第四話 約束の日
俺は3日間悩んだ。
悩んだが、最初から答えは出ていた。
元の世界にも不幸な子供達はいる。
この世界にもいる。
俺は訪ねて来てくれた女の子を無視すればきっと後悔する。
近い将来、売られてほぼ奴隷になる事が決まっている子を見過ごせない。
奴隷がこの世界で幸か不幸かは関係ない。
俺の価値観では奴隷は不幸決定なのだ。
10歳になるまで待って俺が買う。
そこまでは問題ない。
女の子の希望は今すぐに弟子入りする事だった。
そして、やっと思い出したのだけど、
その上で貧民街を変えたいと言っていた。
多分、貧民街の今の現状を変えて、他の子供達を救いたいのだろう。
どう考えてもその答えにしかならんもん。
俺の所に弟子入りしたとしても、貧民街は変えられない。
ならどうする?
そもそも弟子として一人だけ引き取って優遇するのは、俺としても抵抗がある。
子供達みんな救いたい。
でも俺には全員救うなんて力は無い。
ならどうする?
いや、直ぐにはどうする事も出来ない。
現状は出来るところから始めるしかないだろう。
と言う訳で、今、俺は女の子と面談中だ。
俺の所に弟子入りすると言う事は、
俺の所に就職希望と言う事だ。
なので面談なのである。
さて、まず聞き忘れていた名前から聞こう。
「よく来てくれたね。ではこれから面談を始めます。」
よく見ると目が赤くて、
ちょっと腫れてるか?
目の周りを拭った跡がある。
なのに普通な態度でここに居る。
健気というか、
大したものだ。
「めんだん?」
女の子にはなんの事か分からないらしい。
んまぁいーか。
「ん、まぁ気にしないで」
おほん
「まずは自己紹介してください」
「じこしょかい??」
「あぁ、じゃ、お名前は?」
「名前はありません。ご主人様が付けて下さい。」
ご、ご主人様?!
この子の中では俺の所に就職は決定なのか?
まぁ良いとして、名前が無いとな?
10歳になったら名前を授かるとか、
そう言う文化なのかな?
「名前が無いわけは、これから授かるとかなの?」
「違います、知らないんですか?、これから売られる予定がある子供には、名前を付けないんです。買ってくれたご主人様が名前を付けるんです。」
え?!
て事は産まれた時から売られる予定だったのか?
どういう気持ちで育ってきたんだろうか。
異世界人の俺にはなかなか理解し難い。
しかし、この子は俺の方を見る時、眩しそうに目を細める事がある。
癖なのか?
今もそんな顔をしていた。
とりあえず聞きたかった名前が無いとは予想外だった。
「あ、あぁそうだったね。ごめん。」
と、ごまかす。
実はこの世界に疎い異世界人ですぅ、なんて言えないしな。
..........
しばし沈黙がある。
「あの、ご主人様?」
「ん?あ、ああ、えっと、」
俺の方が動揺してどうする。
自己紹介が一瞬でつまずいて言葉が出なかった。
他に聞きたかった事があるだろ。
「名前の事はわかったけど、君の誕生日は?いつ10歳になるの?」
「10月です。」
「10月?あと3ヶ月だね。君の希望はすぐに弟子入りする事だと思ってたけど、一応10歳になるまで待って、それから俺が君を引き取ろうと思ってる。」
そう言うと、女の子の顔が曇った。
「あたし、10歳になるまでに変えたいんです。すぐじゃダメなんですか??」
目をうるうるさせてる。
やめろ、そう言うの弱いんだ。
俺は勤めて冷静に、そして優しく言う。
「10歳まで待てない理由と、何を変えたいのか教えてくれるかい?」
女の子は拙いながらも説明してくれた。
簡単な理由だった。
偶然お姉ちゃんに再会して言われた事、
その時の怖い男の人に次はお前を買うと言われた事。
要するに買われる前になんとかしたかっただけだったようだ。
貧民街を変えたいと言うのも、
俺が予想してた通りだった。
しかし一つ疑問があった。
「なんで俺を選んだの?」
「街で噂を聞いたんです。サクラさんって人が凄くて変わるかも知れないって、それに凄い光りだったから、あ!」
女の子はつい喋ってしまったといった動作で、口を手で隠している。
街で噂を聞いたというのは前に聞いた。
そう言えば最初に来た時にそんな事を捲し立てていたな。忘れてた。
しかし最後の光りとは何だ?
「光りってなんだい?」
女の子は視線を泳がせ、挙動不審になっていたが、観念したのか話しだした。
「ほんとはお姉ちゃんに言っちゃダメって言われてたんです。でもご主人様なら教えます。あたし、人から光る物が出るのが見えるんです。」
光る物?
オーラのような物だろうか。
もっと詳しく聞いてみると、女の子は教えてくれた。
街の中でたまに光る人を見るようになった事、全員がそうではなく、たまに居るのだそうだ。その光りはほとんどが赤い色で、弱かったり強かったり暗い赤だったり、オレンジ掛かっていたりするらしい。
んで、俺だけは強い青で眩しいくらいだそうだ。
そしてお姉ちゃんにそれは特別な能力だから、他人に言ってはダメだと言われていたらしい。
それで俺の方を見てる時に眩しそうにしてたのか。後光がさしてるのか?
まぁ悪い気はしないな。
俺だけが強い青、異世界人だからかな。
凄く興味深い。
「特別な能力、見える能力か。」
女の子は不安気に見上げてくる。
「大丈夫、言いふらしたりしないよ。どんな能力か知ってそうな人に聞くかも知れないけど、君の事は言わないから安心して。」
女の子は安心したのか、表情を和らげた。
「じゃぁこれからの話をしよう。まず俺は君に名前を付けるね。そしたら会ったって言う怖い男の人に簡単には買われなくなるんじゃないかな。そしたら10歳になったら俺が君を引き取るよ」
心情的に『買う』とは言いたくない。
なので引き取ると言う事にした。
そして続ける。
「貧民街を変えるのは、すぐ弟子入りしても簡単には変えられないよ。だから、これから少しずつ変えていこうと思うけど、それで良いかな?」
貧民街の現状を変えるのは一筋縄ではない。
多分そんな大それた事は出来ないと思っている。
でも、何かしらの助けはできるはずだ。
まずはそれを始めようと思う。
女の子は最後まで俺の話を黙って聞いていた。
多少不服そうな感じはあるけど、
「はい」
と、静かに頷いた。
聞き分けのある良い子だ。
まだ9歳なのにその小さい身体で貧民街のみんなの事を考えている。
俺が9歳の時はどんなだった?
頭が下がります。
「君は偉いな。それじゃ明日、君のご両親に挨拶に行くから、明日迎えに来てよ。名前も明日までに考えておくから。」
そう言うと女の子は驚く。
今日一番ビックリした顔をしている。
「お父さんとお母さんに会うんですか?!」
「え?!10歳から俺が君の親代わりになるんだから、挨拶くらいしないとダメでしょ。」
「ご、ご主人様が会いに来るなんて聞いた事ないです。そ、それに、あたしもぅ帰らないって言って出て出てきてるんだすの」
どんな動揺の仕方だよ。
ご両親に挨拶は不要なのか?!
それもこの世界の常識っぽいなぁ。
この子がご両親とどんな別れ方をして来たのか分からないけど、涙の別れの後に挨拶に行ったら、バツが悪いよなぁ。
「俺はご両親に会う必要はないの?」
念のため聞いてみると、
女の子は勢いよくコクコクと頷く。
て言うか、完全に弟子入り確定で出て来てるのかよ。
しかも住み込み決定って。
俺が受け入れを断ったらどうするつもりだったんだ?
「俺が君を断る事は考えなかったのかい?」
半ば呆れて言うと、女の子はまた驚きというか、戸惑いの顔をした。
全く考えて無かったようだ。
しかし、こうなるとまた話は変わってくる。
このままだと俺が10歳未満の子を受け入れた事になり、他の子供達も殺到してきたりしないだろうか?
あと、金銭の支払い先や額はどうしたら良いんだ?
引き取ると表現してるとはいえ、買い取る訳だからな。
こりゃまた商人アルバに相談かなぁ。
叱られそうだ。
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白村
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