第四十四話 告示
10月19日
ベルの誕生日から一週間経ったある日、
俺は呼び出しを受けて街の庁舎に来ていた。
会議室に通されるとギオールの貴族達が既に集まっている。
会議室というより、応接室に近い感じだな。
全員がソファの前に立ち、俺に相対している。
その中にはマミちゃんもいた。
「よくきたな佐倉大作、それと、ベル、ルースに、セバスチャンだったかな。」
と、マミちゃんが話し出す。
いつもの砕けた感じではなかった。
「はい、セバスチャンでございます」
俺は執務の事は分からない、
だから、今回は、筆頭執事ではなく、執務官としてセバスチャンを連れてきている。
マミちゃんは続ける
「うん、まずは紹介といこう、彼が佐倉大作だ、知っている者もいるかと思うが、異世界人だ。彼の持つ技術は素晴らしい物がある。そして側近のベル。この子はある稀な能力があり、他人の魔力が見え、嘘をも見抜くぞ。さらにこの二人の魔力量は計り知れない。魔術を探究すれば賢者にもなれるだろうよ」
一同は驚きを隠せないでいた。
「そのような方がなぜギオールに?!」
「け、賢者様とは、本当なのですか?!」
「その若さで、末恐ろしい女性ですな」
騒つく貴族達を置いて、
さらにマミちゃんは続ける。
「これだけでもこの者が伯爵に相応しいと思うが、さらにそこの使い魔なのだが」
マミちゃんは一旦区切り間を空ける。
「それは仔猫では無く使い魔なのですか?」
「その使い魔が?まさか以前話された…!?」
「そうじゃ、何を隠そうこの仔猫様が幻獣リュンクス様だ」
一同静まり返る。
「まぁ皆、座れ」
マミちゃんは一堂に着席を促し、皆が座って落ち着いた頃にゆっくりと話しだした。
「改めて言うが、これは口外してはならん。口外すれば反逆罪になると知れ」
て言うか、セバスチャンも驚いているようだ。
セバスチャンには強力な魔獣だと言ってあったけど、
幻獣だとは夢にも思って無かったよね。
「しょ、証拠は?!証拠はあるのでしょうか、このような猫が幻獣様だとはとても信じられません」
一人の男爵が言った。
一同ルースに注目している。
「た、確かに証拠はあるのでしょうか?」
マミちゃんはルースに話しかける。
「ルース様、お姿を拝見できませぬか?」
俺もルースに注目する。
『ふんっめんどくさいのぉ』
そう言ってルースは俺の頭に乗り、
魔力を吸って変身する。
光りが広がると、
一同がまたまた驚愕する。
ルースは巨大なウサギ、
では無く猫髭娘になっていた。
「いや、そっちかーい!」
思わず突っ込んでしまった。
「にゃんでも良いだろ、めんどくさいにゃ」
「獣族?!」
「ふんっあたしを獣族だとあにゃどるにゃ、貴様如き一瞬で蝿に変えることも可能だにゃ」
「ルース脅してどうする」
「ルースや、できたら真の姿が良かったのう」
マミちゃん、素に戻ってるよ。
「ふんっにゃらばこれはどうだ?おいそこにょ、その手はどうしたにゃ?」
ルースは一人の男爵に声をかけた。
その男爵は厳つい姿で顎に傷痕がる。
「私か?!私は元兵士なのです、この指は以前魔物に喰われてしまったのですが、これがなにか?」
「見せるにゃ」
男爵は手を出して見せる。
人差し指と中指が欠損していた。
ルースはその手に自分の手を翳し、
反対の手は俺の頭に乗せた。
あ、魔力が吸われてる。
そう思ったら男爵の指が見る見る再生していく。
さすがに俺も驚いた。
というか、ちょっとグロい。
ほんの数秒の出来事だった。
男爵は泣いて喜んでいる。
「感謝であります!幻獣様自ら癒してくださるとは!これで、孫娘に怖がられる事なく撫でてやる事ができまする!感謝でありますぅ、うう…」
「解ったか、もう良いだろ」
そう言ってルースは黒仔猫に戻った。
「この力はまごう事なき幻獣様ですな」
「いろいろ疑問もあるかも知れないが、これが現実だ。そして、この幻獣様は佐倉大作とベルの使い魔だと言う事も忘れるな」
一同、また静まり返るが、間をおいて子爵が話し出す。
「確か幻獣様は国を滅ぼした事がおありでは?」
「あーそれについて発言良いですか?」
俺は手を上げて聞いてみた。
「うむ、大作、言ってみろ」
「このルースの名誉の為に言います。ルースは過去に、歴史に残る戦争を、国を滅ぼす事で消したと話していました。しかしそれは苦渋の決断で、元々はルースの血を奪い合った醜い人間が原因だったのです。決してルースが進んで滅ぼした訳では無かったと、覚えておいて下さい」
「ふむ、なるほど。皆聞いたか。いかに幻獣様と言えど、好き好んで人間に危害を加えたりはしないのだ。今見た奇跡もそうだが、幻獣様は慈悲深い。それにこの幻獣様が協力してくれたおかげで、バンジス事件も解決したのだ。」
「なるほど、理解いたしました」
「では改めて佐倉を伯爵にするのに、反対意見はあるか?」
「ありませぬ、あろうはずがないです、この御恩はいずれお返ししたく存じます」
そう言ったのは指を治して貰った男爵だった。
「わ、われわれも異論はありません」
「ふむ、聞いての通りだ大作。本来なら公爵として王都に迎えたいくらいなんだ。でもそれは望まないだろ?」
「や、やめて下さいよ、そんなの務まる訳ないでしょ」
「な、なんと、公爵位の提案を断るとは…」
「そう言う人間なのだよ、この佐倉大作と言う者は。力がある癖に傲らず、正義感があり慈悲深い。お主らにも見習って欲しいくらいだ」
みんな黙り込んでしまった。
それにしてもですよ。俺を見習えって?
冗談言っちゃいけない。
孤児でグレて世間に迷惑かけまくった。
そりゃぁ改心したけど、
本質は変わって無いだろう。
歳とって丸くはなったと思うけどね。
それに、俺には実感がまるでない。
それに尽きるね。
「では反対する者がいないようなので、佐倉大作。其方にはこれより伯爵の爵位を与える物とする、正式には王都にて王に贈られるのだが、本人の希望により、再来年の1月に贈られる事とする。それまでにこちらにやり残した事を片付け王都に赴くように。」
なんだって?再来年の1月?
あと一年と2ヶ月?
「明日に公示を出す。このギオールは『サクラ』と街名を来年より改名する。全体の領主に佐倉大作が就任、なお、行政は今まで通りに各貴族達で行う事。執務に関しては、旧バンジス領は佐倉大作。その他は今まで通りだ。後は基本的に佐倉大作の意向に添い街の管理運営を行う事。以上だ」
「「「ははっ」」」
むぅ、なんか勝手にいろいろ決まってしまった。
辞退したい気持ちでいっぱいだが、
以前にもマミちゃんに言われてるからな、
爵位は断れないだろう。
「あのうすいません、俺は街の運営とか言われてもさっぱりわからないので、皆さんに任せします。役に立つ伯爵とは自分でもとてもとても思えませんが、こんなんで良いんですか?」
「それはおいおい学んで行けば良い。素人に口出されても迷惑なだけだ。前にも言ったが、お主は世界を見て、この世界の見聞を広げた方が良いだろう。それから帰って来て、サクラの街を良くして欲しいものだ。」
世界を旅するのは良いけど、
その間、領地に領主が留守でも良いんだね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
告示されてから、議題は通常の議題に変わった。
俺は今後の為にも同席させて貰ったが、
良くは理解出来なかった。
そりゃぁまぁ当然なのだが、
これで領主としてやっていけるのか不安でしょうがない。
まぁその為に執務官としてセバスチャンを連れてきたのだけどね。
あと、ぶっちゃけ予算とか、
給料とかに興味があったけど、
結局の所、どこまでが自由にして良いお金なのか分からなかった。
後でアルバに相談してみるか。
質問として貧民街の改革について聞いてみた。
それは大いに進めて良いそうだ。
ただし予算の関係もあるので、
何かやる時はマルコスがサポートに付いてくれる事になった。
それはこちらとしても有難い。
それにしても後1年ちょっとか。
それまでにマルコス邸を完成させて、
貧民街をなんとかして、
あ、炊き出しどうするか?留守の間ミソモドキ増やせないじゃん。
旅の準備、車で行くかどうか、
どれくらいでこの街に戻れるか分からないが、留守の間の事や、
執務の事、
あー、俺に託されたマミちゃんの雑貨屋もあった。
いろいろな考えがぐるぐると頭を巡る。
唐突にラスティの顔が浮かんだ。
ラスティ…
後1年ちょっとで街を出るということは、
ラスティとも完全にお別れなのだろうか。
俺はラスティに殴られてから、
街中ではいつもどこかでラスティを探してたと思う。
実際、何故か見かける事も多かった。
俺は内心、運命なのでは?
とか都合良く考えたりしてたが、
見かける姿は後ろ姿が多かった。
たまに、誰かと話す姿を見る時もあった。
そんな時は、
相変わらず可愛いなと思うのと同時に、
話してる奴が羨ましくなり、
どうしようもなく寂しくなってしまう。
ベルには、仲直りすれば良いのにと言われるが、
今更なんて話しかけて良いのか分からないし、
そんな度胸も無かった。
お別れかぁ。
逃した魚は大きい。
いや、もう諦めるか。
一年後の旅立ちが辛くなるだけだ。
それはそうと、明日、俺が伯爵になってこの街の領主になる事が発表される。
忙しくなる予感しかしない。
俺は工事中のマルコス邸に寄り、
進捗を確認した。
1年か。
ギリギリかな。
よし!頑張るぞ。
【読者の皆さま】
いつも読んでいただきありがとうございます。
小心者の私に、
↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。
よろしくお願いします!
白村
↓ 作品一覧はこちら ↓
https://mypage.syosetu.com/1555046/




