第五話 商人アルバにまた相談
俺は女の子を連れて部屋を出る。
宿主に2人部屋はあるかと尋ねると、
今は空いてないそうだ。
狭いベッドに添い寝か。
まぁ元々俺は、結婚したら女の子の子供が欲しいと思ってた。
順番が狂ったけど、特に問題はないか。
一緒に寝たからといってロリコンじゃぁあるまいし、欲情するなんてありえないしな。
食堂で遅い朝食を摂って、とりあえず商人アルバの所に行ってアポを取る。
そして商店街へと赴く。
女の子の服や靴を買う為だ。
いろいろ買い揃えていると、
商人アルバとの面会の時刻になった。
そのまま着替えずにアルバの所に2人で行く。
応接室に入るとすでに商人アルバが待っていた。
「やぁこんにちはサクラ殿。その子が例の子ですね。」
「はい、何と言うか、また叱られそうなのですが、今日からうちに住み込む事になってしまいました。」
商人アルバはやれやれと言う感じに呆れ顔したが、さほど感情的ではないようだ。
俺に席を勧めてきたので、俺だけソファーに座る。
女の子は俺の後ろに立ったままだ。
まるで従者のようだが、これが正しいのだろう。
「この子は、サクラ殿の事情を知っていますか?」
商人アルバは、俺が異世界人である事を伏せるかどうかを聞いているのだ。
「いえ、話してませんが、今後は俺と行動するので、話しても問題無いと思います。あと、そうだ。」
俺は女の子に向き直り、聞いてみる。
「このアルバさんは、俺がたくさんお世話になってる信用できる人だから、君の秘密も相談しようと思っている。構わないかな?」
女の子はちょっと驚いた顔をしたが、
「はい」
と了承してくれた。
その様子を見た商人アルバ。
「ふむ、この世界では自分の奴隷や買い取った者に対して、いちいち承諾をとる人なんていませんよサクラ殿。」
「あ、そうなんですね。この子と約束したものですから、一応聞いてみたんです。」
「約束ですか」
商人アルバは苦笑いしている。
女の子も、
姿は見えないが、なんとなく雰囲気で苦笑いしてそうな感じがする。
奴隷と約束する主人はいないという事か。
商人アルバは女の子に質問する。
「お前、名前は?」
「ございません」
ございません??
9歳が発する言葉じゃないぞ。
「ふむ、なるほど」
名前が有る無しで売り物かどうかの判断をしているのか。
「サクラ殿、私から話しても?」
「はい、分からない事が多すぎので、全部アルバさんに任せます。」
丸投げしてやったぜ。
ていうかほんとに分からんからな。
商人アルバは女の子に向かって話し出す。
「まず、お前の主人はこの世界の人ではない。」
うわ、言い切ったよこの人。
ていうか間違いじゃないが、誤解されないか?
俺は思わず振り返って女の子の顔を見る。
驚いた様子だったが、
だんだんと羨望の眼差しに変わっていく。
あ、眩しそうにした。
俺のオーラを確認しないでくれ。
しかも何を期待して羨望の眼差しになるんだ。
「理由は分からないが、サクラ殿自身、気が付いたらこの世界にいたそうだ。元は日本と言う国の民だったそうだ。お前も感じただろうが、この世界の事を知らないだけで、無知では無い。実に素晴らしい腕を持つぞ。」
最後は聞いてて恥ずかしい。
「あと、年齢は今年で54…でしたかな?」
商人アルバは俺に確かめるように聞いてきた。
「あーはい。それで合ってます。何故かこっちに来たら若返ってたけどね。」
前半はアルバに、後半は女の子に言った。
女の子はまた驚きの表情をした。
表情がコロコロ変わると可愛らしい。
やっぱり9歳だ。
「それではサクラ殿、この子について説明しましょう。見たところこの子は奴隷教育を受けている。名前が無いところをみると間違い無いでしょう。」
「奴隷教育?」
商人アルバによると、
名前が無い子供達は大半が売られる為に育てられる。
6歳頃から9歳6ヶ月辺りまで、奴隷として生きる為に教育を受けるそうだ。
主に逆らわない事、最低限の作法、言葉遣いなどなど。
これは子供が少しでも高額で売れるようにする為のものでもあるようだ。
ただ徹底した教育ではなく、
勉強会くらいの感じで、
学ばなくても良いらしいが、
親が行けと言ったら逆らう事はできないみたいだが、
アルバの見立てでは、
この子はかなり優秀だそうだ。
あとは、夜の奉仕まで教わる事もあるのだとか。
優秀なこの子はどうなんだろうか。
いかん俺はロリコンではない。
そもそも産まれた時から奴隷前提で育てられるから、奴隷としての忌避感などは無いらしい。
「そうなのかい?」
俺は女の子に聞いてみる
「はい。その通りです。」
でも、俺と2人きりだともっとくだけてる印象なんだよな。
「ふむ、それを踏まえて査定しますと、この子は2万から3万マネくらいですかな。」
えっ?!
安っ
「奴隷商が間に入るとおそらくですが、30万マネが相場でしょう、よくよく見ると容姿も悪くない、むしろ趣向的には価値がありそうです。」
奴隷商どんだけ儲けてんだよ。
趣向的って、
この世には変態が多いのかな。
「酷いピンハネですね。10年育ててそれしか貰えないとは。」
「そうですね、だいぶ足元見られてますが、貧民にとってはそれでも大金なのです。でも親から直に買い取るからといって、相場以上のお金は渡してはいけませんよ。他の親も目の色を変えて殺到しますよ。」
「はい、心得てます。それで、金額は判りましたが、いつどこにお金を払えば良いんですか?この子はまだ9歳ですし、あと3ヶ月で10歳になるそうですが。」
「あの、発言をお許しください。」
女の子が声を上げる。
「良いよ」
「ありがとうございます、お金は私が10歳になった時に受け取って両親に渡しに行きます。」
それを聞いて俺は商人アルバの方に向き直る。
アルバは納得してるようだ。
持ち逃げとかはないのかな?
まぁこの子は信用できそうだけど。
「サクラ殿、疑問に思いましたね。お答えしましょう。奴隷は主人に逆らえないように呪いがかけられます。ですので、持ち逃げなど裏切り行為は出来ないんです。」
あぁそうか、主従関係は、必ずしも主人が強い訳じゃない。奴隷が厳ついおっさんで主人が子供って事もあるだろう。
その場合、奴隷に何かしらの枷がないと、簡単に裏切られてしまう。
「なるほど、理解しました。ちなみに裏切るとどんな呪いが発動しますか?」
「命に関わります」
なんだかまた気分が沈む。
主人の命令は絶対なんだな。
どんな嫌な事も従わなければ死ぬのか。
「それでサクラ殿、この者の名前は考えたのですか?」
「あ、ええ、考えてます。俺の世界のどこかの国で、確か、『見る』という意味がある言葉で、この子に合ってるのがあります」
「それは良いですな。しかし奴隷にそのような名前は贅沢ですぞ。良いんですか?」
俺は元々この子を奴隷扱いするつもりはない。
「ええ、構いません。俺は奴隷扱いはしないし、むしろ娘として育てて行きたいと思ってますから。それで良いかい?」
最後は女の子に訪ねる。
女の子は、
「はい!それが良いです!」
凄く嬉しそうだ。
「サクラ殿、名前を付けるタイミングで主従の契約をして、この子には先程説明した呪いがかけられます。この儀式はここでも出来ますがどうしますか?」
気楽に名前は付けられないのか、
儀式が必要だとは思っても見なかった。
ここに来るまでに名前付けなくて良かったぁ。
「知らない所で名付けするよりは、ここでやった方が良いので、アルバさんにお願いします。」
「分りました。ちょっと待ってて下さい。」
そう言って商人アルバは応接室の隣りにいる受け付け嬢に何かを事付けた。
しばらくすると木製の箱を持って受付嬢がやってくる。
厚み6センチほどで、30センチ角程の大きさの木箱を開けると、
石板が入っていた。
石板の中央やや上の辺りに、
直径10センチ程の円が掘り込まれていて、
その円に沿うように紋様が刻まれている。
初めて見た。魔法陣だ。
石板の左右には、
手形の模様が刻まれている。
「これは契約の石板と言います。では早速始めましょう。この上に手を置いて下さい。サクラ殿はこちら、お前はこちら」
商人アルバは石板の右側の手形模様の上に俺の手を、左側に女の子の手を乗せるように指示する。
「ではサクラ殿、私の言葉を真似して言って下さい。」
「はい」
「最後にお前は誓いの言葉を言いなさい」
「はい」
「わたし、サクラはこの者に名前を授ける」
「わたし佐倉大作は、この者に名前を授ける」
何となくフルネームじゃないといけない気がしてちゃんと佐倉大作と名乗った。
アルバは何も言ってこないので正解だったのだろう。
石板の魔法陣が青白く光り出した。
す、すげー
感動する俺にお構いなしにアルバが続けて言う。
アルバ「私に付き従うこの者の名は・・・」
心なしか、俺の手から何かが吸われる感覚がする。
すると更に魔法陣が明るくなる。
す、すげー!
アルバ「サクラ殿、名を」
あ、つい目を奪われてしまった。
「私に付き従うこの者の名は・・・」
俺は女の子の目を見て言った。
「名は、『ベル』!」
女の子の顔がぱぁっと明るくなった。
そして商人アルバが続ける。
アルバ「そして誓いの言葉を。私は主人サクラダイサクに『ベル』を頂き、命尽きるまで従う事を誓います。」
「私はご主人様サクラダイサク様に、『ベル』を頂き、この命に替えて最後まで忠実に付き従う事をここに誓います」
おっと、なんか盛ってないか?まぁ良いけど。
魔法陣はまた更に光り、
徐々に消えていく。
完全に光りが収まる。
「これで終了です」
す、すげー!
まじで魔法っぽかった。
「ご主人様ありがとうございます」
ベルは涙を浮かべている。
そんな嬉しい事なんだ。
まぁ喜んで貰えてなにより。
「サクラ殿、ずいぶんと好かれてるようですなぁ、なかなか居ませんよ。ご主人様とりあえず呼んであげなさいよ」
商人アルバがからかうように言う。
そうか、最初に俺から呼んであげよう。
「ベル、これからよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
これでベルに命名したわけだが、呪いも同時にかかったんだと思うと、ちょっと複雑だな。
「ところでサクラ殿、先ほどベルに秘密があると言っていましたが、どういう事でしょう」
「あぁそれはですね、オーラってわかりますか?」
「おーら?さぁ分かりませんね。何ですか?」
「オーラとは、生命エネルギーとでも言いましょうか、人の生命力のような物なのですが、この子、ベルにはそれが見えるらしいんです。光りと言っていました」
「あ、あの…発言して良いですか?」
「はいどーぞ!」
間髪入れずに許可する。
ベルはちょっと面食らった様子で、
アルバは苦笑している。
「あ、ありがとうございます。わたしが見えるのは、全員の人では無いんです。たまに赤く光りを発する人を見かけるんです。」
アルバは驚きを隠していなかった。
「なんと、それは恐らく魔力ではないか?サクラ殿、オーラという物ではなく、この子が見てるのは魔力ですよ。人の魔力が見えるのか…!」
商人アルバは俯いて考え込んでしまった。
何やらブツブツと言っている。
オーラではなく、魔力とな。
するってぇと、
俺に魔力があるのか?
「魔力が見える能力… いやまて… たしか能力の記録などが……」
「アルバさん?」
はっとしたようにアルバは俺を見てから、ベルを擬視する。
「あ、あの…」
ベルは少し怯えている。
「アルバさん!怯えてますよ」
「あ、あぁ失礼、すまなかった。ちなみに私は光ってるかね?」
商人アルバはベルに聞いてみる。
ベルはちょっとアルバを見つめたあとに、
ゆっくりと首を振る。
「やはりそうか。残念だ。お前の主人はどうだ?」
「はい、ご主人様は他の方には無い、眩しいほどの青い色で光っています」
商人アルバはさらに驚愕して俺を見る。
「な、な、なんと!!」
絵に描いたような驚き方だ。
そんなに驚くほど珍しいのだろうか。
「サクラ殿、あなたは異世界人だから自覚がないだろうが、良く聞いてください。私はこれでも商人生活が長い、30年は商人をしています。そのうち20年、私は世界各地を商人をしながら見聞を広げてきた。つもりだ。」
「はぁ」
「その私が言います。私の予想が正しければ、君達は2人とも大魔法使いになれる。いや賢者にだってなれるかも知れない。」
「すみません、何を言っているのか解りません」
(SoftBankのロボット風)
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白村
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