第三十六話 マミ・アストライア・タナカ
闇の城ギオール支部とバンジス子爵の事件から数日たった。
俺は通常営業。
あの後、貧民街に赴き魔薬を回収し、貧民街のみなさん全員の解毒をしたり、事情聴取したりと、いろいろあったが、
とりあえず脅威が無くなり、スッキリした気持ちで過ごしていた。
ただ一つ、マミちゃんが王族だったと言う点を除いて。
俺は話をしたくて何度か雑貨屋に足を運んだが、
雑貨屋には誰も居なかった。
中も荒らされたままで、
片付けをする気配すら無かった。
マミちゃんは何処へ行ったのか。
「大ちゃん、マミお婆ちゃんともう会えないの?」
と、ベルに聞かれるが、
俺にも分からない。
ルースに聞いても、
「さぁな」
と言われるだけだった。
釈然としないまま、
日だけは過ぎていき、さらに数日が経った。
俺達はマルコス様邸の工事現場からいつもの宿屋に帰って来ていた。
コンコンと扉をノックされた。
来客など滅多にないが、
何となく予感があった。
マミちゃん関係かな?
「はーい」
返事したのはベルだった。
扉を開けると、
マミちゃんと四人組のうちの2人、
ティノとフラードが来ていた。
「邪魔するよ」
「お婆ちゃん!」
ベルは嬉しそうにマミちゃんに抱きつく。
「マミちゃん、心配してたんだ」
「後始末に追われててのぅ」
「後の2人は?」
「留守番じゃ、ひゃひゃひゃひゃ、」
この笑い声。
物凄く久しぶりに聞く気がして、
なんとなく安心した。
「お前様には世話になった。特に幻獣様にはな。いろいろと聞きたい事もあるじゃろ。だからこうしてやって来たんじゃ」
俺はマミちゃん達に中に入ってもらった。
長い夜が始まりそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マミ・アストライア・タナカ
現在68歳
王族の第三王妃の三女として産まれる。
幼少期から変わった性格で、
いつも他人とは違う事をしたがっていた。
正義感が強く、
頭も良く、魔法の才能にも恵まれ、
容姿も淡麗。
5歳で初めて魔法を行使するなどして、
当時はかなり期待されていたが、
本人は権力や行政などに全く興味を持たず、
もっぱら世俗的な事に興味を示していた。
6歳の頃から世界の歴史や、
民族、種族、風習などを学び、
7歳の頃には冒険家に強い憧れを持つようになる。
12歳になった時、
周囲の反対を押し切り、
王都を出て国中の旅に出た。
しかし旅と言っても従者を30人従えてのキャラバンでの旅だった。
それでも旅は順調だったのだが、
13歳の時に魔物に襲われ、
キャラバンの半数が死んでしまい、
これ以上の旅は続けられない状態になりやむなく王都に帰還した。
それからは弱い自分を変えたい一心で剣と魔法の修行に明け暮れる。
それこそ血反吐を吐くが如く、
過酷な修行を積んだ。
16歳になる少し前に、
愛刀のレイピアで剣を極め、
剣聖の称号を得る。
魔法もまた大魔法使いと称されるようになった。
そして間もなく16歳の成人を終え、
今度こそ冒険家に成るべく、
4人だけ従者を従えての旅に出る。
まずは自国を10年かけて廻るつもりだったが、
突如22歳の時に帰郷し、
旅先で出逢った田中雅之と結婚。
3人の子宝に恵まれる。
その後、42歳まで王都にて過ごすが、
何故か田中雅之だけが王族を出て何処かに旅だって行ってしまう。
そして、それを追うように、
マミ本人も従者を連れて旅立つ。
手には『サルでも解る魔法入門』を持って。
44歳の時、旅先の街での領主達の悪行に見兼ねて、町を救う事になる。
そしてその時に闇の城の存在を知る事になり、
元々正義感の強い性格から、
それからは各地を巡り、
闇の城を相手に犯罪を暴く活動を始める。
マミは常に4人の従者を従えて、
あちこちの街や都に滞在していた。
そして犯罪を暴いては次に行く場所を決めていたのだ。
そして65歳の時に、
ギオールの街に滞在する事となったのだった。
マミはギオールの闇の城を殲滅すれば引退も考えていた。
さすがに歳を取り過ぎているからだ。
そんな時に出会ったのが、
佐倉大作である。
佐倉は『サルでも解る魔法入門』を持って、
マミの前に現れた。
マミにとっては2人目の異世界人。
マミは田中雅之が残した本を常に持ち歩き、
滞在先の魔法書売りや魔法道具屋に預けていた。
異世界人が本を取る日があるかもしれないと考えたからだ。
そしてその考えは的中し、佐倉大作が釣られた訳だ。
佐倉には田中雅之と共通している優しさがあり、なんといっても理性が強いという印象を受けた。
この世界の者達は、直ぐに殺傷沙汰を起こすが、彼等は滅多に他者を傷付ける事は無かった。
それが、正義感の強いマミには好感が持てた。
特に佐倉に関しては、
奴隷や貧民などに対する慈悲を深く感じ取れた。
ベルに対する愛情を見れば一目瞭然、
マミですらベルの雰囲気から、
最初はベルが買われっ子だとは気が付かなかったほどに佐倉はベルを大切にしている。
ベルも佐倉に応えようと一生懸命だ。
マミはすぐにそんな2人が大好きになった。
そしてベルの誕生日。
偶然なのかリュンクスが現れた。
最初は驚いたが、
この佐倉とベルの魔力量を思うと、
それも当然だと直ぐに納得できた。
リュンクスは魔力を食べる。
それ故に、常に魔力量の多い者を探し回っているのだと、何かの記述で読んだ事があったからだ。
そしてリュンクスの血。
リュンクスに限らず、幻獣の血を飲んだ者は永遠の命を手にする事ができるとされている。
正直言ってマミにはそれが魅力だった。
マミはまだまだ生きてやり遂げたい事がある。
それは闇の城の殲滅。
今や世界中に蔓延る悪の組織。
まずは自国から殲滅をと考えていたが、
それも叶わないまま、20年以上経ってしまった。
年齢的にもここらが限界と思っていた矢先に、リュンクスが現れた。
場合によってはまだこの闇の城との闘いが続けられるかも知れないと思ったが、
歴史において、リュンクスが血を分けてくれるとは思ってなかった。
しかし、突然にその機会が訪れ、
マミは迷いなく血を舐めたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この街、ギオールは平和な街だった。
しかし平和な街ほど悪が入り込みやすい。
まずマミが目を付けたのは、
貧民街の子供の多さだった。
何故か他の街や都に比べても、
子供がダントツに多い。
そして10歳以上の子供は居なかった。
それが意味する事は一つしかない。
それは奴隷牧場だ。
誰かが貧民街を操作して手引きしているのは間違いないだろう。
そしてそれだけ大掛かりな事をするのは、
闇の城が裏にいる可能性が高い。
そう思い調査を始めたところ、
直ぐに闇の城が暗躍している事が分かった。
思ったよりも大胆に闇の城は活動していた。
特にウラと言う悪党が目立つ動きをしていたのだが、
どうもおかしいとマミは考えた。
ウラは、調べれば調べる程に次々と犯罪歴が出てきた。
これほどの悪党がなぜ野放しなのか?
権力者の影がチラホラと見え隠れした。
マミは全てを一網打尽にするべく、
ウラを泳がして調査を続けた。
しかし相手はかなり用心深いらしく、
なかなか権力者までの正体が掴めずにいたが、
やっとバンジスが絡んでいるとの情報を掴んだ。
それは奇しくも佐倉達が捕らえた4人の殺し屋から得られた情報だったのだ。
そのまま殺し屋4人を証人として使うはずだったが、
証拠隠滅の為に4人は何者かに殺されてしまった。
それも衛兵詰所内で。
ウラもまた、その直後に姿を消していた。
黒幕に権力者がいる事は確実なのに、
証拠が消されてしまった。
とにかく証拠がいる。
証拠がなければ、
王族とは言え裁くことは出来ない。
そこへ佐倉大作の日雇い計画である。
佐倉はベルの願いである貧民街の改革の一端として、貧民の日雇いを始めた。
数ヶ月もすれば良い効果が現れるだろうと、
マミも思っていたが、
結果は違った。
貧民街には魔薬が流れ、
その副産物として妊婦が急増したのだ。
いや、これは副産物では無い。
意図的に仕組まれた事だ。
日雇いで多少でも収入が増えたのを見計らったようなタイミングで、
魔薬をばら撒き金を巻き上げる。
これではいくら佐倉が賃金を支払っても、
貧民街が豊かになるはずもない。
マミは、「してやられた」と思った。
これはやり方など構っていられない。
多少のリスクはあるが、
ひとつの考えを実行する事に決めた。
以前サクラにも話した『切り札』を。
マミは4人組に考えを話す。
現状では多分1番速い解決方法だろう。
そして一網打尽に出来る。
最初は猛反対した4人組だが、
こちらにはルースという幻獣リュンクスが付いてる事、
急いで解決しないと貧民街に魔薬の犠牲者が出るという事をあげて、
4人組を説得した。
そして早速作戦が始まった。
最初はルースに協力を得る事から始まる。
そこは問題無いと思われた。
歴史に登場するリュンクスは、
度々人間を助けている。
お伽話に登場するウサギも人間の味方だった。
記述通りだとすると、
ルースは間違いなく協力してくれるはずだった。
そしてその思惑は的中する。
ルースが協力してくれる事になった。
そして作成開始。
まずは噂を流す。
『雑貨屋の婆さんが若返った』
と言う噂だ。
今も昔も権力者というのは老いが怖い生き物だ。
特に汚い事を平気でやる権力者ならば、
若返りと言う餌に食い付くだろう。
そして次にやる事。
痛みと魔薬に対する耐性を作る事。
痛みに関しては何とでもなる。
魔法さえ使えば無痛状態にする事も可能だ。
問題は魔薬だ。
マミは過去に読んだ文献の知識から、
魔薬に関する情報は把握していた。
100年前の世界魔薬事件以来、
魔薬に対する研究が進んでいた。
直に飲むと廃人になる事、
廃人になる前の手前では、
言いなり人形にされる事など。
恐らく魔薬を扱う組織ならば、
言いなり人形など造作もないはずだ。
そうなれば全てを自白させられる。
しかし逆の研究も進んでいる。
魔薬に対する解毒の研究だ。
近年では軽い中毒ならば解毒薬で治る迄になっている。
しかし、言いなり人形からの解毒は、
どの文献にも載ってはいなかった。
マミは知識、経験から魔薬に対抗する術を考えた。
もう噂も流している。
恐らく一週間ほどで何らかの動きがあるだろう。
それまでに魔薬に対する耐性を何とかしないといけなかった。
そして、時は流れ、
闇の城と思しき者達に雑貨屋は襲撃された。
マミは拉致されてしまったのだ。
【読者の皆さま】
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白村
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