第五十一話 帰郷
ーラスティ目線ー
大好きなダイサクさんの演説を聞いて、
私は自室でぼーっとしてました。
私の部屋は、魔法道具屋の屋根裏部屋なのです。
ここなら家賃も格安なので、
食費がかかる私にはとても良い物件なのです。
丸窓から、ボヘーっと外を眺めていました。
外はお祭り騒ぎです。
毎年楽しみにしていた出店も、
例年よりたくさん出店されています。
いつもならもう食べ歩いている時間でしたが、
そんな気になれず、
窓の枠に頬を乗せて、
髪の先を指でいじってました。
ダイサクさんの演説を思い出します。
あれは遠回しの告白だったのかな。
聞いた瞬間は、
気持ちが昂って、
自分の事だと思ったけれど、
冷静になってみると、
はっきりと自分に向けられた言葉なのか、
自信が持てません。
だって、あんな別れ方してから、
ちっとも会いにきてくれないし、
ほんとに愛してるなら、
もっとアクションがあっても良いよね?
愛する人を一年近くもほったらかしってある?!
もう分かんない。
「食べてスッキリしよ」
私は商店街に出て、
毎年の食べ歩きに出かけました。
☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎
今日は1月3日、出店の最後の日です。
今日もたくさん食べてます。
美味しい物を食べてる時は、
夢中で他の事は考えないで済みます。
周りにギャラリーが出来てるようですが、
関係ありません。
あー美味しいわ。
と、そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきます。
「あたしも食うにゃ!また勝負にゃ!」
ダイサクさんといた獣族美人でした。
ていうか仔猫のルースちゃんですよね。
こないだ変身するのを見ました。
「おお、大食い魔女様に続いて、大食い猫様だ!!今年も勝負が見れるぞ!!」
ギャラリーから声が上がります。
私はダイサクさんが居るのではないかと思い、
周りを見ましたが、ダイサクさんの姿はありませんでした。
「ラスティよ、奢ってやるにょだ。今年も遠慮にゃく勝負するのにょだ」
「あ、あの、ダイサクさんは?」
「ふん、あにょ腑抜けは来にゃい、食うぞ!」
ルースさんはそう言って肉にかぶりつきます。
奢りと聞いたからには私も負けてはいられません。
その日はルースさんとたくさん食べ歩きました。
それからはまた日常が戻ってきます。
いつもの毎日。
つまらない毎日。
私はダイサクさんの事が頭から離れませんでしたが、
今は忘れようと思っています。
だって伯爵様ですよ?
私などもう相手にされないでしょう。
演説の事は、
多分気のせいだったに違いありません。
だって、あの演説が私へのメッセージだとしたら、その後何かアクションがあっても良いですよね?
数ヶ月経った今も、何の音沙汰も無いのですから。
きっと私以外の誰かに向けた言葉だったのでしょう。
でも、この街にいると嫌でもダイサクさんを思い出してしまいます。
忘れようと思ってもダメなんです。
そもそも街の名前がサクラになっているので、
毎日嫌でも思い出します。
故郷に帰ろうかな。
そんなある時、私に手紙が届きました。
故郷の実家からの手紙でした。
内容は、お父さんの身体の具合が悪いので、直ぐに帰って来なさいとの内容でした。
びっくりしました。
お父さんは確か今年41歳だったと思います。
病気でしょうか?
私は店長に言って、直ぐに旅の支度をしました。
私の故郷は、
ここから馬車で2週間程離れた場所にある、
『リピア』と言う街です。
ちょうど良かったかな。
帰る口実が出来ました。
「では、店長、すいませんが行って参ります。帰りの時期は手紙で知らせます」
「ああ、分かった。気をつけてな」
私はこうしてリピアの街に向かいました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リピアの門を潜ると、
懐かしい匂いがします。
家畜の匂いです。
私はこの匂いが嫌で、
魔法使いになって街を出る事にしたんです。
両親は反対しましたが、
幸いにも私には魔力があったし、
どうしてもこの田舎の匂いが嫌だったので、
無理矢理説得して出てきました。
それが2年前。
私が成人して直ぐでした。
でもあんなに嫌だった匂いが、
懐かしく感じるとは思いませんでした。
ほんとにサクラの街にはもう戻らなくても良いかな。
実家に来ました。
実家は牧畜業を営んでいて、
うちには牛がたくさんいます。
牛は嫌いではありません。
大きいけど、大人しくて可愛いんです。
小さい頃は、育てた牛さんを食べるなんて、凄く可哀想だと思った時期もありましたが、
愛情を持って育てた牛を食べるのもまた、愛情なのかなと思うようになりました。
思えば私の大食いは、
その頃から始まったと思います。
「ただいま帰りました」
「ラスティ!良く帰って来たな!元気そうじゃないか!」
そう言って出て来たのはお父さんでした。
「お父さん病気じゃなかったの?!」
「ん、ああ、もう治った」
「嘘でしょ?心配したんだから、治ったなら良かったけど」
「ラスティ!会いたかったわぁ、おかえりぃ」
「お母さんただいま」
私は実家の自分の部屋に行った。
出て行った時と何も変わって無かった。
「あなたがいつ帰って来ても良いようにしてたのよ、旅で疲れたでしょ、とりあえずゆっくり休んでて」
と、お母さん。
傷心している私には、
心に染みる優しさだった。
ちょっと泣けてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
実家に着いたのは午後2時頃。
部屋で休んでたら、
いつのまにか寝てしまっていた。
「ラスティ、ご飯よ。起きなさい」
と起こされて、
私は食堂に行きました。
食堂には家族が揃っていました。
私の家族は、
私を入れて8人家族。
お父さんお母さん、お爺ちゃんお婆ちゃん、
お兄ちゃんが2人、お姉ちゃんが1人。
私は末っ子です。
「おかえりラスティ」
「元気だった?」
「魔法は上達したか?」
などなど聞かれる。
家族って良い物なんだなって、
初めて思えたかもしれません。
「まぁ食べようじゃないか。ラスティもたくさんお食べ」
この家で大食いなのは、なぜか私だけです。
他のみんなは普通なのです。
でも、家族はみんな私が大食いであると知っているので、今更遠慮などありません。
今日は久しぶりのお家の牛さん肉です。
「あー美味しい」
「そうだろうそうだろう、ギオールの飯はどうなんだ?」
「ギオールはサクラに変わったよ」
「ああ、そうだったな、何でも異世界人の伯爵様らしいな」
カラン、
と思わずフォークを落としてしまいました。
動揺してしまいます。
「どうした?ラスティ」
「え、いや、何でもない」
ごまかしつつ水を飲む
「ラスティ失恋でもしたか?」
ぶーーっと吹き出してしまいました。
「うわっきったねー」
と兄達が騒ぎます。
「ていうか図星なの?!」
姉が突っ込んできます。
私は俯いて、小さく頷きます。
「ラスティみたいな美人をフルなんて、どういう奴だよ。」
「ほんとだぜ、ぶっ飛ばしてやろうか?」
「ちょっとやめなさいよ」
「でも、ちょうど良かったわ、ラスティ、あなたに縁談が来てるのよ」
えっ?!
「ごめんなさいラスティ、お父さん確かに病気だったけど、ほんとは大した事なかったの。でもその時にちょうどあなたに縁談が来て、お父さんの病気を口実にしたのよ、騙したみたいでごめんなさい」
と、お母さんが申し訳なさそうに私に言いました。
お母さんの気持ちも何となく分かる。
無理に出てった私を呼び戻すのに、
どうしたら帰って来てくれるか考えたのでしょう。
「んーん、良いよ。私も帰ってこれて良かったから」
そう言うとお母さんの顔が明るくなりました。
「良かったぁ、ラスティに怒られると思ってたのよ、じゃぁ縁談はどう?」
「良いけど、ダメだと思うよ。私大食いだから。向こうの街でも何人かに申し込まれたけど、私が大食いだって分かると、みんな逃げちゃうの」
「えっそうなの?俺達は慣れてたけど、大食いって嫌われるの?」
「おい兄貴、言い方気を付けろよ」
「そうだよお兄ちゃん、ラスティ失恋したばっかりなのに」
「あ、そうだった、ごめんラスティ、最近の失恋も大食いが原因なの?」
「また無神経だな兄貴は」
「んーん良いよ。その人だけはね、私の大食い見ても、一緒にいて楽しいって言ってくれたの。だから…私も…」
涙が出て止まりませんでした。
お母さんが抱きしめてくれました。
家族の前だと、
やはり安心するのでしょうか。
そのまま寝てしまいました。
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私はしばらく実家に滞在していました。
帰って来たのは8月ですが、
既に一ヵ月経ちます。
お母さんは私に縁談が来てると言ってたのに、あの日以来縁談の話しは一切して来ませんでした。
気になってそれとなく姉に聞いたら、
こっそりと断っていたそうです。
ごめんなさいお母さん、
ありがとう。
家族のありがたみが身に染みます。
でも、どうしよう。
魔法道具屋を休み続ける訳にもいかない。
そろそろ手紙を書いて送って置こう。
『ご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
まだ戻れそうにありませんが、11月に戻れると思います』
これで良し、
12月は忙しい時期です。
それまでに帰れば大丈夫でしょう。
私は実家にいれば、
ダイサクさんを忘れられると思いました。
実家の手伝いをしながら、
家族と気兼ねなく一緒にいると、
気分が晴れてくるんです。
戻りたくないな。
素直にそう思いました。
10月に入りました。
来月は実家からサクラの街へ戻らなければなりません。
ちょっと憂鬱です。
そう言えば、ダイサクさんは王都に旅立つ予定のはずです。
たしか1月に授与式があるとか、
どこかで聞いたと思います。
て言う事は、12月の半ばくらいに向こうに着くのなら、
会わなくて済むのではないでしょうか。
店長には申し訳ありませんが、
そうしようかと思います。
11月です。
家の仕事が楽しいです。
臭いのも気にならなくなりました。
私はもうここで独身のままで良いと思います。
店長には、一度戻って挨拶して、
辞めさせて貰おうと思っています。
魔法道具は大好きですが、
ここリピアの街にも魔法道具屋はあります。
むしろそこで働いた方が、
ご飯にも困らないし、
宿賃も払わなくて良いのです。
とりあえず11月の終わりくらいに、
こちらを出発すれば、
ダイサクさんにも会わずに済むでしょう。
11月も後半です。
私は旅の荷物を整理し直して、
一旦は戻るサクラの街への旅支度を始めようと、
とりあえず荷物を全部出していきます。
「あ、持って来てたんだっけ」
ダイサクさんがくれた服。
捨てに捨てられなかった服。
今は見ても結構平気でいられます。
これは思い出にとっておこうと思いました。
そんな時でした。
一通の手紙が届いたのは。
【読者の皆さま】
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白村
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