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最強の戦闘力と魔力。女子力ゼロの無愛想な美少女戦士は、自分を試したい。  作者: buchi
第1章 オーグストス魔法学院

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第26話 色気ゼロの魔法

翌朝、解体が始まり、競りが行われた。


昨日からぶっ通しの活躍で、さすがのダグもヘロヘロだったので、ギルド長が涙を浮かべてここは任せてくれと胸を叩いた。


「あの七人の仇だ。絶対安値にはしない」


と、請け負ってくれたが、その理屈がわからない。


値が高いと浮かばれるとでも言うのだろうか。


信用ならないので、ダグは結局最後まで立ち会ったが、どう言う訳か、宿の婆さんもやってきて、一銭たりとも負けないと言い募った。宿の婆さんの出番はないと思うのだが。



そして、その間、疲れ果てたアレンは宿のベッドで泥のように眠っていた。



アレンが起きたのは、大分、日が高くなってからだった。

ダグは当然もういなかったし、アレンはとりあえずギルドの食堂を目指すことにした。


「ねぇねぇ、ライフガードって、なんの職だか、よくわかんなかったけどさ」


ギルドの食堂で、娘たちが、しゃべっていた。相手をチラリとみると、ギルドの受付嬢のジーナだった。


「ギルド所属してなかったしね」


「魔獣狩りをしてないってこと?」


「そうよ。ギルドに入らないと、魔獣狩りは禁止。売買できない。ギルドの会員が襲われた時に、その魔獣をやっつける人なのよ」


「それって、すごくない?」


「そりゃすごいわよ。ライフガードは、冒険者稼業の人が追い詰められるような魔獣しか相手にしないからね」


受付嬢の鼻息が荒くなり、女の子たちはゴクリと乗り気になる。


「それって、最強ってこと?」


ギルドの受付嬢はうなずく。


「私、彼のこと、よく知ってるの。向こうも私のことよく知ってるわ。すっごくカッコいいんだけど、あんまり話さないようにしてるのよ。だって、長話になるんだもん」


アレンは、ギルドの受付嬢の声を聞いて、思わずチラッと顔を見てしまった。


長話になってしまったのは、主に、受付嬢のせいである。


彼女たちは、アレンが通りかかったのを見て黙った。


「ねえ、あの人、ダグさんの子分じゃない?」


誰が子分だ。


「でもさあ、ずいぶん……」


キレイな顔の……とか言う声がヒソヒソ聞こえてきた。


「きっと顔でダグを釣ったのね」


自分は漁師ではない。


イラッとした。



それにしても、町では、ライフガード・ダグの評判は否が応でも高まり、歩くたびにファンの女子にぶつかるくらいだった。



宿のおかみまで、金次第で部屋を貸してもいいと言い出した。


「だから、元々、そんな宿じゃないって、説明はするんだけど、倍額出すって言うんでね?」


「はい?」


何の話だろうと思いながら、アレンは聞き返した。


「なんの話? 誰がですか?」


「部屋じゃない。ベッドの貸し出し。ファンの皆様方からのお申し出だよ」


「ファン? 誰の?」


「ダグのだよ! 魔獣をあっという間にやっつけるほど強くって、男っぷりがいい。ほっとかれるわけがないだろう!」


宿のばあさんは強くうなずいた。


「お前さんさえ、うんと言ってくれたら、謝金の三パーセントくらいなら手数料として渡すよ」


「ダメですよ」


アレンは冷たく答えた。


「なんだい。あの男に未練があるとでも言うのかい? いつでも仏頂面してるじゃないかい! たいして親しそうでもないしさ」


どういう流れかますますわからなくなってきたが、要点はただ一つ、つまり、アレンのベッドを変われと言っているらしい。


「僕が寝るところがなくなるじゃないですか!」


「もちろん、別の部屋を用意してやるとも。その他に三パーセントだ」


アレンは、食事の支度の手を止めて考え出した。


金はいらないが、別部屋は魅力的だ。


アレンの代わりにどこかの魅力たっぷりの女性が隣のベッドにいたって、ダグがどんな反応を示すかアレンには見当もつかなかった。だが、嫌なら自分で断ると思う。案外喜ぶかもわからない。


「そうですねえ……」



「ダメだダメだダメだ」


婆さんが筋の浮き出た手を揉み揉みしていると、どっからかダグが湧いて出た。


「勝手をするな! 安眠第一だ」


それからアレンに向かって罵った。


「裏切り者!」


(なにが?)


アレンは心の中でぼやいた。

安眠第一は、アレンのセリフである。


ダグは吠えた。


「お前は俺を捨てるのか?」


(何、言ってるんだろう……)



アレンはダブダブの服をはしょって、宿のババアから譲ってくれないかと、もう三回くらい頼まれたお手製のコンロに向き直った。


交渉は当人同士ですればいい。


焼肉は火加減が大事だ。ダブダブの服しかないので、下手をして引火したら大ごとになる。


「一緒の部屋にいなくちゃダメだ」


おばばを説き伏せてから戻って来たダグが諭すようにアレンに言った。


「どうして?」


「前も言ったろう? 一日に一回、魔法をかけなきゃいけない」


アレンはもどかしそうな顔をした。


「その話、前も聞きました」


ダグがうなずいた。


「だけど、どうしてですか? 自分ではかけられない魔法なんですか? そんな魔法はないと思いますが」


「知らない魔法はかけられない。それだけのことだよ」


アレンは自分の魔法力に不足があるとは思えなかった。


「僕ではかけられないくらい、複雑で魔力を要する魔法なのですか?」


「違うよ。あんたは知らないからかけられないんだよ。だから、俺と一緒に居なきゃいけない」


「どういうこと?」


ダグがアレンの顔をじろりと見た。


そして座っていた椅子から立ち上がると、近づいて、抱きしめた。


「どう思う?」


耳元でささやかれて、アレンは一瞬我を忘れていたが、次の瞬間、ダグを殴り飛ばした。


「なにすんです!」


凄い音と共に、床に殴り倒されて、椅子の足に額を打ち付けてちょっと切れて血が出たダグが、寝たままものすごく渋い顔をして聞いた。


「どう思った?」


「変態親父」


「じゃあ、抱きしめたのが、ダルクバートンだったら?」


「え?」


「バートだったら?」


「…………」


「誰かステキな男性だったら? どう思うと思う?」


何の話か分からないとアレンは思った。


「だからね、アレン。俺のこと、男だと思っていないだろ?」


「そりゃ……」


簡単に肯定されて、ダグは目が死亡した。


「この町中で、一番かっこいいと言われているこの俺を」


「でも、ブゴイの捕獲のお手柄の半分は僕のものですよ?」


アレンは今日一日、腹に溜まっていた最重要問題を口に出した。

ダグに抱きしめられたり、宿のババアの変な提案より、はるかに気になる問題だ。


「わかってるって。だから、金も半分渡したし、ギルド長には事情を話したさあ。だけど、お前は目立つと見つかっちゃうから……」


アレンはため息をついた。




「いいかい? 俺の魔法は、色気をゼロにする魔法なんだ」


「色気をゼロにする魔法……?」


アレンは繰り返した。


「でも、なんで色気が出るの? とか、どうして色気に反応するの? とか、色気って何?って人は、かけられないの。何をどうしたらいいかわからないから」


アレンは黙ってダグの顔を見た。


「君は男子校にいた。本当なら、君が女の子だってだけで、周りの連中はものすごく騒いだと思う。だけど、色気シャットダウンしたので、誰も騒がなかった」


アレンは知らなかったし分からなかった。


「でも、例外がいた。バートとダルクバートン」


なんだか懐かしい名前だ。わずか二週間しか前じゃないのに。


「バートは感知の魔力が突出していた。君のことを最初から女の子なんだと、わかっていた」


そうかも知れない。バートの妙なやさしさと、いつでもかばうような、守ってくれるような雰囲気は嬉しかったが、同時にいつもなぜだろうと気になっていた。


「ダルクバートンは……ダルクバートン以外のフィデルやガストンも、同じだったけれど、一緒に魔獣の遠征に出たよね。三日間も色気ゼロ魔力を維持することが難しかったので、最初から女の子でいってもらうつもりだった」


それで、あの妙な格好だったのか。ミニスカートの。


「あのミニスカートなら、誰も女の子だってこと、疑わない。社会には女性を守る意識と言うのがあるんだよ。ましてやあの場は学校だ。変なマネは誰もしない。同性の付き添いもいただろう? 俺の魔法が薄れてきても、女の子だ。そこは守られる。男だと思われていたら、接近された時、気づかれる可能性がとても高くなる……」


「あ……」


ダルクバートンに抱きつかれた時のことを思い出した。


「なんかあったのか?」


ダグの目が鋭くなった。


「言え」


「あの……ダルクバートンに、抱き着かれて。ダルクバートンは僕がラバンイーターと戦うのを止めようと……」


「あー……」


ダグがため息をついた。


「それで気づかれたのか……俺はまた、あの連中で最も魔力が強いのがダルクバートンだったので、そのせいかと思っていたが、ヤツに近づいたのか。それはバレるな」


「バレるって……」


ダグは仕方ないと言う顔で解説した。


「男はきれいな顔立ちの、胸や尻の大きな女性らしい体形の、細い女を好む。一般的にはね」


「僕は女らしくない。それにそんなこと、僕だって知ってますよ」


「じゃあ、自分がとてもきれいな顔をしていて、だんだん女らしい恰好になっていっているってことは?」


アレンは急に真っ赤になった。


「そんなことありません」


「多くの人間がそう言う傾向を持つ。君を貴族の令嬢として扱わないなら、魔法は必要だ。女性じゃないと認識してもらうために。でないと、あちこちから嫁に欲しいと言われるだろう」


「嫁には行きません」


「そんなわけにはいかない。今の君は平民だ。魔力以外に力もない。ふんだんにある魔力は披露するわけにはいかない。どうしてだか知っているよね?」


アレンは黙っていた。


「君は国王の婚約者だ。アレンと言う名前でなくても、どんな個性でも、生まれた瞬間から決まっていた。膨大な魔力がある以上」


ダグは続けた。


「ダルクバートンのダレン家だって同じだ。魔力の持ち主と結婚して一族にその血を迎え入れたい」


「ダルクバートンは、そんなつもりじゃなかった……」


ダグはうなずいた。


「むろん、ダルクバートンは違う。君に惚れ込んだ。だが、彼の両親にしてみれば同じだ。むしろ都合がいい。ぜひとも妻にと彼は望み、両親も調べがついた途端にそれを認めた」


どうしたらいいのだろう。


「いつまで逃げたらいいのかと思っているだろうけど、それには回答がある。自分が何をしたいか決まった時、逃げ回ることはなくなるんだ。俺はその時間稼ぎを手伝っているだけだ」


「先生?」


「例えば、このノワルの国で、君が誰かと恋に落ちたら、色気ゼロの魔法は要らなくなる。色気全開で、好きな男と幸せに暮らすといい。国王やダルクバートンの妻になる場合も、魔法は要らない。男並みに、剣や魔獣狩りをしたいなら、色気ゼロの魔法は大騒ぎにならないために必要だ」


「魔獣狩りや剣はあきらめろと?」


「そんなこと言ってない。その頃には色気がなんだか理解してるだろうから、自分でかけられると思うよ」


ダグは諦めたような、呆れたような調子で言った。


「冒険者や魔法戦士になるのも君の選択次第だ。だけど、とりあえず、今は、男を意識して欲しいな。色気ゼロの魔法を自分でかけられるようにね。今のままでは、自分ではかけられない。事情を知る誰かにかけ続けてもらわないといけない。俺から離れられない」


アレンは額に一筋の血を流しているダグを見つめた。


(先生、ごめん。変態親父って言って)


ハッと我にかえって、治癒魔法で自分が殴った跡と額のけがを直した。


(なんていい人だったんだ)


本気で殴ったわけじゃなかったので、運悪く、椅子の足に当たらなければ血が出るなんてことなかったはずだ。


(男を意識しろと?)

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