第三十一話 暗躍
ここは貧民街。
とあるテント。
「今月分よこしな」
声の主は女だ。
町娘風の女の子で、
格好から貧民街の者ではないのが解るが、
発する言葉と雰囲気も、
町娘のそれではなかった。
娘の名前はイレーン。
闇の城ギオール支部の幹部。
「ど、どうぞ…」
男性から差し出された皮袋を受け取り、
イレーンは中身を確認する。
およそ2万マネ程が入っている。
「まぁまぁだね。また来月も来るぜ」
「あ、あの」
「あ?!」
「わ、私達は、いったいいつまでお金を払わなければならないのでしょうか?」
「はぁ?!そんなの死ぬまでに決まってんだろ」
「そ、そんな?!もう借金は返し終わったはずです」
「はぁ?何言ってんの?こいつの料金に決まってんだろ。」
そう言ってイレーンが懐から出したのは、
いくつかの小さな紙の包みだった。
「そ、それはあなた方が勝手に…」
「ふうぅん。じゃぁもう要らないのかい?」
イレーンはいやらしい笑みを浮かべて言った。
「う、そ、それは、その…」
言葉に詰まる男の耳元でイレーンは囁く。
「足りなくなったらいつでも言いな。好きなだけヤルと良いよ」
そう言いながらイレーンは男に紙の包みを握らせていた。
テントを出ると、大柄な男がイレーンを待っていた。
辺りには怪しげな靄が漂っている。
靄は貧民街全体に広がっていた。
イレーンは鼻を押さえて男に言う。
「引き上げるよ。毒の耐性があってもこの匂いは気持ち悪いわ」
「はっ、早速おっ始めやがった。お盛んだねぇ」
男が嘲笑うように言った。
どこかのテントから女性の喘ぎ声が聞こえてくる。
「さっさと行くよ、おかしくなりそうだ」
イレーンはそう言うと、
深夜の貧民街を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日は恒例の炊き出しの日。
そして今日は新たに屋台も手配している。
よーし張り切ってやるぞー。
いつもの集合場所である雑貨屋に行く。
「やぁおはよう」
「みんなおはよう!」
「「「「おはよう大ちゃん、おはようベルちゃん、おはようルース」」」」
相変わらずこの4人組はシンクロ率が高い。
「はい、おはようさん」
「みなさん、今日もよろしくお願いします。」
ラスティの一件から更に半年が経っていた。
時折りラスティを見かける事があっても、
俺は逃げるように反対方向へ行くので、
話しかける事もない。
喧嘩する前よりも、
何故か見かけるようになった気がする。
あんな事があったから、
そう思うだけなんだろうけどな。
それにしても、
この界隈ではラスティやベル程の美少女が居ないのに、今更ながら気がつく。
ベルはともかく、ラスティは性格も俺と相性が良かったと思う。
そんな相手にフラれるとは、
とほほだぜ。
失って初めて大切さに気が付くって、
ほんとだったんだな。
もう半年も経つのに、
諦め切れない女々しい俺。
「どうした?ダイサク。元気ないようじゃな」
と、マミちゃんから声がかかる。
「いや、何でもないよ」
と、ここでルースが俺の魔力を吸って猫髭娘に変身した。
「おい、ルース、変身する場所考えろよ」
「にゅ?良いではにゃいか、どうせこにょ者たちは知っているんだからにゃ」
「まぁそうだけど、お前の正体が知れたら、この街にいられなくなるぞ。」
朝早いから商店街には人影はないが、
周りをキョロキョロして確認してみると、
走り去る後ろ姿が見えた。
えっ?!
誰だ?
『魔視力』
ん?ラスティだ。
ドキっとしてしまう。
視線が離れない。
ラスティが視界から消えるまで見続けてしまった。
「お主、ラスティオと何かあったのか?」
その様子を見てマミちゃんに聞かれた。
マミちゃんにもあれがラスティだと解ったらしい。
「大ちゃんね、ラスティお姉ちゃんに怒られたの」
「あ、こらベル!」
「だって大ちゃんあれからずっと元気無いんだもん」
「盛大に殴られてたにゃ。にゃははは」
「ルースまでなんて事を…」
「「「「大ちゃんまじっすか!?」」」」
「話してみぃ」
俺は渋々マミちゃんに話した。
「ラスティオはお主が異世界人だとは知らないんじゃな。お前さんが悪いわい。」
と、マミちゃん。
「確かに大ちゃんが悪いですね。女心を弄んだと言わざるを得ない」
と、四人組の一人メーデン。
「いやいやいやいや、何で?どうして?」
「大ちゃんて、ラスティさんの事好きなんですか?」
とは、四人組の一人ティノ。
「あ、あぁ、多分好き」
「多分て酷くね??」
「「「「やっぱり弄んだと」」」」
「あーもー!好きです!大好き!だから悩んでたんだよ、もー良いだろ、諦めたよもぉ」
ベルがちょっとだけ頬を膨らましている。
可愛いんだけど、
今はそれどころじゃない。
「アホなお主に教えてやる」
マミちゃんが言うには、
この世界では男性から女性に服を贈るのは、
『あなたを包みたい』と言うそれはそれは深〜〜〜い意味があるらしい。
そして女性はそれに応えるのに、
贈られた服を着て、男性に返事をするのだとか。
ほとんどの場合は、
服を着て返事に来たらOKで、
服を着ないで返事に来たらダメという事だった。
て、事は…
やべ、涙が出そう。
「こうなる前にお主が異世界人だと伝えるべきじゃったのう」
後悔先に立たずだ。
そんな風習を先に知ってれば服など贈らなかった。
いやでも、
確かに服を贈ったのは気軽な気持ちだったけど、今思えばあの時から好意を持っていた。
今の気持ちを考えても、遅かれ早かれ服は贈っていただろう。
はぁ、益々取り返しの付かない事をしてしまった。
「んと、大ちゃんあのね」
と、ベル。
「ん?」
「ベルは大ちゃんからたくさん服を貰ってるの、だから、あのね、ベルは大ちゃんとずっと一緒にいるの」
ベルなりの元気付けなのかな。
健気で可愛くて愛しい。
「ありがとうベル。とても嬉しいよ。ずっと一緒だ」
俺は傷心状態だったが、
今日は炊き出しの日だ。
気持ちを切り替えて行くか。
貧民街に着くと、
既に屋台が来ている。
今日は3つの屋台に来てもらった。
うぅ、でも屋台を見るとラスティを思い出す。
いかんいかん。
今日も貧民街のみんなに喜んで貰うのだ。
「おはようございます、今日はよろしくお願いします。」
俺は屋台の親父達に挨拶をした。
「おう!よろしくな兄ちゃん。お、獣族のねーちゃんも来てるんだな。大食い魔女様はいないのかい?」
ぐっ、またしてもラスティを思い出させられた。
今日は抉られるなぁ。
俺は引きつった笑顔で、今日は来ませんよと答えておいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も炊き出しは大成功だ。
屋台も好評だった。
そりゃそうだ、あの大食い魔女様のお墨付きの屋台だもの。
ううっ
喜んでいる皆の顔を見ていた時にふと思った。
あれ?
「なぁマミちゃん、なんだか妊婦が多くないか?」
気のせいかもしれないが、
これって良い傾向なんでは?
少し生活にゆとりが出来て子作りしてるとか?
なら、ちょっと嬉しいかも。
「おや、ほんとだねぇ、あたしとした事が気が付かなかったよ」
マミちゃんは訝しげな顔だ。
何故そんな顔をする?
「日雇いで稼いで余裕が出来たからじゃ?」
「お主は能天気で良いのぉ」
呆れられた。
解せぬ。
「良いかダイサク、人はな、金が入るとまず衣食住を整えようとするもんじゃ。住む所も儘ならぬのに子を増やしてどうする」
「あ、そう言われればそうか」
「金があればもっと良い所に住みたいと考えるのが普通じゃ、ましてここの連中は、こんな所はさっさと出て行きたいと考えてるはず。ルースや、お主何か匂わぬか?」
「何がにゃ?」
「そう、例えば魔薬とかな」
魔薬だと?!
「マミちゃん何を…」
「ふん、そうかお前達人間には解らぬにょか。僅かだが匂うにょだ。魔薬にょ匂いだ」
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白村
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