第四十七話 すれ違い
ーラスティ目線ー
こんにちは、あたしはラスティオ・ザカローラ。
佐倉大作さんに恋する18歳です。
ちょうど一年前の年明けの屋台で、
ダイサクさんに私の大食いを見られた時、
完全に失恋したと思ってました。
でも、ダイサクさんは、私の大食いを見ても、
引かないでいてくれたんです。
それどころか、
今度デートしようとまで言ってくれました。
こんなに嬉しい事はありませんでした。
今までに言い寄って来た男どもは、
私の大食いを見るとみんな逃げて行きました。
まぁ私もそれほど相手に想いを寄せていた訳ではないので、さほどショックを受けなかったし、どうせ大食い女はモテないって分かってるので、諦めもつきました。
でもダイサクさんだけは違いました。
初めて会った時から、
どんどん好きになっていったんです。
服を贈られた時は本当に嬉しかった。
だから、ダイサクさんにだけは大食いを見せたくなかったのですが、
油断から大食いが発覚してしまいました。
泣きそうでした。
でも、奇跡が起きたんです。
大食いが分かっても、
ダイサクさんはデートに誘ってくれたんです。
服を贈られた時よりも嬉しかったかも知れません。
でも、まだまだ油断はできません。
ただの社交辞令で誘ってくれただけかも知れないのです。
そう思ってました。
でも、屋台の一件があってから、
直ぐに食事のお誘いを受けました。
断る理由がありません。
去年までは、
大食いを知られたくない一心で、
食事の誘いを断り続けましたが、
もう、大食い女だと知られてるのです。
私は喜んで誘いを受けました。
でも、まだまだ油断は禁物です。
ほんとに大食い女でも好意を持ってくれるのか、疑う訳じゃありませんが、
私には自信が持てないんです。
誘われたお店で、
私は遠慮なくいただきました。
だって美味しかったし、
ダイサクさんと一緒の食事なんて、
これが最後かも知れないのです。
フラれるならそれでも良いです。
でも、悔いが残る食べ方はしたくなかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、
ダイサクさんは私の食べる姿をにこにこして見てくれます。
ある時、追加を頼んだ私に、
「まだ食うのかよ!」
と言って、爆笑してくれた時もありました。
全然嫌味じゃないんです、
心底楽しそうに、笑ってくれました。
私も一緒に笑ってしまいました。
こんなに楽しい食事は初めてです。
それに、自分が大食いで良かったって、
生まれて初めて思えたんです。
呪いだと思ってた大食いが、
ダイサクさんのおかげで、
初めてそれで良かったと思えたんです。
それから何度か食事を一緒にして、
私は確信しました。
もうこの人しかいません。
私はもうダイサクさんを愛していたのです。
私は、『返事』の為に、ダイサクさんに贈って貰った服に着替えました。
仕事が終わり、ダイサクさんが帰る時間を見計らってあの人の住む宿屋に向かいました。
扉の前で深呼吸します。
あ、ダメ、凄くドキドキする。
でも、凄く幸せ。
私は扉を叩きました。
コンコン
「はい、どちら様?」
優しい声がします。
「あ、あたしです、ラスティです」
「ラスティお姉ちゃん?」
「うん、そうみたいだ」
中からベルちゃんの声も聞こえました。
ベルちゃんも私に懐いてくれてます。
私もベルちゃんが大好きです。
3人で暮らせたらとても幸せに違いありません。
扉が開きました。
私はちょっと恥ずかしくて、
ダイサクさんを真っ直ぐ見れません。
「やぁラスティ、狭いけどどうぞ」
「は、はい…」
ダイサクさんは優しく中に入れてくれて、
椅子を勧めてくれました。
ダイサクさんも私が座るのを見てから、
私の前に座りました。
「今日はどうしたの?ラスティから来てくれるなんて珍しいね」
ダイサクさんが話してくれます。
私も、勇気を出して話します。
「あ、あの、返事を伝えに来ました…」
ずっと言えなかった返事。
実はダイサクさんの反応を想像したりして、
一人で妄想した時もありました。
ニヤニヤしてるのが自分でも分かりました。
でも、でも、ダイサクさんの返事は、
私の想像とは真逆だったんです。
「返事って?」
あまりに軽く、
あまりに簡単に返されました。
「え?!」
自分の耳を疑いました。
だって、ダイサクさんから服を贈ってくれたのに、
えっ?!
どう言う事?
「えっと、ごめんなんだっけ?」
さらに追い討ちをかけるようにダイサクさんは言いました。
ああ、そう言う事。
結局大食い女はお呼びじゃないんですね。
初めて大食いで良かったと思えたのに、
初めて誰かを愛したのに、
全部嘘だったの?!
それとも簡単に忘れるくらい軽い事だったの!?
悲しくて悔しくて、
怒りが込み上げてきました。
「ほんとに忘れてるわけ?!最っ低!!」
私は勢いよく立ち上がり、
そのまま扉を開けて、
「さ・よ・な・ら!」
捨て台詞を吐いて部屋を出ました。
バタンっ!
何なのよいったい?!
こんな服着て来るんじゃなかった。
何であんな男を愛しちゃったんだろ?!
もう悔しくて悲しくて、
涙が溢れてきます。
すると後からダイサクさんが追いかけてきました。
「ラスティ!待てよ!」
「気安く呼ばないで!!」
追いかけてくるとか、
そう言うのは好きな人にやれば良い。
簡単に服を贈った事を忘れるくらいの相手なら、
追いかけてくるな!
二度と気安く呼ばないで!
「訳を教えてくれよ。何で怒ってるの?!」
ダイサクが前を塞ぎました。
私は思い切り睨んで、
力任せに殴ってやりました。
ダイサクの顎に入った拳は、
見事にダイサクを倒しました。
て、えっ?!
ちょっと待って、
何でまともに食らってるのよ?!
男なら避けなさいよ!
「ちょ、だ、大丈夫!?えー?」
「大ちゃん!」
そこへベルちゃんが来ました。
「ベルちゃん、ごめんね!」
私は逃げるようにしてその場から走り去りました。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだし、
ベルちゃんに合わせる顔もないです。
私は自分の部屋に戻ってきました。
服を脱ぎ、脱いだ服をゴミ箱に思い切り投げ入れようとして振り上げます。
でも…
でも、できませんでした。
振り上げた服を、
そのまま抱きしめるようにして、
大声で号泣してしまいました。
自分が惨めで、
情けなくて、
大食いが恨めしくて…
気が付いたら朝です。
泣きながら寝ていたようです。
気分は最悪でしたが、
今日も日常はやってきます。
捨てきれない服を放置して、
普段着に着替えます。
「痛っ」
右手から痛みが走りました。
ダイサクさんを力任せに殴ったので、
拳を痛めたようです。
少し腫れてるみたい。
腫れ止めの薬を塗って、
包帯をしましたが、
利き手じゃない片手での作業なので、
うまく巻けませんでした。
そんな事でも情けなくて、
また涙が出てきました。
魔法道具屋の開店準備をして、
少し早いですが余計な事を考えたくないので、
さっさと店を開けてしまいました。
でも結局やる事がなくて、
ぼうっとしてしまいました。
お腹空いたな。
そう言えば昨夜から食べてないや。
こんな時にもお腹が減るなんて、
私の大食いはやっぱり呪いなんだ。
そんな事を考えてたら、
店のドアが開きました。
勢いよく開かれた扉から、
また勢いよく人が近寄ってきます。
「…!」
ダイサクさんでした。
顔を背けて立っています。
何?!
そんなに私の事が嫌い??
もう来ないでよ!!
「な、何しにきたのよ!」
「手を出せ」
え?!
手をだせ?!
何言ってんの?!
あんたのせいで怪我してんのよ!
「えっ!?な、なんで?!」
私は咄嗟に手を隠しました。
「良いから出せ!」
ダイサクさんはそう言って、
隠した私の右手の手首を掴み、
無理矢理前に出しました。
痛い!
何しようって言うの?!
「なに?!仕返し?!やっぱり最低…」
「ルース!」
「にゃ」
私は罵声を浴びせようとしましたが、
ダイサクさんはルースを呼びました。
でも出て来たのは大食いの獣族の美人さんでした。
あれ?ルースって仔猫ちゃんじゃなかったっけ?
「良いにゃ」
ルースと呼ばれた獣族の美人さんがそう言うと、
手の痛みが引いていました。
えっ?!
治癒魔法??
どうゆう事?!
戸惑っていると、
ダイサクさんと獣族の美人さんは直ぐにお店を出て行ってしまいました。
帰り際にチラッと見えたダイサクさんの左頬は、紫色に腫れていました。
「ラスティお姉ちゃん」
えっ
見るとベルちゃんがこちらを心配そうに見ています。
「あ、ベルちゃん、ごめんね」
「んーん、ベルはね、ラスティお姉ちゃん大好きなの、大ちゃんも大好き。後ね、大ちゃんもラスティお姉ちゃんの事大好きなの」
「えっ?!だってそれじぁ」
「ベルね、大ちゃん見てると分かるんだぁ。大ちゃん、ラスティお姉ちゃんの事大好きだよ。それだけ言いたかったの。また来るね」
私は訳が分からなかった。
もちろん最初は、
ダイサクさんから服を贈られたから、
ダイサクさんは私に好意を持ってくれてると思った。
私もダイサクさんが好きだったし。
だからこそ、大食いを隠して、
大食いを治そうとまで決心もした。
でもその決心は無駄で、
んーん、私は大食い女のままで良いんだと思えた。
そう思わせてくれた。
だから返事しに行ったのに、
軽〜く、『何が?』
みたいに言われて…
あんまりよ。
でも、怪我を治しに来てくれた。
最初、顔を背けていたのは、
怪我した所を見せたくなかったから?
それなら、獣族美人に頼んでサッサと直せたでしょ?
私の事を大好き?
ベルちゃんって、
『見える』と言う稀な能力があるって言ってた。
そのベルちゃんが、嘘をわざわざ言う?
なんか、私とんでもない勘違いしちゃってる?
えー、私が間違ったの?!
「あーもー!私だってダイサクの事大好きなのー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから何日も過ぎました。
私は、冷静になって考えました。
でも、答えなんて分かりません。
そもそも私、そんなに頭良くなかったし。
確かなのは、
私はやっぱりダイサクさんの事が好き。
何であんなに怒ってしまったんだろう。
怒らずにちゃんと話したら良かった。
フラれるにしても、
フルにしても、
話し合っていれば、
今のこのモヤモヤした現状では無かったはずです。
「はぁ…何やってんだろうな、私…」
それからと言う物、
私はやっぱり諦められなくて、
ダイサクさんを探してしまいました。
いえ、いる所は分かってるんです。
普段はマルコス子爵様の家を造ってるし、
夜は宿屋にいる事も分かってます。
でも行けません。どんな顔して逢いに行けば良いのでしょう。
でも気になるのはあの獣族美人です。
ほんとはあの獣族美人が本命なのでは?
と疑ってしまいます。
でも、男の人は何人も妻をとっても良いのです。
あまり気にする事もないと思いますが、
やっぱり気になってしまいます。
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だいぶ月日が経ちました。
今日は恒例の炊き出しの日でしたね。
朝から商店街でダイサクさん達を見かけました。
何となくつけてしまいました。
雑貨屋さんの前に、マミさん達と合流してるのですね。
はぁ、何してんだろ私。
そう思って魔法道具屋に戻ろうと思った時でした。
ベルちゃんの使い魔、
黒猫のルースが突然光ったかと思ったら、
なんとあの獣族美人に変わったんです。
凄く驚きました。
ダイサクさんがルースと呼んでいた訳が分かりました。
でもなんかいけない物を見たのではないかと思い、
急いでその場を後にしてしまいました。
☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎
月日が流れるのは早い物です。
もう10月です。
寂しいです。
近くにいるのに話せない。
話したいのに、
近くに行けない。
何故こうなったのでしょう。
あの時、ちゃんと話してれば…
ああダメです。
泣きそうになります。
昨日はベルちゃんの誕生日でしたね。
私も参加したかったな。
今年のプレゼントは、
魔法のブーツをと、既に考えていたのに、
結局何もできないままでした。
と、なんか街が騒がしいですね。
何かあったのでしょうか。
外に出ると、
何でも公示が出てると、皆騒いでいます。
公示を見に中央広場に行きます。
ああ確かに公示が出てますね。
騒ぐような事なのでしょうか?
どれどれ?
……!!!
なんですって?!
だ、ダイサクさんが、伯爵?!
嘘っ?!
街がギオールから『サクラ』に変わる?!
何という事でしょう。
ダイサクさんは更に遠い人になってしまうようです。
諦めました。
その日はどうしても店にいる気にはなれず、
休みを取って商店街を歩いていました。
やけ食いでもしようかしら。
あら?あのお店開店してる。
以前から工事していたお店が開店していました。
どんなお店かと見たら、
「焼き肉食べ放題?」
食べ放題ってなんでしょう。
どんなにたくさんおかわりしても良いと言う事でしょうか?
どうせやけ食いしようと思ってたので、
私は迷わずお店に入りました。
「いらっしゃいませぇ、お一人ですかぁ?」
「はい、どうせ独りですよ」
「あ、えっと、こ、こちらの席へどうぞ」
私は案内された席に座ります。
メニューを見ると、
『食べ放題コース300マネ』
と書いてありました。
「この食べ放題コースというのは?」
私は店員さんに聞いてみました。
「はい、そのまんまです。300マネで、お肉食べ放題ですよ。』
「どんなに食べても?」
「はい、どんなに食べてもです。大食いの方なら是非お勧めですよ!」
凄い!
素晴らしい!
こんな夢のようなお店ができたのですね!
毎月の食費にどれだけお金がかかった事か。それが300マネで食べ放題だなんて。
「これでお願いします!」
それにしても、
食べ放題以外にも、
この店は斬新ですね。
まず自分でお肉を焼くスタイル。
これは好みで焼き加減が変えられるので良いですね。
食べるお肉も選べる。
気に入ったお肉だけを鱈腹食べても良いですね。
傷心を癒すには丁度良いです。
私は、夢中で食べました。
全部忘れたい。
ダイサクさんの事も、
何もかも忘れたい。
鱈腹食べて、
ぜーんぶトイレに流してやるんだ!
でも、
でも、
忘れたくないです。
☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎✴︎☀︎
新しい年が来ました。
1月1日です。
今日は新しい領主様の演説があるそうです。
素晴らしいです。
素直に、
ダイサクさんの出世を喜びます。
遠い人になってしまいました。
手の届かない人になってしまいました。
私の恋は終わりましたが、
でも、ダイサクさんを応援させて下さい。
新しい伯爵様の住まいは、
元のバンジス子爵様が住んでた邸宅だそうです。
何でもバンジス子爵様は、
犯罪を犯して犯罪奴隷に落ちたそうです。
実はその犯罪を暴いたのも、
ダイサクさんが活躍したそうです。
素敵ですダイサクさん。
いーえ、サクラ伯爵様。
私は馬車の通る道の端の方で、
サクラ伯爵様が通るのを待ちました。
お姿が見れたらみっけもんです。
まぁ今見なくても、
ちょくちょく遠くから見ていたのですが、
今日は隠れなくても良いので、
ちょっと安心です。
それにしてもたくさん人がいますね。
遠くから歓声が上がります。
あ、馬車が来ました。
きっとあれに乗ってるのですね。
残念ながら屋根付きの馬車なので、
お姿は拝見できませんね。
でも窓が開いています。
顔を覗かせています。
懐かしいお顔です。
そう言えば、正面から顔を見たのは、
私が殴った時が最後でしたね。
私は何となく嬉しくて、
微笑んで馬車を見送りました。
それから中央広場に行きました。
凄い人です。
あ、出て来ました。
かっこいいです!
貴族服があんなに似合うなんて、
素敵過ぎました。
演説が始まります。
ああ懐かしい声です。
あ、涙が出そうです。
内容は、
「えっ?!異世界人?!うそっ…」
この世界に疎い?
えっ?!
じ、じゃぁあの時、
知らなかっただけなの?!
私が勝手に服を貰って舞い上がってただけなの?
なのに、私はダイサクさん思いっ切り殴っちゃって…。
それなのに怒らずに私の傷を先に治してくれた。
えっちょっと待って、
私を先に治したくて自分を後回しにした?
今更になって、ダイサクさんの真意が見えた気がしました。
自分が愚かだった事に気が付いたのです。
一方的に迷惑をかけていたんだ。
服をくれたのも、ダイサクさんにとってはほんの軽い気持ちだったんだ。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
でも、次の言葉でそれがまた間違いだったと知らされました。
『こんな俺にも愛する者達が出来ました。
以前いた異世界ではなく、この世界に、愛する者達が出来たんです。一人はこのベルです。ベルは貧民街を変えたい一心で私を頼って来てくれました。私を必要としてくれています。そして、もう一人いますが、その女性は残念ながら、私の不徳の致すところで傷付けてしまいました。ですが、私は恩返ししたい気持ちに変わりありません、愛する気持ちに変わりありません。そして皆さんにも、恩返ししたいのです。』
言葉がありませんでした。
いつのまにか涙が流れていました。
傷付けた女性って、
私の事だよね?
間違いないよね?
だって、ダイサクさんの事、
私知ってるもん。
近くに女の人がいないの知ってるもん。
ダイサクさんの周りには私しか居ないの知ってるもん。
「私も、愛してます」
思わず言っていた。
大歓声の中、誰にも聞かれる事のない言葉だった。
【読者の皆さま】
いつも読んでいただきありがとうございます。
小心者の私に、
↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。
よろしくお願いします!
白村
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