第三十七話 作戦の全容
マミは地下室に連れてこられた。
商店街からは離れた立地にある薬屋の地下室だ。
兼ねてより薬屋が闇の城ギオール支部の拠点だというのは解っていた。
マミが拉致されたのは計画通りだった。
シンクロ4人組は拉致されていくマミを見届けて、まずティノがダイサクに知らせに向かう。
ルースの協力を求める為だ。
次にフラードとアガンが衛兵詰所に走った。
ここで衛兵隊を要請する為だ。
衛兵隊が動かないようなら、
マミの身分を明かす事も許されていた。
最後のメーデンは闇の城の監視に付いた。
ここまでは予定通り。
あとはマミが嘘の自白をする事でバンジスをうまく誘き出せるかによって作戦の成否が決まる。
4人組は作戦の成功はもちろんだが、
マミが無事に切り抜けられる事を祈った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、こちらは磔にされたマミ。
イレーンがダルマ男を呼んだ所で、
マミは頭にきていた。
『なんちゅう醜い奴だ。1000年生きたわしがこんなのに痛ぶられるなんて腹立たしい限りじゃ。覚えておれイレーン』
内心そう思い、思わずイレーンを睨みつけていた。
イレーン達が地下室から去ったあとで、
マミはダルマ男に鞭で叩かれた。
「げっげっげっげっ、おまえ、良いぞ、声一つ上げないなんて、オラぞくぞくするだ、げっげっげっ」
ダルマ男は鞭を振るいながら下卑た笑いを混ぜて言った。
しかしマミは無痛魔法で、
鞭の痛みは感じていなかったのだ。
反応しないのも当然だ。
しかし魔法が切れれば当然痛みも感じるようになる。ほどほどの時間で観念したフリをしなければならない。
しかし魔法を使っているとは気が付かないダルマ男は、拷問方法を変えてきた。
「げっげっ、鞭が駄目なら、これはどうずら?」
そんな言葉を吐きながら、
拷問を楽しむダルマ男だったが、
「げっげっ、こんなに長持ちしたのは初めてずら、そろそろ仕上げないとオラが怒られるずら」
そう言いながら取り出した小瓶。
マミはそれが何か直ぐに察しが付いた。
黒い粉の魔薬だ。
「げっげっげっ、これを見て顔色がやっと変わったずら、ほんとは煙にして、うんと楽しみたいところずら、でもダメずら、若返りの秘密を喋ってもらうズラ」
ダルマ男は指先に黒粉を付ける。
「こんなもんかズラぁ」
ダルマ男は下卑た笑いを浮かべ、
マミの顎を掴み口を無理矢理開かせ、
指先の黒粉を喉の奥に突っ込んだ。
「おえっえっ」
喉が熱くなって、
その熱が食道を伝っていくのが解る。
胃袋に到達した熱は、
全身に痺れとなって広がっていく。
マミは意識が遠くなる前に、
体内魔力に集中する。
体内魔力の操作で、
薬の効果に抵抗するのだ。
手足の感覚が遠のく、
今まで自分の手足だったはずの物が、
あるのか無いのかもわからない状態になる。
動かそうとすれば、
まるで手足が意思を待って抵抗してるが如く強い痺れが返ってくる。
強烈な吐き気を催す。
マミは強く意識を保ちながら、
丹田と頭に体内魔力を集中する。
この一週間、マミは魔薬の研究と、
抵抗方法を探していた。
薬物による解毒での抵抗は不可能と思われたが、
ならば体内魔力で抵抗できないだろうか?
ダイサク程ではないにしても、
マミにも相当な魔力量が備わっている。
それに加え、
若返った事でかつての全盛期の頃の鋭い感覚も戻って来ている。
体内魔力での薬への抵抗は可能に思われた。
いや、実際は可能なのだ。
しかし誤算があった。
それは魔薬が全身に広がる速度が、
予想より遥かに速かった事だ。
マミは内心焦った。
(これはまずいね)
マミは更に集中力を高める。
しかしそこに飛んでくる下卑たダルマ男の声。
「げっげっげっ抵抗してるズラか?無駄ズラ」
楽しげに聞こえてくる、
忌々しい筈の声が、
マミの頭に、心地よい響きとなって届いた。
集中力が乱される。
普段ならば多少の事では動じないマミだが、
今回ばかりは思うようにいかない。
気を緩めると意識が遠のく、
全身を痺れが支配していく。
まずい。
「げっげっげっ若返りの秘密を教えてくんろ」
マミの瞳から光が失われていく。
「洗いざらい喋ったら楽になるだ。その後いっぱい楽しい事するべ、げっげっげっげっ」
「楽に…なる」
「そうだべ。楽になるべ。まず、お前はいくつずら?」
「…1034歳」
「うおっほんとだべか?!あぁ嘘は言えねぇずらなぁ、1000年前何があったべか?」
「戦争…私…幻獣の血を…飲んだ…」
ダルマ男から笑みが消え、真剣な表情でつぶやいた。
「こりゃぁ驚いたべ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
遡ること2日前。
マミはダイサクを訪ねて宿屋に来てた。
「ルースや、ひとつお願いがあるんだが」
ルースは会話出来る様に猫髭娘に姿を変えていた。
「ふんっにゃにがにょぞみだ?噂に関係ある事だにゃ?」
「噂って、マミちゃんが若返ったって噂か?」
「うむ、そうじゃ、ルースに記憶の操作をして欲しいのじゃ」
「えっ記憶って操作できるのか?」
「わたしにゃら可能にゃ。訳を話すにゃ」
マミは今回の作戦を話した。
恐らく拷問を受ける事は解っていたが、
ベルに聞かせる訳にはいかない。
うまく逸らして話をした。
「あたしも人間じゃからな、脅されても話さないと言う保証はない、じゃから最後の手段として、一時的に記憶を変えようと言う訳じゃ」
「ふん、理解したにゃ、記憶の操作と言っても、元に戻るようにしにゃきゃにゃらんにょだにゃ。内容を言えにゃ」
「これじゃ」
マミはルースにメモを渡す。
「なるほどにゃ。お主は1034歳にゃのか、にゃははは!にゃらば暗示をかけてやるにゃ。解除はあたしの声で『にゃぁ』とするにゃ」
「うむ、頼む」
ルースはマミの頭に手を置き、
記憶の操作を行った。
これでルースが解除するまで、
マミは自分が1034歳であると信じ込む。
いや、信じ込むのではない、マミにとってそれが真実になるのだ。
ダイサクはメモを読んで、
苦笑していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは薬屋の直ぐ近くの路地。
ダイサク、ベル、シンクロ四人組が集まり、
更にその後には衛兵達が待機していた。
ルースは先行して薬屋に潜入している。
今はそのルースからの合図が来るのを待っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ルースは床の上に座っていた。
薬屋の店舗の床である。
何人かの人間はいるが、
「ん?なんだ?この猫は?」
とか、
「ちっちっちっちっ」
などと言ってるだけで、
ルースを気に留める人間などいなかった。
『中の様子はどうだ?』
ダイサクから念話が入る。
『これと言った動きは無い。ん?まて』
一人の男が店内にやってきて、
スクロールを選んでいる。
『いたぞ、マミの臭いがする。いつでも良いように準備しておけ。合図する』
『了解だ』
「マミちゃんと接触してる男を見つけたようです、もうすぐ合図が来ると思います」
ダイサクは念話の内容を四人組に伝える
「了解した」
「ベルは俺から離れずに後ろにいなよ」
「うん」
ルースは目的のスクロールを手にした男の足元に、猫らしくまとわりつく。
「なんだ?やけに懐っこいな、邪魔すんじゃねーぞ猫」
男はそのまま地下室に向かい、
扉を開けて中に入る。
「ん?何だその猫は」
イレーンは使いパシリの男の足元にいる仔猫に気が付き、男に言った。
「へい、なんか店にいまして、妙に懐っこくて付いて来ちまったんです」
ルースは地下室を見渡す。
『マミ発見だ。偉そうなブタがいるぞ』
ダイサクに念話を送り、マミの頭にぴょんと飛び乗った。
「うわっなんじゃこの黒猫は?!殺せ!」
バンジスが喚くが、
ルースは全く意に解さない。
そしてマミに向かって鳴いた。
「にゃぁ」
嘘の記憶で上書きされたマミの深層は、
靄がかかり自分以外の力が働いていた。
それによって本来の力までも抑えられていた。
それもその筈だ、1034歳などと上書きはされたが、他の記憶と照らし合わせると矛盾だらけで、頭の中の回路はバラバラになっていたのだ。
しかし、暗示が解除された時、
靄が晴れ、全ての回路が元通りに繋がる。
辛うじて残されていた体内魔力の防壁は、
急激に本来の力を取り戻し、
虚ろだったマミの瞳に光が戻って行く。
そしてマミは呟いた。
「ふぅ、やれやれ、やっと来おったか」
その頃地上では、
ダイサクをはじめとする突入部隊が
薬屋の扉を破り次々と流れ込んでいく。
「なんだ!!てめーらは!!」
「衛兵が何故ここに来れる!!解ってんのかこのヤロー!!」
などと罵声が聞こえ、
衛兵隊と闇の城一味の戦いが始まった。
しかし、その間隙を縫って
アガン達4人組とダイサクとベルは真っ直ぐに地下室を目指したのだった。
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白村
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