第六十一話 襲撃
旅は順調だ。
愛車のワンボックスも快調である。
三度目となる野営地にて、
今夜泊まる準備をしていた。
「おい!敵襲にゃ!」
「え?!」
ルースの突然の声に戸惑う。
すると何本もの矢が飛んで来た。
『マジックドーピング発動』
『マジカルアイ!』
俺は動体視力と身体能力を強化。
直ぐにラスティとベルを守りに動く。
当たりそうな矢を刀で叩き落とす。
「うわーっ」
マティスの悲鳴が聞こえるが、
矢に当たってはいない。
なので気にしない。
すると後ろから、
カンカンと乾いた音がする。
「あー!!俺の車!!」
弓の何本かは俺の愛車に命中して落ちていた。
「なろー、喰らえ泥球!」
俺は左手に短杖を持ち横に振る。
ビシュッと音を立てて泥球が形成されながら飛んで行く。
「うわっ」
「ぐえっ」
と声が聞こえてくる。
と同時に、
「にゃぁっ!!」
と言う声も聞こえてきた。
後にどさどさと音が聞こえる。
ルースに倒された者の音だろう。
『ルース!』
『敵は10人だ。あと5人行くぞ』
落ち着いたルースの念話が届く。
俺はラスティとベルの前に立ち、
身構える。
来るなら来い。
返り討ちにしてやる。
ルースが暗闇から浮かび上がる。
こっちに戻って来た。
「終わったにゃ」
あっというまだなおい。
「ありがとうなの大ちゃん」
「ありがとうダイサク、ルース」
「僕も守ってくださいよぉ」
マティスから抗議の声が上がる。
「マティスも矢に当たって無いんだから良いだろ」
「そんなぁ、僕は雇い主なのに…」
「そんな事よりコイツら何者だ?」
「盗賊ね」
「最近出るようになったって言ってた奴らかな?」
「多分そうだにゃ。まだ他にもいそうだにゃ」
「どうする?ほっといてもろくな事にならなそうだな」
「たぶんまた襲ってくるよね」
「なら先手必勝だな。ルース、あと何人くらい居そう?」
「ふん、ただにょ盗賊じゃにゃさそうだ。盗賊団と言ったところだにゃ。あと30人くらいは居そうだにゃ。あっちの方にたくさん気配を感じるにゃ」
ルースが指差す方向は今倒した盗賊達が襲ってきた方向と同じで、さらに先には暗い森がある。
「なるほど、じゃみんなで行くか」
「えっ?!僕も行くんですか?」
「お前も剣士だろ?一緒に行くぞ」
そもそもラスティやベルを置いて行くという選択肢は無い。
置いて行くという事はルースも護衛で置いて行かなければならない。
となれば俺一人で盗賊団の相手をする事になる。
さすがにそれは無理だ。
だからと言って、俺とルースで討伐に行って、ラスティとベルが留守番では何かあった時にすぐに助けられない。
と言う訳で、
全員が一緒にいるのが一番安全なのだ。
「一人で留守番でも良いけど、盗賊が来るかもよ?どうする?」
「い、行きます、行きますよ」
俺達はルースの道案内で、
目立たぬように森の中に進む。
ルースの話しでは、
襲って来た盗賊達の他に、
盗賊団本体が森の中にいるとの事だ。
恐らく森の中を根城にして、近くを通るめぼしい旅人を襲っていたんだろう。
「うわっ」
「しーっ声上げんなよ」
「だって、死んでるんですよ、ビックリするじゃないですか」
「死んでる?」
よく見るとマティスの足元に盗賊らしき死体が転がっていた。
「うっ」
「ふんっさっきの盗賊にゃ」
「殺したのかよ」
この世界では簡単に命のやり取りが行われる。
現代日本で生まれ育った俺にはショッキングな事なのだが、
ラスティもベルも平然としている。
育つ環境で常識やモラルの感覚が違うんだと嫌でも思い知らされる。
「お主は甘いにゃ。お主が倒した奴もトドメを刺しておいた。生かしておいてもろくな事ににゃらにゃいにゃ」
なにも殺す事はない。
と、俺は思ってしまう。
殺す程に実害を受けてないからだ。
しかしそう反論したところで、
生かした奴が後で命を狙ってくると言われれば、
反論はできなくなってしまう。
「お前の言う事もわかるけど、俺が生まれ育った世界では、なかなか受け入れられないんだよ。」
「ふんっ」
しかし、死体を見ても大してショックは無い。
多分殺す行為そのものに抵抗があるんだと思う。
「その甘さが、命取りににゃるにゃ。さぁ先を急ぐにゃ」
俺達は更に森を進む。
しばらく進むと、二階建てくらいの大きさの岩が、
ゴツゴツと立ち並ぶ場所に出た。
『この向こうだ。お前達は右へ回り込め、見張りらしき気配があるから、おそらく入り口があるだろう。私は先に行って見張りを倒しておく、入り口で会おう』
ルースは念話でそう言うと、
俺の魔力を吸い取り黒仔猫に変身して、
身軽に岩を駆け上り消えて行ってしまった。
「んじゃ、俺達も行くか」
「ダイサクちょっと待って、暗くて足元がよく見えないよ」
「そうですよぉ、よく普通に歩けますね」
あ、そっか、
俺は『魔視力マジカルアイ』を発動している。
かなり夜目が効いてる。
しかしラスティとマティスにそれは無い。
「ラスティ気が付かなくてごめん、ベルは見えてるよね?」
「うん、大丈夫だよ」
「俺とベルは体内魔力の操作で夜目が効くようにしてるんだよ、ラスティにも教えておけば良かったな。」
「魔法じゃなくて魔力操作なの?二人共凄い」
「ラスティもすぐできるようになるよ、ゆっくり行こう」
俺はラスティの手を取って歩き出した。
ベルも反対側でラスティの手を握っている。
「僕は?怖いですよぉ」
「ゆっくり行くから黙ってついて来い」
ちょっと進むと岩の切れ目があった。
そこにルースが待っている。
『遅いぞ』
『すまん、夜目が効かないのがいるんだよ、見張りは?』
『もう片付けた。行くぞ』
そう言ってルースは岩と岩の間を入って行く。
岩は先にも続いていたが、
ルースが入って行った所だけ、
ちょうど入り口のように4メートル程の間隔を開けて道になっていた。
俺達もルースに続き中に入ると、
入った正面にも岩があり、
道は左にカーブしている。
そのまま進むと、前に見える岩肌が、
僅かだが焚き火の灯りにゆらゆらと照らし出されていた。
そっと焚き火の方を覗くと、
15・6人くらいが焚き火の周りで酒盛りしてるようだ。
距離にしてここから30メートルほど先かな。
テントやら馬車やらがいくつか置いてある。
牢屋のような格子が嵌った建物もある。
『焚き火の周りに17人、牢屋の前に2人、各テントに2人ずついるぞ』
ルースの念話だった。
テントは4つ、中には計8人、外にいるのと合わせて29人もいるのか。
それにしてもルースの索敵はどうなってるんだ?
こんなにも正確に探知できるなんて、
しかも俺達の野営地からここまで結構離れてるのに、おおよその人数まで解ってたようだ。幻獣様恐るべしだな。
「ど、どうするんですか?たくさんいますよ」
マティスが怯えた声で言う。
「ルース、作戦は?」
『無い』
「無いのかよ」
『人間がいくら集まったところで私の敵では無い。』
「ルースが行くと皆殺しにしそうだな。それはいくらなんでもダメだろ」
「確かにそう思うけど、ダイサクどうするの?」
俺は少し考え込んで、
ある考えに至った。
リーダーって居るよな。
「とりあえず堂々と向かって行くか」
「だ、大丈夫なんですか?みんな強そうですけど」
「リーダーって居るはずだよね?だったらリーダーと話し合いかタイマンかな」
「タイマンて?」
「まぁ一騎討ちだな。隠れてても仕方ないから、みんなで行こう」
そう言って俺は立ち上がり、岩陰から歩き出す。
皆も続いてついてきた。
ルースは猫髭娘へと姿を変えている。
声が届く辺りまで宴会の輪に近付くと、
一人が俺達に気が付いて声を上げた。
「なんだ?あんた達は」
宴会の面々が一斉にこちらを見る。
俺も男達を見回して見ると、
獣族も何人か混じっているし、
女もいた。
「お!すげー美人じゃねぇか!こっち来てチュウさせろよ、ぐへへ」
こう言うゲスは無視決定だな。
すると違う声が話しかけてくる。
「見たところ冒険者みてぇだが、何のようだ?見張りはどうした?」
「あんたがリーダーですか?」
「質問してるのはこっちだ。見張りはどうした?」
こりゃ話し合いはやっぱり無理だな。
まぁどの道、盗賊と折り合いつけるつもりも無いし、
結局は一網打尽なんだよね。
話し合おうと思っていたけど、
改心しなさいって説得して改心するとは思えない。
しょうがない、一線交えるか。
「なぁ見張りどうした?」
俺はルースに視線を向けて話しかける。
「ふんっ殺したにゃ」
「「なんだとっ?!」」
「ちなみに襲ってきた連中も全滅させたぞ」
俺たちの言葉に盗賊達の顔色が変わる。
一斉に立ち上がり剣を抜く者や構える者がいる。
話しかけてきた男も例外ではなく、
こちらに殺意を向けてきている。
しかし立ち上がらずに酒を飲んでる者がいた。
結構良い体格をしていて、
風格のような物を感じる。
あいつがリーダーか。
「小僧、何のつもりか知らねぇが、俺達をギガゴース盗賊団だと知ってて来たのか?まぁお友達になる気は無さそうだがなぁ」
そう言って男はゆっくり立ち上がった。
でかいな。
パン屋のアルトスくらいだろうか。
身長190センチくらいありそうだ。
「ギ、ギガゴース盗賊団て…」
「マティス知ってるのか?」
「知ってるも何も、襲われたら最後、命まで奪われると有名な盗賊団です。旅では一番出会ってはいけない盗賊って聞いてますよ」
かなり怯えた様子のマティス。
そんなに怖いかなぁ。
「ギース、どうした?」
テントの1つから声がした。
「ガース、お客さんだぜ」
同じような声がさらに一人。
「あ、あ、あぁ噂は本当だったんだ」
怯えるマティスと、
そうでもない俺達の前に現れたのは、
190センチの大男が2人、
最初に話してた奴と合流して3人になった。
同じ体格、同じ顔だ。
「ギガゴース盗賊団は、三つ子の大男が仕切ってるって、しかも3人ともサファイア級の冒険者レベルだって話ですよ」
「へーそー」
三つ子かぁ。
名前からして、ギース、ガースにゴースなんだろうな。
単純なネーミングだな。
「おい小僧、よく知ってるじゃないか、でもな、俺たちゃサファイアじゃねぇ、もはやルビー級よ。あと少しでダイヤモンド級も夢じゃねぇぜ」
「へーそー」
「お頭達!見張りの2人ともやられてまさぁ!この野郎許さねぇ」
「へーそー」
「あんちゃん、俺達ルビー級3人を前にしてずいぶん余裕だな。」
「いやぁ小物ほどそう言うの自慢したがるんだよねぇ。んで戦ってみると大した事ないってのは定番なんだよ」
騒ぎを聞きつけたのか、
テントから出てきた奴らも混ざって来ていた。
俺達は囲まれている。
ラスティは短剣を構え、
ベルも短杖を出してすでに臨戦態勢だ。
マティスは使えない。
あとはルースだが、
ラスティとベルの後ろにいる。
まぁルースがいれば問題ないだろ。
「がははは!おいガース、お前小物って言われたぞ」
「それはゴースだろ?」
「いやいや、ギースが言われたんだ」
「それにしても馬鹿なあんちゃんだな。美人の連れの前だからってかっこつけやがって、身の程を教えてやる」
ギースだかガースだかゴースだか分からないが、三つ子の一人が前に出てきた。
そして空間から剣を取り出す。
へぇ収納魔法使えるんだ。
俺は刀を抜いて構えた。
「なんだ?その間抜けに曲がったレイピアは。まともな剣も買えない貧乏冒険者じゃねぇか」
「ゴースよ、言ってやるな、お坊ちゃんが一生懸命なのさ」
「「「がはははは」」」
「あんちゃん、かかってきな」
その余裕が命取りなんだよな。
マティスの言ってる事が本当なら、
こいつらは人殺しだ。
それも罪の無い人達を殺してるに違いない。
俺は人を殺した事などないし、
できるかも分からなかったが、
多分この世界では、
こいつらを成敗するのは正しい事なんだろう。
例えるなら、これは戦争だ。
戦争では敵を多く殺すと英雄と言われる。
人殺しだなんて言われないだろう。
同じ人を殺す行為なのに、
時代や世界が変わると、
人の扱いは真逆に変わるんだな。
ルースを見てて思った。
既に俺の前で何人も殺してるルースに対して、
何も嫌悪感だとか感じてないし、
むしろそれが正しいとさえ思える。
環境が考え方を変えてるんだと知った。
なら、俺も大事な者を守る為に、
目の前の『敵』を倒す。
『人を殺す覚悟はあるか?』
マミちゃんに言われた言葉を思い出す。
あぁ、今覚悟を決めたよ。
そもそも俺には守るべき者があるんだ。
俺は刀を上段に構え直した。
「なんだ??その構えは?あんちゃんやる気あんのか?あ、あれ?!」
多分ゴースだろう。
言い終わらないうちに俺はゴースの右側を高速で駆け抜け、
刀で胴を一閃していた。
「なっ?!」
「あ?!」
俺の後ろでゴースが倒れる。
それを見たガースとギースが驚愕している。
「「凄い」」
とは、ラスティとベルだった。
今まで殺さずを意識していた俺の剣は、
冒険者のランクテストでもかなり手を抜いていた。
修行の打ち合いでも、
本気で打ち合う事はない。
でも今のは違う。
手加減も遠慮もなくなった俺の剣は、
かなり鋭さが増していた。
「ゴース!!てめぇよくも!!」
「まて!ギース!二人で落ち着いて行くぞ、この野郎とんでもねぇガキだ」
「おい野郎ども!そっちの女共を抑えろ!」
「こっちゃ大勢いるんだぜ、テメェがいくら強くても多勢に無勢だぜ」
「へーそー」
「てめぇいつまで余裕かましてられると…」
「じゃぁ見てみろよ、あいつ俺より強いぞ」
ギースとガースが見てる前で、
ルースが2メートルほどの高さにジャンプした。
両腕を広げ身体を捻り横に半回転して着地。
直後、襲いかかろうとしていた盗賊達が倒れ始めた。
「ぐえ」
「ぎゃぁ」
「いっ痛ぇ」
ルースの無詠唱攻撃魔法だ。
「な、何が起きた…」
「見ての通りだ。観念した方が良いぞ。まだ抵抗するなら容赦はしない」
「ギ、ギース」
「お前、何者だ?…」
「伯爵大工様だ」
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白村
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