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トンネルを抜けたら異世界だった  作者: 白村
第一部 ギオールの街編
8/87

第八話 魔法とイメージ

俺は今、買って来た魔法入門書を読んでいる。


マミ婆さんに基本的な知識から頭に入れとけと言われて、

宿に戻って勉強中だ。


金物屋で買った物は、マミ婆さんの収納魔法で預かって貰った。


ベルはと言えば、

ただ今洗濯中である。


本は、『サルでもわかる』と書いてあるが、

まず、翻訳の田中雅之氏の書き込んだ文章がこれだ。


"これは私、田中雅之が自分に分かるように自分の解釈を日本語で書いてある、解説というよりメモに近いだろう。しかし、もし私がこの本を手放した後に、この本を読む日本人がいたならば、この本を読んで欲しい。この世界に来たならば魔法は必須。是非役に立てて欲しい"


だそうだ。

パラパラと見たが、確かに走り書きが多い気がするが、ちゃんと解説が書いてあるページもある。


内容をかいつまんでみるとこうだ。


魔法の基本は、


選択

 属性など何に干渉するか

用意

 現物の素材や魔法陣、生贄や捧げ物など。

 または、魔力から生成される魔素。

効果の付与

 飛ばす、開く、組み立てるなどの動作。

 消滅、生成などの現象の付与

実行

 魔力を流しての実行


の四段階。


最初の『選択』は、

属性。


属性には火、水、土、風、光、闇などの属性があり、それぞれで出来る事が違う。

まぁそりゃそうだな。

出来る事によってどの属性に干渉するのかを決めておく。


属性は複数選択できて、

例えばお湯を出したい時には、

水と火の属性を選んでおく必要があるそうだ。


俺が貰った杖は土属性が得意らしいが、店員さんに「家造り」が得意と言って勧められた理由は、土属性なら壁が作れたり穴とか掘れるからだそうだ。店員さんは魔法で家を造ると勘違いしたらしいが、ちゃんと理由はあったんだな。


次に『用意』

薪を燃やしたいなら薪を、風を起こしたいなら空気を、というように材料を用意する。しかし魔法なので材料の無い魔法も多く存在す。例えばそう水。何も無い所から水が出る訳だが、あれは自分の魔力が魔素という物に変換されて、さらにその魔素が水になるらしい。

あとは召喚には生贄とか魔法陣、あるいは両方必要な場合もあるようだ。

召喚って何を召喚するのだろうか。


そして『効果の付与』

ファイヤーボール!だなんて唱えてるアニメとかあるけど、あれは飛んでいく動作があるから攻撃できる。その『動作』が効果という事らしい。切るのも動作だし、要するに目で見える魔法そのもののような感じ?


最後は『実行』

先の、選択、用意、効果の付与が出来たら、

最後はポチっとボタンを押すだけ。

科学で言えば電気を流す。

プログラムならrun。

魔法なら、魔力を流す。


これらの過程を詠唱する事で、

構築され魔法が行使される。


らしい。


簡単に書いてあるわ。


でもこれって空間魔法とかどうやるんだろ。

とりあえず知りたい収納魔法とかどうするんだ?


まぁとにかく読み進んでみよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


八割がた読んでしまった。

だいぶ時間も経った。

ベルは俺の向いの椅子に座ってうたた寝している。


とりあえず覚える事はたくさんあるけど、

基本的に魔法というのは万能に近いようだ。


極めればなんでも出来るみたい。


極める、と言えば、

賢者のレベルまで到達できれば、

ほとんど不可能は無いと言われている。


昨日、商人アルバが賢者について熱く語っていたが、俺がその賢者になれる可能性がほんとにあるのだろうか。


魔法道具屋の店員さんは、俺の事を大魔法使い様と呼んでいるが、魔力の量で魔法使いのレベルが決まる訳ではないだろう。

おそらく魔法の鍛錬の過程で、必然的に魔力量が増えて、大魔法使いの域に達した人の魔力量が、今の俺が持っている魔力量と同じくらいなのかな。


そう考えると魔力量だけはチートレベルな訳だ。


まだ魔法使い見習いにも達してないのに。


あと、魔法は魔法使いが詠唱で唱えるのと、魔法陣によって発動する物がある。


魔法陣は、術者が魔法を知らなくても、魔力さえあれば使える。

あの複雑な模様の中に選択、用意、効果の付与が刻まれてるらしい。

あとは魔力を流して実行するのみ。


しかし簡単な魔法ならともかく、高位の魔法になると、魔法陣はより複雑になって、その魔法陣を描く能力、知識を持つ者は限られてくるのだそうだ。当然高位の魔法は魔力量も多く必要になる。


そうそう、ベルの『見える』という能力。

マミ婆さんが言うには、

龍の因子と言って良いのか判らないが、

その遥か昔昔のさらに昔。

龍族だけが『見える』力を持っていたらしい。

が、ある時、人と龍の子が産まれたそうだ。

龍人と言うらしい。

この龍人を遠い遠い先祖に持つ者が、たまに『見える』能力を持っているのだとか。

なので龍の因子とも言えなくはないと言う事だ。


というかこの話を聞いた時、御伽噺おとぎばなしだと思ったが、この世界の人たちは御伽噺も歴史の一つと受け入れているようだ。

日本でいえば、古事記が歴史上ほんとにあった話だと思われてる感じか。


話を戻すと、この『見える』というのは、

何気に凄い能力だと解った。


まずは魔力。

相手の魔力が見えると言う事は、

魔法戦においてかなりのアドバンテージになる。

初見ではある程度、相手の力量が知れて、戦いになっても相手の魔力量次第で作戦が有利に立てられるからだ。


次に嘘を見破れる。

最初にマミ婆さんに会った時。ベルが嘘は言ってないのが解ると言っていたのは『見える』能力のおかげだったのだ。


他にもいろいろある。


この『見える』能力をさらに鍛えると、

『見抜く』事も『見破る』事もでき、さらには『見習う』事も出来る。

この『見習う』と言うのは、

一般的な見習いとは違い、

読んで字の如く、

『見て、習う』

つまり見た物を学習して覚えてしまうというのだ。

例えば、自分の知らない魔法があっても、それを見ただけで習得してしまう。

すげーチート。

ただし自分の力を越える格上の魔法や技は、覚える事は出来ても使う事は出来ない。

あとは熟練度の差や得意不得意があるので、

見せられた物と同等の効果を発揮するとは限らないそうだ。

ベルの小さい身体で大工の俺の技を全部使われたらたまった物じゃないしな。

もっともその逆もある。

見せられた物が自分の得意分野なら、見せた者より効果を発揮する事も出来るのだそうだ。


そして『分析』

魔法陣の話しに戻ると、『見える』能力があるレベルに達すると、『分析』が出来て、『見た』物を魔法陣に変える事が出来るそうだ。魔法陣の知識が必要になるが、基本を覚えれば、『見る』事でどんどん覚えていくのだとか。


まぁよく解らないが、とにかく凄い事なんだろう。


それにしてもマミ婆さん詳し過ぎる。

と、思ってたら、マミ婆さんの元パーティーメンバーに、『見える』能力の持ち主がいたそうだ。

詳しい訳だ。


ちなみに魔法道具屋の店員さんが使っていた『見る』魔法は、『見える』能力の劣化版で、魔力や霊体を一時的に『見る』だけのものらしい。ベルの能力には遠く及ばないそうだ。


ベルが杖を手にした時に店員さんが見たのは、おそらくユニコーンの霊体を見たんだろうということだ。


しかし、そうそう霊体なんか現れないし、ベルは相当ユニコーンの杖に気に入られたんだろうと言う話だった。


うちの子可愛いもんなぁ。


あとマミ婆さんが教えてくれたのは、

『見える色』の話し。

 

ベルは人が赤く光ってるとか、何色に光ってるとか、

無自覚に見ていたわけだが、

その色には理由がある。

たまにベルが見かける赤く光る人は、

弱い魔力の持ち主で、

鍛えれば簡単な魔法は使えるようになるらしい。

魔法道具屋の店員さんはオレンジ、

マミ婆さんは黄色、

俺は青。


この色は魔力量の目安になる。


多い順番に並べると、



こんな感じ。


マミ婆さんの全盛期の頃は青緑くらいあったらしい。

ベテラン魔力使いでも緑くらいで、魔法の魔の字も知らない俺の青というのはズバ抜けているそうだ。


どうりで魔法道具屋の店員さんが大魔法使い様って呼んで来る訳だ。


マミ婆さんに青以上に会った事あるかと聞いたら、

以前上位の悪魔に会った時、その悪魔を見た能力持ちの仲間は、藍色と言ったそうだ。


悪魔なんていんのかよ。

くわばらくわばら。



そんな話を聞いてから、

帰ってきて本を読んでいたわけだが、

読み疲れて残りをパラパラと流し読みしてたら、

気になるワードがあった。


『日本語での詠唱について』


わお、日本語で詠唱できたら良いかも。

でも、厨二病的なやつは恥ずかしいなぁ。

あでも、異世界だから日本語が分かるのは俺だけだな。


どれどれ、


『ザーザードザーザードスクローノー…』


「っておい!」


思わず本にツッコミを入れた。


「はい!なんですか!?」


ベルがびっくりして起きる

びっくり顔も可愛い。


「あーいやごめん、本の内容がふざけてたから、思わず口走った、何でもないよ」


俺は苦笑して答える。


「なぁんだびっくりしたぁ」


起こしてしまったが、

時間的にそろそろ夕飯時だな。


「も少ししたら飯に行こう」


「はい」


ベルは返事をして、算数の続きを勉強し始めた。

ベルは偉いなぁ。


さて田中雅之、偽ダークシュナイダーめ。

どうしてくれよう。


次を読む。


『と言うのは冗談だ。ダークシュナイダーはこの世にはいない。』


知ってるよ。


しばらく読み進める。


結論から言えば、

日本語の詠唱は可能だろうと言う事だ。

ただ、詠唱自体が元は龍の言語だとか。

しかし、この世界の魔法使い達は、龍語を理解しているわけではなく、呪文として覚えるだけのようだ。

先の『ザーザードザーザード』のような物で、意味はわからないが呪文としては成立しているという感じか。

田中雅之氏は、全くふざけてダークシュナイダーを出してた訳ではなく、

ヒントとして伏線にしてたのか。

侮れないな。

龍語の意味さえわかれば日本語に置き換えての詠唱ができる筈だと、田中雅之氏は書き記していた。


なるほどね。

要するに魔法の構築さえできれば何語でも詠唱は可能と言う事なのだろう。


それよりも、時間をかけて龍語を解読して日本語にするよりも、無詠唱の方が簡単だと書いてある。


まじで?無詠唱いいじゃん。


『実際に魔法を体験し、身体の魔力の流れを感じとり、魔力に何をさせたいのか、自分が何をしたいのかを考えて行う。』


と、書いてある。

これって最初の4段階無視してねーか?


詠唱について書いてあったのは、


詠唱する事で、頭の中に魔法を構築していくという事が書いてあったと思うが、

構築とは、選択、用意、効果の付与の事だよな?

あれあれ?だとしたら頭の中で呪文を唱えればいんじゃね?

てかそれが無詠唱の正体?

心の中で詠唱する?


意味ねーじゃん。


というかこれだと田中雅之氏のいう無詠唱とは違うな。



『ただしこれは、私、田中雅之の研究途中の持論であり、田中雅之自身が、まだ完全には無詠唱を実現させられていないと追記しておこう。』


なんだよ、できてないんじゃん。

日本語詠唱より簡単って書いてあるくせに。



よく解らんな。

矛盾だらけな感じだし、

まだまだ研究の途中って事なんだろうか。



俺はなんとなく杖を出して見る。


だいぶ俺の魔力を吸ったのか、

まったく違和感なく手に馴染む。

長年振ってる玄能だってここまで馴染んでない。


俺はテーブルに突っ伏した姿勢で、

顎をテーブル乗せて杖を眺める。


「ふぁ……ふぅぅ」


欠伸が出る。

字を読むと眠くなるんだよなぁ。


「ざーざーどざーざーどすくろーのーろーのすーく、地獄のなんちゃらで燃やせ…」


全部は覚えてないんだけど、

なんと無しに日本語で呟く。


ん?


え?


あっ


「えー?!」


杖の先に火が浮かんでいる。

何が起きた?!


小さい火はすぐ消えた。


なんだかチャッカマンみたいだったけど、

火が着いてた。


確かに着いてた。


ベルを見るとキラキラした目で俺を見ている。


「今の何ですか?呪文?なんかカッコいい響きでした!火も!できたんですね!」


「あっいやっできたというか、偶然?狙って出した訳じゃないんだけど。」


「もう一回言って下さい」


ベルはキラキラした目でリクエストしてくる。

そんな顔されたらやりますとも!


今度はカッコつけて言う。


「ザーザードザーザードスクローノーローノスーク、えーっと 燃えろ」


何も起こらない。

ただの偶然だ。


ふと違うワードが頭に浮かぶ。


「チャッカマン!」


カチッと音がして、

杖の先に火が浮かんだ。


「できた!!」


俺は嬉しくて、思わずベルを見るが、

ベルは膨れっ面してる


「なんか違うぅさっきの呪文のほうがかっこよかったですぅ」


ベルは不服そうだ。

でも膨れっ面も可愛いから俺は満足だ。


しかし、チャッカマンと言ってイメージは出来た。

しかもカチッと音まで再現されてる。


火はすぐ消えたが、

何か解った気がする。

詠唱は頭の中での構築とか書いてあるが、

今のはチャッカマンと言う事で、

明確にチャッカマンをイメージしていた。

そういう事なのかな?


「ざーざー ざーざー すくすとん もえろ〜」


ベルが真似していた。


やめろ萌えて死ぬ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


その後、俺はイメージしやすい物を探した。

例えばなんだろうな。


釘を打つ時の玄能とか。

やってみるか。


俺は道具箱から釘を出して宿屋の中庭に出た。

ベルも付いてくる。


宿屋の中庭には井戸があり、

水汲み場や洗い場などがある。

全体的に100坪程の広さがあり、

宿泊客の冒険者らしき客がたまに剣の素振りなどをしてたりする。


建物の壁際には、

俺が作ったベンチもあり、

たまにアベックがちちくり合っている。

そのベンチの脇には余った木材やまだ使えそうな端材などを置かせて貰っている。


俺は適当な木の端材を見付けて、

釘を左手で立てる。


杖を出して釘に向け、


「玄能」


と唱える。


何も起こらない。


むぅ。


杖を見つめて、

杖の握り方を玄能を掴むように変える。


あ、そうか、強くイメージしてなかった。

じゃ、もっかい。


イメージしやすいように、

杖を玄能と同じように振り、

釘が打ち付けられる様子をイメージする。


「ふん」

 

ゴツっ


おお!!

釘が刺さった!

できた!

しかも今何も言って無かった!

無詠唱だ!


「すげー!できた!」


「凄い!ご主人さま凄い!」


「ベル、今のちゃんと見てたか?」


「はい、見てました!凄いです!」


ベルの『見習い』が発動してたら、今のをベルもできるかもしれない。


「ベルもやってみて」


「あ、そういう事なのですか、ご主人さまもう一回見せてください。今度は『見ます』から」


そうかただ見てるだけじゃ何も起こらない。

ちゃんと『見る』事が必要なんだな。


俺はもう一回やってみせた。

今度はもっとスムーズに出来た。

見本としては良いだろう。


ベルと交代する。


「ではやります」


ベルは真剣な顔つきで、釘目がけて杖を振る。

教えてもいないのに手首のスナップを使っている。

玄能の振りが出来ている。


ガチっと音がして釘がやや打ち込まれる。


すげー!本当に出来た。

うちのベルたんマジすげー!


俺も驚いたが、

打ち込んだ本人が一番驚いてるようだ。


「で、できたー!やったー!できましたよーご主人たまーー」


ベルは飛んで喜んでいる。

俺もすごく嬉しい気分だ。


「良くやったベル!凄いぞ!」


「えへへ♪」


やっべーマジで萌え死ぬわ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔法の構築とか全く解らない。

けどイメージでできた。


俺は大工と言う職業上、

常に仕事の出来上がりをイメージしている。

出来上がりをイメージしない作業はあり得ない。

だから、多分普通の人よりはイメージ力が高いと思う。

それを応用してイメージで魔法を発動させれば良いんじゃないだろうか。


例えばそう、


「チャッカマン」


カチッと火が浮かぶ。


これは簡単にできるようになった。


「かっちゃまん」


カチッと火が浮かんだ。

ベルだった。


ベルさん、ちょいと名称が間違ってます。

なんか化学忍者隊みたいになっとる。


でも可愛いから許すよ。

可愛いは正義だもんなぁ。


しかし火がちゃんと着いてる。


『見習い』恐るべしと言ったところか。


部屋に戻っていろいろイメージしてみよう。

【読者の皆さま】


いつも読んでいただきありがとうございます。



小心者の私に、


↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。


よろしくお願いします!




白村しらむら


↓ 作品一覧はこちら ↓

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