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トンネルを抜けたら異世界だった  作者: 白村
第一部 ギオールの街編
43/87

第四十三話 誕生日の一日


朝が来た。

目が覚めて天井が視界に入る。


むっ見慣れない天井だ。

あ、そうか引っ越して来たんだっけ。


ベルは変わらず抱きついているし、

ルースも俺の上。


新しい我が家は、

とてつもなく広い。

そしてこの寝室も広いし、

ベッドも広い。


なのに何故固まってるのだ?


ベルはまぁ可愛いから良いか。

ルースも、見た目は可愛い仔猫だしな。


やはり

「可愛いは正義か…」


「ぷっ何それ?変な言葉なの、ふふふ」


あ、また聞かれたみたい。


「やぁベル、誕生日おめでとう」


「うん、ありがとうなの、きゅうん」


必殺照れ隠し。

からの萌え即死。


なんだかいろいろあって、

こんな平和な朝は久しぶりな気がする。


ルースも起きて、

トンっと床に降り、

前足を突き出して伸びをしながらの欠伸。


相変わらず幻獣とは思えない猫っぷりだ。


「さぁて、今日はお休みだ、ベルは何したい?」


「うんとねぇ、美味しいもの食べたい」


「そかぁ、美味しい物は今夜たくさん食べれるよ、朝はサンドウィッチかな」


「うん、サンドウィッチ大好き!」


「食べる以外は無いのかい?」


「んとぉ、んー、じゃぁ車乗りたい!」


おっと、そう来たか。

まぁ多少乗るくらいなら良いかな。


「あんまり遠くまで行けないけど良いかい?」


「うん、いーよ!」


ベルは元気で可愛いなぁ。

では、ちょっとだけど、

ドライブしようか。


俺達は身支度して、

一階に降り、ダイニングに入る。


「おはようございますご主人様」


執事のセバスチャンが出迎えてくれる。


「おはよう」

「おはようなの」


「「「おはようございますご主人様」」」


そしてメイド達


「おはよう」

「おはようなの」


俺達が席に座ると直ぐにサンドウィッチと、

コーヒーが運ばれてくる。


至れり尽くせりだな。

でもちょっとだけ居心地が悪い。


ベルも恐縮してるようだ。


特にベルは、お姉さんがメイドをしてるのに、自分は何もしてないと言う引け目を感じているみたいだ。


俺がベルの立場なら、やっぱり俺でも引け目を感じるかも知れないが、

貧民街を救うキッカケは間違いなくベルの存在が大きい。

ベルが居なければ俺は貧民街に関わったかどうかも怪しいものだ。

そういう意味では、ここに居る全員を救ったのはベルなんだから、

引け目を感じずにもっと誇らしげにしてても良いと思うんだが、

まぁそれはいずれ伝えて置くかな。


なんとなく落ち着かない朝コーヒーと朝食を済ませ、

外に出る。


「はぁなんか落ち着かないねぇ」


「うん、なんでだろう、これなら前の所の方が良かったかも、ごめんね大ちゃん」


「何でベルが謝るの?」


「だって、ベルがお家欲しいって言ったから…」


「それとこれとは関係ないよ、そもそも俺が伯爵ってのがおかしいんだよ、なぁルース」


『ん?、何故私に話を振る、人間社会は面倒だから知らん』


「あら冷たいのね」


そうこうしてるうちに愛車が停めてある場所に着く。

広い庭の片隅に寄せて、俺のワンボックスは停めてある。

後でちゃんと駐車場を造ろう。


俺達は車に乗り込む。


門番の衛兵に挨拶して屋敷を出て、

街の外へと抜けた。


このギオールの街は、

街としては中規模だが、

領地そのものは広い。

街の外に出れば畑が広がり、

畑を抜けると更に広大な大地が広がる。


まだ正式に発表されてはいないが、

この広大な土地が俺の領地になるなんて、

実感が湧かない。


俺は思う所あって車を走らせる。


『む、大作、何処に向かっている?』


「ん?何処って、はっきり覚えてる訳じゃないが、俺が初めてこの世界に降り立った場所だ」


『そうか、なるほど…』


ちょっと戯けて答えた俺に、

ベルは不思議顔だったが、

ルースは真剣だった。

猫なので表情はよくわからんけど。


「どうしたんだ?」


『いや、ちょっとこの先に違和感を感じてな。危険はない』


俺は車を停めた。


「どうしたの?」

『危険はないぞ』


「うん、なんか胸騒ぎじゃないけど、行かなくても良いかなってね。この先がさ、俺がこの世界に来た場所なんだよ。」


俺は仕事帰りにトンネルを潜っている時にいきなりこの世界にやって来た事を話した。

日本には未練はない事も。


「だからさ、もしこのまま来た場所に行って、万が一元の世界に戻ったらと思うと、ちょっとね。3人で行っても良いけど、俺は死んだ事になってるだろうし、住む所も無くなってるだろうし、何より今は俺はこっちの世界に居たいんだ。やり残してる事あるしね」


そう考えると、

俺は思った以上に、もうこの世界に深く関わっているんだと実感した。

日本では俺一人居なくなった所で、何もなかったと思うが、

こっちで俺一人居なくなったら路頭に迷う者が出てくる。

過ごした年数は短いのにこの差はなんだろう。

俺には、この世界の方が生きやすいのかも知れない。


「大ちゃんはここから来たんだ…」


「うん、まぁこの先の場所だけどね」


「来てくれてありがとう大ちゃん」


思わぬ言葉にベルを見る。

少し泣いているようだ。


俺はこの少女が好きだ。

自分の娘として、これからもずっと一緒に過ごしたい。


「ベルこそ、俺を見つけてくれてありがとう、ずっと一緒にいような」


「うん!」


「ルースもな!」


『ふんっ私はついでか』


「拗ねてんのか?どうせ俺達が死ぬまで一緒なんだろ?よろしく頼むよ幻獣様」


「うふふ、よろしくなの」


『なんなら永遠をやるぞ』


「ははは、それは勘弁してくれ」


俺達は笑い合った。


「さて、こっからどこに行こうかな、海とかないのか?」


『あるぞ』


「まじで?どこ?どこ?」


『西へ真っ直ぐだ』


「海ってなに?」


「ベルは海を知らないのか、海はすんごくでかい水溜りだよ。この地面より広いんだぞ」


「そうなの?!すごーい、見たーい!」


「ルース、海はどれくらいで着く?」


『行くのか?遠いぞ』


「あ、ギオールには無いんだな?」


『そうだ』


「ベル、海はまた今度だ」


「えー、残念なの」


「機会があったら行こう、俺もこの世界の海を見てみたいからな、んじゃルース、王都ってどっち?」


俺はルースに方角を聞いて再び車を走らせた。

途中から街道に入り、すれ違う馬車に驚かれながら進む。


「ん?、何だあれ」


『壁だ』


「壁?」

「壁なの?」


『知らんか?魔物や盗賊が勝手に入って来れないようにしてる壁だ。領地を一周してるぞ。』


「まじで?すげー」

「ほんと凄いの」


壁は高さ10メートルほどあるが、

驚きはその高さではなく、

長く続いている事だ。

ベルリンの壁を思い出す。


俺は騒ぎにならないように、

近くまでは行かずに、

ちょっと離れた所に車を停めて眺めた。


街道と壁がぶつかる所には関所があり、

体育館くらいの大きさの建物が建っている。

建物を貫くように街道が通っていて、

大きな門があった。


「あんな風になってんだなぁ」


「ベルも初めて見たの」


「ルースはあそこ潜ったのか?」


『まさかだろ、私は壁を超えて来た』


「それ良いのか?」


『知らん、結界があったが強力な魔物ならば問題なく通れる。まぁこの辺りはそんな強い魔物はいないがな』


「結界って、そんな物まであるんだ。じゃぁ壁の外は魔物がいっぱいいるのか?」


「怖いの」


『さあな、気配は感じるが、たくさんは居ないようだ、そもそもこの地方には魔物は少ない』


「へぇ、じゃぁ魔物がいっぱいいる所もあるのか?」


『あるぞ、魔大陸だ。あそこは良い暇つぶしなる、愚かな魔物どもが私に挑んでくるからな、ふふふ』


なんて危険な奴だ。


「あ、そうですか…」


まぁそれは置いといて、

この壁はどれくらい長いんだろうか。

これも含めて、

全てが俺の領地か…。


伯爵ってすげーんだな。


俺はそのままUターンして屋敷へと戻る。


「楽しかったの」


「また今度な。王都には車で行こうか。なんだかんだと車が楽だしな。」 


元々俺は車の運転は嫌いじゃない。

のんびりドライブするのも好きだ。

基本的には渋滞でもイライラした事もない。

渋滞よりはタイミングの悪い信号の方がよほどイライラしたものだ。


この世界には当然信号もないので、

きっと快適なドライブが出来るだろう。


まぁ舗装されてはいないから、

そんなにスピードは出せないだろうがね。


王都に行く前に、

ルースにガソリンが増やせるのか確認だけはしておこう。


さて、屋敷に戻ってきた。


「「「「お帰りなさいませご主人様」」」」


うーん、揃ってセバスチャンとロッテンマイヤー、メイド達が出迎えてくれるんだが、

素直に喜べないというか、

なんか違うんだよなぁ。


だってベルの両親と兄弟達もいるのだ。


やはりベルは俯いてしまってるし。

なんとかしなきゃ、とても居ずらい。


「あのぅセバスチャンさん」


「ご主人様、『さん』はやめて下さい、ご用件は?」


硬いなぁ。


「んー、もっと砕けられないかな?、ちょっと居心地悪いんだよね」


「え?、いやしかし、不快に思われるならば、申し訳ありません、どのように振る舞えばよろしいでしょうか」


「んー、振る舞いかぁ」


だってベルは俺に自然に接してくれている。

主従関係だが、うまく立ち回ってくれる。

二人でいるときは、

何も気にしないでいられるんだ。


でも、お客さんの前とか、

そう、アルバやマルコスの前では、

凄くキチンとしてる。

これってベルだけ特別に出来る訳じゃないよね。


そう、例えるなら『家族』だ。

うん、家族みたいにできたら、

というか、ベルとセバスチャンは家族なんだから、今の関係がおかしいんだ。


「セバスチャン、ベルはセバスチャンにとってなんですか?」


ちょっと意地悪な質問してみた。


「それは、ご主人様の側近です」


即答しやがった。

なるほど、そういう認識で割り切ってたのか。


「それは、確かに間違いじゃないし、名前を付ける時にそういう契約をしたけど、俺はそう言う認識じゃないよ」


「そうなのですか?」


セバスチャンとロッテンマイヤーは顔を見合わせる。


「では、どのようなお考えでいらっしゃるのでしょうか?」


ロッテンマイヤーが聞いてきた。

俺は微笑みかけてから、

ベルに向かって言う。


「ベルは答えられるよね」


「うん」


「じゃあ、お父さん達に教えてあげて」


「あ、あの、家族なの」


「「「!!」」」


「俺はね、ベルには一度も命令した事はないんです。命令は要らないんです。とても懐いてくれて、それがとても嬉しくて。あ、俺は異世界人だとはもう知ってますよね。でも年齢は言ってませんでしたね。この世界に来た時に、俺は何故か若返ってたんです。見た目こんなですが、実はもう53歳。セバスチャン、いえ、お父さんより歳上なんです。

えっと、何が言いたいのかと言うと、俺にとってもベルは娘みたいなもので、そのご両親が俺やベルに従うって、どうも違う気がして、だから、みんな家族みたいに、いや、もうみんなまとめて家族になったら良いんじゃないかと思います」


「そ、それは、なんと言うか、理解が追いつきません」


「世間的には俺は伯爵で、その使用人達かもしれませんが、この家にいるのならば、家族になって下さい。あ、ちょっとみんな集めてくれませんか?みんなにも聞いて欲しいですね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さてここは応接室。

今、セバスチャン、ロッテンマイヤーをはじめ、全員が集まっている。


俺は立ち上がり皆の顔を見る。


「全員揃いましたご主人様」


筆頭執事のセバスチャンが言った。


おほん。


「俺は、みんなにとって何ですか?」


「「「「「ご主人様です」」」」」


揃って皆が答える。


「ですよねー」


俺は軽く答える。そして続けた。


「あの、みんなには家族になって欲しいんだ」


騒つく。

メイドの一人が声を上げる。


「あ、あの、発言をよろしいでしょうか?」


「うん、どんどん言って、いちいち確認しなくてもいーよ」


「か、家族になるとは、私達を妻に迎えてくれると言う事でしょうか?」


一瞬みんなが静まりかえる。

俺も絶句した。


いやぁそうじゃないんだよなぁ。


「ごめん、違うんだ、ちょっと話を最後まで聞いてくれるかな」


俺は異世界人である事、

年齢は53歳である事、

俺も孤児で施設と言う孤児院で育った事、

この歳まで結婚出来なかった事などを話した。

孤独で生きてきた俺は、

家族に憧れていた。

結婚して子供が欲しいとずっと思っていた事を、全て話した。


そしてベルの事も。


セバスチャンとロッテンマイヤーが実の両親である事、姉や兄弟達がこの中にいる事、

貧民街を変えたい一心で俺の所に来た事、

主従契約をしてる事、

ベルがいなければ、

貧民街を変える事もなかったし、

バンジスを捕まえる事にはなって無かっただろう事も話した。


それは主にベルの両親と姉に聞いて欲しかった事だった。


「ほんとの家族になると言うのは無理があるけど、もっとこうなんて言うかさ、近い関係と言うか、みんなにはもっと砕けて欲しいんだ。ベルもそう思うだろ?」


「うん、あたしお父さんお母さんとお姉ちゃん、家族と仲良くしたい」


「ベル、俺の事呼んでみて」


「うん!大ちゃん!」


「はいな、ベル」


俺達のやり取りを見てたみんなから、

戸惑いなど複雑な感情が現れる。

まぁ無理もない。


「異世界人と言うのは、皆そうなのでしょうか?」


思わずと言った感じでセバスチャンが口に出す。


「さぁ?少なくとも俺は堅苦しいのが苦手なんだよ。孤児だしさ。何かの縁で一緒に暮らす事になったんだから、俺は仲良くしたいんだ。みんな可愛いしさぁ」


「大ちゃんそれが目的?」


ベルがぷくっと膨れる。

可愛いなぁ


「ばか、誤解だよ、分かれよ」


周りからちょっとだけクスクスと聞こえた。


「俺はさ、みんなの為に稼いで、美味しい物や服を買ってあげたり、安心して暮らせるようにするから、みんなはみんなの役割りを果たして欲しいんだ。でも空いた時間は自由にしてて良いし、欲しい物があったら何でも言ってほしい。伯爵様はお金持ちなので」


集まった時に比べて皆の顔が柔らかくなってるのが分かった。


「ベル、お父さんお母さんに、もっと甘えなさい、お姉ちゃんにもね」


ベルは俯いた。

ちらっと両親を見る。


セバスチャンとロッテンマイヤーは、

そんなベルに優しい顔を向けていた。


「お父さんお母さん!」


ベルは両親のところに行き、

二人に抱きついていった。


俺はベルの姉や兄弟達を見やる。

こっち見てたので、


『ほらっ行きな!』


と示す。


家族全員が集まった。


よしよし。


18人の少女達は羨ましそうにその光景を見ていた。


「みんなはさぁ、家族に会いに行ってないの?」


「はい、ここから出ていませんので…」


「時間ある時に会いに行きなよ。遠慮しなくて良いからさ」


「はい!ありがとうございます」


さて、そう言えばみんなの名前知らないんだけど、改まって自己紹介も出来なかったしなぁ。


と言うか、思い出した!


奴隷にされる子供達は酷い名前を付けられる事が大半だと言う事を。


じゃぁこの子達もそんな名前なのかな。

バンジスが失脚したとは言え、

まだバンジスは生きている。

と言う事は奴隷契約も生きてるのでは?


『なぁルース、名前付けの儀式って、主人側が生きてる限り有効なのか?』


念話で聞いてみる


『ん?多分そうだな』


まじかぁ、誰も教えてくれないんだもんなぁ。


『それってなんとかならんの?この子達バンジスの奴隷のままじゃないの?』


『ふむ、簡単な事だ、お主が新しい名前を付けて上書きすれば良いぞ、ダイサクほどの魔力が強い者なら上書き可能だ』


『そか、それは良かった』


「なぁみんな、今更で悪いんだけど、名前付けたいんだけどさ。以前のやつから新しい名前で上書きしてあげたいんだ。自分で考えた良い名前とかあったら教えて。」


皆の顔が急に暗くなる。

酷い名前だったのだろう。


「ベル、ベルの名前は誰が付けたっけ?」


俺はわざと戯けて聞いてみる


「大ちゃんだよ!」


ベルは空気が読める、

ほんとに可愛い良い娘だった。


それを聞いたみんなが口々に言い始める。


「あ、あたしご主人様に付けて欲しい」

「あたしも」

「あたしもご主人様に」

「か、考えてみようかな」


などなど声が聞こえた。

そう言えばベルのお姉さんは?

と思い目線を向けると、

俺と目が合った。


「ベルのお姉ちゃんは?」


こちらから聞いてみた。


「ご、ご主人様が、か、考えてください」


ふむ、ベルの姉なら、スズだな。

『ベル』の意味は、

スペイン語だったかな?

『見る』と言う意味がある。

ベル本人の『見える』能力も踏まえて付けた名前だ。

でも英語だと思うけど、

『ベル』は『鈴』と言う意味にもなると思う。

よね?自信はないが、


その鈴から取って、

『スズ』って良い名前だと思う。


すげー可愛い女優で、すずっていたしな。


「俺は異世界人だから、異世界由来の名前にするんだけど、もしこの世界で変な意味を持つ名前だったら教えてね。考え直すからさ。みんなもね」


俺はそう皆に伝えて、

ベルのお姉さんに向き直る。


「君の名前は、『スズ』異世界では、言語は違うけど、『ベル』と同じ意味を持つ言葉でもあるんだ。どうだろ?」


「スズ…あたしはスズ…」


顔が柔らかく変わり、

嬉しそうに微笑んできた。


「ありがとうございます!」


「うん、後でちゃんと儀式をしよう、覚えといてね」


「はい!」


「あ、あたしにもお願いします!」


やってきたのはベルの妹。


「君の名前は、『リン』だ。鈴の音がリンリン鳴るから、そこから、『リン』どうだい?」


「『リン』!ありがとう!!」


「あの、あたし達も良いですか?」


「もちろん、でもちょっと考えさせてね」


軽く引き受けたが、

ちょっと悩むな。


総勢20人

内、男子2人


うーむ。


男の子は、

たろう、じろうで良いかな。


女の子は、


まどか

みさき

みき

ゆうな

ゆき

まき

なつ

はるな

かおる

さやか

あい

あや

あやね

りっか

あゆ

ゆみ

みか

みき

みさき

あき


とりあえず俺は考えた名前を羅列していく事にした。

しかし昭和生まれの俺には最近のナウい名前は思い浮かばない。

ここは異世界なのでそれは言わない事にしておこう。

すまんが、あとは自分で選んでくれ。


「俺の世界で多分人気の名前考えでみた。それぞれ意味があるのをたくさん書いたから、自分達で選んでくれないか、どうしても気に入ったのがなかったらまた考えるよ、ケンカしないでね」


少女達は俺が書いた名前を見ていく。


字が読めない子もいたけど、

ちゃんと読める子が教えていた。



「『ナツ』とは、どう言う意味があるのですか?」


「夏に産まれた子に多いと思うよ」


「『ミカ』とは?」


「美しく香ると言う意味などがあるよ」


「変わった名前だけど、みんな可愛い響きですね」


「俺がいた日本と言う国の女の子の名前なんだ」


そんなやり取りの後に、

それぞれが自分の名前を選んだようだ。


「こんなやり方で良かったかい?」


俺はちょっと申し訳ない気持ちで聞いてみた。


「はい、良かったです。自分で選べるなんて素敵でした」


笑顔で一人が答えてくれた。


まぁ確かに、普通は自分の名前は選べないからね。


「それなら良かった。じゃあちゃんと儀式をするまで、自分の選んだ名前は覚えていてね」


「「「「はい、ありがとうございます!」」」」


みんなの目がキラキラしている。

こんな事ならもっと早く気が付いてあげれば良かったな。


「さて、この後の予定ですが、みんなでこれから商店街に行きます」


「みんなとは、全員でございますか?」


とは、セバスチャンだ。


「うん、全員です」


「し、しかしそれでは屋敷に誰もいなくなります、さすがにそれは…」


「門に衛兵さんもいるし、大丈夫ですよ、今日だけですから」


「は、はい、サクラ様がよろしいなら」


「では、早速行きましょう♪」


と言う訳で、

20人のメイド見習い、2人の執事見習い、筆頭執事にメイド長、俺とベルにルースの大所帯でぞろぞろと商店街に向かう。


メイド服の少女達がそれぞれ行くので、

目立つ目立つ。


「サクラの旦那じゃないか、今日はやけに大所帯だな、それに、セバスチャンさんまで、あんたら良いのかい?こんな所に出てきて」


と、声を掛けてきたのはパン屋のアルトスだ。

アルトスはサクラ邸の新しい御用達のパン屋だ。

炊き出しの時からセバスチャン達とは面識があったが、アルトスは事情を知らない。

疑問も当然だろう。


「あーうん、良いんだよアルトス。俺が新しい主なんだ。今日はみんなにいろいろ買ってあげようと思ってね。」


「え?!」


「これはまだ発表されてないから、内密に頼むよ、俺今度、伯爵になるんだ、よろしくな」


「!!」


「じゃぁみんな、先へ急ごう」


固まったアルトスはほっといて、

メイド一行は服屋に着いた。


「さぁ好きな服をたくさん買いなさい。外出する時必要だからね」


「「「「「!!!」」」」」


アルトスに続いて、今度はメイド御一行が固まった。


「ベルも選びなさいね、うんと可愛いやつね」


「ほんと?やったー」


ベルは素直に喜んで服を選び出す。


「あ、あの、よろしいのですか?」


「ああ、遠慮するのは逆に失礼だよ。伯爵様はみんなの喜ぶ顔がご所望なのだ。」


「あなたは何というお人だ。ベルはこんな方を見つけたのか。このセバスチャン、誠心誠意、貴方にお仕え致します」


大袈裟だろ。


「ていうかお前も服選べよ」


つい突っ込んでしまった。

驚かれたが、

俺が笑っているのを見てセバスチャンは苦笑していた。


「主たる者、召使いの10人や100人に服も買ってやれないと言うのは恥ずかしいからな」


「なるほど、そう言うお考えなのですね。では遠慮なく選ばせて頂きます。実は、欲しい服があったのです」


セバスチャンはそう言って服を選び出した。

ロッテンマイヤー始め、

メイド少女達も服を選び始めた。


あ、そう言えばこの世界の風習は大丈夫かな?

独身男性から、独身女性に服を贈ると、

深〜い意味があるってアレ。


気になってロッテンマイヤーさんに確認した所、選ばせてる時点でそれは無いと言われた。

そもそもこの子達はそう言う色恋沙汰に疎いから、そんな習慣は知りもしないだろうと言う事だ。


それにしても、嫌でもラスティを思い出す。

今度またドレスとか贈ったら許して貰えないだろうか。


女々しい俺。


俺は気を紛らわす為に、

突然やってきたメイド達に驚いてる服屋の主人ウェクスに話しかけた。


「たくさん買うからさ、よろしくね」


「は、はいサクラ殿、こちらこそご贔屓にしてもらって有り難いです。しかし、この前仕立てたメイド服も、こうして見ると皆さん可愛らしいですなぁ」


「でしょぉ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さて、買い物を済ませ一旦館に戻り、

みんなに着替えさせた。


さすがに自分で選んだだけあって、

みんな似合っている。


女の子らしい服装もあるし、

ボーイッシュな子もいる。

個性があって良い。


表情も明るいし、

互いに見せ合ってる姿は微笑ましい。


「サクラ様。この度はこのようなご配慮、感謝いたします」


セバスチャンだった。

そのセバスチャンの言葉を皮切りに、

皆が口々に俺にお礼を言ってくれた。


こそばゆいのだ。


「うん、良いよ、さっきも言ったけど、みんなが嬉しそうにしてくれるだけで良いんだ。ところで、今日は実はベルの誕生日なんだ。これからご馳走を食べに行くよ!みんなでお祝いです。あと、今月誕生日の子はいるかな?いたら一緒にお祝いしよう!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そしてやってきました、

本日開店のお店です。


そう、それは焼き肉食べ放題のお店です。


アルバとの協力もあって、

今日いよいよ開店。


まぁ実際に営業するのは明日からなんだが、

今日は試験営業と言うことで、

俺達の貸し切りにして、

みんなに意見を聞く事になっている。

もちろんメインはベルの誕生日パーティーなんだけどね。


ぞろぞろとお店に入り、

席に付いて行く。


テーブルには格子状の鉄板が設えてあり、

鉄板の下には炭火が既に燃えていた。


当然煙突もある。

これは風魔法によって煙を吸い出すと言う実に優れものだった。

魔法自体は魔法陣を使い、

魔力は魔石で賄うと言うやり方なので、

魔法使いはいなくても誰でも発動できるようになっている。


魔法ってやっぱり凄いね。


うちのメイド達が席に付いていると、

アルバが来た。


「やぁサクラ様、この度はお招きいただきありがとうございます」


「まぁまぁ、座って下さい」


みんな席に着いたかな。

何気に注目されているのが気恥ずかしい。

と、そこへ。


「おや、今日開店だと聞いて来たんじゃが、もう座る所はないのかい?」


「マミちゃん!」

「お婆ちゃん!」


ベルは座っていた椅子から飛び降りてマミちゃんに抱きつく。


「「「「俺達もいるよ!」」」」


シンクロ四人組も健在だ。


「もう会えないかと思ってたよ、来るなら言ってくれれば良かったのに」


「ひゃひゃひゃひゃ、ベルちゃんのお祝いに駆けつけない理由なんてないさね、やっと時間が取れたんじゃから、硬いこと言うな」


「あ、あのこちらは?」


セバスチャンが聞いて来た。

何度もマミちゃんとは炊き出しで会ってるはずだが、

今日のマミちゃんは雑貨屋の格好でなく、

貴族のそれだ。

それも上級貴族です!っていう豪華な服装で、

当然四人組もそんな感じだった。


「ああ、えっと、マミちゃんの正体言っても?」


「わたしは今日は忍びじゃ。気にするな」


「だそうです。後で教えてあげる」


何気にアルバも驚いているが、

放っておこう。


マミちゃん達をテーブルに着かせると、


『おい、私も食べたいぞ』


と、念話が来た。

あ、ルース忘れてた。


「はいでは、もう1匹紹介します。仔猫のルースです」


『1匹とはなんだ、私は高貴な存在だぞ』


『普通は猫は匹って数えるんだよ、ちょっと黙っててくれ』


『むぅ』


「今更って思うかもしれないけど、ルース!拗ねてないで変身!食いたいんだろ!」


『ふんっ』


いつものように俺の魔力を吸って、

ルースは猫髭娘に変身した。


おおっと驚きの声が上がる。


「はい、実はルースは凄い魔獣なんだ、ベルの使い魔として契約してるから危険はないよ、このルースも今日はこの姿で参加するからよろしくね」


「うむ、よろしくにゃ」


「はい、では、まずこっちにお肉下さい」


俺は待機している店員に声をかけた。

肉が運ばれてくる。


「はい!では説明しまーす。まず、お肉を鉄板に乗せまーす」


ジューっと焼ける。


「すぐにひっくり返えしてはいけません。表面に少し肉汁が出てくるまで待ちまーす。そして、一回だけひっくり返しまーす。そうしたらもう食べられますが、お好みで焼き加減を調整したら、タレに付けて食べまーす。おふほふ、もぐもぐ、うま〜い!これが焼き肉と言うものです、では皆さんたくさん食べてくださいね!」


俺の実演が終わり、

各テーブルに肉が運ばれていく。

早速焼き始める子供達。


「美味しい〜」

「こんなの初めて!」

「あ、それあたしが焼いてたの!」


などなど聞こえてくる。

うむ、焼き肉の醍醐味だ。


俺の横ではベルとルースがもくもくと食べている。


マミちゃんも四人組も実に美味いと絶賛している。

アルバは、


「これは予想以上ですな」


と、高評価だ。


ラスティにも食べて欲しかったな。

まぁ、今後、彼女がこの店に来る事を祈るとしよう。


宴もたけなわ、

プレゼントの時間である。


マミちゃん達は、

短剣をベルに贈ってくれた。

王家の紋章入りの高そうな短剣だった。

おいおい、と思ったが、

短剣の一つもないのはおかしいと言われた。

この世界では剣を持つのが一般的なのだろうか。

今度アルバにでも聞いてみよう。


俺はベルに靴を贈った。

今の靴はだいぶ傷んでたし、

サイズも小さくなってきてるようだった。

ベルもちゃんと成長しているのだ。


今回はベルの誕生日パーティーだったが、

10月産まれは他に2人ほどいた。

ミキとマドカだ。

ミキは13歳、マドカは11歳。

プレゼントは用意出来なかったが、

他のみんなから祝福されたし、

新たに買った服が充分プレゼントになったようだった。


ちなみに今のベルの立場は俺の側近と言う立場になるようだが、

とりあえずメイドは屋敷の中の仕事が主で、側近は俺の近くで仕えると言うのが一般的な認識らしい。

なので、俺に近しい分、屋敷での立場も上になるようなのだが、

それ以上に俺とベルは凄く仲良しで夜も一緒の寝室。主従関係というよりは、恋人同士に見えるらしく、屋敷内でのベルは、未来の伯爵夫人と言う立場になっているらしい。


なるほど、それで俺だけでなく、ベルに対してもメイド達は忠実な態度をとっていた訳だ。特にベルの姉や兄妹達が、ベルに一線を置いていた理由が分かった。


そんな話しをセバスチャンから聞いた訳だが、

俺としてはベルは箱入り娘なんだよな。

でもそれを聞いたベルは頬を赤らめて嬉しそうだったから、あえて否定する事もないかと思って黙っていた。


ずっと一緒にいる事に変わりはないしね。


とりあえずベルが寂しい思いをしないように、家族は仲良くしてくれとお願いだけはしておいた。


こうしてベルの11歳の誕生日パーティーは終わったのだった。






【読者の皆さま】


いつも読んでいただきありがとうございます。



小心者の私に、


↓ の★★★★★を押して勇気を下さい。


よろしくお願いします!




白村しらむら


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