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最強の戦闘力と魔力。女子力ゼロの無愛想な美少女戦士は、自分を試したい。  作者: buchi
第1章 オーグストス魔法学院

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第21話 ダンスパーティ2

そういやこの前は、アレンが話さないで済ませるように、先生が代わりに話してくくれたっけと、ぼんやりアレンは思い出した。


でも、今日は先生はいない。


どうしたらいいのだろう。


どうして声紋の魔術の説明だけして、声を変える魔法を教えてくれなかったのだろう。


相手は声紋の魔力持ち。一度でも声を発すると誰だかバレてしまう。


今のドレス姿の女性と、この前街中であった女性、それから魔獣狩りの演習でシャンボール校の生徒と名乗った少年、それからオーグストスに通うアレン……


全部重なったら面倒だ。


そして、多分声紋の魔法を持つダルクバートンは、学内でたった一人、証拠を握っている。


とにかく喋るわけにはいかない。


でも、何も言わないのはおかしい。


(魔獣狩りの方がよっぽど楽だ……)


「申し訳ない。急に話しかけて……ご気分を害されたのでなければいいのですが」


いいえ……と言いたかったが、話せないアレンはちょっと微笑んで首を振った。


しかしながら、これはダルクバートンには電撃のような効果があった。


なになに? どうなっちゃってるの?


彼はパッと顔を赤らめると、嬉しそうに近づいてきた。


「もし、お差し支えなければ、ぜひ、隣に掛ける栄誉を賜りたいものです」


何言ってんだ、である。


むやみやたらに女性の隣に座っていいものではない。それくらいわかっていると思う。いくら侯爵家の跡取りで、どんな女性からもイエス一択しか返ってこないに決まっているとしても。


でも、口を利くわけにはいかない。


そこで、軽く頭を左右に振ることによって、なんとか拒絶を示そうとした。


まるでパントマイムだ。そう思うとアレンは内心げっそりした。


ダルクバートンは、この前、魔獣狩りに行って以来様子がおかしい。今晩は特に変だ。


ダルクバートンが実はいいやつなんだということは、先生に説教されて気がついた。


人間が上等。それはその通りだった。


剣術が思うほど上達せず、彼を羨んでいた自分は、割と小さくて惨めな人間だった。


今更ながら、それを思うとちょっと意気消沈した。


自分にとって、魔力は大した問題ではなかった。だけど、ダルクバートンにとっては違う。

剣の強さは、ダルクバートンにとって大した問題ではなかった。だけど、彼はその力をアレンに振るおうともしなかったし、馬鹿にしたような真似をしたこともない。いつだって、ちゃんと相手してくれた。


アレンはそんなことを考えながら、ダルクバートンの顔を見ていた。


見習わなければならない。


たとえ自分がどんなにいいところがないにしても、だからといって、ひがんだり、いいところを見せようとして他の人を危険に晒すことは大間違いなのだ。


「失礼しました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか? ああ、申し訳ありません。私は、ダレン侯爵家のダルクバートンと申します。以前、お目にかかりましたよね? あの時、別な社交的な会で会ったなら、お名前をお聞かせ願えると伺いました」


そこまで、具体的な話にはなっていなかったと思うのだが。


しかし、ハッと気がついた。


話がわかったように振る舞ったら、例の四人が同一人物ということになってしまう。


そこでアレンは曖昧な笑みを浮かべた。


とにかく先生に早く戻ってきてほしい。


もう、戻ってくるなと思ったけど、こうなったら先生に救出してほしい。


「ねえ、あなたはどう思ってらっしゃるのかわかりませんが、そのドレスはとてもお似合いです」


ダルクバートンが真面目な顔で言い出した。


「あなたの髪と目の色を引き立てて見せる。今晩のこのホールでも、あなたほど綺麗な方はいません。もし、私がここにいなかったら、他の誰かがきっときていたと思います」


アレンはちょっと目を見張った。


ただ、この話は理解できてもよし。なんだか、変な話題だけど。


ダルクバートンは、クスッと笑った。


「初めて出席される方は、いつでも注目の的ですよ。でも、今晩は特別です。あなたがいらしたから」


ダルクバートン……学校でのキャラと違いすぎないか?



その時、キャアキャアと甲高い声をまとわりつかせた大柄な人影が、早足でやってきた。


「ダグラン卿! 戻ってこられたのね!」


「覚えてらっしゃる? 一年前、ご一緒しましたワーナですわ! 今夜はゆっくりされるの?」


「後で、一曲相手をしてくださらない?」



(あてがあるって、あれのことか……)


声が大きいので、アレンもダルクバートンも一瞬、その男と、付き纏っている何人かの女性の方に目を向けた。


「いや、今日は踊らない予定で……そうですね、楽しかったですねえ、今晩は所用で来ましたもので。人から、ちょっと頼まれまして」


頼んでいない。


「あっ」


先生がダルクバートンと困った様子のアレンをやっと発見した。


ダルクバートンは先生を見て、なんだ、こいつみたいな顔をしているし、アレンは明らかにほっとしたような顔をしている。



「これは……ええと、フローレン嬢と……」


「ダルクバートン。ダレン侯爵家の長男です」


「え?」


と言ったのは、先生にくっついてきた女性たちだった。


「まああ……ダレン家の御曹司……」


「こんなパーティには来られないと思っていたのに」


「……ちょっと。これはチャンス。これはチャンスよ?」


アレンは感知の魔法力がある。


聞こえる。


オッケー。全然オッケ―です。


誘われて、一緒に行ってください、ダルクバートン。


一瞬で標的は変更された模様だった。


「フローレン嬢。だいじょうぶだった?」


アレンはしゃべれないことを伝えたかった。


口元に手を持っていく。


「あらあ。あの子、しゃべれないのかしら?」


たちまち、周りがこそこそささやき始める。


先生は眉をしかめたと思うと、話していいよ、フローレンと言った。


多分変声の魔法をかけてくれたのだろう。とにかく魔法に関して先生は便利だ。小手先のスパイみたいな魔法は、実によく知っている。


「フローレン・ダグラン嬢ですよ」


ダルクバートンとついてきた女性たちの顔を相互に見ながら先生は説明した。


「従兄妹なのです」


「そうなのですか。先日は失礼しました。今宵はお名前を教えてくださってありがとうございます」


それからちょっと先生をにらむように見た。


「今晩も教えていただけなかったら、父に頼んで調べてもらおうかと思っていました」


「これはまた」


先生はわざとらしく驚いた様子をして見せる。


「そんなに秘密めかした話ではありません。どうぞお見知りおきを。さあ、フローレン嬢、ダレン侯爵家のダルクバートン様にご挨拶を」


口を利くのもめんどくさい展開にうんざりしたアレンは、話すことはあきらめて、丁重に侯爵家の御曹司に礼をした。


「あのっ、ダグラン卿、私たちのこともダルクバートン様にご紹介していただけないかしら?」


いいじゃない!


アレンは期待を込めて、先生ことダグラン卿の顔を見つめた。


「いや、それは、ダレン家のダルクバートン様が何とおっしゃるか……」


「みなさんでお話すればいいじゃございませんこと?」


アレンが言った。ダルクバートンとのタイマンは避けたい。

変声の魔法の効験はあらたかであった。

アレンの声は、いかにもかわいらしい高い声に変わっていた。


「そうではないのよ。あなたは別にお一人でいいと思うの」


ダグラン卿についてきて、ダルクバートンの顔を見た途端に宗旨替えをした若い女の一人がアレンに言い放った。


なんてことを言うんだ!


「そうなのですか」


うっかり肩をすくめそうになった。


少し離れたところでは、ダルクバートンとダグラン卿が火花を散らしていた。なんでなんだろう。


出来れば帰りたかった。


「ちょっとあなた。ダグラン卿の従兄妹ですって? 卿に親戚がいるだなんて聞いたこともないわ。どこから来たの?」


すごい上から目線だ。


今回ばかりは自己紹介できなくて心底残念だった。


商人の娘風情が、辺境伯令嬢に向かって上から目線とは何事だと、ダルクバートンのお付きみたいなことを考えてしまった。


「その衣装、ダグラン卿に無心したの? ずいぶん食い込んだものね」


確かワーナ嬢とか言ったな。人を何だと思っているのかしら。


「フローレン嬢!」


決着がついたのか、着かなかったのかわからないが、ダルクバートンが大股で近付いてきた。


見ると女性のうちの一人に、ダグラン卿は捕まっていた。なんだか腕を振り放せないらしい。


「さあ、卿は放っておきましょう。なにやら、一緒に来た女性たちと話があるようですしね」


先生が変声の魔法をかけてくれてさえすれば、とりあえず先生にも用事はない。


それに先生は、恋人を探すんだと言っていた。アレンは数えてみた。連れてきていた女性は全部で三人ほどいた。あの中に意中の人がいるのだろう。まあ、ワーナ上は論外として。


「ダグラン卿は、どなたか意中の方がいらっしゃるようにお聞きしています」


「そのようですね。よかったですね。落ち着いて話が出来るように、我々はここを離れましょう」


我々は、というくだりが気になったが、その次の言葉を聞いて気が変わった。


「軽食はいかがですか? たいていのパーティは食事に趣向を凝らしています」


食事! 正直、緊張していたアレンはのどが渇いていた。お腹も減っている。


「できれば、飲み物をいただきたいですわ」


ダルクバートンの顔がふっと緩んだ。


「ダグラン卿も頼んでいたようですが……」


見ると給仕が食事を運んできていた。あれは本当はアレン用だったのだろうが、多分、あの女たちに全部食べられてしまうだろう。


「大丈夫ですよ。僕と一緒なら、飲み物に不自由するなんてことありません」


ちょっとアレンが不思議そうな顔をしたのかもしれない。ダルクバートンは説明した。


「マドレーユは港湾自治領ですが、隣接した土地はダレン家の領地です。僕の顔を知らない者はいません」


周りがチラチラとダルクバートンと、一緒に居るアレンの顔を見ていた。


それはそう言うことなのだろう。


さっきの小太りの会頭がダルクバートンを見つけて、そばに寄って来た。


「ダレン様。本日は私どもの会にご参加くださいましてありがとうございます」


ダルクバートンは軽くうなずいて見せた。


「一参加者だ。会頭のサンダー氏にあいさつされるとは痛み入るよ。お気遣いなく」


こっちはこっちで物慣れた対応だ。


ちょっと感心した。


その視線を感じ取ったのだろうか、抑えても抑えきれない微笑みがダルクバートンの顔中に広がった。


「さあ、お姫様。座りませんか? そしてマドリーユ名物のエビの殻焼きを召し上がりませんか?」


なんだか見ないようなふりをした大勢の視線を浴びながら、アレンはダルクバートンと一緒に、食べやすいように切ってあるエビの殻焼きと、そのほかこぎれいでおいしい軽食と、飲み物を勧められるままに食べた。


「かわいい……」


うっかりダルクバートンが目を細めてつぶやいた。


ダルクバートンがおかしい。


だが、実はダルクバートンは初対面ではない。さんざん剣のけいこも付けてもらったし、自分の中ではすでに黒歴史化している魔獣狩りにも同行した。


むしろ何の遠慮もいらない気安い相手だ。


「だれ? あの知らない娘。ダルクバートン様に気安く。商工会のパーティにしか来たことがないなんて、貴族ではないでしょうに。最高のご身分のダレン家のご子息に……」


誰かの声が聞こえた。


「かしましい者もいるようですが……どうか気を悪くなさらないで。あのような者は失礼の極みですから……」


ダルクバートンが微笑みながら、アレンに向かってよく響く声で言った。

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