第六十五話 鍛冶屋
朝目が覚めた。
見慣れない天井が目に入る。
あぁ、そうだ、ここはロマーシアの宿屋だったな。
左腕にはラスティの頭。
右側はベルが抱きついて寝ている。
胸の上にはルース。
窮屈この上ないが、
心地良い窮屈だ。
しかしルースは、
仔猫姿ならまだ良いとして、
今は猫髭幼女姿だ。
「これってどうなの?」
「「ぷっ、うふふふふ」」
「あ、起きてたか」
また独り言を聞かれた。
「うん、おはようダイサク」
「おはようなの、やっぱりダイちゃんの独り言は変なの」
「だってさぁ、俺、身動き出来ない状態で寝てるんだぜ?どうなのこれって」
笑いながら俺が言う。
「ダイサクもてもてだねぇ」
そんなやりとりをしているとルースが起きた。
ルースは無言でベッドから降りて、
床に四つん這いになって伸びをする。
って猫かよ!
仔猫姿の時の癖なのか、
仕草は猫だ。
「さぁ、身支度しようか、朝食食べて街を散策しよう」
身支度を済ませ、
食堂に行くと、
既にマティスが朝食を堪能していた。
俺達はその隣のテーブルにつく。
「あ、サクラさん、おはようございます」
「おはよう、早いな」
「一人部屋は退屈なんですよ。今日はこれからどうしますか?」
「そうだなぁ、まずは腕の良い鍛冶屋さんを探したいなぁ」
「おはようございますサクラ様」
そこへ女将のテルがやって来た。
「おはようございます女将さん」
「サクラ様、今聞こえたのですが、良い鍛冶屋をお探しですか?」
「ええ、短剣を一つと、あとちょっとお願いしたい物がありまして」
「お願いしたい物?ですか」
「はい、これです」
俺は刀を出して女将に見せた。
当然だが鞘からは抜いていない。
「変わったレイピア?ですか?」
「これは僕のいた国の刀と言う剣です。これはサクラの街の鍛冶屋さんで試しに作って貰ったのですが、刀身にヒビが入ってしまって、新しく作り直したいのです。」
「そう言う事でしたら、良い鍛冶屋さんをご紹介します。紹介状を書くので訪ねてみて下さい」
「それは助かります。この街にはたくさん鍛冶屋さんがあるようなので、どうやって良い鍛冶屋さんを探したら良いのか考えてたんです」
「そうですか、気に入って頂けると良いです」
そんなやりとりをして、
朝食を食べてから俺達一行は街に繰り出した。
渡された地図を頼りに歩いていくと、
女将の説明にあった鍛冶屋街にたどり着いた。
「すげーここが鍛冶屋街かぁ」
「人がたくさん、お店もたくさんなの」
「みんな冒険者なのかなぁ?」
「ふんっ」
ラスティの言う通り、
冒険者らしき者がたくさん行き来している。
俺達は道を歩きながら、
左右に並んでいる鍛冶屋や武器屋を眺めていた。
値段を交渉する者、
防具や武器を物色する者、
俺達みたいに店を探してる者等が、
ぞろぞろといる。
おっと目的の鍛冶屋さんはと…
そう思っていたら、
先の店から怒鳴り声が聞こえた。
「おとといきやがれ!!」
ガシャーン!
と言う音と共にひとりの冒険者が店から叩き出されていた。
「こんのじじー!下手に出てりゃぁ調子にのりやがって!」
あーあ、絵に描いたような台詞だわぁ。
弱そぉー
そう思って見ていると、
叩き出された男はスラリと腰の剣を抜いた。
鞘に収まっていたそれは、
見事に研ぎ澄まされた剣だった。
この世界では珍しい「切れる」剣だ。
「この自慢の剣でぶった斬ってやるぜ」
おいおい。
ちょっとヤバくないか?
周りの野次馬は止める気配がない。
仕方ない俺が止めるか?
と、思った時、
「じーちゃん!何度言ったら分かるの!?お客様を叩き出すんじゃないよ!!」
店の奥から威勢の良い声が響いてきた。
「ああ?なんだぁ子娘か?」
剣を抜いた冒険者の男が言った。
「あ?!何だって?!今なんつった?!お客様よぉ」
店の奥から威勢の良い声の持ち主が、
今度はドスの効いた声を発しながら姿を現した。
としの頃は15・6といったところか、
身長もさほど高くはない。
日焼けしてるかのように黒い肌。
だぼついたブーツを履いて、
革手袋をした手にはハンマーが握られている。
目にはこれまた真っ黒で丸いゴーグルを掛けている。
髪は茶色で、後ろに纏められている。
目はゴーグルで見えないが、
冒険者の男を睨んでいるのだろう。
「小娘と言ったんだ。ここの鍛冶屋は腕が良いって聞いて来てみりゃぁ偏屈クソじじぃが居るだけのボロ屋じゃねぇか」
確かに言われて見ると、
店はかなり痛んでいるように見えるし、
看板も少し傾いているかな。
ん?
看板の文字を見ると、
「鍛冶屋のスミスの店」と書かれている。
はて、この名前。
はっとして女将に渡された地図を見ると、
「鍛冶屋のスミス」と書かれている。
あぁ、ここが女将の紹介してくれた鍛冶屋さんだったか。
バキッ
っと音がした。
えっ?
と思い地図から目線を上げて見ると。
「てんめぇ、誰がババァだって?!このやろこのやろ!」
いつのまに倒されたのか、
息巻いていた冒険者の男は地面に倒れて、
鍛冶屋の娘に何度も踏まれていた。
男の自慢の剣は折れていた。
いったい何があった?!
「うぎっ、ぎゃ、言ってないっ、やめてっ」
最後に頭を踏まれ、
ゴツっと音がして男は気を失った。
「ふーっふーっまだ踏み足らん」
「フォルンやめろ」
店のじぃさん、たぶんこのじぃさんがスミスさんだろう。
スミスは娘に声をかけた。
「ちってめーら、見せもんじゃねーぞ!散れ!」
フォルンと呼ばれた鍛冶屋の娘は野次馬を追い払って店に入ろうとした。
「あ、あのぅ」
恐る恐る声をかけてみる。
「ん?」
「あ?」
スミスとフォルンが同時に振り返る。
怖い。
「あ、あの、宿屋のテルさんの紹介で来た者です。こちらが紹介状です」
フォルンはコロっと表情を変えた。
「あら、お客様でしたか、どうぞ、どうぞ」
さっきまでのドスの効いた声とは全く違う猫撫で声で案内してきた。
同一人物かと疑う豹変ぶりである。
しかし丸目のゴーグルは取らないままだ。
「ふんっマシな客なんじゃろうな」
スミスじぃさんはそのまんまだな。
そんなじぃさんにフォルンは振り向き、
「じぃは黙って!」
と、ピシャリ。
「お客様、本日は剣ですか?それとも防具?」
「いや、あのぅ、実は造って欲しい物があるんです」
「造って欲しい物ですか?」
「はい、これです」
俺は腰に下げていた刀を外し、
フォルンに手渡す。
じぃさんも興味を惹かれたようだ。
「これは…抜いても?」
「はい、どうぞ」
フォルンはスラリと刀を抜いた。
そして今まで外そうともしなかった丸目ゴーグルをおでこにずらし、
マジマジと刀身を見る。
「大した仕事じゃないね。でも研ぎは良い」
へぇ、解る物なんだな。
「おい、若いの、こいつをどこで手に入れた」
スミスじぃさんが聞いてきた。
「これは僕の街で作らせたんです。元々僕の故郷の伝統的な剣なんですが、この世界には無かったもので」
「ふぅん、お主は異世界人なんじゃな?マサユキの知り合いかと思ったわい」
えっ?!
「田中雅之をご存知なんですか?!」
凄く驚いた。
異世界人とも言われた。
「ほぅ、やはりマサユキを知っとるのか、その昔、マサユキに頼まれて『刀』を打ってやった。懐かしいの」
「じぃ、この剣が何か知ってるの?」
「あぁ、これは日本の刀と言う武具じゃ。40年くらい経つかのぉ、頼まれて打ったんじゃよ」
「僕も日本から来ました。是非刀を打って下さい。」
「打つのは構わんよ」
「ほんとですか!やった!」
「私が打つ!」
と、フォルンがわくわくした表情で言った。
「元よりそのつもりじゃ、が、」
「何か問題でも?」
「見てみぃその刀身を」
「はい、亀裂が入ってしまったので、造り直したいと思ったんですが」
「問題はそこじゃない、お主かなり魔力を込めて刀を振ったじゃろ」
「えっ?!そんな事まで解るんですか?凄いな」
「この亀裂は魔力で起こる物じゃ、普通はこんな亀裂は入らない」
「え?そうなんですか?だってルース?」
「ふん、適度にょ魔力にゃら武器を丈夫にするが、許容を超えた魔力は害にもにゃる。お主がその刀に許容を超えた魔力を一気に流したにょが原因にゃ」
「えーそれ早く教えてよ」
「解ってると思ったにゃ。どんくさいにょぉ」
「なんじゃ、獣族の嬢ちゃんの方が詳しいのぉ、まぁそういう訳で、普通の鉄だとお主の魔力に耐えられんのじゃ」
「え、て事は、造れない?」
「今ここには材料が無いという事じゃ」
「じゃぁその材料はいつ入りますか?」
「何を言っとる、取って来るんじゃよ」
「そうなんですかぁ、けっこう遠い場所なんですか?なんなら受け取りに行きましょうか?」
俺がそう言うと、
変な間が開きスミスがぼそっと言った。
「むぅ、この男にはなんと説明したらいいんだ?」
「異世界人にゃにょだ。最初から説明するしかにゃい」
「ねぇダイサク」
ラスティが話しかけてきた
「うん?」
「普通の鉄じゃ魔力に耐えられないって言ったでしょ?」
「うん」
「つまり、魔力に強い鉱石が必要なの」
「うん」
「オリハルコンとか、ミスリルとか」
「あー、うん」
「それってね、自分で取って来る物なんだよ」
「へー」
・・・・・・・
「あ、そっか!俺が取って来なきゃなんだ!」
「やっと解ったか間抜けめ」
「あははは!異世界人は面白いな!」
「まぁ解ったよ。んで?じゃぁどこに取りに行けば良いのかな?教えて下さい」
「ダンジョン」
だんじょん??
それってあれですか?
RPGとかによく出てくるやつだよね?
「ダンジョン…」
「なんじゃ?ダンジョンも知らんのか?」
まぁアニメとかRPGではお馴染みですけどねぇ。
この世界のダンジョンと言うものはよく知らない。
「えっと、ダンジョンと言う言葉は知っています。冒険者が行く所だと思ってますが、それ以外はよく知らないのです」
「ダンジョンをよく知らんとは、お主も冒険者なのだろう?」
「ま、まぁそうなんですがね…」
確かにギルドに冒険者登録してはいるが、
俺はにわか冒険者だ。
そもそも冒険がしたくて冒険者登録した訳では無い。
「ところでお主、ランクプレートをしてないようじゃが、ランクはなんだ?」
そう言えば忘れてたな。
みんなしてないし、
しなくて良いのかと思ってた。
俺は収納魔法からプレートを出して首から下げた。
「へぇエメラルドなんだね」
「ふん、この辺じゃ珍しくもないじゃろ、しかし、エメラルドにもなってダンジョンをよく知らんとは、おかしなやつじゃな」
「あはは、ほんとだね」
言われたい放題だな。
「ところでダンジョンなんですが…」
ダンジョンの事を聞こうと思ったら、
不意にルースが俺の袖をツンツンと引っ張ってきた。
「ダイサク、敵意にゃ」
「へ?」
【読者の皆さま】
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白村
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