第三話 女の子
~~女の子目線~~
あたしは貧民街に産まれた子供。
女の子です。名前はありません。
あたしは産まれた時から売られる事が決まっています。
だって、名前がないから。
売られる予定のある子供は、
買ってくれた主人に名前を付けてもらうとか言われてて、
お母さん達に名前を付けて貰えないんです。
名前の無い子供は、
周りからの扱いも悪いんだって。
情が移るからとかなんとか言って、
友達も出来ないの。
今は9歳。
今度10歳になったらどこかへ売られていきます。
優しい人に買ってもらいたいと思っていました。
あたしには優しいお姉ちゃんがいました。
いつも助けてくれたり、ご飯を分けてくれたり、それは頼りになるお姉ちゃんでした。
あたしは大好きなお姉ちゃんとずっと一緒にいたかった。
でも、お姉ちゃんにも、名前が無かったんです。
去年の冬、お姉ちゃんは売られてしまいました。
きっと優しい人の所に居るのだと、
あたしは小さいながら考えていました。
だって、何でもできる優しいお姉ちゃんが、
怖い所に行くなんて思いもしなかったんだもん。
大好きなお姉ちゃん、きっとまた会えるよね。
あたしには何故か他人に見えない物が見えるみたい。
物と言っても触れる物とかじゃなくて、
人からモヤモヤした光る物が見える。
でもいつも見えるわけじゃなく、
(見えろ)
って思うと、見える感じ。
たぶん5歳くらいから見えてたと思う。
「あの人は赤い色だね」
って、お姉ちゃんに言ったら、
「何が??」
と不思議そうに言われて、あたしにしか見えないんだって、
その時にわかった。
でも、よくわからないけど、
お姉ちゃんには、見える事は誰にも言っちゃダメって言われた。
二人だけの秘密。
でも全員が光ってるわけじゃないの、
ときどき光る人を見かける程度。
ほとんどの人は赤で、
ちょっと強そうな人とか、
なんか他の人とは違う感じの人は橙色っぽい人もいるの。
でもね、すごい人がいたの!
あんな色で光る人は初めて見た。
お姉ちゃんに聞いたら、
最近、商人のアルバ様って所のお家を造ってる人なんだって。
その人は青い光だった。
もうね、眩しいくらいだったの。
その人を見かけて、ちょっとしたら、
お姉ちゃんは売られて行っちゃった。
どんな名前を付けられたのかなぁ。
それから一人で、
青い光の人を見に行ったりしてた。
なんか、安心できる感じなの。
そしたら、近くの大人の人達が、
青い光の人を見て、
凄い人だとか、変わるかもしれないってウワサしてるのが聞こえた。サクラさんて名前も聞いた。
ふうん、凄い人なんだ。だから青くて綺麗なんだろうな。
そんな時だった。
ある日、いつものように路地裏を歩いていると、
なんとなく呼ばれた気がしたの。
あたしは呼ばれるままに路地裏を進んで行って、
表通りからすぐの所まで来た。
そしたら、そこであたしは見つけた。
見つけちゃったの。
ぼろぼろになって、倒れてる子供。
その子には見覚えがあった。
「お姉ちゃん…?」
そう、よく見たら、あの優しいお姉ちゃんだったの。
「お姉ちゃん!どうしたの?!」
「い、妹?」
「うん、あたしだよお姉ちゃん」
お姉ちゃんは驚いたかおをしたけど、
すぐに真剣なかおになって、
あたしに言ったの。
「ほんとに来てくれたんだ。よく聞いて。お姉ちゃんね、怖いご主人様に買われちゃった。ほんとはお姉ちゃん、こんな世の中変えたかった。買われた後でも、いっぱい頑張って世の中の不幸な子供を助けたかったの。でも、やっぱりダメみたい。あなたならその見える能力で変えられるかも知れない。あなたのその見える能力は特別なの、それを上手に使って、こんな世界を変えて…」
「おい!!こんな所にいやがったか。さっさと歩け!」
急に怖い大人の人が来て、
お姉ちゃんを無理矢理連れて行こうとする。
大人の男の人の顔には大きな傷があって、凄く怖かった。
「お姉ちゃん!!きゃうっ」
怖い男の人が、大きな手であたしの顎を掴んで顔を無理矢理上に向けます。
「ふん、こいつはなかなか良い。次はお前を買ってやるからな。」
怖い男の人はそう言って手を離してくれたけど、
お姉ちゃんを連れて行っちゃった。
あたしは何もできないで、
ただぼうっとお姉ちゃんが連れて行かれた方を眺めていたの。
お姉ちゃんは変えたいって言っていた。
何を?
お姉ちゃんはあたしに変えてって言った。
世界を??
よく分からない、
でも変えなきゃいけないって、
そんな気持ちでいっぱいになった。
お姉ちゃんは言ってた。
変えるって事は、みんなを助ける事なんだって。
あっそうだ!あの青い光の人!
変えることが出来るかもしれない人だ。
あの人の所で変え方を聞こう!
前に聞いた事がある。
教えてもらうのには、デシになるんだって。
弟子にしてもらって教えてもらおう。
あーでも、10歳になったらあの怖い男の人に買われちゃう。
次はあたしを買うって言ってたし、
その前に弟子になって変えるんだ!
それから何日か過ぎたけど、
青い光る人、サクラさんは見かけなくなった。
いつも見かける道にもいない。
どっか行っちゃったのかな?
また何日か過ぎた。
今日はだいぶ暗くなっちゃったな。
そろそろ帰ろうかな。
そう思ってたら。
いた!
やっと見つけた!
でもあれ?
なんかいつもと違う。
(見えろ)
あ、今日は青くない、なんか緑色っぽいし、少し光も弱いみたい。
なんでだろう。
なんかちょっとふらふらして歩いてる。
今日はお願いするのやめて、
明日にしよう。
どこに住んでるのかだけ知っておこう。
翌日、青く光る人を訪ねて宿に行くと、
男の人が出て来て言います。
「貧民街の子供が何の用だ?」
怖くて逃げたくなるけど、
我慢して言います。
「さ、サクラさんに、その、会いに…」
やっと言葉が出ました。
「サクラさんだと?知り合いなのか?」
知り合いじゃないけど、
ついコクコクと頷いてしまいました。
「ほんとだろうなぁ、着いて来い。知り合いじゃなかったらタダじゃ済まないからなぁ」
男の人はズカズカと歩いて行来ます。
あたしは遅れないように着いて行きました。
部屋の前に来ると、男の人はドアをノックして言いました。
「サクラさん、お客さんだよ」
ドアの向こうから声がする。
「はーい」
初めて聞いた声だけど、
なんだか安心する。
ドアが開いて、男の人が言った。
「やぁおはようサクラさん。この子がサクラさんに用事があるってんで連れて来たんだが、知り合いかい?」
安心した気持ちが一気に不安な気持ちになりました。
だって知り合いじゃないもん。
思わず頷いたけど、
知り合いじゃない。
このままじゃお願い出来ない。
不安でいっぱいで、サクラさんの顔を見ていた。
サクラさんもあたしを見てる。
そして言った。
「ん、ああそうだ」
え?!
うそ、
ほんと?!
嬉しい!
「えっそうなのか。俺ゃぁてっきり物乞いに来たのかと思ってたよ、すまなかったな。」
そう言って男の人は戻って行った。
急に残されてどうしたら良いか分からないでいると、
「中に入りなよ」
と、優しく声をかけてくれた。
嬉しいな。
「はい」
サクラさんは部屋にあるテーブルの椅子を引いてくれて、あたしはそこに座った。
サクラさんも向いの椅子に座る。
「要件はなんだい?」
普通はあたしみたいな貧民街の子供を見ると、大人達はみんな怖い顔をしてくるのに、
サクラさんは違った。
優しく話しかけてくれる。
あたしは思い切って言った。
「で弟子にしてください!!」
サクラさんはびっくりした顔をした。
「噂で聞いたんです。サクラって職人が凄く腕が良くて、貴族にも認められてて、何か変わるかもしれねーとか言ってて、とにかくすげーって、だから、そんなすげー人の弟子になれば、いろいろ変えられるかもしれないって思ったんです。だから弟子にして下さい!お願いします!」
あたしは、自分でも何を言っているのか分かりませんでした。
でも、なんとかしたくて訴えました。
サクラさんは戸惑った顔をしていましたが、
でも怒る事もしないで聞いてくれました。
「いろいろ変えられるかもって、何を変えたいんだい?」
「貧民街を変えたいんです」
「貧民街を変えたいか…。君は親や兄弟はいるのかい?」
「居ます。父さんと母さんと弟に妹2人。あとお姉ちゃんがいました。」
そう言うと、サクラさんはちょっと悲しい顔をしました。
何故か分かりませんが、
ちょっとだけ声が出せないようです。
あたしはお姉ちゃんの事を話します。
「お姉ちゃんは、10歳になったので売られちゃったんです。今度はあたしの番です。だから売られる前に変えたいんです。お願いします。弟子にして下さい。」
またお願いしてみます。
サクラさんは、難しい顔をして考え込んでいます。
やっぱり無理なのかなぁ。
その時です。
あたしのお腹が大きな音でなりました。
凄く恥ずかしかった。
そしたらサクラさんは、
あたしの事を優しい顔で見て、
「飯食うか!」
と言ってくれました。
あたしはご飯をご馳走になりました。
あんな美味しいご飯は初めて。
サクラさんは3日後にまた来なさいとあたしに言いました。
悪いようにはしないとも言ってくれました。
だから3日後にまた会う約束をしたの。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あたし変なの。
サクラさんの事考えると、
ドキドキするの。
んーん、サクラさんの事を考えると、
じゃなくて、
サクラさんの事しか考えられないの。
どうしたんだろう、あたし変なの。
あたしは、サクラさんの所から帰ってきて、
次の日にお母さんにサクラさんの事を言ったんです。
凄く優しくて、
変えてくれる人なんだって。
3日後にまた会う約束もしたと言ったんです。
そしたらお母さんは、
「多分、次は会ってくれないよ、みんなそうなんだよ、諦めなさい」
って言うんです。
酷いよ。
サクラさんそんな人じゃないもん!
そう言うと、今度はお父さんもあたしに言うんです。
「お前の気持ちも分かるが、そうやって嘘をついて追い返されただけだ。騙されてるんだよ、お前はまだ9歳なんだ。無理なんだよ」
あたしには、そんな酷い事を言うお母さんとお父さんの方が信じられませんでした。
どうして?
どうしてサクラさんに会った事もないのに、
そんな酷い事を言うの?
サクラさんは優しいし良い人だよ。
どうして信じてくれないの?
あたしの胸は、
いつにも増してドキドキしています。
悲しい気持ちと、
悔しいと、怒りたいと、大嫌いって気持ちが、ぐるぐるしてます。
でもサクラさんの優しい笑顔を思い出すと、
少し落ち着くんです。
そしたら直ぐに会いたいって思うの。
凄く会いに行きたい。
お母さんとお父さんは酷い事を言うので、
もう話さない事にしました。
サクラさんとの約束の日。
妹と弟達に別れを告げて、
こっそり出て行こうとしました。
もう帰らないつもり。
そしたら、お母さんに見つかっちゃいました。
「どこ行くの?!サクラさんて人の所?行ったらあなたが傷つくのよ!行っちゃダメよ!」
またお母さんは酷い事を言って来ました。
「そうだ、ダメだ!10歳までここに居なさい!お前まで悪い奴の所に行ったらダメだ!」
わたしは我慢出来なくなりました。
「嫌!!お母さんもお父さんも、何も知らないくせに!酷いよ!サクラさんそんな人じゃないもん!!二人ともお金が欲しいだけでしょ!!ばかぁ!!わーん」
初めてでした。
お母さんとお父さんにこんな酷いことを言ったのは。
お母さんとお父さんは、黙ってしまいました。
あたしは泣きながらサクラさんの所に向かいました。
【読者の皆さま】
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白村
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