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こりゃ!退助!!~自由死すとも退助死せず~【完全連載版】  作者: 米森充


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第33話「諸君!!」


 1874年(明治7)年1月12日、幸福安全社を基礎に広く同志を集め、東京銀座の副島邸に愛国公党を結成。日本初の政治結社となった。

 その理念は、天賦人権論に基づき、基本的人権を保護し、政府に民撰議院設立を要求する事にある。

 退助は象二郎、江藤新平、小室信夫、由利公正、岡本健三郎、古澤滋らと共に左院に対し『民撰議院設立建白書』を提出した。

 だが大久保率いる政府に時期尚早として却下される。


 退助たちの行動は実に画期的ではあったが、永く封建制が続いた明治初期には民主主義の概念が存在しない。やはり、大久保の言う通り時期尚早であった。


 退助は思った。


 日本全国に我らのこころざしを伝えねばならない。粘り強く訴えなければ、機運は育たない。


 それならばワシは国許の土佐に帰り、まず、土佐人に浸透させる。初心に還り土佐で同志を集めるのだ。そして戊辰戦争の時のように、先頭を切ってこの国を変える戦いに打ち込もう。

 そう決心したらその後の行動は早かった。


 土佐に帰るとすぐに演説会を開催する。弁士は勿論このワシ、板垣退助である。

 象二郎が心配した。

「退ちゃんが弁士で大丈夫じゃろか?わしゃ、心配じゃき。」

「ワシの何処が心配じゃ?ワシの申す事は、いつも完璧じゃろが!」

「退ちゃんが完璧?本妻の展子ひろこ殿の前でもそう言えるか?確か昨日の夜も地雷を踏む音が土佐中に響いておったぞ。」

「ここで展子ひろこの名を出すでない。大体象二郎は作り話が大げさでいかん。ワシがいつ展子ひろこの地雷を踏んだ?その地雷の音が土佐中に響きわたる?ワシは展子ひろこなんぞ、怖くはないゾ。」


 すると背後から展子ひろこが近づく。

「あなた・・・。」

「ワッ!」 退助が怯えた声で叫び、飛び上がって振り返った。

 展子ひろこは怖い目をしながら、「私の事で、何かおっしゃいましたか?」


「おお、展子ひろこ、応援に駆けつけてくれたか?これは心強い!展子ひろこが居れば千人力、万人力、億万人力じゃき。」

「私は化け物ですか?」

また早速地雷を踏み、象二郎がクスッ!と笑う。

講演のエピソードとして格好の餌食となる哀れな退助。


「ウォッホン、とにかくワシは迅衝隊じんしょうたいや断金隊の前で毎朝訓示をたれた身ぞ。演説なんぞ朝飯前じゃ!」

「確かに朝飯の前に訓示をたれていたかもしれぬが、それは意味が違うと思うぞ。」

「いや、それこそ意味が違うじゃろ?そうじゃなくて・・・。えぇい、面倒臭い!とにかく見ておれ、ワシの一世一代の名演説を。」

「はいはい、聞かせていただきます。」

展子ひろこと象二郎が同時に言った。





     退助の演説



「諸君!!



 我々は今、重大な岐路にきている。徳川260年、永く永く風雪に耐えてきた。

 私が昔、免奉行をしていた折の見知った面々もこの中には居るようだ。あの頃私はここに集まる諸君から、多額の税を取り立てる立場だった。

 諸君は涙を流す想いで税を納めてくれた。私は思い出すだけで頭が下がる。

 しかし、それは当時の制度として当たり前と思っていた。諸君、そして私もだ!だが、本当にそれは当たり前だったのか?これから私は、「有難い」話をしよう。


 諸君!諸君は今の税をどう思う?

 仕方ないか?もう少し減らして欲しいか?もう、納めたくはないか?さぁ、どう思っている?


(会場の聴衆から)

「減らして欲しい!」

「納めなくともよいなら、納めたくねえ!」

「そうであろう!でも、それを決めるのは誰か?」

 (聴衆)「お上。」

「今まではそうであった。でもいつまでもそれで良いか?不作の時も同じだけ納めるのは苦痛であろう?ではどうする?治める税額を決めるのが、自分たちならどうする?

(聴衆)「そんな事ができるのか?」

    「そんなの夢の様じゃ!」

「税だけではない、誰もが読み書き算術を学び、やりたい職業に就いてみたいと思わぬか?百姓が医者になってはいけぬのか? 商いがしたい漁師が居てもおかしくなかろう? 誰もが好きなところに行けるのはどうじゃ?

 私はハワイに行きたい!草津の湯でも良いぞ!身分を気にせず、好きな女子おなごと添う事ができたら、とは思わぬか?」


 (聴衆)「思う!」

     「ワシもじゃ!」(笑)


 「我が子に明るい未来を与えたいとは思わぬか?子にたらふく喰わせたい、子を良い仕事に就かせて生涯裕福な生活をおくらせたいとは思わぬか?そういう願いを持っても良いのだ。

 そしてそういう願いを実現する権利を基本的人権と呼ぶ。

 そしてその基本的人権を実現し、維持するには、自由と平等と云う概念が必要になる。

 自由とは好きに生きる権利であり、平等とは誰もが等しく機会チャンスを持つ事である。

 しかし、そのどちらも責任が伴う。責任無くして権利はない。

 好きに生きるのも機会を得るのも責任が無ければ成り立たないのだ。

 税金が無ければ、それはそれは楽であろう。でも、税が無ければ幸福に暮らせる制度も作れぬ。外国に攻められても抗する事はできない。学ぶ場所も必要、祭りごとを論ずる場所も必要。実行する機関も必要である。

 ただし、今までそれを決めてきたのは幕府であり、それぞれの藩であった。

 幕府の責任、藩の責任で祭りごとは成されてきた。

 でも、もしこれから先、それらを全部自分たちで決めることができたら不満が減るとは思わぬか?希望が持てるとは思わぬか?

 自分がしたい仕事を思うように、したいように出来たら意欲が湧くとは思わぬか?

 今までの世はそれらを全部諦め「仕方ない」と思うのが当たり前であった。

「自分が決める」そんな事はあり得なかった世、即ち、有難い世を「ありがたい」世に造り変えるのだ。

 そしてそれができるのは、心をひとつにし力を合わせた諸君である。

 希望を以って、信念を持って、自分たちが主体となった政治をつかみ取れ!」



 (聴衆)「ワシらにそんな事ができるのか?」


 「出来る!ついこの前、おはんら土佐の男たちが先頭を切って、あの強大な幕府を倒したではないか!

 但し、私は諸君に人同士が殺し合ういくさに身を捧げよと云うておるのではない。

 私は今諸君に求むのは只一点のみ!自分自身との戦に挑め!自分に沁みついた諦めと戦え!

 人に支配されるのを当たり前と思うな。意味もなく偉いものにへつらうな!自分を卑下するな!しもべ根性を拭い捨てよ!諸君にも覚えがあろう?「へぇ、へぇ、」と偉き者に平伏する自分の姿を。

 しかしそれは諸君のせいに非ず。全国に蔓延した社会制度にあり。

 「どうせ俺なんか」という思考を捨てよ。自由獲得の舞台に立つ前に、そうした自分の意識を捨てよ!

 自由とはその戦いに勝った者だけが得られると心得よ!更にその先に平等との戦いが待っておる。

 

 もう一度云う。意識を変えよ!

 自らのため、後に続く子らのため、今こそ立ちあがるのだ!諸君たちなら必ずできる!!

 我らは今、民撰議院設立建白書を出さんと欲す。

 何度政府にはねつけられてもだ!自由も平等も、その先にあり!

 今こそ広く会議を起こすため、諸君の奮闘を求む!


 以上。」



 この演説を聞いた谷千城は「退助の演説は酷いもんじゃ。まるで教養と云うものを感じん。学問を怠けた者の演説など、聴くに堪えん。」との感想を述べている。(国粋主義に傾倒してゆく谷には、退助の演説が糞に思えた)

 さて、これを読んだあなたの感想は如何に?







        つづく


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