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トンネルを抜けたら異世界だった  作者: 白村
第一部 ギオールの街編
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第五十四話 無情、そして。。。


何日走った事だろう。


夜、ラスティは休息をとっていた。

どんなに急いでいても、

馬が倒れてしまっては元も子もない。

早る気持ちを抑えて、

自分と馬を休ませる。


明け方、目が覚める。


目が覚めると同時に素早く準備して馬で疾走する。


「お願い間に合って」


祈るように呟く。


暗くなり馬を休ませる。

馬はだいぶ疲れている。

ラスティ自身も疲れている。


でも、サクラの街で待つダイサクに会う為に、その胸に飛び込みたい一心で、気力を保つ。


簡単なテントを張りそこで休む。

携帯食を食べて寝る。

ラスティには携帯食などほとんど腹を満たさないが、少しでも食べなくては保たない。


朝が来た。

重い身体に鞭打って馬に跨る。


そして疾る。


雨が降ってきた。

体力も限界に来ていた。


やむなく簡易テントを張り休んだ。


次の日も雨だった。


「どうしよう、雨止まないよ」


泣きそうだった。


もっと早く手紙を読んでいれば良かった。

ちゃんと11月のうちに帰れるようにしとけば良かった。


後悔が打ち寄せてくる。


そして、こんなに誰かを恋しくて頑張る自分に気が付いて、

自分が思いの外ダイサクを愛している事に気が付いた。


………………………………

やっと雨が止み、

街道を馬で走るラスティ。


もうサクラの街にはだいぶ近付いているはず。


しかし、嫌な予感がしてならない。


「急げ」「急げ」「間に合って」

「頑張って、お願い!」


気持ちは焦る一方だった。


とにかく進む、

それしかないじゃない。

ラスティオ焦るな!


自分にそう言い聞かせた。


するとラスティの視界に、


見えてきた!


『領壁』だ!


あと、少し!


馬はだいぶ疲れている。

ここで無理をさせてはいけない。

でも領壁が見えた、

早る。

気持ちが早る。


「落ち着いて私!」


なるべく馬に負担をかけずに行かなくては、

領壁を超えても街まではまだだいぶ距離がある。


ラスティは早る気持ちを抑えて、

領壁に着いた。


領壁に着いた事で、

疲れも忘れている。


とにかくもう直ぐそこなのだ。


領壁の門では、

領地に入るのに手続きが必要である。

身分と、名前、

何が目的でこの街に来たのかを確認して貰わないと街には入れない。


ラスティは衛兵に必要事項を伝える。

だいぶ汚れてしまっているラスティを見て、


「どうしたんだ?だいぶ汚れているぞ」


「急いで来たもので、構ってられなかったんです」


「そうか、馬も疲れてるようだな。うん、確認した。通って良いが、少し休んで行ったらどうだ?」


「いえ、愛する人が、行ってしまう前に」


そう言い残し、ラスティはラストスパートをする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


12月5日


今日は旅立ちの日。

天気は晴天。


ダイサクは昨日の夜タルタスに、ラスティに贈る服を預けていた。


「旦那、良いんですかい?」


「あぁ、ラスティには幸せになってくれって、伝えといて下さい。ちょっとクサいですけどね」


「出発は延ばせないのですか?きっとラスティオの奴こっちに向かってますよ」


「うん、良いんだ。多分だけど、11月のうちに帰って来なかったのは、ラスティの返事なんじゃないかと思う。俺と顔を合わせたくないんだと思う。だから俺が出発してから帰ってくるんじゃないかな。思いっきり傷付けちゃったしね。凄く怒ってたし。ベルもごめんな。ラスティに会いたかったよな」


「んーん、多分大ちゃんの方が悲しい顔してるの」


「それじゃぁタルタス、元気で」


「旦那…」


タルタスは泣いていた。

男泣きだった。


それが昨夜の出来事だった。


大勢のメイド達に見守られて、

愛車のワンボックスに乗り込もうとした時、


息を切らせて、人影が現れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ラスティは走る。

領門を潜り今は畑の道を走っていた。


「あと少し、あと少し!」


ラスティには今日が何日なのか解らなくなっていた。

夢中でただひたすらに、ひたむきに走っていた。

 

ただダイサクに逢いたい一心で。


ゴールはもうすぐ。

もう直ぐ逢って、気持ちを伝えようと、

ラスティはそれだけで気力を保ち走っていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「タルタス?」


駐車場に来た人影はタルタスだった。


「はい、すいやせん、やっぱりどうしてもあいつを待ってやって欲しくて。」


「俺も待ちたい気持ちでいっぱいです。ですけど昨夜お伝えした通りですよ」


「すまねぇ旦那、俺、昨夜言わなかった事がありやす。実はラスティオ宛に手紙書いたんです。先月の15日に出しました。手紙が着いたのは、多分22日頃です。それから急げば、今日来る可能性が高いんです。だからもう一日待ってやって下さい。お願いします!」


「手紙を?」


「はい、その言いづらいかったんで、勝手にやっちまって、領主様が毎日ラスティオを訪ねて来てるって内容でして…」


「ぐっ、そ、そうなんだ」


「大ちゃん、ベルも待ちたいの」


「解ったよ、俺だってラスティ待ちたいんだ。でもさ、タルタス、それでも今日来なかったら、多分、いや間違いなく俺がフラれたって事だから、キッパリ諦めて行くよ。それで良いだろ?」


「はい、それで良いです。勝手にやっちまってすいません」


「良いよ。タルタス良い奴だな。ありがとう」



そして翌日の12月6日


結局ラスティは来なかった。

朝の出発を午後にしたけど、

ラスティは来なかった。


フラれたわ。


そりゃそうだよな。


「タルタス元気でな」


街の外れまでタルタスは見送り来てくれていた。

メイド達やアルバ、マルコスは、俺の屋敷で見送ってくれた。


「はいぃ」


タルタスは泣いている。

人前でもこれだけ泣ける奴は、

ある意味羨ましい。


だいぶのんびりしちゃったけど、

いい加減諦めるか。


屋敷を出てから小一時間経ってる気がする。

俺もどこか諦めきれずに、

だらだらと時間が経ってしまった。


さて、行くとしよう。


俺は車を走らせた。『領門』と言われる門の『西領門』と言う門に向かう。


こうしてる間にも、

もしかしたらラスティが居るかも知れないと、遠くの人影を探したりする。


女々しい俺。


最後はかっこ付けたかったけど、

無理だな。


だって、涙が流れている。


『人間のこういう心は理解できないが、人を想う気持ちは美しい。ダイサクよ、ベルがいるではないか、泣くな』


珍しくルースが慰めてくる。

それがまたさらに悲しみを煽る。


「ルースありがとな。ベルは大好きだよ。でもラスティも大好きなんだ。」


『ふんっ欲張りめ』


「ベルも大ちゃん大好きなの」


「ベルは可愛いなぁ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ラスティはサクラ邸に来ていた。

息を切らして、

扉の前にいた。


扉を叩く。


「はい」


ガチャりと扉が空いた。


メイドの一人が対応する


「申し訳ありません。サクラ様は王都に旅立たれました。ただ今筆頭執事を呼んで参りますので、少々お待ちください」


「そうですか…」


期待は消えた。

間に合わなかったのだ。

 

ラスティは筆頭執事を待つ事無く、

とぼとぼと魔法道具屋の自室である屋根裏部屋へと向かう。


ここで泣いたら動けなくなる。

自室で思いっきり泣きたい。


魔法道具屋は閉まっていた。

タルタスも留守のようだ。


馬を結び、

重い足取りで階段を登る。


2階から屋根裏部屋に行く階段にも扉がある。

その扉の前に、リボンで結ばれた紙の包みが置いてあった。


ラスティには一目でそれが何であるか理解できた。


扉の前に置いてあるという事は、

つまりそういう事だった。


間に合わなかったという現実が更にラスティにのしかかる。


ラスティは疲労で倒れそうな身体に鞭打って身体を清めた。


紙包みを持って屋根裏部屋に入る。

リボンに挟んであったメッセージカードを取り、開いて読んだ。


『愛するラスティ。君にこの服を贈ります。

貴方を包み込んで幸せにします』


涙が止まらなかった。

多分人生で一番、涙が流れている。


リボンを解き紙を開けて中の服を見た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


タルタスは重い足取りで、、自身の店である魔法道具屋に来た。

と、異変に気付く。


見慣れない馬が一頭繋がれている。


直ぐに察したタルタスは階段を駆け上がる。


屋根裏部屋の扉を開けて叫ぶ!


「ラスティオ!!」


階段の上に姿を見せたラスティは、

ダイサクが贈った服、いやドレスを着ていた。


「こ、こいつぁ」


タルタスは息を飲んだ。


泣き顔のラスティだったが、

それでもドレスを纏ったラスティは、

タルタスが知る限りでは今までで一番美しかった。

思わず見惚れたタルタスだったが、

直ぐに我に変える。


「ラスティオ!俺の馬を使え!まだ間に合う!」


涙が滲み虚ろだったラスティの目が開かれる。


「うそ…」


「本当だ!さっき見送ったばかりなんだよ!西門だ!西領門にいけ!!」


「どいて!」


ラスティが叫んで、階段を飛び降りた。

走って馬小屋に向かう。

自分が乗って来た馬は疲労で乗る事は出来ない、タルタスが言ってくれたように、タルタスの馬に跨る。


「ラスティオ!飲みながら行け!美人が台無しだぞ!」


店から出てきたタルタスは小瓶をラスティに投げ渡す。

小瓶はポーションだった。

それも上級なやつ。


「店長愛してる!!」


ラスティはそう言い残し西領門に向かって疾走して行った。


タルタスはラスティを見送りながら、

呟いた。


「馬鹿やろ、言う相手が違うだろう、間に合えよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


気分を新たにするか。


「さて、久々にアニソンでも聴くか?」


「アニソン?って何?」


「音楽の分野だ。ノリノリだぞ」


カーステレオからイントロが流れ出す。


ちゃー ちゃーちゃちゃー♪


「わー凄い!何、何?!この音?!」

『む?!これは?!』


『♪正義の~♪』


「なんて言ってるの?凄いかっこいい!」

『聞いた事ない言語だ』


「これは日本語だ、俺がいた国の言語だよ」


『ほほう、これで操作するのか』


車に置きっぱなしにしていた、この世では役に立たないスマホとタブレットPC。

タブレットPCを車載の充電器で復活させて、Bluetoothでカーステレオに接続していた。

タブレットPCに入ってる曲がカーステレオから流れている。

俺がタブレットPCを操作してたのをルースが見様見真似で弄りだす。


「あ、こら、勝手に触んなよ」


『おお、なんで絵が動くのだ?どう言う魔法だ?』


「おもしろーい、ベルも触りたい!」


異世界の技術はこっちでも好評のようだ。

スティーブ・ジョブズやっぱりすげぇ。


アニソンから歌謡曲に変わった。

と思ったら演歌が流れ出す。

ルースめ好き勝手に触んな。


と思ったらルースの手が止まった。


『ん?、おい止まれ』


「え、どうした?もう直ぐ門だぞ」


『良いから止まれ』


言われるままに停まる。

何か危険が迫ってるのか?


『しばし待て』


「どうしたんだよ?ルース、教えろよ」


ルースは目を閉じて動かなくなった。

どうしたんだ?


「大ちゃん、前見てて」


後ろを見てたベルがそう言った。


「ん、ベルは後ろを警戒しててくれ、ルースは何を感じとったんだ?」


『ダイサク、降りるのだ』


「は?降りたら危険なんじゃ?」


『良いから降りろ!噛み付くぞ!』


「なんだってんだよ!」


俺はドアを開けて降りた。


「おい、ルース説明しろよ!」


『ベルよ、何故こやつはこんなに鈍感なんだ?』


「それも大ちゃんの良いところなの、うふふふ」


2人は揃って、来た方向を見ていた。


「何が鈍感だよ、これでも傷心して、…い、る…だ…」


俺も、2人と同じ方を見て、言葉を失った。


そこには、馬から降りる花嫁がいた。




カーステレオが鳴っている。

昔、大ヒットしたあのラブソングが流れていた。


『♪I LOVE YOU SO〜♪』


花嫁は俺を真っ直ぐ見つめている。


美しい。


その美しい花嫁の名は、


「ラスティ…」


俺が贈った白いドレスを着たラスティは、

とても綺麗だった。

昼の日差しを浴びて、天使のようにも見えた。


まるで夢のようだ。


この世界にウェディングドレスがあるかは知らない。

知らないが、服屋で見たそれはウェディングドレスに良く似ている。


今のラスティはまさに、

美しい花嫁だった。


「だ、ダイサク、さん」


ラスティは頬を赤らめて俺を真っ直ぐ見ている。


俺はラスティに近寄っていく。


「あ、あの、『返事』をします」


俺はラスティの正面まで来て、手を取った。


「はい、お願いします」


「わたしを、包んでください」


ラスティは涙を流した。

美しい涙だった。

キラキラしていた。


俺は無言でラスティを抱きしめた。

ラスティも俺の背中に腕を回して抱きついてくる。


「愛してる。一生、大切にする。約束するよ」


「はい…。愛してます…」


そして、俺たちは口付けを交わした。





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