第四十五話 新年の演説
1月1日
朝が来た。
広い寝室、広いベッド、なのに固まって寝ている俺達。
今日から新しい年だ。
この世界の暦、龍暦1847年の始まりである。
俺が初めて会議に出たあの次の日から、
街が大騒ぎになった。
新しい伯爵、
新しい街名、
そして伯爵は異世界人。
ギオールは生まれ変わるとお祭り騒ぎになり、
家には連日、大勢が訪ねて来るようになった。
伯爵様に挨拶をして顔を売ろうとする者、
娘を連れて来て縁談を持ちかける者、
商人、奴隷商などなど。
それだけではない、
新しい伯爵を一目見ようと集まる人もいた。
マルコス邸の工事現場まで来る始末だ。
俺は衛兵隊に頼んで、
警備をお願いしたくらいだ。
人の噂も何とやらで、
しばらくしたら収まるかと思ってたら、
今日の日を迎えるのに、
ますます盛り上がってしまった。
今日、そう、今日から街名が『サクラ』となる。
その式典で俺が伯爵として演説しなければならない。
まだ伯爵(仮)なんだけどなぁ。
大勢の前で演説とか、
まじで怖い。
「うへぇ」
「ぶっ、あははは!」
あ、また声に出してたか、
いつのまにか起きてて俺をこっそり観察するのはやめてほしいものだ。
まぁ可愛いから許す。
可愛いは正義だ。
「今年の一言目がうへぇって、大ちゃん面白すぎなの、うふふふ」
「ははは、また聞かれたかぁ、あけましておめでとうベル」
「あ、異世界の挨拶、あけましておめでとうなの」
このやり取りを聞いてルースも起きる。
「あけおめルース」
「あけおめなの」
『うむ』
素気ねーな。
ま、ルースだしな。
俺達は着替えを済ませ、
ダイニングに入る。
すると既にセバスチャン、ロッテンマイヤー始め、全員が揃っていた。
「「「おはようございます」」」
「やぁみんな、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします」
しんと静まり、セバスチャンが、
「あ、あの、おめでとうとは?」
「俺がいた国の挨拶だ。新しい年になって初めて会う人には、こう挨拶するんだ」
「なるほど、おめでとうございます、よろしくお願い申し上げます。でよろしいですかな?」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。です。」
「「「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」」」
全員が言い直してくれた。
「気分が明るくなりますね」
と、ロッテンマイヤーさん。
「では、朝食を取りながら今日のご予定を」
セバスチャンがテーブルに着くように促してくる。
俺達がテーブルに着くと、
他のメイド達も席に着く。
ベルの誕生日に服を買い与えてから、
食事はなるべく大勢で摂るという俺の意向で、給仕係以外は一緒に食事を摂るようになった。
おかげでだいぶ親しくなれた気もするし、気兼ねなく食事する事ができるようになった。
全員の食事が揃った。
「では、いただきます」
「「「いただきます」」」
「えー、今日は10時より中央広場にて、伯爵就任の演説があります。それからセレモニーなどのイベントが……」
予定を喋り続けるセバスチャンを置いて、俺はコーヒーを飲む。
「あー、コーヒーうめぇ」
「もぐもぐ、いつも思うの、むぐむぐ、大ちゃんお腹減らないの?ごっくん」
「ずずーっうん、朝は食欲ないんだよねぇ。たまに食べると食べ過ぎちゃうんだけどね」
「ダイサク様、聞いてますか?」
「あーうん、聞いてる。で?何時に出店行けるの?」
「聞いてないじゃないですかぁ、まぁもーいーです」
「うん、セバスチャンも食べなよ、美味しいよ」
「大ちゃん食べてないの」
「あぁそうだった、美味しいってさ」
メイド達の何人か、
俺達のやり取りを見て笑っている。
やっぱり食事は大勢が良いのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食事が終わり、
今度は着替えだ。
一応 仮とは言え伯爵様である。
民衆の前に立つのに、
普段着では格好が悪い。
なので、マルコス監修で設えた、
貴族服に着替えだ。
着替えは数人のメイド達によって着替えさせられる。
俺は着せ替え人形状態だ。
その間に演説のスピーチを考えていた。
いや、既に考えてはいたので、
復習的な感じで、頭の中で繰り返してた。
着替えが終わり、
剣が用意される。
貴族になると帯剣を許される。
公の場に立つ時など剣を腰に下げるのが普通だそうだ。
しかし俺は剣など持っていなかった。
手作りの竹刀もどきを剣道の修行の時に使ってる程度だ。
なので今回は剣も用意しようと、
武器屋に行ってみたのだが、
どうにも好みに合わない。
やはり日本人なら日本刀が欲しい所だ。
という訳で、
鍛冶屋に無理を言って日本刀もどきを作って貰った。
そもそもこの世界の剣は、
型に溶けた鉄を流し込む鋳造で作る。
だから、いくら研いでも日本刀ほど切れる刃にはならないし、折れやすい。
剣という物は、基本的に力任せにぶん殴ってぶった切る物なのだ。
もちろん例外もある。
レイピアと呼ばれる細い剣は日本刀ほどじゃないが、そこそこ切れる剣だ。
まぁなんにしても物語に出て来る西洋の剣が切れ味抜群、
というのは、正に作り話でしかないのだ。
それに反して日本刀は鋼を叩いて鍛える鍛造だ。繰り返し折り込んで鍛える日本刀は、丁寧に研げば恐ろしいくらいに切れるようになる。
力任せに振るのではなく、
洗練された技で振り、正に『斬る』と言う表現が相応しい。
日本刀は世界的にみてもかなり洗練された刃物なのだ。
西洋人は日本に来て、銃よりも刀を恐れたと言われてたほどだ。
鍛冶屋が鍛えてくれた刀を、
俺が研いで切れる刃にしたら、
その切れ味に凄く驚かれたものだ。
というわけで、俺は貴族服に日本刀を帯刀したスタイルである。
そしてベルも、
伯爵の側近に相応しい服装に着替える。
白を基調とした綺麗な衣装だ。
腰にはマミちゃんに贈られた短剣を下げている。
うん、やはりベルは何を着ても似合うが、
今回は特にとても可愛いし綺麗だ。
そうそう、マミちゃんと言えば、
既に王都に向けてこの街から発っていた。
また会える事を祈ろう。
そして準備が終わり出発の時間になった。
俺達は馬車に乗って中央広場に向かう。
屋敷から広場に向かう道筋には大勢の人が出ていた。
オープンではなくセダンタイプの馬車なので、外は窓からしか見えないが、
顔を覗かせると大きな歓声が上がった。
なんだか恥ずかしくなって来た。
俺って凄えのかな?
と勘違いしそうだわ。
と、ふと観衆から離れた所にラスティを発見した。
発見してしまった。
微妙だが、微笑みを浮かべてこちらを見ているようだ。
見に来てくれたんだ。
ありがとう。
ちょっとだけ寂しく思いながらも、
馬車は中央広場に向かう。
ちなみに俺が窓から顔を覗かせるよりも、
ベルが顔を覗かせた方が大きな歓声が上がるのは、きっと気のせいだろう。
可愛いから仕方ないかぁ。
ここでも可愛いは正義だ。
中央広場に着いて庁舎に入る。
庁舎は4階建てになっていて、
3階のバルコニーからは中央広場が一望できるようになっている。
何かのイベントや、
演説などの多目的で使えるバルコニーになっていた。
ちょっと広場を覗いて見たら、
地面を埋め尽くす人しか見えなかった。
凄え大観衆だ。
この街にこんなに人っていたんだなぁ
リーンゴーンと、
時の鐘が10時を知らせる。
広場はざわざわとしていて、
今か今かと民衆が俺を待っていた。
庁舎には、他の貴族達も来ている。
当然マルコスも来てるし、
大商人アルバも来ていた。
「時間です」
係の者が俺に伝えて来た。
「よし、じゃぁベル、ルース、行こうか」
「はい」
『うむ』
俺達はバルコニーに備え付けられた台に乗り、更に高い所から人々を見下ろす。
俺達の姿を見て大歓声が上がる。
俺は首を巡らせ広場を見渡す。
ラスティもこの中にいるのかな。
居たら嬉しいな。
歓声が続く。
俺は左手を上げて応えると、
さらに歓声が強くなった。
凄く気分が良い。
大スターになった気分だ。
ベルも手を軽く上げて応えている。
手を下ろすと歓声が急速に収まっていく。
心臓が高鳴る。
「皆さん、こんにちは」
俺の言葉は、魔法道具で増幅され、
大きな音になって遠くにも届く。
「この度、伯爵位を賜りこの街の領主になる事になった、ダイサク・サクラです。え~…」
俺は少し間を開けて自分の事を話す。
「私は異世界人でもあります。約4年ほど前に、どういう訳かこの世界に来ました。はっきり言ってまだこの世界の事には疎いですし、街の運営など分かりません!」
観衆に戸惑いのどよめきが起こる。
「ここで、私の事をお話しします。私は孤児でした。世間では風当たりも良くはありませんでした。そんな世間に、私は反発して迷惑をいっぱいかけました。でも気が付きました。世間はそんな俺でも受け入れてくれる事を。そして迷惑をかけても何もならない、何も生まれない事に気が付いたんです。
それから努力しました。私を育ててくれた世間に恩返しできるように、仕事を目一杯頑張りました。おかげで技術も身につきました。そんな時に、私は異世界から転移して、この街に来ました。この街に来た時は、生きていける自信はありませんでしたが、こちらにいる商人アルバやマルコス卿、この街の人々のお陰で生きていける事が出来ました。」
民衆は静かだ。
黙って俺の話を聞いてくれている。
「この場を借りて、感謝を申し上げます。お世話になった方々、本当にありがとうございます!」
俺は民衆に向かってではあるが、背後にいるアルバ、マルコス卿に対して深くお辞儀した。
ここで大きな拍手が巻き起こる。
俺はここまでの短いスピーチなのに、
かなり感情が昂ってきていた。
お世話になった人達の顔が浮かぶ、
ベルはもちろんの事、ルース、
アルバ、マルコス、
マミちゃん、
シンクロ4人組、
セバスチャン、
ロッテンマイヤー、
メイド達、
そしてラスティが思い浮かぶ。
やばい泣きそう。
「こんな俺にも愛する者達が出来ました」
これはアドリブだった。
自分でも興奮して訳が分からなくなり始めていた。
「以前いた異世界ではなく、この世界に、愛する者達が出来たんです。一人はこのベルです。ベルは貧民街を変えたい一心で私を頼って来てくれました。私を必要としてくれています。そして、もう一人いますが、その女性は残念ながら、私の不徳の致すところで傷付けてしまいました。ですが、私は恩返ししたい気持ちに変わりありません、愛する気持ちに変わりありません。そして皆さんにも、恩返ししたいのです。」
俺はここで涙が出てしまった。
言葉が詰まってしまった。
それでも民衆は静かに次の言葉を待ってくれている。
俺は深呼吸して次の言葉を紡いだ。
「俺は、こう見えて53歳です。転移する時に肉体が若くなりました。そんな俺の見解ですが、この世界は俺がいた異世界より、100年くらい遅れています。異世界の方が遥かに進んだ文化を持っています。
そんな異世界にいた異世界人の俺が約束します。この街を、この世界で一番進んだ街にする事を!
私はまだこの世界では未熟者なので、数年か、或いは10年ちかくかかるかもしれませんが、見聞を広げる為にあちこち旅に行きます。この世界の事を学び、修行して戻った暁には、もっともっとより良い街にする事を約束します。
必ず恩返しします!
今日からこの街は『サクラ』となりますが、世界に轟く『サクラ』にしてみせます!」
一瞬の静寂の後に、
割れんばかりの大歓声が上がった。
街中に歓声が響き渡ったのだった。
これを書いてる時、演説って難しいんだなぁと思いました。
まぁダイサクも演説が初めてなので、
ちょうど良いですよね。
【読者の皆さま】
いつも読んでいただきありがとうございます。
小心者の私に、
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白村
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