第三十九話 爵位
マミは一通り自分の事や国の事を俺に言って聞かせてくれた。
マミちゃんが王族だった事には驚いたが、
なんだろう。
ルースに会って老婆から若返って、
それから王族の服とか新しく新調したのかな?
とか思うと、なんだか微笑ましくも思えてくる。
俺がこの世界の人間では無かったから、
どこか他人事のようだ。
しかも各地を巡って悪人退治とか、
まるで水戸黄門じゃねぇか。
なんて思うと笑えてくる。
「お主は楽しそうじゃのぅ、もっと怒りを露わにすると思って覚悟しとったのに…」
「えっ俺に怒って欲しかったの?」
マミちゃんはきょとんとして、
笑った。
「ひゃひゃひゃひゃ、お主は変わらんな、安心したわ」
「でも言いたい事はあるぞ」
「なんじゃ言うてみぃ」
「せっかく若返ったんだから、その喋り方と笑い方は直した方が良い」
「ぬかせ!」
俺とマミちゃんは笑い合った。
「さて、佐倉大作、お主はにはもう一つ伝える事がある」
マミちゃんは改まった態度に戻りそう言ってきた。
なんだろうと身構える。
「お主には爵位が与えられる事が決まった」
「はーいー?」
爵位、村や街などには必ず領主がいる。
その領主は皆貴族だ。
爵位に応じて領地が与えられ、
その領地を管理し、行政を行う。
マミちゃんの話では俺にも領地が与えられるらしい。
「ちょっと待ってくれ、そんなの管理できる訳がない。しかも何で俺に爵位なんだよ、何にもしてないぞ」
「それはな、お主の力が強大じゃからじゃ、それに何もしてない筈がないじゃろ」
「えっ」
以前マルコス卿に聞かれた事がある。
敵意や害意は無いのかと。
それはやはり俺には尋常じゃない魔力があるからだ。
そこに来て幻獣ルースの存在も大きい。
俺に自覚は全くないが、
マミちゃんの話では、俺一人だけなら大魔法使い程度の力でも、
幻獣を従える者となると、
一国を滅ぼす驚異ともなり得るそうだ。
確かにそうかもしれない。
お伽話でしか聞いた事はないが、
ルースの力の片鱗を見る限り、
あながち大袈裟でもないのだろう。
そしてその強大な力を国に取り込むのは、
必然であり自然な流れなのだろう。
俺の存在は、他国にしてみたら、
とてつもない驚異のようだ。
まぁ、全く自覚はないし、
そもそも強いのはルースなのだが。
そんな俺の考えを見透かすようにマミは言う。
「いずれにせよ、今回のお主の功績は大きい。王族であるわしの協力をし、街に巣食う悪を暴き出したのじゃ。なんの褒美も与えないわけにはいかないのじゃ。そもそもこの話、お主たちにも利点は多いと思うんじゃがな」
「というと?」
「貴族になれば、他の欲深い貴族に利用されづらくなる。考えてもみろ、強い平民が居ると分かれば、せこい貴族が寄ってたかってお主を利用しようと近付いて来るぞ。バンジスが良い例じゃ、お主がバンジスより上級の貴族だったなら、彼奴は貧民街からは手を引いていたであろうな。」
「えっ?そうなのか?」
「そうじゃよ、つまり権力とはそう言う物じゃ。それに今回はルースの協力あっての事じゃが、先程話したようにお主の協力あってこその解決だったと報告してある。だから、お主が平民のままというのは体裁も悪いのじゃ」
「体裁かよ」
「ふんっやはりお主には権力を持つ事の意味は分からんか。ならば1番の利点を教えてやろう。まずお主に与えられる領地は、このギオールの街じゃ」
「はーいー?!」
「まだ分からんか?」
「ぜんっぜんっわかんねーよ、ふざけてるのか?」
「お婆ちゃんそれって…」
「おや、ベルちゃんは解ったようだねぇ、この間抜けにヒントを出してくれないかい?」
「ヒント…えっと…貧民街…とか」
「貧民街?…」
俺は貧民街と言うヒントで考えを巡らす。
ギオールの街が俺の領地。
俺の街。
貧民街も俺の…
「あっ!!」
「やっと解ったかこのバカタレ、つまり貧民街もお前の物じゃ。どう変えようとお前の自由なんじゃよ!」
ベルは目を見開いて俺を見ている。
俺も驚きを隠せない。
思えばベルが俺の所に来た時から、一年と2ヶ月ほど、
ベルは貧民街を変えたい、救いたい一心で俺に弟子入りを志願してきた。
弟子にこそしなかったが、
俺もそんなベルの想いを叶えてやりたいと思っていた。
それが、こんなに早く現実になるのか?!
嘘だろ?
ベルの目から涙が溢れた。
綺麗な涙だった。
俺が爵位を賜るのに、
断る理由が無くなった瞬間だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺が賜る爵位は、
伯爵。
この街、ギオールを治めているのは、
今では6人の子爵と男爵。
バンジスを入れれば7人だったわけだが、
それぞれにギオールの街を7分割して領地を持っていた。
そもそも何でこんな形になったかと言うと、
およそ300年前に、
ギオールと言う名の伯爵がこの領地を賜り治めていたそうだ。
それからギオール家の分家が派生して、
領地を分け合い、
今のようになった訳だ。
つまるところ、このギオールの街の領主達はみんな親戚という事になる。
またこのような経緯から、
ギオールの貴族達は、
自分の領地だけを治めるのではなく、
ギオールの全体を全員で治めるというやり方をしていた。
全員の領地が集まって一つの街、
それがギオールなのだ。
それでも貴族達には序列がある。
実質No.1の権力者と言われているのは、
ワン・モノ・ギオール子爵
No.2だったのが、バンジス・ジ・ギオール子爵
No.3がマルコス・トリ・ギオール子爵
No.4がロティス・テトラ・ギオール男爵
というように序列がある。
No.5以降は面識もないので覚えられなかった。
現在バンジスの領地に領主は居ない状態。
通常はこれから領主を決めるか、
6人で分けるか決める所だったようだが、
王家のマミちゃんから待ったがかかった。
バンジス事件解決の立役者、
佐倉大作を領主にするとのお達しを、
既に済ませていたみたいだ。
ここまでは良い。
ここまでは良いのだが、
俺の賜る爵位が問題だった。
伯爵だもん。
と言う事でギオールの街全てが俺の領地になると、マミちゃんから伝えられてるみたいだ。
おいおい、俺恨まれるんじゃないか?
と、思ったのは杞憂だったようだ。
子爵、男爵の領地を取り上げるのではなく、
俺が全体の領主になり、
今まで通り子爵男爵達は自分の領地を任されるそうだ。
要するに、俺の領地を子爵男爵達に分け与えてる。
との事だ。
国の領主が国王だと考えたら分かり安いだろうか。
国王は配下の貴族に自分の領地を分け与えて管理させている。
と言う事だな。
という訳で、バンジスの領地だった場所は、
俺専有の領地になる事が決まっていた。
その中には貧民街も含まれている。
これからどんな風に変えていけるか、
楽しみでもある。
しかし、一番の不安は行政だ。
俺にうまく領地を運営できるとは思えないが、
ここギオールは貴族全員で治めている。
俺が居なくても何とかなるだろうと、
マミちゃんに言われた。
まったく不安に思った事は全て杞憂だったようだ。
さて、ではいつから俺は貴族なのか?
マミちゃんに尋ねた。
「正式に受けるのは王都で国王から賜わる。直ぐに王都に行く準備をするのじゃ」
「王都って、確か遠いんだよな?」
「うむ、ここから4週間程の道のりじゃな」
「えっ?!ちょっと待ってくれ、俺は今仕事を抱えている。そんなの直ぐには無理だ。」
「何を言っておる。王に会うのだぞ」
「いや、無理だ。ベルすまん。貧民街は後でも必ず変えるから許してくれ。仕事を途中で投げ出すなら、爵位なんかいらん」
マミちゃんは驚きを隠せないでいた。
それがこの世界の常識なのかも知れないが、
そんなの知ったこっちゃない。
「俺は今マルコス様邸の工事をしてる。みんな完成を楽しみにしてる。ここで俺が居なくなったら、どれだけの人に迷惑がかかるか分からない。経済的損失も大きいはずだ。そんな事をここの王様は望んでいるのか?悪いがマミちゃん。俺はほっぽりだしてまで王都に行きたいとは思はない、そんな王様に会いたいとも思えない」
「ふぅ、やれやれ、やはり異世界人か。王の謁見を断られるとは思わなんだわ」
「いや、すまん、ちょっと感情的になったと思う。とりあえず、今すぐは無理なんだよ。マルコス様邸が完成した後ならいくらでも王様に会うさ。途中で空けるのがダメなんだよ」
「マルコス邸とやらはいつ出来るんじゃ?」
「んー、あと1年くらいかなぁ」
「仕方ない、王都には連絡しておく」
「すまんね」
「ところで、お主は異世界人である事を隠しておるのか?」
「んー、あまり言う事でもないのかなぁと、商人アルバにも言われたよ。俺としてはどっちでも良いんだけどね」
「ふむ…私も隠す事はないと思うな、いや、むしろ公表した方が無駄な誤解を招かずに済むのではないか?最初は騒がれるじゃろうがな」
「マミちゃんがそう言うならそれで良いよ。でも、あえて自分から宣伝するつもりは無いけどね」
「ふむ、お主らしいの、さて、私らはもう少し滞在したら王都に一旦戻る、もうこの街には来ないじゃろう、大作、世話になったな。」
「えっ?そうなの?戻ってこないの?」
「そりゃぁそうじゃろ、この街のゴミは片付いたからのぅ、私らが戻って来てもやる事は無い」
「雑貨屋どうすんだよ?」
「そんなもんお主にくれてやる、好きにすると良い」
「好きにしろって…じゃぁ今度は何処の街に行くんだよ」
「それはまだ分からん、王都で情報を集めてから決めるからの」
て事は、もうマミちゃんに会えないのか?
「もうお婆ちゃんに会えないの?」
ベルは目をうるうるさせてマミちゃんを見ている。
「なんじゃ?私に惚れてるのか?良く考えてみぃ、お互いに長生きなんじゃ、またどこかで会うじゃろ。それに、お主達もこの街ばかりに居ないで、世の中の見聞を広げると良い。特に大作は世間知らずじゃからな、ベルちゃんや、また会えるから、それまでちょいとお別れさね」
「お婆ちゃん…」
ベルはマミちゃんに抱きついた。
「俺が旅に出て良いのかよ、仮にも領主になるんだろう?」
「お主が居たところで何も変わらん。領主不在の街や村などたくさんあるわ。そう言った意味では、この街の領主になったお主はかなり自由じゃよ、あーあと言い忘れとったが、お主が領主になれば、この街は『サクラ』と言う名前に変わる。どこに行っても新しい街の領主だと、名前で通じるようになるぞ、どうせ王都には行くんじゃから、他の街を見るのも良いぞ。」
「街が俺の名前に?なんだか恥ずかしいんだが、それもこの世界の常識なんだろ?仕方ないから受け入れるよ。それにかなり自由なのはありがたい。それを聞いて楽になったよ」
「お主が伯爵になるのは決まっている。正式に受けるのはお主が王都に来てからだが、それまでの間にも貴族としての権限は与えるようにしてやる。全く面倒なやつじゃ」
権限がもらえる。
伯爵(仮)と言ったところか。
「解った。出発する日が決まったら教えてくれ」
「ベルちゃんや、お婆は帰る、あんたはほんとに良い子じゃ、大ちゃんを支えてやるんだよ」
「うん…」
「それからルースよ。お主にも助けられた。心から礼を言う。人のいざこざに巻き込んですまなんだ。」
ベッドの上で丸まって寝てるかと思ったら、
首だけマミちゃんに向けて、
『うむ、良い、また頼れ』
それだけ言って興味を無くしたようにアクビしてまた寝てしまった。
てか、念話はマミちゃんには聞こえねぇよ、
「また頼れだってさ」
「それは助かる。では達者でな」
「「……!」」
「「ベルちゃん!大作さん!また会いましょうね!」」
今まで無言で控えていた2人が声を上げる。
「炊き出し感動してました!尊敬してます!また何処かで会いましょう!」
とはティノだ。
「ベルちゃん!小さいのにしっかりしてて、惚れそうでした!」
とはフラードだ。
って、おいおいロリコンかよ。
しかし二人とも感極まって泣いている。
「「うわーん」」
「二人とも泣かないで、うわーん」
と、ベルも一緒になって泣き出した。
夜は更けていく。
「月が綺麗だなぁ」と、俺は天井を見つめていた。
【読者の皆さま】
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白村
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