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最強の戦闘力と魔力。女子力ゼロの無愛想な美少女戦士は、自分を試したい。  作者: buchi
第1章 オーグストス魔法学院

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第28話 ライフガードの活躍

洞窟は半日以上かかる場所だ。


アレンは街はずれまで出ると、ゲートに届けを出した、一応。


「ライフガードで」


彼は意外に達筆で、さらさらと要件と予定日数、装備品の一覧を書き込んで、ウマと一緒に出て行った。


ゲート長が、緊急の救助要請のために留守だったのがいけなかった。


ゲート係が、あっけに取られてどうしたらいいかモタモタしている間に、かわいい顔をした少年はたった一人で行ってしまった。



ゲートから離れ、街から離れた途端、アレンはウマに魔法をかけた。


「時間がない」


洞窟は山の中だった。


入り口はわかりにくい場所にあったが、地図が意外にしっかりしていたので探査魔法の必要はなかった。


「あの娘、結構しっかりしてるな」


地図を渡してくれたゲート長付き添いの娘のことだ。


こういうのは嫌いじゃない。


洞窟の入り口付近は、上からまだ光が降ってきていた。


探査魔法を広げる。


「わかりにくいな……」


きらきら光る蜘蛛の糸っぽいものを取り出す。これで、元の場所に帰れる。ゲートの女の子のくれた地図はしっかりしていたが、別に全面的に信用する理由にはならない。


「多分、二時間……そして百匹はいる」



シープドッグは、仲間意識が強い。人間より鼻が利くので、冒険者たちが捕った獲物の匂いに反応しているに違いない。


「剣、百振り……」


アレンはぐったりした。剣でやっつけたかったら、百匹分剣を振り続けることになる。


「疲れる……」


しかも素振りではない。

一振り入魂になってしまう。


「……止めよう……」


アレンは柔らかな紐を出してきた。


暗闇にほのかに光っている。


「光ったらダメだよなあ」



そっと違づいていく。隠蔽魔法がこんな時に役立つとは思わなかった。


人相手の時と違って、姿は完全に隠さなくていいが、音と匂いに敏感な相手なので、余計に面倒だった。


ようやく見渡せるところまで、近づくことが出来た。


「隠蔽してるのに……」

体長二メートルほど、灰白色の毛におおわれ、血管の浮いた大きな耳の持ち主たちは、オスは二本の、メスは一本の角を持ち、これが高値を呼ぶ。

角が大きいほど値が付くので、年を取った大型のオスが狙われる。


「そんなこと、言ってる場合じゃないなあ……」



手元からするすると紐が伸びていく。アレンの手元で、光は消されよくわからないが先端だけほんのり緑に光っている。


紐は彼らの下肢にまとわりつき、一周すると切られる。次の魔獣の足元に進んでいく。誰も気がつかない。


時間がかかったが、アレンは手際よくその場にいたかなりの数のシープドッグの足を紐で回し続けた。


余りに柔らかな手触りなので、気がつかないに違いない。


「では……」


ピクッと一頭が耳を動かした。だが、次の瞬間、全員がその場にどうっとばかりに倒れた。

シープドッグの鳴き声は大きくて耳障りだと魔獣百科に書いてあった。


アレンだって覚悟していなかったわけじゃないが、洞窟の場合、音が反響して本来聞こえるべき音声よりずっと、いやはるかに、と言うかものすごい大音響だった。


それまでシンとしてたのが、突然の阿鼻叫喚だった。


誰も死んではいないが。ただ、自由が利かなくなっただけだが。


ぶぉっと魔力が舞い上がる。まるで渦を巻くようだ。目に見えるわけじゃないが危険だ。敵を探す、ある種の探査魔法だ。


カキンカキンと周りに張った防護魔法に魔力が当たり、金属製の音を立てる。


「マズイ」


相手の数が多すぎる。体の自由は利かないが、相手は魔獣。魔力は追いかけてくる。


「手にものを取れない分、物理的な攻撃にはならないが……」


アレンは派手な音と光を放って、駆け出した。魔力の届かないところまで。蜘蛛の糸をたどって。



ゼイゼイと息を切らして、光あふれる洞窟の入り口を出ると、アレンはウマのところに戻った。


ウマの方は魔力に巻かれたアレンを警戒して鼻をフンフン言わせたが、とりあえず認めてくれた。


「いい天気だな」


アレンは、チラチラ光が揺れる木陰に腰かけると、昼ごはんに手を伸ばした。


「少し放っておこう」


魔力切れを起こすまで。


多分彼らは必死だ。後ろ足を縛られたままの状態では動けない。紐は物理的にしっかり縛られているだけなので、アレンは魔力を使い続ける必要ない。焦った彼らが無駄に魔力を使い続け、疲弊するのを待っているのだ。


「うむ。うまい。魔力を使うとお腹すくな」


パンに豪勢に上等のハムとチーズを挟み、果物とお茶を持参した。お気に入りのパン屋でこっそり買い込んだリンゴのパイもある。ダグに見つかると、先に食べられてしまう。



「そろそろ行くか」


蜘蛛の糸をもう一度、洞窟の入り口に巻き付け、アレンは中に入った。


早くいかないと、他の魔獣が動けないシープドッグに襲い掛かって、魔獣の大宴会になっている可能性がある。


そんなことになろうものなら、アレン一人では収拾がつかない。


こっそり様子をうかがうと、相変わらずシープドッグ特有の臭い匂いと魔力は漂ってきたが、他の気配は伝わってこない。人間の方が死んでいたらどうしようと、一瞬心配になったが、ものすごく弱々しいものの気配はあったので、ほっとする。


出来るだけ、シープドッグを避けて、例の面倒な冒険者が隠れている小さな、崖の中腹にある洞穴に上がった。


「洞窟内の洞穴か」


高さがあるので、シープドッグは襲い掛かれなかったらしい。



(人に声をかける方が、なんだか度胸がいるな)


「あー、すみません。助けに来ましたよ」



指先に光を灯す。


疲れきった、人とも思えないくらい雰囲気の塊が四つあった。


叫ぶ元気もないらしい。


「水を」


黙って、水筒を差し出す。


「俺にも、俺にも」


どうも、余り仲の良いパーティではないと聞いていたので、水筒も食べ物も四つずつ用意してきた。


「あ、ありがとう……」


水を飲み、彼らは食べ物を黙ってたべた。


口を利く気にもなれないらしいが、しっかりアレンを見ていた。


「あっ」


そのうちの一人が叫んだ。


「あんた!」


アレンも首をひねった。見た目が汚れ切っているので、よくわからないが、なんだか知っているような気がする?


「ほら! シャンボール校の、魔獣狩りの時の!」


「……知りません」


あの時の付き添いの女騎士だった。


「学校なんか行ったことありません」


「おお、こいつのことは放っといてくれ。ありがとう。ありがとう。もうだめだと思ってたよ」


ヒゲ面の一番大柄な、多分リーダーだと思われる男が声をかけてきた。


「ライフガードです」


「え?」


「ライフガードと言うと、ダグの?」


他の二人も首を傾げた。


「そうです」


「ダグはどこに? ここにいるんだろ? お礼を」


「ダグは別の現場に行っています。僕は一応ダグの手伝いですね」


「……手伝い……」


手伝いごときに助けられるとは?

四人は、細くて痩せた様子のアレンの姿を穴が開くほど眺めた。


全然、強そうに見えない。


「お前ひとりで、あの数のシープドッグをやっつけたのか?」


「そうですね」


全員が黙り込む。


「どうやって?」


「外に出たらわかりますよ。とにかく戻りましょう。歩けますか?」


かなりしんどそうだったが、全員立ち上がった。


「獲物を持って帰りたいんだが」


「それは好きにしてください」


シープドッグはそれなりに重い。今の体力で持って帰れると言うなら、好きにすればいい。


「僕としては、一旦ここに置いておいて、あとで取りにくればいいんじゃないですか?」


「だが……」


「君にお礼が出来ないんだ。これを持って帰って売らないと……」


アレンは黙った。


彼は黙って、洞窟を降りると、ごつごつした岩面に立った。


一面、シープドッグが転がっている。


ついてきて、下をのぞき込んだ四人は驚き過ぎて声が出なかった。


「全部、僕の獲物です」


何頭いるのだろう。なんてことだ。こんな有様は見たこともない。


「だが……死んでいない」


ヒゲ面の男が、アレンを見ながら震え声で言った。


「ええ。あなた方を助けるために一時的に動かないようにしています」


彼らは本当に黙り込んだ。


「ライフガード。そう言うことです」


アレンは冷たく言葉を継いだ。


「助けるだけです。体力に余裕があるならシープドッグを持って行ってください。逃げるだけの時間、シープドッグは動かない。それ以上かかると動き出す」


四人は大慌てで、仕度を始めた。


余り体力が残っていなかったので、早くは歩けなかった。


「ちょっと、あんた。シャンボールの時のあの子でしょ?」


「違います」


アレンはうるさそうに言った。


「誰でもいいわ。あんた、すごい魔力持ちだってわかっているわ。あたしと組まない?」


「組みません」


「止めろ。こいつのボスはダグだ」


うるさく絡みつく女をリーダーらしい男がいなした。


出口近くになった時、アレンは言った。


「もうすぐ魔力が切れます」


全員が緊張した。


「ところで、シープドッグは角に値打ちがあるんでしたっけ?」


突然アレンが振り返って確認したので、チーム長の男がうなずいた。


数歩洞窟内に戻ったアレンは、軽く剣を振るった。


ごとごと言う音がして、角だけが五つ六つ洞窟内から飛び出してきた。


「重いですね」


アレンは拾い上げると、自分のウマの背にそれをくくりつけた。


四人は目を見開いていた。


角の切り口はまるで鏡面みたいにきれいだった。余程鋭利な刃物で切り取ったみたいな。


「さ。行きましょう」


「ウマに乗せてはくれないの?」


例の女騎士が不満を言ったが、その途端、洞窟内からものすごい叫びが聞こえてきた。


「あ、あれ……」


「シープドッグが自由になったんですよ。あのままではかわいそうですから。他の魔獣の餌食になってしまいます」


音は反響してワオンワオンと何回も聞こえてくる。


「さあ。早くいかないと」


四人全員は押し黙った。


シープドッグは、昼間は洞穴から出てこないことが多い。洞穴の中は、蝙蝠などはいるが、大型獣は彼らくらいなものだ。アレンの言う通り、今すぐ、明るいうちに逃げた方がいい。


「ウマ、乗りたいですか?」


「あの……いえ、結構です」


女騎士は小さな声で答えた。


格の違いを見せつけられて、態度が小さくなったらしい。


「皆さん、交代で乗った方がいいですよ。僕は平気ですから。体力が持たないでしょう。料金は後で相談しましょう」


四人は、こんな子供みたいな少年相手に、なんだか背中が寒くなった。

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