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最強の戦闘力と魔力。女子力ゼロの無愛想な美少女戦士は、自分を試したい。  作者: buchi
第1章 オーグストス魔法学院

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第37話 ダグ v.s. ダルクバートン

一見、二人してアレンを思いやっているような会話だったが、ダグはムカムカしていた。


以前より、必要があってダグラン卿と名乗って、マドレーユの商工会に出入りしていた。主に金の必要からだったが、会頭とも顔見知りで、羽振りのいいところを見せてきたので、娘たちに狙われた。そのせいで、ダルクバートンに隙を突かれたのだ。


せっかくアレンの、否、フローレンのドレス姿を楽しみにして連れて行ったのに、ドレスの手配までして、口実を作ってアレンを出席させて、あんなに苦労したのに、お楽しみになったのはダルクバートンだった。


大誤算に、未だにはらわたが煮えくり返るようだ。


しかも、真剣に求婚しに来ましたとか、聞いてもないのに、ダグの目の前で発表するのだ。



自分は、あの商工会のパーティの日、大勢のご令嬢連中に襲撃された件からも明白なように、モテないわけではない。唯一の心配は、アレンに年上過ぎると思われることだった。

その心配が的中したと言うか、アレンは二歳年上の十代の若者に引っかって話を弾ませていた。


ダグラン卿とダグがよく似ていることに、ダルクバートンは気がついているだろうか。

気付いていても、たまたま心配した兄がマドレーユに来て、従兄妹のふりをしていたと解釈されているのかもしれない。



「フローレン嬢の選択が大事だとおっしゃるなら、しばらくお付き合いを許していただけませんでしょうか」


ダグはカッと眼を見開いた。何を言うか、この小僧。


「ここで、何をなさっているのか知りませんが、男装のままのご様子。ドレス姿になられたら、誰もアレンだと思わないでしょう。自然な姿で、私とお茶なりとお楽しみいただく機会があってもいいとお思いになりませんか?」


全然、思わない。


しかし、さっき、フローレンにはかわいそうなことをしたかもしれないなどと、よい兄ぶって発言したばかりである。


兄とは結婚できない。それどころか、良い婿を迎えるのが兄のつとめだ。


ダレン侯爵家のダルクバートンは、身分といい実力といい年齢といい、とにかくケチのつけようのない優良物件だった。


絵にかいたような自縄自縛(じじょうじばく)


「辺境伯のご令嬢らしくお育ちと思いました」


どう言う意味で使っているのだろう。辺境伯一家は、大体、武闘派なのだが……。


「ご令嬢らしい事もそつなくこなされる。お茶会、ダンスパーティ…」


「あまり派手なことはダメだ」


止められることは全部阻止する方針だ。


「ここは田舎ですので、お茶をご一緒するくらいでしょうか」


ダルクバートンのほほえみが夢見るようだ。なんか非常に憎たらしい。


それはダグが本来ならやりたかったことだ。話の流れで、どういう訳か魔獣狩りをしているが。

なかなか言い出せない。変態親父とか言われたら困る。二十代のダグがオヤジ呼ばわりにおびえていた。いいな、十代は。


「さしあたり、ドレスをプレゼントしたい」


「それは、婚約者のすることでは?」




二人が我を忘れて丁々発止の攻防を続けている間、野放しにされていたアレンは、別の危機に陥っていた。


「大変だー」


ライフガード屋に、救援を求める使いが走り込んできたのである。


「仲間が! ケチャックの大群に襲われて」


ボロボロの格好の、まだ若い冒険者が大声をあげながら走ってきた。


「ライフガード屋! ここか! ライフガードの人はいませんか?」


「僕だ」


アレンは、その冒険者の目の前に現れた。


茶色いくちゃくちゃの髪で、薄汚れた様子のアレンより一つ二つ年上にみえる若者は、アレンを見て、顔を歪めると邪険に手を振った。


「お前じゃない。ダグさんだ」


「ダグは取り込み中だ」


「頼む。取り次いでくれ。助けてくれ」


「僕が行こう」


どうせダルクバートンとダグが何の話だかわからない話をやっているのである。アレンを排除したことに腹が立った。子どもだとでもいうのだろうか。


若者はアレンを品定めして、首を振った。


「子どもに用事はない」


「子どもではない!」


「ああ、もう、時間の無駄だよ、早くして! ダグさんの身近に使えているのに何なんだ! しつけの悪い子どもだな」



アレンの心は決まった。


革の装備をざっくり腰に巻くと……その腰の細さに、若者はさらに侮蔑の色を濃くしたが、サッと馬に乗った。


「案内しろ」


そこへ、当然、声を聞き付けて宿のばあさんが現れた。



ダグとアレンがライフガード屋とやらを立ち上げてから数週間になる。


婆さんだって、ライフガード屋なんて初耳だった。


その商売内容もだ。


最初は理解できなかったが、何組かのチームを実際に助けた話は、自然耳に入ってくる。


ダグはとにかく、この細い少年にそんな真似ができるとはとても信じられなかった。しかし、事実は事実、数週間、この少年を黙って物陰から観察していると、魔法の幅が恐ろしく広い。


魔力が強いのかどうかは、あいにく婆さんには魔力がないので、わからなかったが、小さな火を起こすところから、熱い湯を瞬時に沸かしたり、大量の水を汲んで来たり、婆さんなんかは初めて見る洗濯魔法で服を新品同様に洗ったりと、出来ないことはないのではないかと思われた。


そして一番衝撃的だったのは、その話を町で噂に出来ないことだった。


舌が動かない。


何回か頑張ったが、ようやくそれが魔法と言うものなのだと理解した。


覗き見をアレンに見つかってしまった時、呆れたように言われたからだ。


「見なければいいのに。しゃべれなくなるぞ」


それ以来、機嫌の悪い時のアレンに逆らってはいけないのだと悟った。


ダグの方が断然マシである。


「ダグさんに書付を残していきなよ。アレンさんが行ってくれても、あんたはまだ心配なんだろ?」


「字なんか、書けません」


若者は涙の合間に叫んだ。


「私が書いてやるから!」


婆さんは言った。


婆さんにしては、恐ろしく親切な行動だ。


アレンが魔獣退治に出るのは、婆さんには止められない。


だが、このままどこへ行ったかわかりませんとなるとダグはきっと激怒する。


気の利く婆さんは、先手を打ってアレンの行き先を聞き出そうとしていたのだ。



ダグとアレンは正直上客だ。今日も、気前よく金貨を払ってくれる貴族のお客を連れてきてくれた。


そして、ダグがアレンをとても大事にしていることも見てとれた。だが、どこの宿に泊まるかを決めるのは、ダグの方なんだと言うことも理解していた。


ダグの溺愛が婆さんにさえわかるのに、どうしてこのアレンと言う少年にはわからないのだろう。



「場所はカレンの森の先で、魔獣は…… え……ケチャック?」


婆さんはびっくりして、しわくちゃの手を止めた。


ケチャックは猿の親戚みたいな魔獣で……ちっとも金にならない。魔力は低く、毛皮はごそごそしていて売れないし、肉はまずい。


その上、始末が悪いのが群れになる習性だ。


群れの仲間を攻撃されると、群れ全体が敵に回る。魔獣のわりに頭が良いので、敵の顔を覚えてしつこく攻撃してくる。相手したい魔獣ではない。畑を荒らすので、むしろ害獣と呼びたい。


「畑から追い払うだけの仕事だったのに、運悪く矢が命中しちまって、数百匹の大群が襲ってきてるんだ」


「はあ……」


書くのを途中でやめて、婆さんは意見した。


「ギルドに報告した方がいいよ。ライフガード屋は二人だけなんだ。数百匹は無理だろ」


「でも、今、行かないと仲間が助からない」


それより、依頼した農家が被害に遭うのではと婆さんは思ったが、言うのは止めて、代わりにアレンに向かって言った。


「止めた方がいい。出来ないこともあるよ」


「行くよ」


アレンの指は、革のベルトの上を軽くたたいていた。顔には、むしろ嬉しそうな微笑みを浮かべていた。


「止めるんだよ。お前もこんなところで泣いてないで、ギルドに助けを求めに行くんだ! 人手が必要だよ!」


ぐすぐす泣く若者を箒の柄で打って、正気に返らせ、ギルドに行くよう説得して振り返ると、アレンはすでにいなくなっていた。


(なんで、あんなに大事にされているのに、わざわざ危ない目に遭いに行くんだろう)

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