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トンネルを抜けたら異世界だった  作者: 白村
第一部 ギオールの街編
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第九話 マミへ報告

朝、目が覚める。


ベルが来てから二度目の朝だ。


今日もベルは俺に抱きついて寝ている。


昨日は部屋に戻ってから、

すぐに食事しに出て行き、

戻って来て直ぐに寝てしまった。

気づいたらだいぶ遅い時間だったからだ。

俺は良いがベルはちゃんと寝かせてあげないとね。


寝る子は育つなのだ。


しかし横になったままでは何もできない。

暇だな。


杖もテーブルの上にある。


杖を見つめる。


そういえば魔法ってけっこう万能なんだよな。

超能力みたいな事できないかな?


そう、例えば念動力、

サイコキネシスだ。


俺が子供の頃、

ユリ・ゲラーがテレビで話題になり、

超能力が流行った。


みんなスプーン曲げを試してた。

曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれ曲がれと念じたもんだ。


中学生の頃の俺は、

本気で自分に超能力があるのではないかと思っていた。

厨二病だったなぁ。

厨二病の不良って、ちょっと黒歴史だな。


この世界では俺には魔力がある。

厨二病が現実になってしまった。


いやむしろ厨二病の方が、本気でいろいろ妄想してたから、イメージ出来てたかもしれない。


と、いうわけで、

俺は杖に手を伸ばす。


サイコキネシスなら、

動け動け動け動けって念じるところだけど、

魔法は違う。


俺は杖が手に飛んでくるイメージをする。

杖を手にした時の感触を思い出し、

飛んできた杖をキャッチするイメージ。


「来い」


・・・・・・・・杖は動かない。


んなわけねーか!


苦笑して、天井を見上げて、

両手を頭の下に入れる。


ゴツっと何かが頭に当たる。

ん?!


手のひらと頭の間に硬い物がある。


へ?!


硬い物を掴んで目の前に出して見る。


杖じゃん!


「えー!うそっ!」


テーブルを見ても杖はない。

俺の手の中だ。


「ん…ご主人しゃま??」


ベルが起きた。


「べ、ベル、俺今凄い事しちゃったみたい」


◇◇◇◇◇◇◇◇


着替えてからベルは朝食、

俺は朝のコーヒーを済ませ、

今商店街に向かっている。


ベルには、『サルでもわかる魔法入門』を入れた皮鞄を持たせてある。


目的は雑貨屋のマミ婆さんだ。

魔法が使えた事の報告と、

今後の習得に関する相談だ。


それが済んだら貧民街に行く予定だ。


ベルにも貧民街を見ときたいと言ってある。

最初は戸惑っていたが、

元々貧民街の現状を変えたいと言ってきたのはベルだ。

とりあえずは第一歩として()()()()()もある。


昨日はちょっと急ぎ過ぎて金物屋で躓いてしまった。

きちんと段取りをしていなかったので、

今日からはその段取りだ。


とりあえず急がないと、10歳未満の子を弟子にしたと言う噂が広まって、

俺の所にたくさん子供が来てしまいそうだ。


俺としてはただ単に可愛い女の子を引き取って娘にしただけで、弟子にしたつもりはないんだけどな。


さて、最初の目的であるマミ婆さんの店だ。


「おはようマミ婆さん」


「おはようございます」


「おや、おはよう、早いじゃないか、魔法書は読み終わったのかい?」


「一応読みましたが、半分以上ちんぷんかんぷんです」


俺は苦笑して答える。


ベルが俺を見つめて小声で言う。


「ご主人さま、嘘言ってる」


「しー!」


「ひゃひゃひゃひゃ、そんなこったろうと思ってたよ。ベルちゃんは賢いねぇ、もう『見抜く』事が出来るのかい?」


「それだけじゃないんですよ、『見習い』もいけてます」


「ほぅ、どんな事が出来るようになった?」


とりあえず俺は昨日帰ってからの事を順番に話していった。


イメージで魔法が使えた事、

その様子を見せたらベルも同じ事が出来るようになった事、そして今朝の事だ。


マミ婆さんは難しい顔で考え込んでいる。


「まずサクラ、火を見せてみな」


俺は杖を取り出して言った。


「チャッカマン」


カチッと火が出る。

しかしいつもそうだが、

火は段々小さくなって数秒後に消えてしまう。


「チャッカマン?確かマサユキが言ってたね、らいたぁと言うやつかい?」


「あぁそうです、ライターですね」


「ベル」


俺が呼ぶと、ベルは頷いて杖を出す。


「かっちゃまん」


カチッと火が出る。

俺の時と同じように数秒で火は消える。


マミ婆さんは驚きを隠せなかった。


「詠唱が違うねぇ…」


「これでも詠唱って言えるんですか?」


「ん、まぁ言えるだろうねぇ、詠唱は頭の中で構築する助けになるものだから、何語でも良いんだ。」


「それは田中雅之氏の本にありましたが、これだと4段階踏んでない気がするんだよなぁ」


「いや、たぶん合ってるはずじゃ。ベルちゃんはお前さんの魔法を『かっちゃまん』で覚えた。じゃからその火の魔法は、ベルちゃんの頭の中では、『かっちゃまん』で構築されるんじゃよ。」


言ってる事は解る。

言葉の意味が分からなくても、一度『かっちゃまん』で魔法を体験しているから、『かっちゃまん』で構築されるんだろう。これがザーザードだとしても、それで体験すればザーザードで構築されるんだろう。

しかし構築という概念にどうも引っかかるし、かっちゃまんの一言で4段階踏んでるとはとても思えない。


これじゃ詠唱は何でも良いって事になる。

なにもわざわざ意味の解らない龍語を使う理由が解らない。


難しい顔をしている俺に、マミ婆さんが何かを察したように話す。


「釈然としない顔だねぇ。納得いかないかい?お前さんの考えを当ててやろう。龍語を使う理由が解らんのじゃろ?」


「正解です。なんで分りましたか?」


「ひゃひゃひゃひゃ、マサユキと同じ顔をしてたからじゃ。わしもマサユキと旅をしていてだいぶ影響を受けたからの。忘れてたわ。説明してやろう」


マミ婆さんは俺の疑問を見透かしたように説明してくれた。


この世界では龍は神格化されている。

この世界を創ったのも、救ったのも、龍神だと信じられているそうだ。

だから年号が龍暦なのだとか。


そして魔法と言う物を最初に考え出したのも、龍神だとされている。だから龍語以外で魔法は使えないと信じ込まれているそうだ。


そう、魔法を習う時、龍語以外は使えませんと最初に言われるんだとか。


先生や師匠にそう言われれば、

信じ込んでしまうだろう。

マミ婆さんも田中雅之氏に会うまでは、

龍語以外での魔法はあり得ないと思い込んでいたそうだ。


その点、俺や田中雅之氏は異世界人で、

そんな先入観もなく魔法が行使できてしまった。しかも変な詠唱で。

ベルもそうだ。魔法の教えなんて縁の無かったベルは、俺と一緒にいるから変な先入観を持たなかった。


ちなみに田中雅之氏も「チャッカマン」と唱えていたそうだ。

日本人はみんなそう言いそうだな。


と言うわけで、

俺の疑問は解けた。

詠唱は何でも良いんだな。


でもそうすると、

『選択、用意、効果の付与』は?


ん?まてよ?

この段階を構築すると思うから引っかかるんだ。

構築じゃなくて『イメージ』すると考えたらどうだろう。


詠唱が何でも良いなら、イメージしやすいワードを言えば良い。

チャッカマンが正に良い例だ。

さらに何も言わずにイメージだけで魔法を使えるなら、それが無詠唱だ。


あ、俺もう無詠唱してるわ、ベルもだ。


「んじゃ次を見せておくれ」


そう言うとマミ婆さんは、釘を出してきた。


「これを刺しても良い物は?」


「これなんかどうじゃ?」


マミ婆さんは奥から板の切れ端を持ってきた。厚みは12ミリくらいか。


「十分ですね。んじゃやります」


俺は左手で釘を立てて、

杖を振る。


ガチっと音を立てて釘が板に刺さる。


「ほほう」


マミ婆さんの感心する声がした。


「んじゃベル!」


「はい」


ベルも俺と全く同じ動作で杖を振る。


ガチっと音を立てて釘が刺さる。


「あらぁ凄いじゃないかベルちゃん、あたしゃ感心したよ」


マミ婆さんが少々大袈裟にベルを褒める。

ちょっとハニかんだベルがめちゃ可愛い。


てか婆さん、

俺も褒めろよ。


「さぁ次だ。お前さんが今朝やったってやつを見せておくれ」


俺は杖をカウンターの上に置いて、

3歩ほど下がる。


右腕を杖に向かって伸ばし、

手のひらをかざすと言うよりも、

握手に近い形で杖に差し出す。


今朝やった通りイメージしていく。


杖がこちらに飛んでくるイメージ、

杖を握った時の手の感触、

杖をキャッチするイメージ。


「こい」小声で囁く。


・・・・・・・・


今度は目を離さないで杖を見ていた。

するとどうだろう、

カウンターの上の杖がだんだんと透けていく。

逆に手の中に薄く杖が現れてきた。


こういう事だったのか。

カウンターの杖は消えて、

手の中に具現化した杖があった。


へへへ、やったぜ!

ドヤ顔で婆さんに振り向く。


マミ婆さんは驚いていた。


「こりゃぁ凄いのぉ、ベルちゃんは出来るのかい?」


「あたしもこれは初めて見たの。できるのかな?」


驚き顔のベルに、ちゃんと『見て』いたか聞いてみると、『見て』いたと返事した。


「やってみな」


マミ婆さんがベルを促す。


結論は、ベルには出来なかった。

「できないの…」


ちょっと落ち込むベルにマミ婆さんは言った。


「ベルちゃんや、これは高位の空間魔法だ。まだベルちゃんには無理かも知れないが、ちゃんと魔法の練習をしてれば必ずできるようになるさね。こんなのが直ぐにできるサクラがおかしいんじゃよ」


「うん…」と頷くベル。

上目遣いで婆さんを見ている顔も可愛い。


マミ婆さんはちょっと考えて、


「サクラや、次はこれでやってみな」


そう言うとマミ婆さんはカウンターの上に先程の板に刺さった釘を置いた。

マミ婆さん曰く、

杖と同じ事ができれば、釘だけを手にする事が出来るそうだ。


結果は出来なかった。

板から釘を引っこ抜いて釘だけで試しても出来なかった。


マミ婆さんが言うには、

自分の魔力を吸った杖だからこそ出来たのだろうという事だ。


「これは空間魔法の転移のひとつじゃ。今は何となく感覚的にやっとるようじゃが、ちゃんと魔力の流れを感じれるようになれば、収納魔法も簡単に使えるじゃろ、しかし空間魔法をいきなり見せられるとは思わなんだわ。大したやつじゃな。」


そう言ってマミ婆さんは、ちょっと待っとれと言い残して店の奥に行ってしまった。


しばらくして戻ってきたマミ婆さんは、

俺たちに石を渡してきた。

直径4センチ程の球体だ。


色は真っ黒。


「それは魔石じゃ。本来なら綺麗な青色なんじゃが、魔力を無くして汚くなっておる。これに魔力を込めて、また魔力を抜いてを繰り返して青色になるまでやりな。お前達がまず覚えるのは魔力の流れじゃ。これができたら身体に流れる魔力を感じ取れるようになるじゃろ」


なるほど。修行ってやつだ。

習得方法を聞きたいと思ってたから、

ちょうど良い。


「ありがとうございます。やってみますよ」


「ありがとうございます」


「うむ、やり方は教えないぞ。それぞれ自分の感覚で覚えるのじゃ。あとは覚えてからじゃな。」


「分りました。あ、そうそう、あと別件でお願いあります。鍋とか預かって貰ってる物で、使う時にはお願いします。」


「ん、了解じゃ」


俺達はマミ婆さんに再度礼を言って雑貨屋を後にする。


腹が減ったので、食事処で昼飯を食って、次の目的地、貧民街へと向かった。

【読者の皆さま】


いつも読んでいただきありがとうございます。



小心者の私に、


↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。


よろしくお願いします!




白村しらむら


↓ 作品一覧はこちら ↓

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