第三十話 ラスティの返事
2月14日
時が経つのは早いもので、
年明けからあっという間に2か月以上が経った。
今日は日本で言うところのバレンタインデー。
この世界にバレンタインデーがあるのかは不明だが、男としては何となくうきうきする日だ。
こんな日はやっぱりラスティの事を思い出す。
年明け以降、ちょくちょく会うようになった。
去年は食事の誘いを断られ続けていたが、
今年に入ってからは食事の誘いを受けてくれるようになった。
いやしかし、ラスティは食うわ食うわ。
日本にも大食いタレントのギャルがいたけど、テレビで見るより面白い。
「まだ食うのかよ」
と言って、思わず爆笑した時もあった。
ベルも当のラスティも、
釣られて一緒になって笑ってたっけ。
こんなに楽しい食事は初めてだとラスティは言っていた。
ましてや、年明けの屋台の一件があって、食事に誘われるとは思ってもなかったそうだ。
大体、縁談があってもラスティの大食いが分かると、みなやんわりではあるけど、断わって来ると。
だから、食事を一緒にする事は必然と無くなり、誘われても断わるようになったそうだ。
どうりで美少女なのに売れ残ってるわけだ。
いつも一人で食事をしていたと、
ポツリと言ったラスティ。
俺も一人暮らしで、
彼女こそいた時はあっが、
大抵は一人だった。
一人の寂しさは解る。
そんなラスティを見て、
愛おしく感じた。
俺の心も動いているみたいだ。
まぁそれはさて置き、
去年の襲撃以来、ピタっと不穏な動きは無い。
最初のマミちゃんの話しだと、
数回はウラの襲撃があり、その後にバンジスが動くだろうと言う事だったが、
その後のマミちゃんの調査では、
ウラは姿を消しているし、
バンジスも動く気配は無いとの事だった。
しかし安心はできない。
引き続き警戒はしていこう。
そしてマルコス様邸の工事だが、
こちらは凄く順調だ。
今は解体も終わり、
足場を高くしながら、
壁や柱を造っている。
アルバ邸よりマルコス様邸の方が規模が大きいのに、進み具合が同じくらいの速度で進んでいる。
思ったより早く完成するかもしれないな。
それもこれも、貧民街の皆さんのおかげかもしれない。
もちろん他にもいろいろな職人が来てはいるが、貧民街のみなさんは働き者だ。
一生懸命にやってくれている。
そして物覚えも良いし、
器用な者もいる。
お陰で、いろんな職人の手助けにもなっているのだ。
この効果は大きい。
だけど、ちょっと気になる事があった。
今年に入っても、
恒例の炊き出しは続けていたが、
貧民街の皆さんの暮らしが、
良くなったようには思えなかった。
毎日の日雇いで、
ちゃんと賃金を渡してるのに、
改善されてる様子が見えない。
まぁ日雇いを始めてからまだ三か月だし、
いろいろと事情もあるのだろう。
ここはもう暫く見守るとしよう。
そうそう、
俺達はと言えば、
解体の時に柱を魔法で切ったのに気を良くして、
空いた時間でルースに色んな事を教えて貰った。
あと、基礎体力を付ける一環として、
ベルと2人して剣道の修行も始めた。
いちお俺は剣道二段なので、
ベルに指導しつつ、
自分も鍛錬している。
ベルは、『見える』能力を使い過ぎたり、
能力で覚えた体術を行うと、
身体に負担がかかり、
すぐに魔力疲労を起こす。
魔力量の割に身体が未成熟で体力が無いのが原因だろうとルースが言っていた。
膨大な魔力を操作するだけでも、
今のベルには体力を消耗する原因のようだ。
なので、ベルには体力作りも兼ねて、
なるべく能力を使わずに稽古するようにしている。
特に武道は身体を鍛えるのはもちろんだが、心も鍛えられる。
心を鍛えずに技だけ覚えても、
ベルの為にはならない。
とか言って、ベルたんには厳しく出来ない俺がいる。
さて、今日も仕事はひと段落だ。
「ベル、帰ろうか」
「うん!」
いつものように元気よく、
可愛いく返事をしてくるベル。
うん、可愛いは正義だ。
そしてどこからか戻って来てベルの肩に乗るルース。
こいつは相変わらず仔猫のままだ。
大きくならないな。
まぁ幻獣様なので、
ずっとこのままなんだろう。
いつものように帰り、
いつものように食堂で夕飯を食べて、
部屋に戻る。
ふう、身体洗ってくるかな。
と、その時、
コンコンとドアをノックされた。
ん?誰だ?
「はい、どちら様?」
「あ、あたしです、ラスティです」
おぉ、ラスティ!
「ラスティお姉ちゃん?」
「うん、そうみたいだ」
俺はベルに答えてドアを開けた。
そこには頬を赤く染めてやや俯いたラスティがいた。
「やぁラスティ、狭いけどどうぞ」
「は、はい…」
なんだろ、ちょっと様子が変?
俺は椅子を勧めて、
自分もラスティの正面に座った。
しおらしくてなんだか可愛い。
あ、今日はバレンタインデーだったな。
この世界にもそう言う文化があるのかも。
ちょっとわくわくどきどきしてきた。
「今日はどうしたの?ラスティから来てくれるなんて珍しいね」
「あ、あの、返事を伝えに来ました…」
ん?返事?
俺 何か返事を待ってたっけ?
「返事って?」
気軽にそう言った。
「え?!」
ラスティは驚いた顔をしている。
何かまずい事言ったか?
と言うか、俺が何か忘れてるのかな?
「えっと、ごめんなんだっけ?」
すると、みるみるラスティの顔は怒りの表情に変わった。
えっ?!え?!
なんで怒ってんの?!
「ほんとに忘れてるわけ?!最っ低!!」
ガタンと勢いよく立ち上がるラスティ。
反動で椅子が倒れる。
黙って見ていたベルがびっくりしている。
そのままズカズカと歩いてドアを開け、
「さ・よ・な・ら!」
バタンっ!
壊れそうなくらいの勢いで閉められたドア。
俺は呆然と見ているしかなかった。
何がなんだか分からなかった。
とりあえず追うとしよう。
訳も分からず、さよならとか言われても納得できない。
悪い所があるなら謝りもするが、
理由が解らなければどうする事もできない。
俺はドアを開けてラスティを追う。
外に出てラスティの背中を見つけ声をかける。
「ラスティ!待てよ!」
「気安く呼ばないで!!」
「訳を教えてくれよ。何で怒ってるの?!」
そう言いながら俺はラスティの前に廻る。
キッと睨んでくるラスティは、
泣いていた。
えっ?!なんで??
そして、俺は思いっきり殴られた。
ぐーで。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付いたら俺は宿屋の自室で横になっていた。
顎が痛い。
強烈な一撃で気を失ってたようだ。
とんでもねぇ女だ。
仮にも俺は元プロボクサーだぞ。
「あ、大ちゃん大丈夫?」
ベルが心配そうに声をかけてきた。
「あぁ、大丈夫、イツっ」
「何故あんにゃ所に倒れていたにょだ?」
ルースは猫髭娘になっていた。
そうかルースが運んでくれたんだな。
「ラスティに良いのを貰った、イッツ」
「ふん、あんにゃ小娘ににょされるとは、情けにゃい。どれ、見せてみるにょだ」
痛ぇ訳だ、
奥歯がいかれてるみたい。
ズッキンズッキンする。
ラスティ強えな。
ルースは俺の顔を掴みぐいっと曲げて顎を見る。
「ひてててっなにすんのっ」
「ふんっ治癒魔法かけてやるからじっとしてろ」
「待て待て待て待て!今日はこのままでいー!いててて」
「にゃに?こにょままで良いだと?」
「あぁ、もぅ今日は良い寝る!寝ろ!」
「わけにょ分からん奴だにゃ。お前が良いにゃら知らん」
ルースは仔猫に戻って丸まって寝てしまった。
「大ちゃん大丈夫なの?」
ベルは心配顔で俺を見てくる。
「男には先にやらなきゃならない事があるんだよ。大丈夫だからベルも寝よう」
俺は痛みを堪えてベッドに入った。
ベルもいつものように俺の横に入ってくる。
「ラスティお姉ちゃんなんで怒ってたんだろ」
「俺にも分かんないんだよ。」
でもあの怒り方は普通じゃないな。
俺どんな悪い事したのかな?
「そう言えば、ラスティお姉ちゃん、大ちゃんが買ってくれたベルとお揃い着てたね」
あ、そう言えばそうだったかな。
それに気が付かなかったから怒ったのか?
いや、それにしては怒り過ぎだな。
他に理由がありそうだ。
「そうだったね。明日ラスティの所に行こう。今日はお休み」
「うん、おやすみ」
とは言ったものの、
奥歯の痛みで寝れそうにないな。
バレンタインデーに貰ったのは、
とんでもない贈り物だったな。
やべ、悲しくなってきた。
わざわざ俺が贈った服を着て訪ねて来てくれたラスティ。
ズッキンズッキン
俺フラれたんだよな。
いやいやいやいや、
告っても無いのにフラれるっておかしいよな。
ズッキンズッキン
なんだっけ、返事をしに来たってラスティ言ってたな。
何の返事だ?
ズッキンズッキン
うーん、ズッキンズッキンしてて考えがまとまらない。
と言うか考えられない。
こんな痛み久々だな。
ボクシングの試合の後で、
こんな痛み感じてたっけなぁ。
ズッキンズッキン
ベルは既に寝息を立てている。
そしてすぐに俺に抱きついてきた。
あぁ、いつも寝てからすぐに抱きついてきてたんだ。初めて知ったわ。
俺も寝付き良いからなぁ。
ズッキンズッキン
ズッキンズッキン
ズッキンズッキン
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝が来た。
寝不足だ。
何回か寝れたけど、
すぐに痛みで起きた。
「ふぁ、ぁぁあ、大ちゃんおはよう、大丈夫?」
「おはよ、多分大丈夫」
俺達は身支度して、
ベルとルースの朝食を済ませ、
現場に行って、
魔法道具屋の開店時間に合わせて、
ラスティを訪ねに行った。
魔法道具屋は既に開店していた。
ドアを開け中に入る。
カウンターにラスティが居る。
俺はどう声をかけたら良いか分からず、
とりあえず腫れた左顎を見せないようにして、
横を向いてラスティの前に立った。
「…!」
ラスティも無言だ。
視界の端に見えたラスティの目は赤く腫れてる。
美少女が台無しだ。
「な、何しにきたのよ!」
「手を出せ」
「えっ!?な、なんで?!」
と言いながら手を咄嗟に後ろに隠すラスティ。
「良いから出せ!」
俺は無理矢理ラスティの右手首を掴み見える位置に出す。
やっぱりだ。
俺の奥歯を折ったラスティの拳も怪我をしているようだ。
包帯が雑に巻いてあった。
「なに?!仕返し?!やっぱり最低…」
「ルース!」
「にゃ」
ルースは猫髭娘になっている。
俺の後ろから現れたルースに驚いているラスティに、ルースは治癒魔法をかけた。
「良いにゃ」
ルースの一言を聞いて、
俺はラスティに何も言えないまま、
魔法道具屋を出てきた。
そして少し離れた所で、
「ルース頼む、痛くてたまらん」
「お主の行動はよく分からんにゃ」
ルースはそう言って俺に治癒魔法をかけてくれた。
「おおーすげー治ってる!痛くねぇー、治癒魔法まじぱねー!」
「お主はアホだにゃ」
「あれ?ベルは?」
「直ぐ来るにょだ」
「はぁはぁ、追いついた」
「ベルどうしたんだ?」
「あ!大ちゃんの顔が戻ってる!凄ーい、ベルも治癒魔法覚えたい!」
治癒魔法か。
以前ちょっとした不注意から日雇いで来ている一人が怪我をした事があった。
俺も安全には気を付けてたつもりだったが、
目の届かない所での事故だった。
その時にルースが治癒魔法をかけてくれたんだった。
驚いた。
魔法ってほんとに凄いんだなと。
俺も治癒魔法を覚えようと思ったが、
ルースが出来るのだから、
急ぐ必要もないかと思っていた。
良い機会だから教えて貰おう。
ラスティは、話が出来る状態じゃなさそうだ。
あんなに怒らせたんだ。
もぅ仲良くは出来ないんだろうな。
理由が解らない。
それだけが悔しい。
そしてこうなって初めて解る。
思ってたより、俺はラスティが好きだったんだな。
俺は空を見上げて歩く。
「ベルぅ」
「なぁに」
「泣いても良いかなぁ」
「まだ痛いの?」
「心が…さ」
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白村
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