になるためには、剣の授業が欠かせない。


「いいか? 本気でやったらダメだ」


リーバー先生から厳重注意を受けたアレンは、不満だった。


「しかし先生、それでは、せっかくの勉学の機会が……」


「細く力を注げ。少ない力で多くの効果を出すんだ」


「全力でやってみて、足りない部分を伸ばした方が効果的では?」


「お前は学校を火事にしたり、破壊したりしたいのか?」


先生はアレンの頭をつかむとグリグリした。


「治す系の軟膏で暴発してくれて助かったよ。天井がきれいになったくらいで済んだしな。これがもし、毒薬だったりしたら大ごとだったよ。俺でも、止められるかどうかわからん……」


最後の方は小さな声だった。



学院でアレンの名は有名になってしまっていた。


例のシュリット先生が、何が何でも魔法薬の生徒にと大勢の先生方に言い回っていたからだ。


「素晴らしい才能ですわ、魔法薬の。ぜひとも私が面倒を見たいものですわ」


おかげでレッドがちょっといじけたふうになってしまった。


「俺は十分かかって、やっと草原の緑」


「あれはね、まぐれって言うんだ、うん……」


「まぐれで天井の広範囲のシミは取れない」


「いや、本気で、魔法薬には行った方がいいんじゃないか? 隠密の授業では頭隠して尻隠さずだったし」


バートがまじめに勧めてきた。


「うーん」


「感知の授業は、何も感知できなかったし」


感知の授業は面白かった。


感知は、人間や獣、植物、鉱物などのそれぞれの気配の特長をまず覚えるところから始まる。


馬や羊、人間の特性は知っていたから、誰がどこにいるのかも感知できた。だが、見たこともない鉱物などは、まず気配の特性を知らないと特定が出来ない。


マドレーユには海がある。砂浜も港もある。それぞれが種類の違う岩石、またはそれらが粉状になったもので出来ている。


「これらは例示であって」


瓶に詰め込まれた石のカケラや、砂粒の解説の後、感知の魔法の担当のドウリン先生は言った。


「どちらかと言えば、役に立つ鉱物の鉱脈を探したり、人間の場合はその能力を図ったりする。アレン!」


アレンはビクッとした。


「この前は魔法薬の授業で才能を発揮したそうだな」


生徒全員がうらやましそうな、あるいは好奇心に満ちた目付でアレンを眺めた。


「感知の能力は人間相手の場合、魔法力の有無や量をはかり知ることが出来る。それでは、みんなでアレンの力を推し測ってみよう!」


人権侵害じゃないのかとか、個人情報の……とか色々な抗議文がアレンの中で渦巻いたが、アレンはグッと耐えた。


今こそ隠蔽魔法の出番である。


いまだって、薄ーくかけているのだ。


今はもう慣れきってしまっていて、バートですら感知できない境地になっている。


魔法薬の分野にちょっとだけ特化した、平々凡々な少年。

それがアレンだ。



十分ほどクラス全員が汗をかいたが、結局魔力の有無すらわからないで終わってしまった。


「アレン」


だが、先生は厳しかった。


「隠蔽の魔法だね?」


帰り際に囁かれた。


「感知の魔法と隠秘の魔法は、表裏一体で互いに補完する魔法だ」


先生は嬉しそうだった。


「僕のクラスに入らないか?」





「どうするんだ、この始末」


リーバー先生は癖で腕組みをしながら、アレンを見下ろした。


アレンは泣きそうだった。


レッドからはなんとなくやっかむ風に見られているし、バートは、意味深な表情を浮かべている。

彼も隠蔽魔法くらいは身に付けていそうなので、何か察するところがあるのかもしれない。


魔法薬の先生と感知魔法の先生からは、虎視眈々と狙われている。


「一応、二週間か一月以内に方向性をハッキリさせることって、学院の規則では決まっているんだけど」


「はい」


「そして、君の希望は魔法戦士だそうだけど」


「えーっと、剣の戦士です」


「却下」


リーバー先生は冷たくあしらった。


「そもそも無理。結局女の子だしね」


「うっ」


「見学には行ったけど」


先生は言い出した。


「確かに君は決して剣が下手じゃない。むしろ、上の方から数えた方が早いくらいだ」


その時活躍していたのが例の侯爵家の御曹司だ。


見事な剣捌きに思わず見惚れた。


性格もイマイチっぽいし、態度も(身分的に)少々傲慢らしいが、あまりの美技にお嫁さんになりたいと思ったくらいだ。

もちろん、もらってくれそうもないが。



「いやいや、そんなことはない」


リーバー先生は意外な答えだった。


「剣士は無理でも、そっちの方は大丈夫。きれいな顔をしている」


「え? 私ですか?」


「そう。おまけに実は辺境伯の令嬢だ。侯爵家に勝るとも劣らない」


アレンは妙な顔をして先生を見つめていた。


「侯爵家は両手(もろて)をあげて賛成だろう。だけど、きっとダメだろうな」


「ああ」


アレンはがっかりした。別に侯爵家の御曹司が好きと言うわけではないが、なんとなく剣一筋の自分はモテないような気がする。

そして、モテないと言うことは、なんとなく……なんとなく敗北感がある。


「そう言う意味じゃなくて、どうしてここに今自分がいるのか、考えてみてよ」


苛立った様子でリーバー先生が言った。


「どうしようもないじゃないか。その魔法力。膨大すぎて、秘密にもできない。わかる? おそらく全魔法学の授業で、異常性を発揮して帰ってきたでしょう?」


異常性って……。


なんかイヤな言い方だな。自分は異常ではない。


「魔法薬の時は、失敗しました。でも、あとはバレないように……」


魔法でモノを動かす授業や、モノを変える授業は、本当に簡単だった。


だけど、できるだけ手抜きして、なおかつ手抜きしていることがわからないよう最後の最後に及第点を取れるだけのモノを完成させた。なかなかの手際だったと自分では思っている。


「ダメだよね。先生方はプロだ。バレた可能性は高い。大体、先生をやっている時点で、専門性がありすぎるか、偏っているか、あるいは引退しただけか」


リーバー先生は狭い室内をうろうろと歩き始めた。


「魔法薬のシュリッツ先生は人間付き合いが下手。魔法薬の完成にのみ関心があって、売れるかどうかなんて、頭の片隅にも入っていない。魔法薬は売れてナンボだ。趣味で作られても材料費がもったいないだけだから、学校へ来た」


「でも、先生、僕の作った薬は3万で売れるって」


「あれは君にも値打ちがわかるように言っただけだ」


噛み付くようにリーバー先生は答えた。


「ドウリン先生は感知のプロだ。ただし、関心があるものにしか能力を使わない。だからして、国家の隠密にはなれないで学院にいるわけだが、能力は高い。絶対になにか勘づいている。俺だって、あの先生のそばには近寄りたくないんだ」


「幻影、見破られたら困りますもんね」


ちょっと、同情したようにアレンは言ってみたが、先生は怒っていた。


「俺がお前の心配をしてるんだ。すでに見破っていて黙っているのか、それとも、本当に気がついていないのか」


怒りん坊な先生だ、とアレンは思った。





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