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最強の戦闘力と魔力。女子力ゼロの無愛想な美少女戦士は、自分を試したい。  作者: buchi
第1章 オーグストス魔法学院

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第50話 アレンが作った奇跡の薬

「どうして、辺境伯の令嬢だってわかったのかね?」


スタンリー侯爵はしつこく聞いた。


「推測なので、説明に時間がかかります」


「いいよ。きちんと聞いておかないと、困ったことになるだろうからね」


スタンリー侯爵は、ベンに合図した。メモの用意と、簡単な昼食を用意しろとという意味だ。


「ジョージ、君も聞くよね?」


「もちろんだ」


四人分のサンドイッチやお茶が書斎に持って来られた。ベンの分まである。バート以外は、ワクワクした気分を抑えられなかった。



「で、なぜ気がついたのかね?」


「ダレン侯爵の子息のダルクバートン様が、気づかれたご様子だったのです」


「ダレン侯爵?」


スタンリー侯爵とジョージは顔を見合わせた。


ダレン侯爵家のことは、よく知っていた。


同じ侯爵家だが、あちらの方が随分と古い。


由緒正しい名門だ。


ご子息のことも聞いたことがある。なにしろ、家が名門の上、魔力持ちでオーグストス魔法学院に入学するほどといえば、親の鼻息も当然荒い。


ことに今年、魔法戦士として入隊を果たしたことで、巷でも話題になっている。


「それでダルクバートンはどうしたのだ?」


「私には知る由もないのですが、どこかで気がついたようでした。ダルクバートン様は学年一の魔力持ちなので……」


「さっき、君は自分で学校一の魔力持ちだと自慢したよね?」


ベンが口を出した。


「私はダルクバートン様より、二学年下です。ダルクバートン様は、総合力で学年を一番の成績で卒業されました。私は、総合力で言うなら、本当に平凡だと思います。ただ、感知の能力だけは突出しているんです」


バートは辛抱強く説明した。


スタンリー侯爵は、本来のバートは我慢するタイプなんだと感じた。


「ダルクバートン様が、アレンに対する態度を急変されましたので、私は気がついたのだなとわかりました。まるで、どこかの高位の令嬢に接するような態度なのです」


「なるほど……」


「そして、ある日、事件が起きたのです」


三人は、お茶のカップを握りしめながら、バートに意識を集中した。


「ダルクバートンが辺境伯令嬢を侯爵家に誘ったのです」


「……それが事件ですか?」


口の減らないベンが突っ込んだが、バートは首を振った。


「事件はそれじゃなくて……そのせいかどうかわかりませんが、アレンはその日、失踪しました」


「え?」


「失踪……」


「いなくなってしまったのです。学院は翌日から休暇でした。元々、休暇に入る予定だったんです。ですから、生徒には気づかれなくてすみましたが、ダルクバートンは、私に接触を試みました」


「ほお……なんのために?」


「感知の能力を使って、行方を探ってほしいと」


「ええと、その行方不明になった令嬢の?」


「ええ。ダルクバートンは、ベタ惚れでした」


バートは苦々しげに言った。


「ええっと、ああ、そうなの……?」


誰かの恋物語を聞いているのではないのだがと、三人は思った。


「まあ、恋していなかったとしても、ダルクバートンの魔力量を、遥かに上回るような女性がいたら、どこの貴族でも結婚を申しこむと思います。好きになったとしても不思議はないのですが」


「今の話のどこが、辺境伯の令嬢と関係があるんですか? その人、どこかの平民の娘かもしれないでしょう?」


「もちろん、そうかも知れません。でも、なぜ、男子校にやってきたのでしょう? 魔法を勉強するにしても、女性が入学できる学校へいくのが自然でしょう。あれほど魔力があるなら、どこの学校だって奨学金を払ってでも入学してほしいと思います」


「でもねえ……」


「消去法なのですよ。理由はなんなのか、私は悩みました。だが、ダルクバートンは当然だと言う顔をしていました。彼は解答を知っていたのでしょう」


「やっぱり、証拠というほどのことではないよ」


スタンリー侯爵は結論を出した。


バートは否定されても、特に怒った様子でもなかった。自信があるのだろうと、スタンリー侯爵は思った。


「王家なら確認できると思います。そして、たとえ辺境伯の令嬢でなかったとしても、それほどまでの魔力量の持ち主を放っておくことはないでしょう。その意味からだけでも、伝える意味はあります」


全員が黙ってバートの言葉を噛み締めた。


「まあ、たとえば、君が結婚するとかね? アーサー」


ジョージが言った。


「そうすれば、君の息子は魔力持ちだ」


ジョージは昨年結婚して、妻のお腹に子どもがいた。


スタンリー侯爵はまだ独身だ。


子どもが魔力持ち……それは貴族の密かな望みだった。


「アレンの魔力はすさまじい。魔法学の授業に出れば、白銀に光り輝く治癒の魔法薬を作ってしまっていました」


「白銀に光る?」


バートは頷いた。


「凄い値段で売れたそうです。誰か知りませんが、王都の瀕死の金持ちが買い取って、命を取り留めたそうで……」


三人は顔を見合わせた。


覚えがありすぎる。


「いつごろの話かね?」


ごくりと喉を鳴らして、スタンリー侯爵が尋ねた。


「今から半年くらい、いやもう少し前でしょうか?」


「ああ」


知っている。メーソン伯爵のことだ。彼は、腹が痛いと突然倒れて、病床に臥した。

事業が順調に進みかけたばかりのところで、それまで彼は、父親の負債を返すだけだった。負債を返し、新しい事業に乗り出すだけの資金が溜まり、念願だった加工業の工場を建て、出荷が始まった時だった。腹くらいどうとでもと言って無理を押したが、どんどん痩せていって、息をするのもやっとになり、ベッドから指示していたが、もはや誰の目にも死相は明らかだった。


愛妻との間に、やっと授かった子どもが生まれるところだった。

顔を見ることすらできない。

両親は亡くなっていたし、妻は平民だった。恋愛結婚で、親戚の反対を押し切って結婚したのだ。

欲に駆られた親族たちが、妻が平民だとなめてかかって、せっかく築き上げたメーソン伯爵の財産を食い物にするのは目に見えていた。彼がいないと、妻も子もどうなるか知れたものではなかった。だが、体が動かないのだ。


「これを飲んでください」


妻が持ってきたのは、白銀に輝く薬。


「どうしたのだ」


「試作品だと言うことですが、買いました」


治癒薬は白い方が効くという。だが、これは、白ではない。銀だ。光っている。


「た、高かったのでは……?」


妻は首を振った。


「高くはないです。効かないかも知れません」


嘘に決まっている、とメーソン伯爵は思った。


「こんなものより……」


どうせ自分は死ぬ。薬など気休めだ。子どもの顔を見るまで生きながらえるくらいだろう。


だが、金は残る。親族どもが無茶苦茶をするかも知れないが、少しでも残ると言うなら、この世に残る方を……


だが、妻は薬の封を切ってしまった。無理やり飲ませてきた。


ガリガリに痩せた伯爵には、もう声を出す元気も、争う力もなくて、口移しで飲ませてくる妻に逆らうこともできなかった。


「ダメだよ」


声にならなかった。



それから一週間、彼は昏睡状態にあったと言う。


もう死んだのだろうと、荼毘に付すと迫る親族から守り抜いたのも妻だった。


そして、身重なのに、ずっと彼のベッドに縋り付いていた……彼が目を覚ました時、妻は、最後に見た時と同じ服、同じ格好のまま、眠っていた。


「マーシャ?」


スッキリしていた。頭も、体も。


もう激痛はなかった。


ずっと横たわっていたので、力はなかったが、妻の頭に手をやるくらいは出来た。


「マーシャ」



妻が目を覚まし、彼と目があった時は、奇跡という言葉が、そのまま舞い降りた瞬間だった……涙が筋になって汚れた妻の顔を、本当に美しいと彼は思った。



財産は全て売り払われていた。


あの薬は、本当に高かったのだ。


家も一生懸命育ててきた事業も、何一つ残っていなかった。


彼にたかってきていた親族が、誰もいなかったのも、そのせいだった。


「だって、私たち、一文なしなんですもの」


妻は微笑んだ。


「全部、売ったのは私よ。あなたさえいれば、あとはどうだっていいのよ」



思い出して、スタンリー侯爵とジョージとベンは、今更ながら滂沱の涙を流した。


あれは本当に感動した。


当たり前といえば、当たり前の家族愛だったが、心の底から願っても叶わないことだってある。


それをあの奇跡の薬は叶えてしまった。


メーソン伯爵は、無一文から再スタートを切った。


(ながら)えさえすれば、人間はどうとでもなる。


子どもも生まれ、彼は金はないが幸せだと言っていた。



「何を泣いているんですか?」


バートだけはその話を知らなかったので、大人の男三人が突然大泣きに泣き始めたのを見て、相当驚いた様子だった。


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